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醍醐と小蒔?
体育館裏じゃないのかここ。

いや、もう一人いるか。
これは、ええと、佐久間?

ああ、佐久間が小蒔を人質に取ったのか……って、ヤバくないか、この状況。
けど妙だ。感覚が例の予知夢じゃない。まさか、リアルタイムなのか!?

苦しげに倒れかけた醍醐が、しだいに獣っぽく変わっていく。
何だ、頭が痛い。脳裏に響くのは、あの声。

……目醒めよ

どうして俺まで引きずられるんだ?
……気持ちが悪い。

……醍醐の変身が終わったら、大体は治った。

佐久間も、変化していく。
これは見慣れたもの。変生のようだな。何時の間にやら、鬼道衆からスカウトされてたのか。

闘いが始まったけど、……力の差がありすぎ。
ただでさえ醍醐の方が強いのに、今は強くなりすぎている。能力UP具合が、変生の比じゃない。

うわっ、……バイオハザード。

首飛ばすなよ。
良かったな、変生した人間は死ぬと塵になるから、あまり酷い状態を直視しないですんで。

あ、元の姿に戻った醍醐が、小蒔の前から去っていった。
お前、こんな時間に女のコ置いてくなよ。


「うわー、気持ち悪りー」

目が覚めた途端、まず呟いた。それしか口にできなかったというべきか。

すっげー、気持ち悪い。身体は熱持ってるし、おいおい、おまけに目が金に光ってるよ。
鏡って、夜見るもんじゃないよな。

って、オイ……今、電気も何にもついていない、ほぼ真っ暗闇の中なのに、なんで鏡に写る自分が見えるんだよ。

部屋の細部まで、くっきり見える。……やっぱ、俺は人間じゃないようだ。
やれやれ。

時間は、十一時二十三分。
醍醐は電話に出ない。さっきの夢が今起きたばかりならば、混乱状態であろう小蒔に聞くのは酷だな。

―― 東京魔人学園剣風帖 第拾壱話 ――

「ひーちゃん、美里ッ――。こっちに祠があるぜ」

予想はしていたが、小蒔も醍醐もやはり連絡がとれず、学校にも来なかった。
持ちっぱなしも危険なので、とりあえずは三人で、宝珠を封印してしまう事にした。

京一が指し示した祠らしきものは、何の変哲もなく、こじんまりした外見をしていた。

が、近付くと宝珠が共鳴し、光を放ちだす。どうやら正解のようだ。

中に安置してみると、何度かまたたいてから、光を失った。これで封印した事になるのだか。

「それが五色不動の力って訳ね」

エリさんが現れて、声をかけてくる。

視線は感じていたが、敵意もなし、覚えのある気配だから放っておいたんだが、彼女とは意外だった。
何でこの場を知っているんだと、思っていたら、龍山先生が教えてくれたとのことだ。

教えるなよ、普通の人にそんな事を。翡翠の方が、ちゃんと機密保持してるぞ。

「実は鬼道衆についてわかった事があるの」

……やっぱ危惧していた通り。危険な事してたな。彼女は微笑みながら、なにかコピーのようなものを取り出した。

「織部の神主さんに、見せてもらったものがあるの」

みせんなよ、神主。大切なものだろうが。


「江戸時代に記された、古い書物なんだけどね、そこに、面白いものが書いてあったわ」

そこで、彼女はしばらく口をつぐみ、探る目になった。

「菩薩眼――って聞いた事ある?」
「ええ」

母だよ。そして……あの女。


……何?あの女って誰だ?また記憶か?

「ふふふ。やっぱりね。龍麻なら、知っていると思ったわ。
その書物には、鬼たちが菩薩眼と呼ばれる女性を攫っている様子も、記されていたわ」

違う。攫っていたんじゃない。
あれは、護っていたんだ――鬼に変わってまで。己が身を堕としてでも。

「狙う理由は記されていないけど、江戸時代に、人と鬼の間でその菩薩眼をめぐる戦いがあったらしい――という事は確かね」

その鬼たちは鬼道衆と呼ばれていた……か。
ははは、コレが現実だ。お前は、あんなに護りたかっただけなのに、鬼と……『悪』と呼ばれる。



「それじゃ、私行くわね。
菩薩眼や白蛾先生が言っていた九角って人の事を、もう少し調べてみるわ」



止めても無駄なんだろうが、くれぐれも、無茶だけはしないで欲しい。

そうやって、彼女の事や鬼道衆について考えていたら、次に訪れた目青不動で、若い男と正面からぶつかった。
それは、気配がないって事だ。……俺も、考え事してて消えてたが。

……東京、気配ナイ人多すぎネ

「おォッと。なんや、危ないなァ」
「申し訳ありません。少し考え事をしていたもので」

妙に明るい人だな。
やや小柄だけど、鍛えられた感じだ。

「ん?んん――?ほうほう……」

さりげなく観察していた此方とは違い、まじまじと見つめられる。
頬を赤く染めるべきか?

「どうした、ひーちゃん。なんだてめェ、俺たちになんか用かよッ?」

戻ってきた京一が、速攻喧嘩を売りかけたので、後頭部を強めにどついた。

「なッ、何だよ!!」
「どーしてお前は誰にでも好戦的なんだ。失礼だろ」

けらけらと笑った青年は、笑顔を見せて手を振った。

「いや、気にせんといて。ちょっと、兄さんがええ男やったさかい」

イントネーションが少し違う?
外国の人なのかもしれない。東洋系には間違いないが。

「兄さんたち、目青不動に用でっか?」
「おめェにゃ関係ないだろ」

だから、喧嘩腰になるなつーに。

「きょういち?」
「あ、いや、すまねェ」

割と気持ちを込めて睨んだところ、収まってくれた。

「はは、それはそうやな。でも、気ィつけェや。
この辺りは、鬼が出る言われとるんや……。せいぜい喰われんようにな」

冗談めかしているが、それは今の状況そのもの。
何かを知っているんだな。
でも気にしない。今敵じゃないなら――どうでもいい。

「いや、むしろこの辺は減ると思いますよ」

鬼も邪氣も、宝珠の安置によって、収まるはず。
しばらくの間は――な。

「へぇ、さよか。…………ほな、またな」
「あッ、おい――なんだ、あいつ」
「気にしなくていいよ。敵ではなさそうだし」

そのあと、封印自体はあっさりと終わった。
鬼道衆の邪魔くらいは、あるかと思ってんだけどな。


「今日も欠席は醍醐クンと桜井サン……」


朝のHRで、マリア先生がそこまで言った時、憔悴した様子の小蒔が入ってきた。
遅刻を詫びる彼女には、常の快活さは欠片も感じられない。正夢か。



屋上にて、小蒔から詳しい話を聞いた。

夢は、そのまんま、正解だったようだ。
あの獣になったのも、なんかの比喩とかじゃなくって、本当に変身していたのか。
それにしても可哀想に。醍醐じゃ人を殺したら悩むだろうな。


「クソッ、そんなに俺たちが、頼りにならねェってのかよ」
「そんな事……。醍醐くん、今ごろひとりで苦しんでるわ……」

京一が腹立たしそうに吐き捨てたが、それはちっと違うだろ。

今は、とにかく捜さなきゃならない。
あいつみたいな真面目な奴が、自責の念に駆られない訳がない。



「お前だって、腹立たねェか?」

だが、京一はまだ納得できないようだ。

「いや。それに今それどころじゃない」
「……俺は、お前みたいに物分かりがよくねェからな」

あのな、普通は相談できないだろう。拗ねている場合じゃないんだがな。

京一を先に納得させないと、話にならない。小蒔も今不安定だから、ふたりを分けるしかないか。

「葵、小蒔を頼むよ。一緒に連れて行って、ミサちゃんに占ってもらって」
「ええ、まかせて。あなたは京一君を」
「ああ」



ふたりを送り出してから、京一に目を向けると、更に表情が暗くなっていた。
人のことは気にするんだな。自分はあんなに打たれ強いのに。


「俺にまで黙っていなくなりやがって……。あいつにとって俺たちは、仲間じゃなかったってことか……」

京一は、下を向いたまま、小さく呟いていた。ショックなのはわかるが、相談するのって、無理だろう。

「落ちつけ。それにお前さあ……自分だったら、いきなり異形に変身した上に、人を殺してしまったって、素直に俺達に、相談できるか?」

仕方がないので、直球で行こう。京一をもゆっくりと気遣う時間は無い。

「あ……」
「その立場になんなきゃ判らない。俺たちに責める権利はない。ただ、心配する権利はあるんだ。何か手がかりはないか?」



京一は、散々悩んで、それから口を開いた。

「実はな、水岐追って港区の地下へ行った事があったろ?如月に……」


醍醐が転校生かどうか。出身地はどこなのか。

わざわざ思わせぶりなことを聞いたわけだ。しかも風水の知識など皆無の京一に。
翡翠も俺に言え。四神の可能性があると、はっきりとさ。

あいつ、アランが青龍だって言ってたよな……。


「その時は気にも留めてなかったんだけどよ、それに関連するのかもしれねェな」


留めろよ。ていうか、せめて俺に伝えて欲しかった。
まあ良いさ。残る四神は、白虎と朱雀。醍醐のイメージからは、白虎だろう。

「翡翠の所に行こう。ミサちゃんは葵たちに任そう」


先に京一が歩き出したことを確認してから、小声で呟く。
非常にムシのいい願い。

「体育館の裏だそうです。申し訳ありませんが、後始末をお願いします。――先生」

なんか気配が嫌そうだな。しかめっ面が目に浮かぶようだ。
だが、盗み聞きしてたのだから、その程度は働いてもらわないとな。



如月骨董店に着いた。今更不安になったんだが、こんな時間から店の方にいるのだろうか?

「おーいッ、如月ッ!!」
「やあ、いらっしゃい。どうしたんだい?」

平然とした返事。
学校はどうした?いや、今はそんな場合ではない。用件を告げなくては。


「醍醐が暴走まじりに覚醒した。で、鬼に変生した奴を殺してしまい、行方不明だ。あいつ……白虎なのか?」

婉曲とか鎌掛けとかは一切無し。率直に尋ねると、翡翠は溜息をついてから、口を開く。

「正解。おそらく不安定な龍脈の影響で、予兆もなく、急激に覚醒してしまったんだろう。危険だな。覚醒直後な上に人を殺したか。ただでさえ、不安定だろうに」

彼の居所に心当たりはあるかい?

その問いに思い当たるところは一つ。

「ジジイのところぐらいしかねェな」

京一も同意見のようだ。
すると、翡翠が寝ぼけたことを言う。

「僕にも住所を教えておいてくれ」
「いや、来い」

ははは。端からそのつもりだぞ、こっちは。

「おい、店とか色々……わかった。目つきが悪くなってるよ」

そこに、なんとも最高のタイミングで、脳天気な二人連れが入ってきた。

「おじゃましまーーす」
「Hello ヒスイ.OH!アミーゴ、キョーチ」

よく分からん組合せではあるが、ナイスなタイミングだ、ウモアラ。

「何スか?その妙な略称は?」
「気にするな。今から鬼退治に行くぞ」

二人分の襟首を引っつかむと、アランが両肩を竦める。所謂アメリカン ジェスチャー。

「残念ネ。今日は頭痛が痛くて……」
「い・く・よ・な?」

くるりと向き直り、目を覗き込んで笑ってみた。

「……治ったネ」

友よ、ありがとう。
これで行くか――って、葵達に連絡してなかった。
電話しないとまずいな。


「葵?今何処?」
「ひーちゃん?!何してたのさ!!」

小蒔が横からひったくったらしい。
そのまんまの意味で、耳が痛い。ギャグ漫画なら台詞が耳を貫通して、キーンとするくらいの音量だった。

「今から龍山先生の家に行くところ。君らは何処に居る?」
「ボクたちも、おじいちゃんの所に行こうとしてたんだよ。ミサちゃんの占いで、竹の話がでたんだ」

ああ、そっちでも。
これで確実だな。

「丁度良かった。織部姉妹にも、先生の所に向うように、連絡いれてくれるかな。彼女等、場所知ってるよね?」
「……と、思うけど」

自信はあまり無さそうだが、まあ居ないなら居ないで、何とかなる。

「じゃあ連絡頼んだ。多分みんな、中央公園の辺りで合流できると思うから」
「ウンッ!!わかった!!」

制服姿の女の子たちが、ブンブンと手を振っていた。

「いた、ひーちゃん!!」

「来てやったぜ」
「助力いたします」

葵達、織部姉妹と、やはり中央公園で合流できた。
頼もしげな織部姉妹の言葉に、笑みながら頷いた小蒔が、明るく宣言した。

「よし!早く行こッ!!」

あ……小蒔って、気配は読めないんだな。
殺気に気付いたらしい京一や翡翠たちの表情が、引き締まる。

「どうやら――、早くってワケには、いかないみたいだぜ」

苦笑しながら、京一が小蒔に告げる。

まるでその言葉を合図としたように、ワラワラと一斉に鬼道衆が出てきた。
すげえ人数。おまけに、鬼道五人衆の奴もいる。……こういうデカイのは、醍醐か紫暮が担当だと思う。少なくとも俺じゃあない。
おまけに名乗った名前が、岩角。どう考えても堅そうだ。

「おで九角様に命令された……、お前達を殺せと」

途端に、葵の顔が哀しそうに曇る。
そして彼女は、声を振り絞って、岩角に問い掛けた。

「あなたたちは何が望みなの――?何で、罪のない人たちを巻き込んで」
「おでたちは捜しでいるんだ。ある女を――」

……おしゃべりだな。まさか素直に答えるとは思わなかったよ。

「それは、いったい」
「教えてやらない……、お前だちに教えたら、九角様に怒られる」

「……どーせ菩薩眼の女だろ?まだ探してんのか」

呆れながら言ったら、岩角はものすごーく狼狽した。
面を被っているのに、このわかり易さって一体?単細胞は侮れないなあ。

「どーして……怒られる、九角様に怒られるッ!!」
「安心しろ。お前は二度とあいつと会えない」

――ここから帰ることはないのだから。

さて……能力被りは小蒔・雛乃と雨紋・雪乃。戦力的な面からも、そして人的にも小蒔が行くべきだ。
醍醐が待つ場へ。

「早く行け、小蒔ッ!!」

同じ結論に達したのか、京一が、正眼の構えをとりながら叫ぶ。

「眠り番長には、お姫様のキスが一番効くからね」

冗談めかしながらも、それを後押しする。

「ひーちゃん!!」
「行って!頼んだ」
「……ウン!すぐ戻ってくるから!!醍醐クンを連れて」

行ったな。
さてと、この大量の敵をどうすんべ。

「空間が妙だから、方陣技はしばらく禁止。
雛乃と葵を中心として円陣の形をとり、ふたり以外は前方に集中しつつ粘るように」


倒しても倒しても、際限なく下忍が現われる。

やっぱり空間が、なんか歪んでるな。
結界に閉じ込められたのか……攻撃系の術者がいないのに。キツイかもしれない。

「おかしいな、龍麻どう思う?」
「大部分が幻覚なんじゃないか?何かを核とした」
「僕もそんなところだと思うが。まずいな、これではキリがない」

さすがに疲れてきたしな。
好みじゃない手段だが、強引に岩角に突撃しようかな。

ややヤケになりかけた所に、獣の咆哮みたいな声が響く。
うわ、何だ?

「ガオオォォォォ」
「これは……虎砲か」


翡翠、そんな雷電(by 男塾)みたいな立場になるなよ。解説役に堕ちたら、戦闘系としてはお仕舞いだぞ。

今の咆哮の力によってか、空間が砕け、そして空気が正常へと戻っていく。
景色そのものは変わっていないが、漂っていた妙な違和感は、綺麗に消えていた。

「みんな、おまたせッ!!」

醍醐と小蒔の姿もある。わ……醍醐が、本当に獣人化してる。

幻覚らしき敵は、醍醐の力によって全て消えた。
現実に居たらしい、残った連中は、それほど多くはない。

――雑魚が八人と岩角。これなら楽勝だな。

「よし、方陣技解禁」

「おう!いくぜアラン!!」
「OK.ライト!!」

龍を模した氣の塊が、何人かをまとめてなぎ倒した。


「いッくよ―、葵!!」
「ええ、頼りにしてるわ、小蒔」

ふたりから発っした淡い光が、残った連中を浄化していく。


「いくぜ、雛乃!」
「はいっ、姉さま」
「「奥義・草薙龍殺陣!!!!」」


草薙の破邪の力が、岩角に直撃する。
見るからに防御の高そうな岩角であっても、さすがにぐらついた。

止め――だな。

「いくぞッ、龍麻、京一!!」

気合の入りまくった醍醐が、牙を剥き出して吼える。
併せるだけで十分だろう。

「よっしゃ!!」
「「「うなれ、王冠のチャクラ」!!」」

烈光繚乱って感じで綺麗だよな、コレ。喰らう方は、それどころじゃないだろうが。


岩角は、その光の乱舞をまともに喰らって、さらさら崩れていった。
あまりに鈍い。外見通りだな。

なんか翡翠だけ参加できず、淋しそうだったので声をかけてみる。

「翡翠、ちょっとサミシイ?」
「ふん」


怒られた。かなりの不機嫌だ。
……翡翠、いまだに方陣技がないんだよな。あと亜里沙もか。


人が方陣技について考察している隙に、辺りは緊迫した雰囲気になっていた。
しまった……なんにも聞いてなかった。

内心にて困っていたら、やたらと真面目な顔をした醍醐が口を開いた。

「みんな、すまん。いろいろ迷惑かけて……」

神妙な声を、不機嫌に遮り、京一が吐き捨てる。

「今さら、どの面下げて戻ってきたんだよ」
「京一ッ、そんな言い方――」

素直じゃないなーー。あんなに心配していたくせに。
フォローをいれようかとも思ったが……大丈夫だよな、このふたりなら。

「京一、お前は俺にとって、かけがえのない友だった。お前に何と思われようと、俺はお前の事を忘れない」

あーあ、そういう考え方がダメだって。
ほら、京一静かにキレた。爆発直前。

「いいたいコトはそれだけか?」
「ん……、あ、ああ」

南無……まあ、醍醐は防御力高いし。

「そうか……。ならいい――ッ」
「うッ――!!」

素晴らしく腰の入ったパンチが、醍醐の顔面にヒット。
徒手のプロから見ても、九十点ってとこだ。あれは痛いぞ。


「俺たちは、お前の仲間じゃねェのか?俺たちは、お前の力になれないほど無力か?」

さすがにふらふらしている醍醐を、憤怒の表情で見据えながら、京一は一気に言った。
素晴らしい説得だ。

「そんな事は……」
「じゃあ、もっと俺たちを信用しろ。お前は俺の――いや俺たちの、かけがえのねェ仲間だからな」
「京一」

なんだか、みつめ合うふたり。

俺たち……お邪魔だったか?

しばらくの間、呆然としていた醍醐が、不意に笑い出した。
この笑顔なら――少しは吹っ切れたようだな。

「くくく。俺も、京一に説教されるようじゃ、まだまだ、修業が足らんな」

めでたし、めでたし……だな。



帰り仕度をしている時、顔を上げた。視界の端に、気になる光景が映ったから。
赤くなった小蒔が、やや皆から離れた場所にいた醍醐に、そっと囁く様子をしっかりと見てしまった。

「おかえりなさい──」

あーあ。真っ赤な顔して……青春だねぇ。
だが今は、醍醐のカウンセリングをしとかなきゃな。

ラブラブ……死語だな。ま、そんな状態が終わったのを見計らって、醍醐に声をかける。

「醍醐、今日親御さんは?」
「そういえば、出張中だったと思うが」

把握しとけよ。
親が失踪中に騒がないことが不思議だったんだが、そういうわけか。

「じゃあ、今日うちに寄ってけ」
「そんなこれ以上、お前たちに迷惑を」

まだ遠慮しようとする醍醐に、肩を竦めて見せる。
数日帰っていなかった家に、まともな食料があるとは思いがたい。特に、醍醐の家では。

「どうせ、ここんとこ飯もロクに食ってないんだろ?お前に卵雑炊だの、胃に優しい野菜スープだの作れるなら構わんけどな」
「う、できん」
「だろ。飯だけでも食っていけ。いきなりカップ麺とか食ったら死ぬぞ。ああ……当然、今日はラーメン禁止だからな」


後半は京一に向けた言葉。奴は本気でラーメン屋に行くつもりだったらしい。
絶食のあとにいきなりラーメンじゃ、胃がおかしくなる。マジで。



そのまま、醍醐を家まで連れて帰り、手早く料理を作る。お茶を出してやるのも忘れない。
なんか……俺、甲斐甲斐しくないか?

「ほれ、熱いから気を付けて。お前猫舌だろ?」
「ああ、……うまいな」

しばらく一心不乱に食べている。さすが猫科だ。
虎って、学名パンセラ=ティグリスだったか。暇な時に習性とか調べておこうか。


落ち着いたところに切り出す。本当は、思い出させたくはないが、こいつが忘れるはずもないのだし。

「で、本題はカウンセリング」
「……佐久間の事か。あいつは、どうなるんだ」

真剣な表情で顔を上げた醍醐に、敢えて軽く告げる。
罪は立証はされないと。

「行方不明にする。自分から失踪したカタチに」
「慣れているんだな……」

醍醐は非難するような眼差しになる。
悪いな、本気で佐久間なんかどうでもいいんだ。というよりも、お前みたいな真面目な奴が苦しむくらいなら、俺が前もって殺しておけば良かった。

「俺も、お前と同じことをしたからな。真神に転校してくる前に」

驚いた顔をしたあと、申し訳なさそうな表情になる。心理の流れが、非常にわかりやすいな。
話しておいたほうが、少しは気が安らぐだろう。

ま、たとえ安らがなくても、『俺は人殺しなんだ』とかは、俺に気を使って、口に出さなくなるだろうし。

「莎草って知っているか?真神からの転入生だったんだが」
「ああ、たしか気弱なお坊ちゃんだったはずだが、他校生を怪我を負わせたとかで、去年の冬転校した」

転校前から、本当に馬鹿だったんだな。

「そう、そいつ。他人を操る力を持ち、俺の友人とその彼女を傷つけた上、力が暴走し、変生した。
――だから俺が殺した」


「龍麻……すまん、辛い事を言わせてしまって」

この辺りが、善良なる友人と自分との、大きな違いだな。
自分にとっては、別に辛い事でも何でも無い。罪悪感も欠片も無い。全面的に、相手が悪いのだから。
水岐にもしたことだ。

構わない――と首を振る。心底本音だ。

「佐久間の事は、忘れろとも気にするなとも、言えない。受け止め方は、お前次第だから。
ただ、仕方が無かった事だけは念頭において、お前が決めれば良い。どう受けとめるかを。……俺は、普段は忘れている」

マジで思い出しもしない。

帰り際、醍醐がしつこいほどに頭を下げる。
本当にかまわない事なのに、なんか逆に申し訳ないな。

「今日は本当に世話になったな」
「気にしなくて良い。で……」
「なんだ?」

首を傾げる醍醐に、告げるべきか一瞬迷う。
だが、翡翠も隠している訳でもないだろうし、知っておいた方が、醍醐には救いになるだろう。

「変身の制御とかの方法は、翡翠に習っておくといい。あれも、お前と同類だから」
「そう……なのか?」
「ちなみにアランもだ。だから自分を、化け物とか異形だとか、卑下しないほうがいい」

どうせ何度も自分を、そう詰っただろう。
化け物に変わって、佐久間を殺してしまったと、己を何度も責めたのだろう。せめて少しでも負担が軽くなるよう知って欲しい。ひとりではないことを。

「ああ、わかった。……ありがとな」
「構わんと何度も言った。気を付けてな」

別に泊めても良かったが、一応帰らせる。
醍醐の性格だと、ひとりで考えた方が良さそうだから。

同類……か。
青龍、玄武、白虎は確かに。嘘などついていない。

俺は――朱雀じゃないだろう。
彼ら三人に感じた懐かしさから、最初はそうなんじゃないかと――自分も同類なんじゃないかと考えたが、何かが違う。
俺が炎使いとは、全く考えられない。

と、すると残る役割は、二つしかないんだよな。


天にある王、黄龍か。地に降りた霊獣の王、麒麟か。

考えただけで溜息が出てくる。どちらにしろ、面倒すぎる事だ。
顔も知らないお父さん、お母さん。厄介な宿星とやらをありがとう。

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