お前の声が聞こえない |
CHIHIRO ONITSUKA 〜call〜
目の前から私が
消えてしまったら
貴方は名を呼び 探してくれる?
「…ごめん…」
絞り出すような頼りない声で、オラクルが呟いた。全ての言葉から逃げるように両の耳を塞いだ掌が小さく震えている。本当はイヤだ、と何よりも雄弁にその蒼白な顔色が、その幼い仕草が語り、それでもオラクルは言えないのだ。
『やめろ』とは。
───ああ、分かっているとも。
お前の喋っているのは『ヒト』の言葉だ、それは分かっている。今ここでお前を責めても始まらないことくらい。
オラトリオはふいと視線を逸らして舌打ちした。全てが気に入らない。『ヒト』の理屈を疑いもせず、そのままに受け容れるオラクルも──ねっとりと自分たちの身にまとわりつくような『ヒト』のエゴイズムも。
「───…ああ、判ったよ。」
そして、それを決して良しとはしないくせに、判った振りをする自分も。
苛々と席を立ちながら、男が吐き捨てる。もう幾度も繰り返してきたことだ。今更何が変わることもないと、どこかで諦めている───お互いに。
「…何かあったら俺が守ってやる。」
────俺はその為に造られたのだから。
そして自分で選んだのだ、『守護者』であることを。終わることのない永遠の夏を。
けれども、全てがオラトリオの思考を鈍らせる。
「もしも俺に何かあったとしても、誰も俺を守れねぇんだ。」
華々しく架せられた《最強》の冠。
次の瞬間には破られるだろう《無敵の守護者》という伝説。
そんなものが欲しかった訳じゃない────
「俺がいなくなったら────」
お前はどうする──?