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最近転校してきた友人が、ふいに吟じるように言った。

「雨紋、君はこの腐った街をどう思う?」
「あン?なに言ってんだよ」

夢見がちなその言動は、今に始まったことじゃなかった。
だが、目がおかしい。不穏の空気を纏っていた。

友人――唐栖は、こちらの不審の目を気にせず、続けた。

「僕は、選ばれた。神たる力を持つものに――
君も、共に浄化を行おう。選ばれし者として。
この穢れた世界の、ね」

何のことを言っているのか、判った。

少し前、妙な声と共に力に目醒めた。
元から槍術を学んだ時に、氣の練り方も教わった。だが、威力が激増した。そして、それどころではなく、雷を操れるようにもなった。

誰にも気付かれていないハズだったが。



「なにを言ってンのか、わかんねーよ」
「とぼけても無駄さ。僕は浄化を始める。何時でも参加してくれ」

― 東京魔人学園剣風帖 第四話 雨紋 雷人 ―



最近続いている、渋谷の鴉による殺人。
浮かぶのは、ヤツしかいなかった。


少しでも防ごうと、渋谷を歩き回る。
何度か、現場に出くわし、襲われている人間を助けた。だが、それでは焼け石に水だった。

それでも、しないよりはマシだと思って続けていた。


路地裏から聞こえた悲鳴に、駆けつけた。
鴉に襲われているあの姉さんは、確か前にも襲われていた。
こりねェ女(ひと)だ。

だが、今回は鴉の数が多すぎる。
確か姉さんは、記者サンだとか言っていた。
明らかに――彼女を狙ってやがンな。



悲鳴を聞きつけたのか、制服をきた五人が、走ってきた。

ふたりは、わりかし有名なヤツらだった。確か、真神の醍醐と蓬莱寺。

が、あとの三人は知らない顔だった。
大人しそうな美人と、元気そうな可愛い嬢ちゃん。それに、やたらと綺麗なツラをした長身の野郎。

まあいい、今は手が必要だ。醍醐と蓬莱寺なら使えンだろ。


意外なことに、連中のリーダー格は、美形の野郎らしい。
この状況に焦りもせずに、そいつは平然と指示を出す。
そして、こっちへ向き直る。

「君、そっちの奴らよろしく。彼女の補助が来てからね」

醍醐だの蓬莱寺だの、有名どころが、素直に指示を聞いてやがる。
こいつは何者なんだ?



戦闘は、アッサリと終わった。
美人が、なンか唱えたら、力が溢れてきて……威力も迅さも上がっていた。


それにしても、さっき感じたあの氣は――やはり唐栖のもの。通常の奴のものよりも、淀んではいたが。

考えていたら、問い掛けられた。

「君、龍蔵院?」
「あンた、一体……」

本当に何者だ?
宝蔵院ならまだしも、龍蔵院を知っているなんて


そこに、唐栖の声が、流れ出す。
悪意と嘲笑をもって、連中に居場所を告げる。


代々木公園、其処に居るという唐栖の元へ、彼らを案内する。

「わけのわからねェことが立て続けに起こりやがる。
人間をカラスの餌にしたがるヤツはいるわ、旧校舎でおかしなコトに巻き込まれるわ……変な技をもった男は転校してくるわ。
なあ、龍麻」

公園で、蓬莱寺が薄く笑いながら言う。楽しそうだ。

「そだね」
「だぁー、お前のことだよッ!!」

転校生なのか、緋勇も。


何かが引っかかる。『力』を持った転校生が増えているのか?



「僕は神に選ばれた」

塔の上で、待っていた唐栖は、悪びれずに平然と言った。いかに人間が汚いか、自然を迫害してきたか続ける。
そして……だから、人間は滅ぼされるべきだと。

「ッざけンな。てめぇ」

蓬莱寺が、怒気を込めて叫んだ。
しかし、唐栖は意にも介さず緋勇に向かって尋ねる。

「君も、そう思わないかい?」

緋勇の答えは意外だった。
穏やかな様子からは、想像もつかない毒舌が続いた。
微笑んだままで、平然と。

「私が神だくらい言えって。
………
それに、ひとりでも自分の手で殺したか?
生命が消える瞬間を感じながら、首を絞めるなり、胸を貫くなりして。お前は、鴉にやらせただけだろう。自分で血を浴びる事もなく。
臆病者が」


蓬莱寺や美里サンの言葉には、何の反応を示さなかった唐栖が動揺している。
あたり前だ。今、正直言って、自分もこの男が怖い。
穏やかで、綺麗なだけだと思ったこの男が。
氣のレベルが違う。迫力が違う。
そして、……殺気が違う。

「くくく…強がっていられるのも、今だけだ」

負け惜しみにしか思えないほどに動揺しながら、唐栖が吐き捨てた。
その言葉と共に、鴉が飛び立つ。


「雨紋くん、決着自分で着けたい?」

緋勇は、さっきの迫力がウソのようにのほほんと聞いてくる。
この大量の鴉に対しても、別段焦っていないようだ。

「当たり前だろうがッ」

先程の迫力に、気圧されたことがバレないように怒鳴る。


真神のヤツらが、緋勇の言葉を待つ。
そして指示に従い散開する。

「じゃ、行こうか」

唐栖をまっすぐに目指す、と緋勇は言った。
信じられねェ。正気か?

「やられない。俺が併走して防ぐから。行くよ」

叫んだ俺に返って来た言葉は、絶対の自信。過信ではない。
己ならできると、知っているからだ。
そして、仲間の腕も、信じているから。

「おうッ」

半ばヤケになり、防御を考えず走り出す。
すぐ近くを、ガンガンに桜井サンの矢が掠める。

しかし、緋勇はソレも、足場の悪さも、気にならないように、周囲の鴉を一気に屠る。
一瞬見とれちまった。まるで、綺麗な死神だ。


「ほら、行け」

唐栖への直線が開いた瞬間、その死神に突き飛ばされた。
地上何メートルかもわからない、頼りない足場の上で。

「危ねェじゃねぇかッ!!ここを何階だとおもってンだ!」
「伏せて」

思わず従うと、すぐ上を気塊が通り、鴉がすっ飛ばされる。

「頑張って」

唐栖のすぐ傍だった。……その計画に、乗ってやる。

氣を練り上げる。コイツを止めるためにッ!!

「てやアッ!!雷神突きッ!!」


帰り際に、これからどうするのかを、桜井サンが聞いてきた。
これから?
……また、普通の生活に戻るさ。


「今回は利害の一致で協力した。ただ……それだけだろう?」
「帰っちゃうのかい。人にガードさせといて」

緋勇は、微笑んだ。なんて凶悪なんだ。
これから逃げられるのか――それは、不可能だろう。
……仕方ねェ

「よろしくな、せ・ん・ぱ・い―――」

せめておどけて答える。
魅了されたことを気取られない為に。

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