TOPへ

カァカァ

鴉のような声をバックに、長髪の青年が、天から睥睨する神の如く下界を見下ろしている。

「くくくく、はははははは。粛正が――浄化が始まる」

薄く笑っていた彼だが、やがて堪えきれなくなったように、声を上げて笑い出す。
その瞳に宿るは、純然たる狂気。
禽をその肩に従えながら、彼は笑い続けた。



目が覚めて思ったこと。

また妙な夢を。最近夢見が悪すぎだ。
どうでもいいが、今の奴、昔の魔界医師メフィストみたいだったな。



どうせこれもまた、事件の予兆なんだろうと、半ば諦めて覚悟を決める。

鴉、高所――フン害?

いや……現実逃避はよそう。
普通に考えれば、ヒッチコックの"鳥"か。
やれやれ、鳥と闘うのは大変そうだな。飛んでるし。

―― 東京魔人学園剣風帖 第四話 ――



「ラーメンでも食いに行かないか」

醍醐のそんな言葉から、また、五人でラーメンを食いに行く事になった。
本当に、ラーメン好きだな。

教室を出ようと、扉に向かいかけた途端に、勢い良くそれが開いた。

「ちょおっと待った――ッ!!」

アン子ちゃん、乱入。元気だな。相変わらず。
彼女はほくそえみながら、にじり寄ってきた。なにか企んでいそうな笑顔だな。

「ちょっとでいいから、あたしの頼みをきいてみない?」
「いいけど」

どーせ、事件だろうし。
でも、みんな嫌がってるな。その気持ちも分るけどさ。


「あたしがみんなまとめて、ラーメンおごってあげる」

尤も、皆も諦めているのか、アン子ちゃんのその言葉でアッサリと、乗り気になった。
現金だな。

「早く来ないとおいてくぞ!!」

京一は、やる気になりすぎ。


校門前で、犬神先生と会った。
なぜだかミサちゃんの予言を伝えてくれた。パシリか?

”未の方角に獣と禽の暗示が出ている”

禽か。嫌な予感MAX。



ラーメン屋での、アン子ちゃんの説明によると、渋谷で猟奇事件が多発しているらしい。
その現場には、鴉の羽が散乱していると。夢のまんまじゃんか。工夫が足りないな。

ところで、未って南南西だったかな?
そうだと仮定すると、渋谷は新宿の南南西ってことが意味を持つ。

おそらく今回の事件は、それだな。
それにしても、なんで予知なんかできるようになったんだろう。
今度ミサちゃんにでも聞いてみるか。


「人を襲って――喰べてるってコト?
そんなこと、あるわけないよ。ねェ、龍麻クン」

考え中も、話は続いていた。
小蒔が顔をしかめて問い掛けてきたが、あり得るだろ。
素直にそう答える。


「なんだよッ、龍麻クンまで。本当にそんなこと、あると思ってんのッ?」


なんで、そんな怒る?
だってあり得るだろう。今、東京(ここ)でなら。
自分の常識だけで考えて、人を不当に非難するの止めたらどうだ。
大体、自分の意見以外は聞き入れないんなら、はなッから聞くなよ。

と、まさか内心の通りに伝える訳にもいかないので、ソフトな言い方を考えていたら、先に、アン子ちゃんが答えてくれた。

「そうね、あり得るわ。鴉は、人間を上回る雑食性なのよ。
栄養となるものなら、牛のフンから車にひかれた猫の死体まで、それこそ何でもたべるんだから」

メシ食ってる時に、そういう話しはやめよ―よ、アン子ちゃん。
ま、確かに俺は割と平気だけどさ。
今まで、負けたのは綾辻行人の"特別料理"だけだ。アレは凄い。
"殺人鬼"を読みながら、朝マック食べても平気だった俺が、あれだけは、1日中食欲がなかったからな。



と、心の中でトリップしていたら、いきなり同意を求められた。

ナニ?流れから考えると、現場に行くの?
いいけどさ。どーーーせまた巻き込まれるんだし。



それにしても、渋谷ね。
俺、この街大キライ。
アンケートだの宗教だのが、すぐに寄ってきて鬱陶しい。
とくに駅前から109付近が最悪。


ドンッ

「ごめんなさい。大丈夫ですか?」

丁度、その嫌いな横断歩道を渡っていたときだった。
考え事をしていたせいか、女の子とぶつかってしまった。


「俺こそ、ゴメンね。平気だった?」

なんかさとみと会ったときを思い出すな。
あの時と同様に、助け起こしていると、その子がじっと目を見てきた。

「あの、よかったらお名前を教えて頂けますか?」


ナンパ?
まあ、名前なんかいいけどさ。
教えると、彼女がちょっと怖いことを言った。

「初めて会ったはずなのになんだか、昔、どこかで……」


しかも、前世系?
いや、俺もある意味、葵に対してそうか。

「龍麻くん、どこなの?」

葵の声を聞いて、彼女は我に帰ったのか、去っていった。
なんだったんだろう。



きゃあーー

その後、しばらくウロウロしていたら、路地の方から、女性の悲鳴が聞こえてきた。

「聞こえたぜ……お姉ちゃんが助けを求める声がなぁッ!!」

そう言って、京一が駆け出す。
むっちゃ気合入ってるな。お前って……ある意味凄いよ。



人気のない路地裏で、美女が鴉に襲われていた。

170くらいの長身に、気の強そうな表情。
好みだ。早く助けなくては。


そう思って足を踏み出そうとしていたのに、背後から怒鳴られた。

「おい…、あンたらッ!!
レディが助けを求めてンだ。その気があンなら、手ェかしなッ!」

なんやねん、いきなり――と思いながら、声をかけられた方を見て、絶句してしまった。

……ほうき頭だ。凄い、すごすぎる。
しかも、持っている武器も凄い。街中で槍は、やめた方が良いと思う。
京一よりヒドイよ。俺、徒手空拳でよかったなぁ。



鴉は、槍のお兄さんの助けもあり、簡単に倒せた。
槍って射程広くて便利だな。



「あんな氣を発するヤツは、少なくとも正常(まとも)じゃねェ」

お兄さんは、京一が洩らした一言に反応した。

「氣――だと?」

やっぱ、何か掴んでるな。それにあの槍術は記憶がある。
鳴瀧さんの古流武術講座で習った。

「君、龍蔵院?」
「あンた、一体……」

正解だったらしい。
愕然とした彼は、なにか言おうとした。
が、ヘンな音に遮られた。
超音波のような、無闇に高い音が響く。脳天に来る音だな。

襲いかかっては来ないが、鴉が再び集まり、一羽一羽の口から人間の言葉が流れ出した。
こいつが、鴉を操っているヤツか。



「待ているよ。代々木公園――僕の城で」



彼――雨紋 雷人の案内で、代々木公園へ行く。
ちなみに、さっきの襲われていた美人さんは帰ってしまった。

彼女はフリーのルポライターで、天野絵莉さんというらしい。
この渋谷猟奇事件を調査していたが、このままでは記事になりそうもない。ならば、これ以上は関われないそーだ。
シビアなところが、またいい。



代々木公園、鉄骨の塔の上。
夢で見た、黒ずくめの男がそこにいた。



「僕は神に選ばれた」

そして、酔っ払ったように語る。
人間の罪を。自然の苦しみを。


なんだ、コイツ。
地球を救うためだったのか。勇者だな。


「そこの君も、そうは思わないかい?」

どうして俺に、同意を求めるんだろう。
俺がエコロの人に見えるのか?

素直に応える。

「思わないね」
「なんだって」

当たり前だろう?

「人間が地球の害虫だなんて、今更だろう。
別に俺は、西洋キリスト教的な、自然も動物も全ては、神により人間に仕える為に創られた、ていう感動的なまでに素敵で無敵で、考え無しで、傲岸不遜な思想の持ち主じゃないさ。
だが、地球も滅びるのなら、そこまでっていう事だろう」
「充分傲慢だと思うが」
「神を気取るよりマシさ。
古来より神の御名の元に、どれほどの血が流されたか。
知らぬわけじゃあるまい?救世主様」

一気に言ったから疲れた。
ひと息ついて続けた。

「大体、神に選ばれたってところがセコくてやだよ。
私が神だくらい言えって」

それに、なんかコイツむかついてきた。
自分の手で、人を殺した事も無いくせに。

「くくく…強がっていられるのも、今だけだ」

交渉は決裂したらしい。アタリマエだが。
唐栖の言葉と共に、空が暗く見えるほどの鴉が飛び立った。
やっぱり遠距離攻撃ができないと、鳥相手は辛いだろう。


さて、本当は、小蒔に遠くから射ってもらうのが楽なんだが。
一応当事者に尋ねた。

「雨紋くん、決着自分で着けたい?」
「当たり前だろうがッ」

熱血サンめ。
誰かが補助した方がいいんだが……俺しかいないよな。

「葵、護りよろしく。回復は京一と醍醐優先で。メインは小蒔ね。俺と雨紋の周りガンガン射って。
京一・醍醐はふたりのガード。小蒔の矢からもれて、接近してきたのを倒せ。以上」

そして雨紋に、にこやかに言う。

「じゃ、行こうか」
「どこにだよッ!」
「奴のトコ」
「な、ンな事したら鴉に」

意外に心配性だな。だが、無用だ。
途中で遮る。

「やられない。
俺が併走して防ぐから。行くよ」
「…おうッ」

唐栖への距離を、一気に詰める。
すぐそばから聞こえる風切音が、スリル満点。

「唐栖ーッ!!」

雨紋が、叫びながら槍を振るう。

アツイやつめ。
ていうか、最近知り合う人間、皆アツイよな。
真神特有かと思っていたが、そうでもないらしい。
この人間関係が希薄な現代において、非常に貴重だ。


「美幻の音」
唐栖の術が、雨紋に襲い掛かる。だが
させない

「掌底・発剄」


「てやアッ!!雷神突きッ!!」
雷光が煌く。
眩しいほどの光をまとった槍が、突き出される。

ピカチュウだな。心の中でのあだな決定。


「人間なんかのために、どうして…」
うなだれた唐栖に、雨紋が言う。

「オレ様は、人を信じている。
人のもつ心を――、
そして、この街を…」



渋谷駅に向かいながら、小蒔が雨紋に、これからどうするのか訊いた。

「オレ様もあンたたちも、今回は利害の一致で協力した。ただ……それだけだろう?」

雨紋くんは、照れているのか、ぶっきらぼうに言った。
やだよ、とても役に立ちそうなのに。
これで縁切りなんて、させるものか。

「帰っちゃうのかい。人にガードさせといて」
「勝手にしたンだろうに」

ニコニコしとく。

「…わかったよッ。
アンタらとつるむのも、悪かないかもな」
「ありがとう」

彼の拗ねたような表情を見ながら、先程の唐栖への言葉を思い出す。

『オレ様は、人を信じている』

根はいい人なんだろうな……彼は。
俺は、信じてないよ、人など。

戻る