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―― 黄龍小ネタ 零れ落ちる記憶 ――


「でもこの人、なにか計り知れないところがあるわよね」

議題はいつもと同じく墓荒らしについて。

今までと同じく――そのうちに消えると、生徒会役員たちは、最初は軽く考えていた。
だが、今回の転校生は、並みの腕ではなかった。次々と、墓の深部を暴き、進んでいった。

よって、既に幾度目かの、緊急会議がなされているのである。

「確かに少し老けてるけど、いってても21・2才でしょう? なのに……ずっと上のような落ち着きがあって」

妖艶な美貌の書記の頬には、少し赤みが差していた。
少々でなく、ファザコンの気がある彼女は、写真の中の青年の、年上っぽさに照れているらしい。

「はんッ、所詮お調子者の馬鹿じゃないっすか」

眼鏡の少年は吐き捨てた。
彼は皆が――執行委員どころか役員までもが、転校生を認めていることが、納得できなかった。

「……隠し撮りにそこまで反応できる奴を、単なる『お調子者の馬鹿』とは思えん」
「え、これ隠し撮りなんすか!?」

ビタンと。
写真内の転校生が『痛てッ』と叫びそうなほどに、少年は手にしていた写真を床へ叩き付けた。

隠し撮りに対し、カメラ目線の微笑み。
美形の転校生として全校でも有名なのだから、売れるかもと一瞬考えつつも、かなり怖かった。

「そこで肖像権を貰いにきました」
「ぎゃあ」

背後――というより真後ろからの声に、少年は思わず飛び退いた。

ホント写真から現れたんじゃないかと思うほどに。いつのまにか忽然と現れた転校生が、生徒会室内に存在した。

「肖像権だと?」
「執事さんがカメラ持ってたからサービスしたじゃないか」

生徒会長の凄まじい視線とやたらとドスのきいた声にも、転校生は平然と応じ、監視者までをも特定する。
阿門家の執事もまた、平凡な人間ではないのに。

「なにが望みだ?」

乾いた声。遺跡に関わることを持ち出そうものなら、この場で無力化する。それほどの害意を含んだ墓守の問いに、転校生はあっさりと応じた。

「喫煙権」

東京にも、こんな静かなところがあるんだな―――と、役員たちは揃って遠い目をした。

本当に静か。辛いほどに静か。いっそ地震でも起きてくれたら、この場から逃げられるのにと現実逃避するほどに静かであった。

「………………本気か?」
「そりゃ本気。だってさ、聞いてくださいよ、糸目くん、巨乳ちゃん、チビくん」

長い沈黙の後、殺気さえ込められた生徒会長の問いに、転校生は深く深く頷いて、視線を他三人へと遣った。

「糸目くん……」
「巨乳ちゃん……」

脱力感と共に呟くのは、呼ばれた当人。

「チ……ぎゃッ!!」

憤怒の顔で踊りかかろうとして、足を引っ掛けられて転んだ上に、背中を踏まれたのも、当人。

「お兄さん、今更専門外の勉強は辛くてさ。もう、これはヤニを補給するしかないとおもって、夜中、屋上まで上ったら、そこの生徒会長が居るんだから。何でこんなとにって疲れちゃったよ」
「……こちらの台詞だ。外壁から登ってきたときは、何かと思ったぞ」

微かな紫煙の香りが漂ったかと思うと同時に、音もなく、煙草を咥えた転校生が、両手をジャケットのポケットに突っ込んだ偉そうな態度で、屋上に現れたのだから。

どうやら、階毎の僅かな出っ張りを蹴り上がって、外壁からきたらしい。
転校生の方も流石に生徒会長との直面は驚いたようで、そのまま落ちかけたが、途中で縁に掴まって、再び登ってきた。

「いいじゃんか、一般生徒には見つからないところで吸うからさ」
「ちなみに何処をお考えで?」

純粋に疑問に思った会計の問いに、転校生は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの笑みで、自信満々に応じた。

「阿門邸が第一候補だな。第二が屋上。次が墓」

確かに一般生徒には見られぬだろう。だが、第一と第二には、かなりの確率で生徒会長がいるのだが。そして、第三候補は、生徒会の名において、立ち入りを禁止されているのだが。

「お前の意見は、よく分かった」

生徒会長の静かな静かな声に、転校生は、こりゃ駄目だと悟った。
ハタチなどとうに超えているのに、なんて酷いのだろうとも思う。

「やれ」

生徒会長の号令に従い、矢がビュンビュン飛んで来る。
踏まれていた少年もどうにか起き上がり、かなりお怒りの様子で、間合いを詰めてくる。

ささやかな願いを聞いてもらえなかった転校生は、大袈裟に悲しい――傷ついた表情で、しょんぼりと呟いた。

「お願いにきただけなのに――酷いな」

捨て台詞とともに、転校生は、窓ガラスを破って、外へ逃げた。
その際、弱めの爆弾を、生徒会室内部に残していくことも忘れなかった。




怒号とか外の騒ぎとかは、ひたすらに聞こえないふりでやり過ごし(気配は完全消去)、自室にこもっていた転校生は、しみじみと呟いた。

「ほんと酷いよなあ」

いっそ室内だけで吸うかと思わないでもなかったのだが――勝手かもしれないが、部屋が煙草くさくなるのは嫌なのだ。

歴史の教科書を捲りながら、さっぱり入らない中身に、転校生は深々と溜息を吐いた。

本当の高校時代も、暗記科目は苦手だったのだ。
ましてや、大学に入り、院に進み、専門だけを学ぶこと、はや六年。

……やはりもう、苦手科目の勉強は無理だと、つくづく思った。


大学出たあとに、高校の――専攻分野以外の勉強は酷だよという小ネタ。

記憶力はただでさえ低下するもんですし。
そのうえ高校生の勉強はねェ。

あ、この転校生の得意科目は数学・化学・物理。
苦手は文系(特に暗記系)です。