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― 魔人 小ネタ KITYOU-MEN ――

相も変わらず骨董店の店主をしている如月 翡翠は、月末の帳簿をつけている最中に、訪問者を迎えた。

壬生 紅葉。
旧友である彼は、今日は客として訪れた。但し、慣れた暗殺者としてではなく、異端審問官としての紹介状を携えて。

「転職かい? また危険な分野に足を踏み入れたのだね」
「人が相手か、それ以外が相手か。本質的には、大した違いはありませんよ」

平然と答えた壬生は、案内された先の机の上の領収書の山と大判の帳簿ノートを見て、目を丸くした。

「今時、手で帳簿をつけているのですか?」
「結局それが一番やりやすくてね」

無論、如月はPCを使える。
だが汎用として用意された会計ソフトでは、あちこち痛し痒しで、却って面倒になったのだ。



「では前と同様、現金払いで。宛先は間違えないでください」

商談が終わり、如月が領収書を出している間、気になるのか壬生は、散らばった状態の領収書だとか請求書の類を、きちんと仕訳された区分ごとにまとめていた。

「君は随分と几帳面なのだな」
「そうですか? それほどでもないと思いますが」

そうは答えつつも、かなりぐちゃぐちゃとしていた机上が片付くまで、手は休めなかった。

「ありがとう。では、これが領収書だ」
「確かに。……モ一娘。に対抗して、男性アイドルユニット、几帳メンとか結成したら、売れませんかね?」

真顔であった。
唐突でもあった。

だから、如月は、旧友が何を言っているのか、最初理解できなかった。

「え、え? 几帳面?」
「ええ、几帳メン。マンの複数系でメン。ジャニーズ辺りどうでしょう」

駄洒落かよ。
そう気付くのにさえ、かなりの時間が掛かった。

雑巾掛けの○○とか窓拭きの××とか――と、構成を考え続ける彼に、心から、早く帰ってくれないかなーと思っていた。

「……どっちかっていうと、アイドルよりもダスキンメリーメイドの対抗じゃないか」
「あ、そうですね。そちらの路線で、お掃除ユニットの方が売り出すには面白いかもしれませんね。お掃除頼むとイケメン集団が――」

まだまだ延々続く、くだらない計画を聞かされながら、今、期末で忙しいのになーと、如月は哀しくなってきた。

壬生の属する組織は公的機関のようなものなので、採算・経費削減を考えず、こちらの言い値のままに商品を買ってくれる。
つまり彼は、貴重な上客であるので、不躾な対応は許されないのだが、そろそろ、ちゃぶ台をひっくり返したくなっていた。


それから数時間後、特に用はないがなんとなく寄ったという友人を、如月は憔悴した表情で迎えた。


「うーっす、久しぶり。……なんか無駄に疲れてるな」
「ああ。少し……色々とあってね」

少しなのに色々? と首を傾げる友人に、如月は大したことでもないと言葉を濁した。
あのなんともいえない脱力感を、説明することで再び味わいたくはなかった。

「随分ちらかってるな。雨紋でも来てたのか」

部屋に通された友人は、荒れように首を傾げる。

「いや、雨紋のせいではない」

単に、壬生が帰ったあと、如月自身が、その辺のものに八つ当たりしただけであった。

精々『雑然とした』程度の散らかりようではなあるが、普段がひたすらピシっと整っている分、余計に目立つのであろう。

「ふーん。雨紋っていえば、聞いたか? また女が乗り込んできて、別れろって雪乃にナイフ突きつけたとか」
「初耳だ。この前も――しかも間違えて雛乃さんを襲おうとして、投げられて懇々と諭されたのが居たのでは?」

メジャーデビューを果たし、ギタリストとして有名になった雨紋 雷人には、それなりのファンがついた。
――数が増えれば、悪いのも混じる。

中にはストーカー紛いのものもあり、雨紋本人だけではなく、その恋人が巻き込まれることもあった。
救いは、関係者がやたらと武芸の達人である為、常人にも理解可能な力でもって、災いを退けられることか。

「俺は、そっち知らん。雛乃に説教されて、戻らないはずがないから、多分別人だろ。雪乃の方は、ナイフ叩き落して、もうビンタビンタだとさ」

ははは――と軽く笑い飛ばしながら、手は素早く、座の近くの片付けを続けている。
大雑把に見えようと、自室の有様などから判断すれば、綺麗好きなのだろうなと思いながら、如月は彼を止めようとした。

「後で片すから、そのまま放っておいてくれれば良い。君は……」

どうしてまた忌むべき言葉を口にしようと思ったのか、如月本人にも分からなかった。
基本的に仲悪くも、妙に似た所のある一対の相似性を確かめたくなったのだろうか。

「……君も随分と几帳面なのだな」
「そんなことないと思うが」

普通の範囲内じゃないかと首を傾げた彼は、何か考え込んだ。
これで同じことを言ったらどうしてくれようと、如月は、フツフツと怒りを溜め込みながら待っていた。

答えは出た。
しばしの沈黙の後、彼は口を開いた。

「お掃除戦隊 几帳メンッ!! って戦隊グループってどうだろう?」

発想が同じだった。
妙に得意げだった。

くくく――と、如月の口元が歪む。
もう、一瞬たりとも、馬鹿な話を聞きたくなかった。

「埃とりは任せておけの几帳ブルーとか、換気扇の汚れは俺がの几帳レッドとか……」
「出ていけッ!! バカ双龍!!」
「な、何? 来た早々、この扱いは何だ?」

狼狽する相手が、一応主に当たるということは、心から締め出した。
とにかく追い出したかった。

「即座に去れ!!」

彼はやたらと値切り、壬生は寧ろ高値を払っていくことが、決め手となった。
先程までのイライラを、遠慮なくぶつける。

「なんなんだー。あァァァんまりだァァァァ」

なんか追い出した先から、ジョジョネタで騒いでる声がしたが、聞こえない振りを続けた。

決算は近い。
双龍という名の、あほコンビの相手をしている時間は、これ以上はないのだ。



ただのバカ話。
卒業後、三年目くらいのお話でしょうか。
……双龍の被害者は、如月率が高いなぁ。
別々に登場しても、ダメージを喰らうとは。お気の毒に。

しかし、こんなどうでも良いだべってるだけのお話を一年も上げっぱなしにしてしまうとは。反省。