勿忘草 五
「どーしよっかねェ…」
カカシは目の前に広がる結界群を眺めながら頭を掻く。
結界とはつまり、丹念に編み上げられたチャクラの網のようなものだ。それを解くには糸の結び目を解くか、或いは力任せに引き千切るか。
「ま!力任せってのは無粋でショ。」
それをするにはこの陣はあまりに見事だ。これが実戦なら悠長なことは言っていられないが、おそらく持てる能力の全てを賭けてこれを編んだのだろうあの男に、カカシは他に応える術を知らない。
「…それに、こーいうのはキライじゃなーいし、ね。」
正々堂々、というのもおかしな話だが、『写輪眼』の名に竦まず挑んでくる者を、カカシは嫌いではなかった。無論背伸びをして無闇に噛みついてくるのは別な話で、己を崩さずカカシと向き合える者を、という意味だが。
さて、と呟いたカカシの指先が、素早く印を組んだ。
練り上げたチャクラが、陣に取り付き、ぱり、と小さな銀色に弾ける。見据えるカカシの目の前で、ゆらりと景色が歪んだ。
ほんのわずか。
その揺らぎの中にうっすら見えた結界の核は確かに七つ。
六つの星が描く剣の、切っ先に一際輝くは、隠された破軍の星。
「…見つけた。」
放電するような白い光が、徐々に収束していくのを睨みながら、カカシの手はまた違う印を結んだ。
──────子・辰・戌・亥・申・辰・巳。
辰の印は水の印。発動する術は水遁の術だ。
「水遁・青海波の術!」
張り巡らせたチャクラがざわ、と波立つ。白く泡立ち始めた結界を見ながらタイミングを計ったカカシは、ややあって印を組んでいた手を勢いよく振り払った。
ざん、と水柱が立ち上がる。膨大な量の水がどこからともなく湧き出し、全てを押し流す勢いで結界を破壊した。
貪狼、巨門、禄存、文曲、廉貞、武曲─────破軍。
最後の一つが砕け散った瞬間、くるりと世界が裏返る。
「さすがですね、カカシ先生。」
「…イルカ、先生…?」
──────どうして、と。
問う言葉は、声に───────ならなかった。