ロングコートが黒翼の如く風に広がる。
叩きつけるような強風にも、なびく茶の髪にも、屋上のへりという危険な場所も。
彼の静かな面を崩すことはない。
だが、秀麗な顔が、不意に翳る。
微かに唇が震え、痛切な声が零れた。
「そうだよな。……皆、小二だもんな。トレンディドラマ見ないよな……」
そもそもトレンディドラマって言葉を知らないのかな――と、哀しそうな声が風に消える。
深い深い絶望の理由は、とても下らないものだった。
今の仲間たちと皆で話しているときに、彼は言ったのだ。
『取手は【君がいるだけで】とかが合いそうだね』
八千穂が、誰々のテーマソングは何々だとか、そんな話をしていた。
だから何となく呟いた。
そして彼は知った。
自分が思い切り孤立したことを。
『……誰のだ?』
同級生は不思議そうに首を傾げた。
皆の顔にも『何それ?』と書いてあった。
深くて長い河とかいうレベルではなかった。断崖絶壁。深い深い溝を視た気がした。
『ああ、兄さんが好きだったから、俺知ってる。いい曲だよな。でもよく知ってたなあ』
名さえ覚えてない同級生の言葉が、心臓を貫いた。
止めであった。
六年の差は大きかった。
小学校でさえ、いっしょにならないのだ。自分が中学二年のとき、彼らは小学校二年だったのだ。
中森明菜と安田成美が主演の――などと説明を加えたら、きっと墓穴を掘りまくるのだろう。
この二名のことさえ、知らない可能性も高いのだ。
「六年――か。でかいんだな……」
六年と四年。
俺たちから見たら充分にオッサンだと、級友に言われた探偵の方が、自分と年が近いのだと、今日――《転校生》は物凄く実感してしまった。
指定席を取られたような気持ちになっている人物が居た。
屋上から眼下を見下ろすのは、彼の専売特許といえるのに、先客が存在した。しかも宿敵。
「……」
何をしているのだろうと、宿敵の寂しげというか哀しげというか切なげというか――な背を眺めながら、《生徒会長》は訝しんでいた。
ぶつぶつと呟きが聞こえる。
「ぅおぅ、とぅーはー。伝えられない〜。とぅーはー、わかあって〜」
歌っているらしいのが怖かった。
無論、《生徒会長》はそんな歌を知らない。
相当なヒット曲なのだから、興味がなくとも、《転校生》と同世代であれば聞いたことはあったはず。
世代が違っても、懐かしの歌・名曲系の、歌番組が好きであれば、聞いたことがあったかもしれない。
だが、残念なことに、彼は両方の条件から外れていた。
『何だろうアレは』的な目で、《転校生》を不審の目で眺める《生徒会長》の選択は、思慮深く、優しかったかもしれない。
不気味なことをするなと。
訳のわからぬ歌を歌うなと。
もしも、その類の注意をしていたら、傷心中の《転校生》への完璧な止めとなっていただろうから。
これほどに高校生に見えない相手さえも、ずっとずっと年下なのだという当たり前の事実に気付いてしまったら。
ちょっと無理している自覚のある《転校生》は、きっと立ち直れなかったであろう。
黄色い人は、学園生活、結構無理をしていると思いますよ。
……アロマの台詞は、管理人の心臓にも刺さりました。
ネタ候補はいくつかありましたが、大切なのは、『トレンディドラマ』主題歌であったこと。
そして、できれば歌手がもう居ないこと。
他の候補は、Bye for nowとエロティカセブンでした。
ただBye for nowは、誰に合うって歌じゃないですし、エロティカセブンはサザンは消えてないし、そもそも誰に合う歌なんだ。
きょぬう?それとも、すどりんか?
ということで、君がいるだけでを採用。
上記の歌が全く分からない方は、友達じゃありません。
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