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炎の鳥?

でも、破壊の力じゃない
暖かく力強い力

その鳥の姿が、段々と変わっていく。人の形へと。
顔は良く見えない。赤い服を着た……少女かな?
真紅の翼を持つ少女が、宣言するように叫ぶ。

「アオイハ、マリィガ護ル!」



眩しさに目が覚める。
どうやら、いつもの予知夢だったようだ。
今回は予知にしては、やたらと明瞭だな。そんなに近いのか?それとも、他に理由があるのかもしれない。

今の女の子の『力』って、炎だよな、多分。

残りのひとり――朱雀、かな?

―― 東京魔人学園剣風帖 第拾弐話 ――


「着いたぞ――」

紫暮の案内で、目黒不動、いや正式名称――

「ここが、下目黒瀧泉寺だ」

――に着いた。

男三人+紫暮で非常にムサいが、葵たちは、用事ありだったので仕方が無い。

「悪かったな紫暮。こんな早くに」
「気にするな、朝の稽古のついでだ」


アサからケイコ。俺には信じられん。
紫暮って健康的だよな。気になったので訊いてみた。

「ちなみに昨日は、何時に寝た?」
「十時くらいだが、どうかしたか?」
「いや、なんとなくね」

十時か、すごい、凄すぎる。
俺がそんな時間に寝ていたのは、中学生以前まで溯らないとない。

なんというか、紫暮のことは、本当の意味で尊敬している。
これから稽古の続きに向かうと、学校の方へ走っていった彼の背を眺めながら、つくづく感心していた。



その後、宝珠の封印もつつがなく終わったが、そんな些細なことよりも京一の台詞に驚いたよ。

「それより、学校にいこうぜ、1時限目には間に合うだろう」

それは、遅刻しないように急ごうということだよな。
どうしたんだ?



「ふーやれやれ、けっこう遅くなっちまったな」
「当たり前だ!」

教室につくなりそう言った京一を、醍醐が怒鳴った。
ちなみに今は、始業三分前。京一の要望通りに、朝飯食ってきたらこうなった。

急ごうとしたのは、飯を食いたかっただけだったのか?
まあ、急に向学心に目覚めたというより、納得できるが。




「そういえば、美里の姿が見えないな」
「う…、うん…。ボクも心配してたんだ」

封印の様子を訊きにきた小蒔と、それに答える醍醐の会話を流して聞いていた。が、その言葉に引っ掛かった。
葵がこの時間にまだ来てないって、それは確実におかしいだろ。


「事件事件!!みんな大変よッ!!」

皆の顔が漠然とした不安に曇ったその瞬間、アン子ちゃんが教室に入ってきて叫んだ。
走ってきたらしく、息が切れている。

「新聞部が廃部にでもなったか?」

明らかに非常事態だというのに、京一がわざわざボケて鉄拳を喰らう。
あーあ、よせば良いのに。痛そ。



「美里ちゃんと、マリア先生が…。誘拐されたのよー」

へ?マリア先生を?
少し落着いたアン子ちゃんの話は、確かに大変なことだったんだが、違うところに驚いていしまった。だって、マリア先生を……なぁ。

「外国人の少年ふたりが無理矢理連れていったのよ、ミサトアオイって言ってたから、多分狙いは美里ちゃんね」
「まさか、鬼道衆が…」

醍醐の言葉を、アン子ちゃんが、遮った。

「それなんだけど、鬼道衆じゃないかもしれないわよ。これ見て」


彼女が差し出したものは、小さな校章のようなもの。

「「ハーケンクロイツ?」」

おお、醍醐と被ってしまった。
それを、連中が落としていったらしい。



新聞部で、調べてみたが、五人掛かりでも、見つからない。
新聞にも雑誌にも便覧にも。

「少しは休憩しよーぜ、なッ?」

みんなの苛立ちが高まったのを見計らったように、京一が呑気に言った。


えー、俺に同意を求められてもな。怒られないか?

「お前の気持ちもわかるけど、一息ついて落ちつけよ」

そう言って、おどけた態度で皆に茶を配る。気配りの人だ。
京一のこういう所って、素直に尊敬するよ。



「あちッ!」
「大丈夫か、桜井!!」

小蒔がお茶をこぼしたようだ。大丈夫?
慌てて手当てをしようとする醍醐が健気で、涙が出そうだよ。


「ん?ちょっと、この記事」

アン子ちゃんが示したものは、小蒔がお茶をこぼした新聞。盲点も盲点、今日の日付だ。



世界各国の孤児を引き取り、教育している学院の理事長とやらの事が載っていた。
ふーん。葵たちをさらったのは、外国人の子供ふたりだったな……。

それにしても、このジルって奴、すっげえ怪しいんだが。
服が軍服にしか見えないし、襟にハーケンクロイツついてるし。



アン子ちゃんが、そいつの写真を見ながら言った。

「確かに鉤十字は梵語で『幸せを呼ぶ者』って意味を持つ。
でも、どう考えても一般的なのは」
「ナチのハーケンクロイツ、だな」

言葉を切った彼女の後を、そう引き取った。

「ああ、どう考えても胡散臭いな。とにかく行ってみるしかないだろう」
「だね」

続く醍醐の言葉に、同意する。
皆も真剣な顔で頷く。って、アン子ちゃん、君はまずい。


「遠野、お前は残って、適当に誤魔化してくれ」

俺が言う前に、醍醐が言った。

「なッ、また、そうやってあたしを置いていくつもりなんでしょッ!」
「頼めるのは、お前しかいないんだ」

上手いな、意外に。
納得してくれた彼女に、学校の事は任せる。



時間帯から言って、学校をサボることになるので、あまり仲間は巻き込めない。
だが、夢の事もある。その関係で、とりあえず翡翠とアランには連絡をとってみた。結果、ふたりともOKとのことなので、ジルとかいう奴の学院の前で待ち合わせることにする。




「養護施設っていうより、病院か刑務所ってカンジ」

その学院にを眺めながら、小蒔が呆れたように言った。
小蒔の持った印象は、正しいと思う。塀の高さやら壁の色やら、学校にしてはおかしい。



警備員まで居るし、どうやって入ろうか。
周辺を軽くチェックしてみたが、特に隙のある場所も無い。

「翡翠、なんとかできない?」
「どうしろと?」
「土遁の術で塀の下もぐるとか」
「できるか!!」

怒られた。忍者ってなんでもできそうなんだけどな。



「じゃあ仕方ない。根性で裏口を探すか」
「ちょっと待って」

背後から声をかけられた。醍醐が、見つかったかと真剣に焦っていた。
いい加減に、声を覚えろよ。

「ふふふ、Hello」



声の主は、やはりエリさんだった。彼女は、取材だそーだ。
理想の福祉施設と名高いローゼンクロイツ学院の表と、そしてその裏の。

「超能力に関する実験をしているのよ」
「超能力ゥ?マンガやテレビだけの話じゃないのかよッ」

エリさんに、京一が訊いていた。
おい京一、じゃあ俺たちの力って、なんだよ。



実験が必要な研究。
世界中の孤児が集まった施設。

何が福祉なんだか。身寄りのない子供達を使って、人体実験やり放題ということだろう。
やばそうだな。

エリさんの話を聞くうちに、義憤にかられたらしく、京一の目に怒りの炎が燃えまくっていた。
強行突破、そう行動にでかけた京一を、エリさんがやんわりと止める。



「私は、ここへの来訪を許可されているわ。
そして、あなた達は、ジャーナリスト志望の学生。どう?」

それがエリさんの提案。
アランが、ちょっと苦しいかもしれないが、それでも強行突破より遥かにいい。


彼女は、続いて何かを期待した目で、こちらを見つめる。
礼で良いですかな?

「ナイスだ、愛してるよ、エリさん」
「ありがと、私もよ」



段取り通り、付き添いと言い張った。
わざわざ翡翠や俺を全面に出して、それっぽさを演出した。

それが功を奏したのか、警備員さんは、少し疑ったが通してくれた。
下手に学院長に連絡をとって、怒られるのも嫌だっただけかもしれないが。

だが、ラッキーだったな。君らが。
あんまり疑うなら気絶させようと思っていたから。



「それじゃ、貴方達も気をつけて」
「エリさんも。何かあったら即逃げてください」

中で彼女とわかれた。本当に気をつけて欲しい。
マッドサイエンティストの巣窟だろうから。




「アラン、風詠みで、葵の居場所わからないか?」
「なにかの力が邪魔をしてる。でも多分、こっちネ」

アランでさえ、漠然としかわからんのか。結界みたいなもんも張ってあるのかもしれない。
ともかく奥のほうへと向かう。

しばらく進んだ先には、金髪の小さな女の子がいた。
赤の服に黒猫を抱いた彼女は、愛らしい顔立ちをしている――はずだった。
だが、表情がない。
彼女は抑揚の少ない声で、言った。

「アナタタチ、ダレ」

きっとこの子だ。
夢で見た、炎を纏った少女。朱雀のイメージを持ったあの子だ。
周りを見ると、醍醐も翡翠もアランも、不思議そうな表情で彼女を凝視していた。



金縛りにあったような俺たちとは違い、京一や小蒔には何も感じられないらしい。
硬直する者たちには構わずに、少女に話し掛けていた小蒔が、驚きの声をあげた。

「この子の時計、葵のだよ」
「アナタタチ、葵ヲ知ッテルノ?」

彼女はやっと反応を示した。
今は感情がある。縋るような眼差しになっていた。

「ああ、友達だ。教えてくれないか、彼女の居場所を」



口々に頼んでも、彼女はキョトンとしたままだった。
ここの子供達は、やはり正常な教育を受けていないようだ。

『仲間ハ、大切ジャナイヨ。データガアレバ、イクラデモツクレル』

それは、彼女の言葉からもわかる。
本当に不思議そうにしていた。
友達を助けたい――小蒔の願いが、理解できないようだった。

だが、この少女はまだ望みがある。
猫を連れているし、さっきから、感情が外に洩れる。
おそらく洗脳が上手く効いてないんだろう。『四神』だから。


だから、敢えて名前を訊いてみた。ずっと呼ばれていないだろうけど。
自己を強く認識できるようにと思って。


「マリィ…マリィ・クレア」
「マリィ、葵がどこに居るか教えてくれ。頼むよ」



「ソコノ階段ヲ降リタトコロ。
デモ、ジル様ガ実験中ダカラ入ッチャダメダッテ」

ここでの実験中って……それはまずいだろ、オイ!
皆を見回して、覚悟を決める。

「行くぞ」


マリィには、危ないからここに居るように言っておく。
どちらにしろ彼女の意思で、助けに来てくれるだろうから。



「貴様らッ、その機械を止めろ」

醍醐が、ドアを蹴破って叫んだ。
葵はもろ実験の最中だったんだろう。全裸で水槽状の容器に入れられていた。
水中だというのに呼吸をしているようだ。微かに胸が上下している。



「葵ッ!」
「テメェら、さっさと機械を止めろ!!」

小蒔が悲痛な声を、京一が怒号をあげる。

コスプレじじいは、それには動じずにガキどもの丁度良い試験だ、と笑った。
自分が創りあげた革命のための兵士――か。ウザ。


酔っ払っているのか、彼はなおも続けた。

「貴様らは選ばれたわけではない、偶然力を授かったに過ぎないのだ。貴様らにはあるのか?力を使うだけの資格が」

ははは。
面白い事を言う人だなあ。

「あるに決まってるだろ。
力の無い者が、どんなに必死で人体を弄ったって、所詮それは真の力じゃない」


どんなに願ったって、この厄介な『真の力』が消えないのと同じことだ。
裏返しなだけで。
必死で弄くって付加したものは、紛い物にすぎない。



「ぐッ――、20か。なんだその顔は!」

じじいが言葉に詰まった瞬間、マリィが入ってきた。

やっぱ、ナンバーで呼ばれてたんだ。可哀相に。
マリィは、水の中に揺らぐ葵を見て小さく息を呑んだ。



その間も、じじいは何かをほざいていた。

「成長して汚れることなく、いつまでも美しく輝く帝国の民。永遠に純粋な残酷さを持ちつづける、至高の子供たち」

それって、ただのロリでは?
素直に感想を言ってみた。


「Halt’ Maul. Du Schwein.」

お、震えだしたね。さすが、使ったら殴られても文句の言えない言葉。
ていうか、初等ドイツ語講座に載せるなよ、そんなの。まあ、役に立ったけど。



小刻みに震える赤黒いじいさんを見て不安になったんだろう。
小蒔が、俺の制服の袖口を、ツンツンとつつきながら聞いてきた。

「ひーちゃん、なんかあの人、すっごく怒ってるみたいだけど、なんて言ったの」
「うーん、平たくいうと『だまれゲス』って感じかな」
「え、それってまずいんじゃ」

大丈夫だよ〜。心配性だな。
こんな程度の奴、すぐにぶっ殺すから。




「マリィ、彼らに併せてごらん。
君が人為的なんかで、力が開花するはずがない」
「エ?」

目配せで、翡翠・アラン・醍醐が、四神覚醒の為に氣を集中する。
彼らの氣を感じ取り、マリィの髪が、瞳が、ざわめくのが傍からでもわかる。

その力の巨大さに、連中が怯む。
紛い物とはいえ、力を持つが故に理解できるのだろう。マリィの真の力を。



「で…出来損ないに、こんな事が、あるはずが……」

ははは、なんて面白い顔だ。
陸に上げられた魚みたいに、口をパクパクさせる様子は、ポイントが高い。
混乱しているようだから、駄目押しに教えてやる。マリィの力を。

「愚かな事だな、学院長。
彼女は、四方を守護する聖獣――南の朱雀の化身だ」

その言葉と、重なるように四人の声が唱和した。

『四神覚醒』
「白虎変」「玄武変」「青龍変」

「朱雀変」



それぞれが、変わっていく。

マリィの背に焔が集い、真紅の翼を象る。
ゆっくりと開いた彼女の瞳の色は、薄茶から朱に変わっていた。

「アオイハ、マリィガ護ルッ!!
許サナイ。アオイヲ傷ツケルヒト――」



そのマリィの宣言を合図に、戦闘が始まる。

が、非常に楽だった。
その四人が、一人一殺したから。
黒人の少年が、霊銃を抜く前に、アランの霊銃が火を噴き、ロシア系の少年を醍醐が一撃で気絶させる。
術を行使しようとした少女を、翡翠の水が弾き飛ばし、マリィの炎がじじいを襲う。

早。そして、強!


「アオイ、アオイ――!!」
「どれを操作すれば、美里をここから出せるんだ?」

つい感心してしまったが、マリィたちの悲痛な声で、我に返った。そうだ、助けなきゃな。



「ちょっと待って、今俺が見るから、触らんといて」
「ハァァァァーーッ!!」

言った瞬間に、非常に気合の入った声が聞こえた。
オイ、京一くん?

あの野郎、無茶しすぎだ。氣で、ガラスぶち破りやがった。
当然、葵は、割れた大量のガラスと共に落ちてくる。



「ひーちゃんッ、葵を受けとめてッ!!」

そりゃ、やらんとまずいわな。
必死で受けとめる。ガラスで頬を何箇所か切った……、痛ェよ!!

全裸のまんまの彼女に、醍醐から取った学生服を羽織らせる。



「きっと来てくれるって思っていた」

意識を取り戻した葵は、そう言って力なく笑った。
相当怖かったんだろう。……じじい、鬼になるよな?そうしたら消してやる。


「アオイ、コレ――」
「あ、葵の制服。こらッ、男連中は、あっち向いてろ」

小蒔に、五人揃って後ろを向かされる。ちッ。
でも、葵スタイルいいよな。ウエスト55、6だろうし、胸は88はある。



「アオイノ胸大キイネ」
(なんだとォ…)
(No!!)

聞こえてきた会話に、京一とアランが反応した。ある意味可愛いな、お前ら。



着替え終わった葵を加えて、事態を掴むためにも、ざっと情報を交換しあう。
その結果、マリィも連れて行くことになった。確かにここには放っておけないしな。



「マリィは、いくつなの?」

小蒔が、何気なく訊ねた。とんでもなく無神経な事を。
マリィは淋しそうな表情で答えた。十六歳だと。

「16――ッ!?」

さっきジジイが言ってたじゃないか。訊くなよ。
マリィは、更に続けた。

「研究…成長ヲ止メル。大キクナルト、力ガ弱クナルッテ」

ジジイ……


「マリィ、俺たちは凄く優しくて、いいお医者さんを知っているんだ」

京一が引きつったのが視界の端に見えたが、知らんな。続ける。

「だから、きっとまた大きくなれるよ」
「ウン!!」


なんだかほのぼのとした空気が流れた。
京一が口を開くまでは。

「そういや、マリア先生は…?」

……忘れてた、そういやそうだ。
葵の話では、地下の牢屋のような所に、一緒に入れられていたそうだ。


「アラン、翡翠、四神のまま一緒に捜しに行ってくれ。探索を頼むよ。
風と水なら、大抵の場所を探れるだろう」

「ああ」
「OK」

「京一たち、そっちは頼むよ。俺はこっちで待ってる。
何かあるとまずいし」
「ああ、美里と小蒔を頼んだぞ」
「任される」

男連中が行った後、葵は心配そうに呟いた。


「学院長は、マリア先生に興味を持ってたわ」
「マリアセンセーに?なんでだろう」

そりゃあ、アレだろうな。


コロセ

ん?思念波か?

コロセ…、テキハコロセ…

げ、ガキの視線がこっちを見てる。しょうがない。
氣を叩き付けようと、集中した。
だが、それを発することはなかった。

「やめて――ッ!!」

葵が間に入ったから。……平気だったのに。
ガキの放った力は、彼女にあたった。


「龍麻くん……怪我はない?」

どうして君らは、そう良い人なんだ。女の子に怪我なんて負って欲しくないのに。

「ああ、ありがとう。傷を見せて」
「コレ、包帯使ッテ」
「ああ、サンキュ」

傷自体は、そう酷くない。今の消耗した彼女に癒しの術をさせるくらいなら、普通に手当てした方が良いだろう。


「おわー、どうかしたのか」

丁度戻ってきた京一が叫んだ。

わざわざ地下の相当深くまで行ったのに、先生は居なかったそうだ。
連れてったのか、あのジジイ。


「屋上。屋上ニヘリポートガアルヨ」

……多分そこに行ったんだろう。バカは高いとこも好きだしな。
マリィのアドバイスにしたがって、階段を駆け登る。


正解。マリア先生も、モロに銃を突きつけられていた。


「そこを一歩でも動いてみろ、引き金を引くぞ」
「早く逃げなさい、この建物には大量の爆薬が……、早くッ!!」

ジジイと先生が、同時にこっちに気付いて言った。
ちょっと、マズイな。


「翡翠、どうにかできるか?」
「やってみよう」

ジジイが優越感に気持ちよく浸っている隙に、集中してもらう。

「Fire!!」
「20、貴様!!」


先に、マリィがやってくれた。
ジジイが銃を取り落とした隙に、なんとか先生が逃げてきた。

「先生、先に逃げてください」
「龍麻クン!?貴方達を置いてなんて」


遮る。今、ここで悠長に言い合う余裕なし。

「エリさん――天野絵莉さんも、ここに来ているんです。連れて逃げてください」

知り合いの彼女の事は、さすがに気になるのだろう。
やっと引き受けてくれた。


さてと、あとは黒幕。

「はははッ!!無様だなァ、ジルよ」

どこに潜んでいたんだかしらんが、鬼道衆が現れた。わらわらと下っ端も出てくる。
面倒だな。


「雷角ッ、助けてくれッ!」

雷角とやらは、ジジイの哀願を鼻で笑った。
平然と、ジジイを変生させる。

こんなものだよ、ジル・ローゼス。
利用される側の人生ってのは、な。さて、これで死体も残らんことだし、安心して殺されろ。


「四神は雑魚を一挙に頼む。終わったら、京一を手伝ってくれ。
京一はあの元学院長、小蒔と葵はその補佐を」


そして自分は、雷角の方へ向かう。
槍だから、射程的に面倒かと思っていたが、こいつ、たいした腕ではないようだ。
今までの連中で、一番弱いかも。戦闘系じゃないのかもしれない。

そんな事もあり、適度に雷角をのしていると、四色の柱が立上るのが見えた。
それとともに頭が痛くなる。醍醐の時といい、こいつらには、同調してしまいやすい。



「東に、少陽青龍!」
アランが、しっかりした発音で宣言する。

「南に、老陽朱雀!」
同様に、マリィが印を結びながら唱える。知らないはずの言葉を。

「西に、少陰白虎!」
醍醐が吼える。

「北に、老陰玄武」
翡翠が静かに呟く。良かったな、方陣技ができて。



『陰陽五行の印もって相応の地の理を示さん 四神方陣』

これってのは、魂かなんかが覚えているもんなんだろうか。
アランもマリィも、陰陽五行とか理とかの言葉って、存在さえも知らないだろうに。不思議なもんだな。


彼らから発生した四色が混じり、金の光の渦が吹き荒れる。

すご。範囲自体が広いし、威力も相当なものだ。範囲内の連中は、それだけで消えていった。
残ってんのは、元ジルと雷角と、離れていた下っ端が一匹だけ。



「くッ、四神めが……」

雷角が、そちらの方を向いて、悔しげに唸った。
おいおい……それどころじゃないだろ?

奴は、振り返る事ができなかった。螺旋掌でくたばるとは、防御が弱いな。

それとほぼ同時だった。
下っ端の身体を弓が貫き、元ジルを京一の剣が断ち切る。

これでケリがついたと安心したところ、地響きが聞こえてきた。

……爆破?
ジジイがそんなこと言っていたな、面倒だ。


さっさと逃げようとしたら、雷角が頑張って声を絞り出した。

「美里 葵、そ…うか、お前が…
九角様が…、お前を待っておるぞ…」

それだけ言うと、ゆっくりと消えていった。余計な事を言うな。


それからは、必死で逃げた。なにしろ時間制限ありだし。
途中、崩れる学園にマリィが別れの言葉を呟いていたのが、可哀想だった。



「ふー、間一髪だな」
「ああ、みんな無事か」

少し離れた所で、やっとひと息つけた。疲れた。



「みんなッ、人が集まる前に逃げるぞ」

少し経って落着いたら、醍醐が、また犯罪者みたいな事を言った。
確かに逃げなきゃまずいけど、その言い方は、あまりに人聞きが悪いよ。



「でも、この子が…」

小蒔の返答に、皆の視線がマリィに集中する。そうだよな……
もう、彼女の戻る場所はなくなってしまったんだ。

ウチに匿おうか、と思ったら、葵がマリィに優しく笑いかけて言った。

「マリィ、一緒に帰りましょう」

確かに葵とその家族の優しさなら、マリィの傷ついた心を癒すのに、最適だと思う。
ただ、現実的には、戸籍とかの問題は平気なのか?
鳴瀧さんに頼んでおいた方が良さそうだ。
あの人なら、戸籍の一枚や二枚作るのなんて、簡単だろうし。
ともかく、マリィに関しては、OKってことだな。


それにしても……
これで、とうとう最後の鬼道衆も倒したな。

次は、あいつ……か。

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