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―― 東京魔人学園剣風帖 第拾話 ――

「佐久間クンを見かけた人は、先生に連絡してください」

マリア先生のその言葉で、アレが居なかった事に気付いた。
そういや最近絡まれないな。

たしか一週間ほど前に、ひとりのときに絡まれたから、
もんの凄く脅したような気もするけど。

「佐久間クンがいなくなって、もう1週間かァ」
「そうだね」

い、一週間?
白々しく答えたけど…俺のせい?
そういや、あの頃夢みたな。

恨め―― 憎め―― 殺せ――

ってやつ。
対象がどうでもいいせいか、あんまよく覚えてないけど。
みんな偉いな。あんなの心配して。



ん?小蒔が高校最後の練習試合?

…よく考えるとヘンだよな、弓道の試合って。
ふたりで向かい合って、互いに射ち合うべきじゃないか?
危ないけど。


「んで、ゆきみヶ原ってどこ?」
「えっとね…」

東京の学校はよく知らんので訊ねたら、小蒔よりも先に、京一から答えが返ってきた。

「荒川区にあるお嬢さま校じゃないかよォォォッ!!」


落ち着けよ。

「ん?小蒔。
お前そんな御守りなんて前から付けてたか?」
「へへッ、醍醐クンに借りたんだ」


ホントに、いきなし落ち着いたな。
それにしても、御守の貸し借り…清い、清いゼ。

そのお守りを嬉しそうな顔で見ながら、小蒔は続けた。
「雛乃との三年越しの勝負にも、今日でケリがつくしね」

気合が入ってると思ってたが、ライバルか。
ライバル……う、ヤな奴を思い出した。

「じゃ、後で会場でね」

そう言って、彼女は駆け足で教室を出ていった。
本当に、気合入ってるな。尊敬。


途端にニヤニヤした京一が、肘で醍醐の脇腹をつつく。
楽しそうだな。

「それにしても、女にプレゼントするのに、御守りはねェだろ?」
「ばッ、馬鹿野郎ッ、俺は別にそんなつもりじゃ」

からかいすぎだって……
あーあ、ほら、出てっちゃった。
足音がドスドスしてたぞ。相当恥ずかしかったんだな。

一応追っていった京一の背中を、葵は心配そうにみていたが、急にこちらを振り向く。
ちょっと驚いた。

「京一くん、口ではああいっても醍醐くんと小蒔のことすごく心配してるのよ。龍麻くんはどう思う?
私は醍醐くんと小蒔って、お似合いだと思うんだけど」
「すごく似合ってると思う」

あれ以上の最適は、あんまりいないだろ。いやマジで。
醍醐は良い意味でも悪い意味でも、優柔不断だから、ちょうどぴったりだと思うんだ。

「そうね。あのふたり、うまくいくといいんだけど」

おそらくいくと思うよ。



「ここがゆきみヶ原高校か。…どーした、ひーちゃん」

小蒔……俺たちにどーしろと?
だって、渡された地図に……

「弓道場の場所が書いてない」
「なにィ…どーするよ」

「コラッ、そこのッ!!
人のガッコの前でなに騒いでやがんだよッ」

あ、あのプールの双子さんだ

「あれ、プールの」
「ん?ああ、あの時の……で、何の用だよ」

「弓道部の友人がこちらで試合なんですよ。
桜井 小蒔という」
「小蒔だって?アイツの友達ねェ…」

「お前こそ、何者なんだよッ?」

折角人が穏便にしていたのに、京一が台無しにする。
ってゆうか…、なんで君らケンカしてんの?

「あの、ご迷惑はおかけしませんから、弓道場の場所を、教えて頂けませんか?」

葵、ナイスフォロー。
やっと納得したのか教えてくれて、去っていた。

「まったく、類は友を呼ぶとはまさにこのことだぜ」

そんな格言知ってたのか、京一。

「でも、凄い腕だね、彼女」
「…ふん。まあな」

弓道場につくと、凛とした、道場特有の雰囲気が漂っていた。
懐かしくも嫌な空気だ。

「どうしたんだ、京一」
「なんでもねェけどよ」

その会話に振り向くと、京一も似たような表情をしていた。
あー、京一も同じ感覚なんだな。

「懐かしくて、…同時になんだか嫌なんだろ?」
「な…なんでわかるんだよ、ひーちゃん!エスパーか?」

ちがうわい

中に入るとすぐに、小蒔の番が回ってきた。
隣の、プールの彼女が、やっぱり雛乃さん……かな。
彼女も凄い腕だ。



「おめでとう小蒔。本当によかったわね」
「みんな今日はホントにありがとう」

小蒔も、雛乃さんもほぼ満点だったが、
本当に僅差で小蒔の勝ち、だった。

雛乃さんも、これから来るらしい。
………いいよな、仲の良いライバルは。

「あ、雛乃、こっちこっちッ!!」
「お待たせしました、小蒔様」

ストレートの黒髪を結い上げた彼女は、丁寧に礼をした。
久しぶりに見たな、こういう娘。


「それにしても雛乃さんって、さっきの人に似てるわ」
「あれ?みんな雪乃に会ったの?」

葵の台詞に、小蒔が首を傾げる。

顔は似てないと思うけどな。
そうこうしているうちに、さっきの彼女…雪乃さんも来た。

「小蒔の友達なら、俺にも友達だ」
「よろしく」

自分の事を俺って言う女の子、本当にいるんだ。
小蒔のボクでさえ、驚いたのに……。

自己紹介の後、雛乃さんが、微笑んで言った。

「あの、皆様。
よろしければ、これから神社に遊びにいらっしゃいませんか?」
「おッ、おい、雛ッ!!
こんなむさくるしい野郎共を家にあげるなんて、ごめんだねッ!」

むさくるしいってヒドイな。醍醐はともかく。
雛乃さんが、なんか言いたげなんで、揚げ足をとろう。

「友達じゃなかったのかい?」
「…ちェッ、仕方ねェ」



歩き出してからそれほどかからずに、小さいが荘厳な空気の神社に着いた。
自宅から徒歩通学……羨ましい。

「ここですわ」
「―ん?あッ!!あのブン屋…性懲りもなく!!」

雪乃さんが、敵意を見せた人は、エリさんだった。
……何やってるんだ?

「エリちゃん!」
「なんだよ、知り合いか?」
「ええ、ルポライターで、私たちに協力してくれているわ」

彼女もこっちに気付いたのか、手を振りながらやってきた。

「あら、奇遇ね。元気だった?」
「ええ。何とか」
「ふふふ、相変わらずね、龍麻は」

……笑みが、なにかを少し含んでるな。ヤっちゃったからか?
でも、そんな厄介な女タイプには、思えないんだけど。

雪乃さんは、俺たちと知り合いというだけでは納得できないらしく、彼女につっかかってく。
神社を潰すつもりって……エリさんは、そういう自分に利点の無い事しない人だよ。
それに、ルポライターと探偵は似てないと思うけど。

結局、エリさんは、調べものがあるからしばらくは来ないと言い残して、去っていった。
調べものって、危険なことしてなきゃいいんだけど。

玄関に着くと、また京一と雪乃さんがボロいとかどうとかでやりあってる。
元気だよな。いちいち。
鎌倉だと、こういう家結構あったから、俺はなんとも思わないけどな。



「お茶が入りましたから、皆様どうぞ」

巫女装束の雛乃さんが入ってくる。
似合うな。



皆が一息をついた時を見計らって、雛乃さんが姿勢を更に正した。
そして、彼女は告げた。
俺たちの力の事を、小蒔から聞いていると。

「ゴメン、みんな…。
前に相談したことがあったんだ」
「信頼できる人だから、話したんだろう、構わないよ」


俺がそう言ったら、雛乃さんは真剣な表情で訊いてきた。

「緋勇様、ある伝承がございます。
あくまでも、この神社に伝わる言い伝えですが、ただ、この異変をとく鍵になれば…と。
……聞かれますか?」
「是非」

「では…、
昔――――――――」

ある姫に恋をし、そのために……手に入れるために、鬼へと変じたお侍?
その願いは叶わず、彼は死んだ?

「それが―、この織部神社です。
……緋勇様?どうかなさいました?」
「いや、なんでもないです」

頭が痛い……気持ち悪い

「龍麻くん?本当に、大丈夫?」
「ああ、もう……平気」

なんだろう、痛い。



「そうですか…。
皆様、龍脈というのをご存知ですか?」

皆はキョトンとしているので、とりあず痛む頭を抑えながら、知っている事を言ってみる。

「ええ、地脈とも呼ばれるものでしょう。大地を巡る氣の流れ」

風水かなんかの概念だったかな。
ほかにも聞いた事があるような気もするが、忘れた。

「ええ、先程の言い伝えでお侍様に力を授けた竜神とは、この龍脈を指す、とも言われております」

そして俺たちに力をあたえたのも、それってことか。
面倒な事だ。

「この東京の歩む道はふたつしかありません。
陰と陽が互いに共存を目指す陰の未来か――、
闇を払い全てを浄化する陽の未来か――」


宣託を告げる巫女の如く、静かにそして厳かに、雛乃さんが呟く。
全てを浄化――その”陽”は、うざいな。


「緋勇様なら、どちらを選ばれますか?」
「陰の未来。
陽のヒステリックなまでの潔癖さは、苦手だな」

「そうですね
そうすれば、みんなが幸せになれるのかもしれません」

ごめん、それは知ったこっちゃない。
俺が背負わなきゃいけないものでも、ないだろう

「………
決めたぜ、雛ッ!!
オレは、こいつらについていく」

雪乃さんが、急に立ち上がって叫んだ。
みな少し驚いとりますが。

「え?」
「オレは、緋勇ッ!お前が気に入ったんだ。
オレも連れていきな」

なんていうか……彼女、可愛いな。

「ああ、頼むよ」
「よし決まりだなッ!!いいよな、雛」

決め付けていながら、ちゃんと雛乃さんに確認を取った。
やっぱ、雛乃さんの方が、本当は力関係では強いんだな。

雪乃さんって喩えると、セラミックスだな。
金属強度学において【硬さ】と【強さ】は必ずしも同一ではない、
むしろ両立しない場合が多い。

彼女たちは、まさにその通りだと思う。
硬くて脆い雪乃さんと、柔らかくて強い雛乃さんと。

その雛乃さんは、頷いてから微笑んだ。
そして、にこやかに続ける。

「わたくしと姉様の力はふたつでひとつ――わたくしも、一緒に参ります」


おお、仲間が+2。ちょっと嬉しい。



と、そこで時計が鳴る。
結構な時間になってたので、流石に帰ることにする。
と、京一が、話が難しかったとか、疲れたとか、ぶーたれる。
ケツが痛いとかゆーな、女の子の前で。

「ん、雛乃ちゃん、あの建物は?」

京一が指したその建物は、神社のお蔵との事だった。
翡翠が、喜びそーだな。

雛乃さんが、品物を預けた連中の話を少し挙げる。
その中の乃木様って、あの乃木大将だよな。凄い家柄なんだな。

「乃木様は、その際仰っていたそうです。
”もうすぐ塔が完成する、その時、我が国は変わるであろう――”と」

妄想持ちやすい人はヤだね。



帰り際に雛乃さんが、小蒔に弓をくれた。
ラッキー、そろそろ小蒔の武器を買い換えようか悩んでたけど、弓って高いんだよ。
翡翠がぼってるのかと思ったけど、専門店もそうだった。



その後、俺と京一・醍醐はいつも通りラーメンへ、ふたりは帰るという事になった。

で、明日、醍醐の師匠に会いに行くらしい。
なんか白蛾翁だか新井 龍山って、オッサンから聞いた事があるような気がする。
また何かあるのかな。ヤーレヤレ。



白蛾翁とやらのお宅に向かう最中の山道で、苦しそうな呼吸音が響いていた。

「なにが…ゼェゼェ…歩いて…いける ハァハァ 距離だ…よ」

京一が死にそうになってる。
お前体力無さすぎ。葵も小蒔も、結構平気そうなのに。

「うるさいなァ」
「軟弱者が…」

君らは酷すぎ。

それでキレたのか、京一は絶叫した。

「見渡す限り竹、竹、竹…。
パンダでも飼ってんのかッ?そのジジイは!!」

かわいそうに…疲れすぎてんだな。

それでもしばらく進むうちに、家らしきものが見える。

すごい、年代モンだ。
声をかけても返事が無いので、醍醐が勝手に中に入っていく。
……いいのか?



「お前みたいなカタブツの師匠なんだから、さぞかし頑固ジジイなんだろうな」
「こいつの頭が固いのは、わしの所に来る前からじゃ」

この上なく、くつろいでいた京一の言葉に、ツッコミが返ってきた。
老人の見本みたいなじいさんが、隣の部屋から入ってくる。
…気配、無かったけどな。

「あの、すみません…突然お邪魔してしまって」

やや不機嫌そうなじいさんに、葵がいつもながら感心のフォローを入れる。

じいさんは、目を細めて彼女を見た後、にやにやと醍醐に言った。

「ほう、雄矢、お主のコレか?」
「いや、それはあっちの娘です」

「龍麻ッ!!」
「ひーちゃんッ!!!」

醍醐が困ってたから、そう言ってあげたのに、両方から怒られた。
いーじゃんか、傍からは両思いにしか見えないんだから。



気を取り直して、醍醐がひとりずつ紹介していく。

最後に俺だけになったら、じいさんは言った。

「すると、お前が緋勇龍麻か」
「はい、はじめまして」
「ふん、それなりの礼儀はわきまえておるか」

そりゃ、売るほど持ってるからな、上っ面は。

「縁とは不思議なものじゃ…」

独白のように、彼は小さく呟いていた。

やっぱ、知り合いか。
その意味ありげで、哀れむような眼――むかつく。
鳴瀧さんもそうだったけど、肝心な事は教えもしないでよ。
もちろんその苛立ちを態度に出すほど、純真じゃないから抑えるけど。

醍醐は、当然のように手紙で相談していたらしく、いきなり鬼道だの龍脈だの、講義をされる。
…卑弥呼の時代まで、遡るんかい。

「どうじゃ、わしの話は理解できたかの」
「はい、大意は」
「そうか」

なんか不満げだな。分かりませんって言った方が良かったのか?
でも、昨日も龍脈の話聞いたばっかりだし、風水の事、少しは知ってるし、実際理解できたんだから、しょうがなかろう?

と、色々考えていたら、じいさん鬼道衆にまで心当たりある、とか言いやがる。
……最初から、ここに来れば良かったんじゃねーの。

「江戸――徳川の時代、失われたその呪法を甦らせる事に成功したひとりの行者がおる」


…………痛い。


「男の名は、九角鬼修―――」

まただ、頭が痛い。
みんな、風角の最期の言葉との関連性に騒いでいるから、気付いていないみたいだけど……今までで一番酷い。

「九角は、かねてから、大地を流れる龍脈の力に目をつけており、その力を我がものにして、江戸を支配しようと考えていた」

―――ちがう。
あいつは……

      なあ…龍斗よ
      鬼ヶ島の鬼は、静かに暮らしたかったと思わんか?

一瞬、強い眩暈がして、違う情景が浮かんだ。
その間も、じいさんの話は続いていた。
この宝珠が、天海僧正が江戸の守護のために使った珠…か。

江戸の?違うだろう。アイツ――天海が護ったのは、徳川の世だ。

……だめだ、さっきから、違う考えが頭に流れてくる感じだ。
あとで、葵にでも、もう一度話を聞かなきゃ……。


帰り際、じいさんは意味ありげな事を言った。

「緋勇よ。また、ここに来る事があれば――、おぬしに話しておきたいことがある。
それまでは、己が信じた道を歩むがよい……」

やっぱり、色々知ってるな。
そして、今は教える気が無いって事か。



「遅くなっちゃったね。
今日はもう、不動巡りは無理だね」


なんか宝珠を、五色不動に安置すれば、鬼の霊力が都を護るために働くって事らしい。あんまり聞いてなかったけど。
すげえ皮肉な話だよな。
まあどちらにしろ、俺の体調が無理だ。

小蒔は、弓道部の打ち上げがあるとかで先に帰った。
それを見送った後、思わず本音が出たという感じに、醍醐が言った。


「それにしても、…信じがたい話ばかりだな」
「ええ。急にいろんな事が起こってしまって……龍麻くんは、不安じゃない?」
「まあね、でも誰も代わってくれないし」

正直に俺も本音を返す。
いや、誰か代わってくれるなら、頼みたいけど。

「そうね。私たちがやらなければいけないのよね」


ちょっと俺とニュアンスが違う。
さすがは前向きの人。

「ともかくまずは目白不動…そこからだ」
「ああ。じゃッ、帰るとするか」
「ええ、また明日」

明日は、不動巡りか。今日は色々疲れた。
頭も痛いし、はよ寝るべ。

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