「ふ、お手並み拝見といこうか」
クールな笑みを浮かべた黒衣の忍び装束の青年に、学生服に物々しい武装の青年が同じくクールな笑みと共に、妙な台詞で応じる。
「はッ、見て恐れ慄け。泣け、叫べ、そして値引きしろ」
オチそれっすか?と、律儀に首を捻る後輩に対し、そいつほんと値引きしないんだと肩を竦めた《転校生》は、異形の群れの中に、躊躇う様子もなく足を踏み入れる。
勇猛なる戦い振りに、華麗ですらある技量。
ネットショップの主人として、新たなお得意様の顔を見にきただけのつもりであった忍び装束の青年は、激しく痛むこめかみに手をやった。
戦いではなく、虐殺であった。もしくは略奪、または狩り。
しかも戦闘スタイルが、まったく彼本来のものではないというのに、余裕がありすぎ。
拳銃は良い。
確かに、一族代々の霊銃使いに懇切丁寧に教わっていたのは知っている。
剣も分かる。
これまた大した師匠を捕まえたらしく、とんでもない勢いで達人となっていった。
後に興味を覚え調べてみたところ、彼の剣術師匠である、とある組織のNo.2は、凄まじく有名な暗殺剣の遣い手であった。
だから、どこかのトレジャーでなくデビルを狩る者のごとく、二丁拳銃+剣の技量が凄まじいことになっているのも理解しよう。得意げに披露されて、物凄く哀しくなったことも覚えている。
「……だが鞭はどこで覚えたんだ」
人としてどうかと思うほどに華麗であった。
確かに嘗ての仲間内に、鞭を使う女性も居たが、流石に彼女に師事してたりはしないはずであった。
「ははは、王様とお呼び!!」
楽しそうに化け物――ここでは化人と呼ぶらしい――をしばきあげる旧友の背を眺め、変わってないなーと、店主はしみじみと思った。
大学院修士課程クリアが決まったから、海外巡ってくると言い残し旅立った旧友は、ここしばらく、姿を見せていなかった。メールなり電話なりの連絡はあったため、何処を彷徨っているのやらと、皆で首を捻っていたのだが、まさかこんなとこで、高校生をやっているとは。
再会したときは、夢でも見ているのかと思った。
しかもとびきりの悪夢を。
「初めまして」
息爽やか ク■レッツ。
そんな言葉が浮かぶほどに爽やかな笑顔にて、上客は微笑んだ。
「こちらこそ。いつもお世話になっております。私が店主です。JADEとおよび下さい」
ゆえに青年も負けず。
満面の笑みのまま、優雅に一礼する。
「何考えてんだ。いい年こいて忍者ごっこか、あん?」
「いい年こいてご機嫌で学生服のコスプレ中の君に言われる筋合いはないな、
違うかい?」
たっぷりと時間が経過した後、同時に刃物を突き付け合い、罵り合って、
彼の『同級生』たちによって、取り成された。なんの悪夢かと思った。
いや、確かに無造作このうえない買い物っぷりは、誰かを思い出させるよなとは思っていたのだ。
だからって、まさか当人だとは考えもしなかったのだが。
戻ってきたどこか得意げな友人に、店主は呆れ顔で問い掛ける。
「どうやって覚えたんだ、鞭なんか」
「え? どうやってって、そりゃ独学さ」
真顔で応じられた。
独学で鞭。
「なんだ、その優しいような疲れたような全てを諦めたような何もかも受け入れるような慈母の眼差しは。
大変だったんだぞ。夜中に屋上とかで、まともに使えるようになるまで練習して。巻き取れるようになったときなんか、ハイジ、わたし立てた!! って叫んだよ」
「いくら練習したからって、よくそこまで使えるようになったものだね」
突っ込んだら負けだ。
呪文のように、心の中でそう繰り返し、店主は話を流した。
深夜屋上で鞭を振るう長身の男。しかもたまに失敗あり。
想像しただけで怖い。よく学園の七不思議とかを書き換えなかったものだと思う。
「ちゃんと教材を見たからな。インディージョンズ三部作のDV」
「もういい、皆まで言うな」
自慢げな言葉を遮り、店主は深々と溜息を吐いた。
映画見ただけで、こうも武器に習熟されると哀しい。しかも、彼の本分は、徒手空拳だというのに。
「自分から聞いといて酷い反応だな。まあいい、次、行くぞー」
意気揚揚と進む、主にあたる人物のやたらと高いテンションを、店主は疲れた目で眺め、己と同様に呆れた表情を浮かべている小柄な少年に問うた。
「彼は……ずっとあんなだったのかい?」
昔よりテンションが高い。矢張り年齢を考えて無理しているのだろうか。
よく考えなくとも、6〜7歳下の高校生たちと共に行動しているというのは、結構大変なことなのかもしれないと、彼に対して少しだけ同情らしきものを抱いた。
「自分が知る限り……《生徒会》に目を付けられてからは、ずっと『ああ』っすね」
答える眼鏡の少年は、非常に疲れた表情をしていた。
店主は、少年になんだか親近感を覚えたことを思い出した。
てっきり水の気配が強いからかと思っていたのだが、もしかしたら扱われ方も近いのかもしれない。
気の毒にと、少年に憐憫の眼差しを遣る黒衣の店主には知る由もないことではあったが、少年を見た瞬間に、転校生は店主のことを思い出し、割と近い感じで扱っていたのである。
しかも相当年下である分、ちょっとした未熟さや直接的な反応が面白くて、より粗略に、楽しみ、遊んでいた。
だが、何だか暖かい共感で結ばれた、水使いたちにとっては、知らない方が良いことだろう。
少年の受難は、実は店主が原因とも言えるだなんて真実は。
Jadeさんの態度が偉そうだったので、旧友の方で突っ込んでみました。
題名は適当につけたんですが、エロゲがあるみたいです。検索に引っかかったりしたらすみません。
水使いたちの憂鬱ってことなんで、なんらゲームとは関係なし。
(Water Blueは気分的にというか語感的に却下)
この小ネタ書いていて、特別参戦に選ばれたのがJADEっていう骨董堂店主で良かったなと思いました。
MAPLE(直訳)とか名乗る異端審問官とかだったら、きっと学園が大変なことに。
試してみる。
if (会話のみ)
「……はじめまして」
「……………………ぷッ」
「吹き出したな。今確かに吹き出したな」
「きっと気のせいだ。二十四にもなって、学生服着ている痛々しい人間を直視できないってことでもないよ」
「おい……ならこっち見やがれ。……好きでやってるとでも思うのか?」
「趣味かと思って。てっきり女教師と男子生徒シチュとか、彼女とプレイ中なのかと」
「……おどれのコードネーム聞かせたろうか」
「ふ……止めてくれ、音痴」
以下、マジ喧嘩。
いや……良かった、亀で良かった。
注釈:九龍妖魔学園紀、二周目以降に、条件を満たしているとプレイ可能な人物(通称黄色い人)がいます。
黄色い人の半身は、九龍の時点では、異端審問官をしているらしいです。
コードネームは鎮魂歌(レクイエム)
ちなみに黄色い人の恋人は、母校で教師になっているらしいです。
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