声が聞こえる。
女の声。
うるさいな。
眠っていたいのに。
うるさい。
いいからこのまま寝かせて。
――目覚めなさい。
アンタ誰?
どうして私を起こそうとする。
――私の名はエルレイン・・・。
――あなたの力が必要なのです。
んなもん知らん。
それに私の力なんて大したものじゃない。
大事な人間も守れない情けない人間だ。
――その人を救いたいとは思いませんか?
なに?
・・・救いたいけど、そんなのもう無理だ。
私はもう指一本動かせない。
――いいえ、私にはあなたを助けることが出来る・・・。
――あなたは後悔していますね?守れなかったことを。
それは・・・。
――今からでも遅くはありません・・・さあ・・・。
・・・・・・。
――私の声を聞くのです・・・――――――
ふと、足を止める。
誰かが、自分の名を呼んだような気がする。
「・・・気のせい、か・・・。」
彼は軽く頭を振り、操縦桿を握りなおす。
今はストレイライズへ行くことだけを考えなければ。
たった一人で行ってしまったリアラに追いつくために。
「リアラ・・・どうして一人で行っちゃったんだよ・・・!」
「落ちつけカイル。お前がそんな様子でどうするんだ。」
「でもジューダス・・・。」
「お前はリアラのことを考えていればいい。余計なことは考えるな。」
カイルを叱咤するのはジューダスの役目でもあった。
後ろでロニが騒いでいるが、敢えて無視することにする。
・・・とは言ったものの。
ジューダスは先程聞こえた声がどうしても気になって仕方がなかった。
自分の本当の名前を呼ばれたような気がした。
ジューダスというのは本名ではない。
名前など必要ないと言ったら、カイルが勝手につけたのだ。
本当の名前を呼んでくれる人間は、もう存在しない。
昔、そんな人間がいたことをふっと思い出した。
あの時のことを考えると、自然に心が安らぐ。
今頃どうしているだろうか。
幸せに暮らしているだろうか。
自分は裏切り者として歴史に刻まれているが、あいつはどうだろうか。
だが、そんなことを考えても確かめる術はもうない。
「見えた!ストレイライズ大神殿だ!」
大神殿の屋上に到着すると、皆ぐったりしていた。
当たり前といえば当たり前だ。
イクシフォスラーごと突っ込んだのだから。
作戦といえば聞こえはいいが、実は考え事をしていたからだと
いうことは、黙っておくことにする。
ただ一人元気だったのは、やはりカイル。
「急ごう!早くリアラを助けるんだ!」
カイルに他の者達も続く。
彼はここ数日で、たくましくなったように見える。
まだまだ剣の腕はジューダスには及ばないが、何か一つのことに
集中すると、特にリアラのこととなると途端に強くなるのだった。
(カイルらしいといえば、カイルらしいな・・・。)
ジューダスはカイルの父親を思い出し、つい苦笑してしまう。
親子とはここまで似るものなのかと。
そのくせルーティにはあまり似ていない。
彼女の呆れた顔が目に浮かぶようだ。
目の前に大聖堂が見えてくると、カイルの足が一層速くなった。
どうやら今は、リアラのことで頭が一杯らしい。
カイルは勢いよく大聖堂の扉を開け、中へ入っていく。
「リアラーっ!」
球体に閉じ込められていたりアラが顔を上げた。
信じられないというような表情でカイルを見つめている。
「リアラを離せ!」
だがエルレインはカイルの勢いにも動じずに、ただ笑みを浮かべるだけ。
「はぁっ!」
カイルは我慢出来ずエルレインに斬りかかっていった。
だが彼女は避けようともしない。
剣がすぐそこまで来ようとしたとき、激しい金属音が鳴り響いた。
エルレインを守るように現れた人物はいとも簡単にカイルを弾き飛ばす。
(・・・?)
ジューダスは自分の目を疑った。
姿形が似ているだけなら、特に問題はなかっただろう。
だが今目の前にいるのは、彼がよく知っている人物そのものだ。
思わず手に持っている剣を落としそうになる。
「どけ!邪魔するなら倒す!」
「・・・・。」
「おいカイル!どうやら何言っても無駄みたいだぜ!」
はただ黙って斬りかかってくる。
エルレインを守るために。
「おいジューダス!ボケっとしてねぇで援護しろよ!」
「・・・わ、わかっている!」
そうは言ったものの、ジューダスはどうしても彼女に攻撃を
加えることが出来ない。
似ているだけかもしれない。
だが――――。
「ジューダス!」
「くっ!」
何かを振り払うかのように、ジューダスはに斬りかかった。
カイル、ロニ、ジューダスが前に出て攻撃をしかける。
だが、はそれをも難なくかわし、ナナリーの
晶術まで確実にかわしていた。
「おいおい、なんて速さだ!しかもあの脆そうな剣でよく防げるな!」
「あの刀は見た目よりも頑丈だ。
闇雲に攻撃していたらカウンターを食らうぞ!」
戦いを見ていたエルレインは、満足げな笑みを浮かべ、そして光に包まれた。
レンズは手に入れた。
後は邪魔者が入らないように時間を稼ぐだけだ。
彼女が消えたことで、リアラを閉じ込めていた球体は消えたが
までが消えることはなかった。
「くっそォ!時間を稼ぐ気か!?どうすりゃいいんだよ!」
「焦るな馬鹿者!少しでも隙を見せたりすれば・・・!」
「ロニ!右っ!」
後ろから聞こえたナナリーの声に、ロニは迷わず身を屈めた。
の刀がロニの髪をかする。
「悪ぃナナリー。」
「いいからちゃんと前見るんだよ!」
「わ、わかってるっつーの!」
どれぐらいの時間、戦っただろう。
カイル達の表情に疲れが見えてくると、は突然刀を収めた。
「な、なんだ?」
はカイル達を一瞥すると、ふとジューダスのところで視線を定める。
だがすぐに視線を戻し、彼女の姿は光に包まれ消えた。
「・・・・・。」
「っかー!今のは結構キツかったぜ・・・。」
「そうだねぇ・・・あんなに素早いのあたしも初めてだよ・・・。」
「・・・・・・。」
ジューダスはの消えた方向を呆然と眺めることしか出来ない。
ただ、何故、どうして、そんな疑問しか頭に浮かばなかった。
「ジューダス?どうしたんだよ、ボーっとして。」
「いや・・・何でもない。それより・・・。」
「そうだ、お前リアラに傷治してもらっとけよ。」
「傷?僕は傷なんて負っていないぞ。」
「・・・ホントだ。あんなに激しく戦ってたのに、どうして?」
お前達とは鍛え方が違うんだ、と言いかけたが
ジューダスは改めて自分の服を見てみる。
すると驚いたことに、彼の服には攻撃を受けた形跡が全く見られなかった。
「私、遠くから見ていただけだけど・・・気付いたことがあるの。」
「なにリアラ?気付いたことって。」
「あの人・・・ジューダスには攻撃してなかったと思う。」
「・・・お、おいおい、そんなことあるのか?」
「でも、実際ジューダスだけ傷を負ってないんだよ?」
「・・・・・。」
ジューダスには心当たりがあった。
やはりあれは彼の知っているなのだ。
だが、彼女はおそらく正気ではない。
正気であれば、ジューダス達を敵にまわすことなど考えられない。
理由もない。
「どうしたのジューダス?なんだか・・・辛そうだ・・・。」
「・・・いや、何でもない。とにかく今はエルレインを追うぞ。」
「う、うん!」
きっと、彼女を元に戻す方法が何かあるはずだ。
あんな生き方をさせるわけにはいかない。
18年前、がどうなったのかは知らない。
だが、こうして彼女が今の時代に現れたということは―――。
(待っていろ。必ず・・・助けてやるから。)
エルレインの後を追うため、そして何よりを取り戻すために
彼は走り出した。
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とうとうやっちゃいましたよテイルズ。
私は敵同士っつーシチュエーションが大好きなのです。(笑)
まぁキャラが別人だというのは本人も
痛いほどわかってるのでツッコまないでくだせぇ。