「アモちー、あのナルシー鬼太郎転校生の成績表、これで良いんか?」
「個人情報を簡単に入手するな。生徒会室で弁当を食うな。アモちー言うな」
「要求が多いぞ、わがままな奴だな」
額に青筋を浮かべた生徒会長の形相は気にならないらしく、葉佩は優雅に弁当を食べ続ける。
この惨状の原因は、些細なこと。
マミーズのこの度の新商品は、随分と評判が良いらしく、席に空きが無かった。
ひたすら周囲と目を合わせないように、下だけをみつめ、急ぎ食いながら、皆守は深く深く自省した。
空いてるとこで食おうぜという親友の言葉を、素直に信じた自分が馬鹿だったと心から思う。
だが、テイクアウトした行き先が、生徒会室だなんて、どんな心がけで、どう行動していれば予測できたというのだろうか。
青筋びしびし浮かべた生徒会長と、冷気すら纏った会計と。
呆れた様子の書記と副会長補佐。
「やっぱり空いてただろう?」
転校生は、得意げに笑っていた。
こんな雰囲気で、飯を食いたがる奴がいるはずがない。
そもそもここには、一般生徒は、立ち入れない。
そりゃ空いてるに決まってるだろうと、皆守は、内心で級友にありったけの罵倒の言葉をぶつけていた。
この居たたまれない空気の中では、カレーさえもが味を失う。
カレーの味が分からない、こんな苦行が、この世に存在するとは思わなかった。
「あ、細目。ちょっと失礼。……って、この推薦文ドイツ語かよ。ドイツ語あまり、わからないんだよな……」
さっさと食べ終わった葉佩は、生徒会室を勝手にあさり、新たな資料を手に取り、わずかに眉を顰めた。
「あー、確か……」
文句を言いつつも目を通しているので、ドイツ語もある程度は分かるようだ。
その前に手にしていた資料は、全て英文で書かれていて、帰国子女なんだよなという、当たり前の事実を、皆守は今更に実感した。
大体目を通し終わった資料をポイと投げて、葉佩は大きく伸びをした。
「ふーん。……そういえば、ナル鬼太って明らかに普通じゃないが、墓の封印無理に破られたりはしないのか?」
「……積まれた年月と、多くの人間の氣をもって成された封印だ。一人の人間の異能ごときに破られることはない」
世間話のように、ごく自然に問うてくる宝探し屋に、生徒会長は苦虫をばりんぼりんと大量に噛み潰したような顔で答える。
「力のみで無理やりに行うには、人間の範疇にあっては不可能だ。超一流の術者であろうと、どれほどの技術を持とうと、絶対量が足りん」
どうせ、葉佩ならば、夜会の真の意味までも理解しているのだろうと、諦めと自棄の入り混じった気分で、大サービスに付け足してやる。
「人間以外が混じったモノは?」
「悪魔だの神霊だの超越種が相手では絶対とは言い切れんが、『その血を引いている一族の裔』というレベルならば問題ない」
ふんふんと、聴講生のごとく生真面目な態度で聞いていた葉佩は、色々と気になっていたことが解決して、すっきりできたらしい。
立ち上がりテイクアウト用の容器をきちんと片してから、退去の言葉を口にする。
「Thanks.助かったよ。じゃあ、また後で」
また後で――墓で。
ひらひらと手を振り去っていった宝探し屋の背をみつめていた神鳳は、生徒会長に向き直り、口を開いた。
「阿門様……お伺いしたいことがあります」
「どうした?」
生徒会長は、転校生のせいで緩みきっていた気分を正した。
側近の言葉の続きを、真剣な面持ちで待つ。
「結局、アモちーで定着してしまったのですか?」
切れ者であるはずの側近、しかも転校生の次の相手となるであろう者から、どうでも良い質問をされ、生徒会長は、とても疲れた。気分を締めなおした分だけ、余計に疲れた。
「…………大体、アモちー7、アモやん3の割合だ」
素直に実状を答え、そして、また少し哀しくなった。
十話(双樹さん)が終わったくらいのお話。
……葉佩のせいで、皆が段々とマヌケに。
葉佩は弓道部なので、神鳳さんには、少し危機感が足りないのかもしれません。
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