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御屋形様――鬼道門の開封の儀は失敗とのこと。


水角を倒した奴を見たか?

それが……、まだ年若い輩で、年の頃は一七、八かと。

あいつか。なるほどな。
もう一つ頼まれてくれるか?


はい、無論……ぎゃアッ!!お……御屋形……さ……ま……


長い黄泉路の旅だ。
水角の供をしていくがいい。



オイオイ、殺すなよ、そんな事で。

思わず夢に突っ込んでしまった。
それにしても今の夢って、断片的だったが、九角の――鬼道衆の事だよな。

ハァ……夢に見たってことは、また、面倒な事企んでやがんな。

―― 東京魔人学園剣風帖 第九話 ――

今日は、小蒔と葵に誘われていた。
待ち合わせ場所にて、ぼーっと立っていると、ふたりが小走りにやってくる。

「ひーちゃーーん。お待たせッ」
「ごめんなさい、龍麻くん。誘っておいて遅れるなんて」


少し遅れて来た葵と小蒔が、口々に謝った。
遅れたって……三分だ。この暑い中、そんな必死に走ってこなくてもいいのに。

「構わないよ、数分程度」

とりあえず、真面目に言っとく。



「良いって。えー、まずはどこから行こうか」

まだ申し訳なさそうに謝ろうとする彼女らを止めるため、話題を振る。
小蒔も葵も、なにか買い物があるらしい。で、今度は彼女ら同士で譲り合う。君ら奥床しすぎ。

「小蒔から行こうか。弟さんの誕生日プレゼントだっけ?」

キリがないので、勝手にそう決めてみる。

「ウン。でも、ボクの買い物が先でいいの」
「もちろんよ。もともとは小蒔の買い物なんだから」



弟さんの話が、やたら豊富だなと思ってはいたんだが、小蒔って一番上で、下に五人もいるのか。皆別の『弟』だったわけだ。
今時随分な大家族だ。うちなんか、義兄も俺も本来は、ひとりっ子なのに。



「ひーちゃんは何がいいと思う?」
「ゲームソフトじゃないかな。落ちもの系って無難だよ。ウチの母親なんか、ぷよぷよにハマって、サターンはぷよ専用機になっちゃったし」

実話。
放っておくと、常にぷよの消える音がするくらいだ。

「えーいいなあ。ウチのお母さんなんか、ゲームやってると怒るのに」
「今度、パズル系やらせてみれば?はまったら、こっちのもんだよ。ちなみに父親には、麻雀とかグー。シンプルシリーズ、量販店なら1500円切ってるしお得」
「ウン、やらせてみる」

ゲームを購入。あ、あれ出てたんだ。
けど流石に彼女らと一緒では、エロゲは買えないなあ。

次は、葵。
買いたいものは、日記帳。……日記なんかつけてるのか。少し尊敬。

「どれがいいかしら」
「この花柄がいいんじゃないかな」

俺はチェックの方が好きだが、葵は花柄が良いっぽいし。本人が欲しい方を答えるのが、円満な人間関係のコツ。


「今日はわざわざありがとう、ひーちゃん」
「暇だったし、丁度良かったよ」

ふたりが、嬉しそうにお礼を言ってくれる。
気にしなくて良い。俺は、誰かさんらと違って補習ないし。



「じゃあ、私達着替えてくるから、二時に校門でね」
「じゃあね、ひーちゃん……ン?あれ――雨紋クンじゃない?」

小蒔の指した方を見て、肯く。遠くからでも間違えようがないな、あの頭は。


「よッ、久しぶりだな。元気だったか?」

相変わらず、元気そうな奴だ。
で、それはともかく一つ疑問に思ったので、訊いてみる。

「ああ。で、何でこんな時期に制服着てるんだ?……補習か?」
「ウッ」

図星かい。少しは勉強しろ。


「いーじゃねェか、そんな事。そういや、渋谷で天野サンに会ったンだ」
「話題の転換で誤魔化す気だな」
「聞け!彼女、あンたたちに連絡が取りたいって言ってたから、学校に行ってみなッていったンだよ」

何で、この時期に学校?
疑問は小蒔の台詞で、理解できた。

「あッ、京一と醍醐クン補習だもんね」
「オレ様はてっきりアンタもだと―――」

途中で口篭もったな。なら、最初から言うな、思うな。
俺は、一度たりとも、補習・再試というモノをしたことは無い。

「雨紋クン、キミもか。ひーちゃんは、期末は総合一位だったよ」
「え゛……いや、悪かったなッ。それじゃ、オレ様も急いでるからまたなッ!!」

雨紋は、絶句した後、話題を変えて去っていった。
覚えてるからな。永劫に。

それにしても、天野さん……か。
またなんか探ってるんだろうな。

「もしかして、また何か事件が起きたのかな!?」
「そうね」

やれやれだ。暑いのに。

着替えてくるというふたりは、一旦家に帰ったが、俺は、めんどかったのと天野さんの事もあるので、そのまま学校に向かった。

校門で待っていると、疲れた様子の醍醐と、仏頂面の京一がこっちに来た。
補習って大変なんだな。やったことないから、ワカンナイや。

こっちに気付いた京一が、爽やかに笑いながら言う。

「やあ、緋勇クン。夏休みをエンジョイしてるかい?」

ふ、皮肉が甘いな。
お手本はこうだ。

「勿論だよ。蓬莱寺クンは向学心旺盛なんだね。こんなにアツイのに学校で勉強だなんて!スゴイや!!」

お、震えてるな。

「ち、チックショー!!」
「諦めろ京一。嫌味で龍麻に勝てると思っているのか?」

それも失礼だぞ、醍醐。



「それより、龍麻。お前どうしてここに――」
「あッ、いたわね」
「エリちゃんッ!!」

醍醐の質問は、天野さん登場によって遮られる。

「今日はみんなに頼みたい事があって来たの。本当は、あのふたりにも聞いて欲しかったんだけど」
「葵と小蒔なら、着替えたらすぐに来るって言ってましたよ」
「あら、一緒だったの」
「ええ、先ほどまでふたりの買い物に付合ってまして」

その言葉に、醍醐が反応した。
しかも相当激しく。声裏がえってんぞ。

「な、なに!?」
「……小蒔の弟さんへのプレゼント見繕ってたんだよ。男の意見が欲しかったんだろ」
いや……君の心配するようなことは、無かったよ。
チャンスに補修だったお前が悪い。


「お昼ごはんは何がいいかしら。わたしが奢るわよ」

その気前の良さは、なんか手伝わせるおつもりですな。

「えーと、えーと……うーん……ラーメンしか思いつかない自分が憎い……」

京一……散々悩んでその返答か。本当に、ラーメン好きだな。


江戸川区で連続猟奇殺人事件が発生。いずれも頚部を消失……か。

エリさん情報は、もの食いながら聞くには、生々しすぎだった。自分は気にならないんで、そのまま食ってたが。

謎の首切り魔ねぇ。
関係無いけど、随分昔に兄と、生首と首無し死体はどっちが怖いかで喧嘩したなあ。
俺は、首は首だけじゃたいしたことできないけど、首無しは追ってこれるから嫌だって言って、兄は急に目をカッて見開かれたら嫌だから、生首だって言って。

アホ兄弟だな、今考えると。
それって、よく考えたら両方とも超常現象が前提じゃん。
真面目に、現実だけだったら、どっちだろうか……。



「一緒に江戸川へ行ってくれないかしら」

おお、またトリップしてて聞き流してたよ。
にこやかに微笑んだ天野さんと、緊張した面持ちのふたり。察するに――、事件現場にってこと……だよな?

「ええ。でも、とりあえず先に、ふたりを迎えに行かないと」


店を出たところで、走ってくる小蒔たちが見えた。
この暑いのに……なんで再度全力疾走をしてる?

「あれ……何をやってるんだ?」
「お――いッ、美里―ッ、小蒔―ッ!!」

叫んだ京一に気がついたふたりは、こちらへやって来た。

「あッ!!助かったァ」
「よかった……」

ふたりとも、息が切れている。そんな必死でどうしたんだ?
怪訝そうだった醍醐が、ふいに表情を変える。

「一体どうしたんだ?まさか―鬼道衆ッ!?」

せっかく、真面目なだったが、外れのようだ。能天気な声が、辺り一杯に響く。

「待ってくださ〜いッ!! Myスウィートハニーッ!!」

ナ ン パ か よ 。



「ボクの名前はアラン蔵人いいマース」

その人は、『HAHAHAHA』とばかりに笑いながら、名乗った。
濃い人だなあ……どこで買ったんだろう、そのTシャツとか。

なんか……不思議だ。何処かで見た事があるような――知っている人のような気がする。
だが、いくら記憶力の無い俺でも、こんな人を忘れるだろうか?

「オーウ、緋勇龍麻いうデースか。ユーとは、初めて会った気がしませーんッ」

確かに、それはそうなんだが。

「俺も実はそう」
「オウ、やっぱり?ボクたちはムリのシンジューね!」

暑いから、つっこまなくても……いいか?
俺がただ困惑していたら、かわりに京一が怒鳴った。

「何を言ってんだ、このガイジン!」
「ボク外人違うネ。ハーフ」

へー。
まあ、確かに日本語が上手い部類に入るよな。なんか違う気もするが。


「大体ハーフなのに、蔵人なんて古い苗字しやがって」
「京一。そんな訳のわからん理屈で、人に喧嘩を売るな」

醍醐、その突っ込み、なかなかだ。
そういや、蔵人って苗字って……。

「クロードじゃないのか」
「へ?」

思わず漏れた呟きに、京一が首を傾げる。
知人に居たんだよ、そういう苗字の人が。

「前の学校の同級生で、琉香須って苗字の人がいた。どんなヤンキーの家系だったのかと思ったら……」
「ルーカスと言う外国の人が、帰化したのね」
「葵正解。確かに彫りが深かった」

話が脱線しかけていたのを、なんとアランが戻した。
両手で俺の手を握り、真剣な表情で叫ぶ。



「お願いデースッ!! 葵をボクにくださーいッ!!メニーメニー愛してマース」

まだ求愛続いてたのか。
いや、それよりも、俺に聞くな。

「そういうのは、彼女の意思。俺に聞くことじゃない。それに、俺達これから用があるんだよ」
「そうそう、江戸川まで行かなきゃなんねェんでな」

京一のフォローは、裏目に出た。

「エドガワ?ボクのホームのある街ネ」


ふーん、首切り事件にも詳しいな。
では、よろこんで案内をお願いしよう。暑いから、手間は極力省きたいんでな。


江戸川区って初めて来た。
色々と解説してくれるアランの表情は、柔らかく和んでいた。
本当に、この街が好きそうだな。

へー、おまけにアランも両親が亡くなってて、伯父夫婦に引き取られているのか。どっかで聞いた境遇だ。

「アラン『も』って、アミーゴも?」
「ああ、俺も同じ。うわッ」

寒ッ!
背中に氷入れられたような感覚がした。

「龍麻!どうした?」
「今、凄い鳥肌が……アラン?葵?」

ふたりの様子がおかしかった。

「風が――。風が止みマシタ」
「駄目……そんな」

葵がそこまで言った時、あたりに轟音が響いた。

わ、何?事故?

「Shit!」

アランが舌打ちし、駆け出す。
当てがあるようだな。


「あいつが一番明確に判ってる。追うぞ!」



「こっちに来たよね」
「ここ……江戸大橋は、事故が多い事で有名なのよ。磁場があるらしいわ」

天野さんの説明に、げんなりしてしまう。それって、いわゆる心霊スポットやん。
そんな場所にて、小蒔が叫んだ。

「あそこに倒れてるのアランクンじゃない?」

橋に半ばめり込むほどに、激しくぶつかったらしい事故車と、そのすぐ傍に、うつ伏せに倒れるアランの姿があった。

「見ろッ!!誰かが橋から飛び降りたぞッ!!」

こちらに気づいたらしく、アラン傍の人影が逃げるのが見えた。

危ない……アランに止めを刺そうとしてた。あれは。
逃げた奴の方は、京一たちに後をつけてもらうか。

「京一・醍醐・小蒔、深追いしないように、奴を追ってくれ。葵は、アランを癒して」
「ええ」

それにしても……今のヤツ、緑の忍び装束着てなかったか?
前の赤いヤツも不思議だったんだが、そんな派手な色じゃ『忍んで』ないんじゃないか?


「大丈夫?アランくん」
「ヘンな仮面を被った男が、……車のレディの首を」

その言葉に、何気なく事故った車の方を見た。

わお!!
ほら、首無し怖いじゃないか。兄さん。いや生首も見ないと、比較できんか。



京一達は、しっかり尾けてくれた。
罠っぽい気もするけどな。

彼らの案内によって、洞穴みたいな所に着く。
出てくる風の感じから言って、地下深くまで続いているようだ。

また地下洞窟か。なんかやだな。
うわ、風と一緒に邪気まで吹きつけてきた。かなり濃い。
何人か呼んでおいた方が、安全そうだ。


「翡翠か?舞子とー、う〜ん、ミサちゃんと雨紋連れて江戸川まできてくれ。
詳しい場所?江戸川区の江戸大橋付近で、地下洞窟だ。あとは俺とかの気配辿ってくれ。じゃ」

携帯で一方的に告げて切る。
ま、翡翠ならこのくらいの条件でも分かるだろう。


「前のところと似てるね」
「コンセプトも似てるんじゃないか」

何気なく言った小蒔に、答えた。
地下での開門の儀式……とかだな。

「え、どういう事?」
「しッ、翡翠、京一」

何かがこちらを見ている。
ふたりに振ると、彼らも小声にて頷いた。

「ああ、尾けられてんな」
「ただ大したレベルではないようだが」



「死ねーーッ」

気付かれたのが分かったのか、殺気だった忍者が、襲い掛かってきた。
おやおや……雑魚が。

だが、構えるまでもなく、そいつは消えた。
アランの銃によって、撃たれて。

「コレは風の力が宿った霊銃ネ」


不法所持かと思ったが、違うそうだ。実弾ではなく、力により使える霊銃というものらしい。
不思議なもの持ってるな。

残りの敵もほんと雑魚レベルで、簡単にすんだ。
さーて急がないと。



「そういえば、門に関して――というか、クトゥルフに関してなんだけど、新しい情報があるの」

奥へ奥へと進む途中、天野さんが言った。

【古代の邪悪な海の悪魔】【海の底に眠る神】

ええと……タゴンだかダゴンだか、確かそんな濁音。ウミウシっぽい奴だよな。気分が荒む。
クトゥルフは、イマイチ好きじゃないんだよなあ。
タコとか魚系で、やたらと、うにゅうにょぐにょなのがイヤだ。
やっぱ、邪なる神って言ったら美形じゃないと。

「嫌な風の匂いがしマース」

アランが、また何かを感知する。
じゃあ、そっち行ってみるか。


空気が変わった。
角を曲がると、開けた場所に出る。

「きゃああぁぁぁ」

びっくりした。葵、声デカイよ。


あらら……これは、女の子は叫ぶな。

そこにあったものは、遠目には大きな円と複雑な模様。
中央の円には、等間隔に生首がならんでいた。――生首による、巨大魔法陣。

う〜ん、やっぱ、首無しの勝ちだな。俺としては。断面の嫌さがポイント。


「ようこそ、常世の道へ──」

瘴気と共に、鬼面の男が現われる。ああホントに鮮やかなグリーンカラー。

「てめェ―、罪もねェ人間を巻き込みやがって……」
「くくく、あおい事を。我等は鬼道を使い、外道に堕ちし者。幕末の世より甦り、この地を闇に誘う者―――」

そりゃあ、説教しても無駄だよな。
職業的泥棒に、人の物を盗んじゃダメって言ってるようなものだ。



召喚の儀は、既に完成してたんだろうな。

勝ち誇った風角とかいう奴の声と共に、時空が歪む。
わざわざ、俺たちを待って起動させたかったんだろう。


ザワザワと、嫌悪感をもよおす風が、魔法陣の中央から吹き出す。
匂いまで気色悪いな。

「コノ風……、コノ匂い……、やっと、見つけタ」

アラン?
彼は、静かに呟いていた。薄い笑いさえ浮かべながら。


ズルズルと、魔法陣の中央から、何かが這い出てくる。
それは、訳の分からん音を立てた。

『此度ノ眠リハナント短キカナ……最後ニ贄ヲ喰ロウテカラ、マダ八年トタタヌ』

意味が、頭に直接響いた。
八年……て、まさか?

「まさか、天野さんの言っていた、八年前の南米の村の事件って……アラン」
「そう、アイツはボクの村に現われた。ボクから大切なモノを全て奪った――」

その間にも、召喚されたモノは、どんどん輪郭を明瞭にしていく。
やっぱ、うじゅうじゅ系だな


「I never... I never forgive ...
I never in your murder!!!」

アホな思考を巡らせていたら、アランのマジ声で我に返った。
あれが、盲目の者か。
それにしても、あんな虫みたいのが相手でも、YOUなんだ。
ニュアンスは【貴様】なんだろうけど、英語って情緒ないよな。



んで、アランは血昇ってるし、遠距離系なんだし、誰か補助がいるよな。
俺は、鬼道衆の方を担当するから、京一か雨紋……雨紋だな、京一じゃコンビネーションが不安すぎ。

「雨紋、アランのガードを頼む。醍醐は小蒔と葵、京一と翡翠は舞子とミサちゃんを護れ。
今言った組で、離れすぎずに雑魚を倒してくれ。終わったら、アランたちを即補佐」
「うん、ってひーちゃんは?」

俺は、人間型が相手。それは基本。

「その緑馬鹿をヤる」

ヤるは『殺る』です。

「龍麻くん、ひとりで大丈夫?」
「ノープロブレム。みんな、よろしく」



「で、アラン」
「ナニ!?」

「盲目のものを頼むぞ。落ち着いて――な」
「……OK!!」

「ひとりで来るとは、愚かな」

風角が、偉そうにほざく。笑わせるな。

「貴様がな。貴様レベルが、ひとりで私の相手ができるとでも思っているのか?」

「小僧!見切れるか!我が速さは、疾風の如し!!風烈……」

ふん。世の中技の発動を待ってくれる人たちばかりではないと知れ。

「随分と緩やかな疾風だな。遅すぎる」

背後にまわってみる。余裕。

巫炎で炙ったあと、雪蓮掌で凍らせてみた。
温度差攻撃。

氷柱のようになった、緑色のものは放っておいて、周囲を見渡す。
雑魚は、殆ど終わったようだ。


状況を確認してから、盲目の者の方へと視線を移す。

奴の両脇に位置するアランと雨紋のふたりから、雷をまとった龍が、立ち昇っている。
雷龍?……いや、雷とは木気。で、木気を司る龍だから、蒼龍かな?
そういえば、双界儀ってゲームで、蒼龍属性の人が雷使ってた。

「雨紋!!それ、方陣にいける。そのまま、叩きつけろ。アランは、雨紋に併せて!」

「いくぜェ!!」
「OK!!」

アランと雨紋に、方陣技あるとは意外だった。共通点属性くらいなのに。
色々と試してみるもんだな。

盲目の者が痛みで、のたうち回ってる。このままいけるだろうか?
因縁がある人間が倒すだな。

「アラン!止めを!」

「Hard Rain」

雨のように降り注ぐ銃弾が、盲目の者を貫いた。


ウオオオオオオッ――――

奴は、最後に悶え、一際暴れ……そして、咆哮をあげ、消えていった。



敵の消滅に、一息ついた。
その為に、殺気に気付くのが、ほんの一瞬だけ遅れた。

「風よ――ッ斬り刻めッ、斬り刻めッ」

キレ気味の風角の声。
生きてたのか。その根性は素晴らしい。だがこの程度なら、どうにか反応できる距離と速度――やべッ!後ろに葵!?

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死―――ッ!!」
「龍麻くん!」

キレてる分、さっきよりも出がはやい。彼女まで連れては避けられない。しょうがないので庇う。
迅いかわりに、こいつの攻撃は軽いから、痛いけど死にはしないだろう。
葵も舞子も翡翠もいるしな。


諦めて急所だけはかばって構えていたら、轟音が響いた。
アランの霊銃による清冽で強大な風が、風角の風を砕いた。

「Now you die.Go to hell.」

怒りの言葉とともに、更に何発か叩き込む。

「九角様ぁぁぁぁぁッ、御許しをぉぉぉぉぉぉッ!!」

どっちかって言うと、許してもらわなきゃなんないのは、そういう名前出しちゃう口の軽いところとかじゃねぇの?
などと思ったが、死にゆく者に突っ込んでも仕方ないので止めておく。



盲目の者は還った。風角の気配は確かになくなった。
これでやっと安心できるかと思った瞬間に、嫌な音が響いた。

前にも記憶のある音が。

ゴゴゴゴゴ……

ごごご?また?


やはり崩れ出した洞窟から、必死で逃げ出す。
安定が悪いところをアジトにすんな。馬鹿鬼共。


脱出してから、アランの話を聞いて、やっと事態の概略が掴めた。

善養寺の影向の松が、地下の霊地の封印。
最近松が枯れだしたのは、連中の暗躍により地が穢れたからって訳か。

「樹はいってマス。ヒトが死ぬのを見るのはmany many悲しいと」

【木】と【風】か。その属性って……。

翡翠の方に目をやると、頷き唇だけを動かす。
セイリュウと。

「ボクは、大切なモノを喪っタ。
そんな想い、もう二度としたくナイ。そんな想い、誰にもさせたくナイ……。
だから――、アミーゴたちと一緒に闘いたいネ。yes言ってくれマスか?」

偉いよな。俺より遥かに真摯だ。

「ああ、こちらからお願いするよ。よろしく」
「……Thanks アミーゴ」

「へへッ、これから頼むぜ、アラ」

認めたらしく、照れながら手を差し出した京一の言葉が終わる前に、アランは元に戻った。
葵の手を握り締めながら言う。

「アオーイ!!Telナンバー教えてくださいネ!」

むなしく手を出したまま硬直していた京一が、我に返り叫ぶ。

「お前なァ!!」

結構良い組み合わせな気がしてきたが。
しかし、仲間が『ボケ』ばっかになってきた気がする。『ツッコミ』属性の人は大変だ。


「じゃあ、ボクはもう帰るネ」

電話番号を聞き出すと、アランはあっさり帰った。

照れ隠し……なのか?
まあ、基本的には良い奴なんだろう。

「ふ……それじゃあ、俺たちも帰るか」
「ああ、帰ろっか」


快活に笑う醍醐に普通に応じながら、心が沈みこむ。
腹心クラスをふたり倒して、九角の名も皆が知った。決着の時は、遠くはないって事か……天童。

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