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バラバラのチェロ修復 PartU-5

Feb. 2007

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 ◇ 低音を左右するバスバー 
上が元のバー、張力が弱かったガット弦時代の短いもの、実寸で43cm。 厚さも9mmとちょっと薄め。張力が増した現代のスチール弦、スチール巻き弦を使う、昨今の、チェロの標準はおよそ60cm。 厚さは最大で11mmです。

(使用する板や形により多少差があります。)

置いて比べると、これだけの違いがあります。
カーブの取り方も、古いものは何の根拠もなくただ削ったという感じ。
新しくつくった方は・・・、筆者はそれなりに考えてつくっています。

(その詳細については以下に記述。)

バスバーは、駒で受けた弦の張力を表板全体に分散させるという、いわば力木としての働きのほか、
低音の響きを表板全体に伝えるという重要な役割をもになっています。

力木という理解なら、響板としての表板の響きを損なわない限り、そこそこの棒を貼ってあれば、それで済みます。
私は、バーが低音の響きを表板全体に伝えることを重視しています。

それなら、駒の位置(ストップ = 両・エフ字孔・内側のノッチ{三角の切り込み}の延長線)の位置を重心としてとらえ、
左右の目方をバランスとった方がいいだろうというのが私の考え。

例えば、長く、細い竹竿のような棒を、片手で水平に持って、上下に振ったとします。
下の図の支点、つまり全体の目方の「重心」を持って上下に振ると、楽に振ることができます。

もし、重心以外の別なところを持って振ろうとすると、それには、かなり大きな力でグリップしていないと振ることができないし
また、振れる左右の波長も合わないため、ずっと振りにくくなるはずです。
ヴァイオリン族の楽器は、アッパーからインナー、ローアの各バウツの、それぞれの巾は均等ではありません。

その上、ストップの位置(振動の基点)にしても、全体の1/2ではありません。
つまり、目方の中点である重心 = 長さの中心ではないのです。


それなら、バスバーはそのことを考慮して削る必要はないのか?

かつて雑誌『ストリングス』に連載された「ヴァイオリンの作り方」という岩井孝夫氏の記述の中に、
バーの長さは270mm、下の板厚が6mm、上はそれより0.5mm細くなるようにする ]と書かれていました。

それは、上述したアッパーとローアの差に対して、うまく対応している根拠になります。

また、横から見て、[
カーブの取り方も左右対称に、同量の圧力がかかるようにする。
その上、中心を押さえたとき、両端に向かって左右均等に、0.5mm程度の隙間をあけ、
バーの上下に対して、やわらかいテンションをかけておく
] とも書かれていました。

しかしながら、振動の基点はあくまで駒が乗るストップの位置

しかも、力学的な圧力がいちばんかかるところもストップ

それなら、「単純梁構造」から考えても、アーチをいちばん盛り上げるところはストップ付近にあるべきもの。
そうしたことを考慮すると、アーチだって決して左右(というより上下かな?)対称でない方がいい、と私は考えています。

だから、アーチの山が著しく後方になっている、この古いものを、「何の根拠もなく削ったという感じ」と、私は論評したのです。
ヴァイオリンでも、ヴィオラでも、このチェロにしても、 私は、自分が信じる論拠を実践し、ご覧のように、細い棒をストップ位置に置き、そのバランスを見て重心をもってくるように削っています。

この写真では、なんとなく右側だけが表板の先に接しているように見えますが、しっかり浮いていてバランスはとれています。

バーの巾(板厚)は、下が11mm、上が9mmほどにしてバランスをとりました。もちろん、アーチの山は圧力がいちばんかかる、ストップがいちばん高くなるようにしています。

多くの作家はバーを貼ってから削っていますが、私はその論理を実践するために、 あえてチェックしながら削り、削り上がったあとから貼るという手順にしています。
バーの位置は、チェロもヴァイオリン同様、アッパーとローアの各3/7の位置を、あくまで標準と考えていますが、 ストップ位置に、今回、使う予定の駒を置いて見て、最終位置を決定します。

駒のデザインによる個体差を考慮してのことで、なんでも3/7の位置が正しいとは考えていないからです。 駒の、低弦側の加重がいちばんかかる位置は、決して脚の中心ではありませんからね。

表板のアーチ、駒トップのカーブ、それに、駒の形状そのものなどから、中心よりやや内側にいちばん加重がかかるでしょう。 そのことを想定し、今回は3/7に計測した標準位置より、ほんの少し外側にバーを移動して調整します。
バスバーを貼ると、これで表板はすべて完成。

今回は、リブ・アッセンブリーのボディには表板から貼る予定です。(通常は裏板から貼る。)
それは、前ページに書いた通り、リブからネックを外すとリブを割ってしまいそうで、どうしてもできませんでした。 そのため、先にボタンを含む裏板を貼り付けてしまうと、ネックの角度調整が一切できなくなってしまいます。

それで、新作における通常の組立とは逆に、表板から貼っていきます。
そのライニング材を切り出し、2.5mmほどの厚さに削り、準備しました。
ライニング(lining)は、英語の単語通り、「 内張」とか「裏打ち」の意で、薄いリブに裏打ちするように貼り付ける、薄くて、巾の狭い木の部材です。

もともとが薄いリブに、そのまま裏板や表板を貼り付けても弱いので、その強度を増すために貼る、いわば接着補助材になります。

リブの厚さが2mmとします。それに、もう2mmライニングを加えれば、それだけで倍の接着面積となり、 接着強度も単純計算しても倍にはなります。
この左図のように、上からは板が貼利つけられますから、関係のないライニングの下の部分は面を大きくとって、長三角にテーパーをつけます。
ライニングは、本体のカーブに合わせてベンディング・アイロンで曲げ、ニカワで貼ったところ。 いつもの洗濯バサミが、ここでは活躍します。どうしても洗濯バサミだけでは弱いところだけ、小型のクランプで締めつけます。

裁断には、ご覧のような小型の胴突きノコやカッター・ナイフで切っていますが、 100円ショップのキッチン・バサミでもライニング程度のものは簡単に、よく切れます。

多くの製作者は、ライニングは貼ってからテーパーをとるのに削っていますが、私は貼る前に、あらかじめカンナでテーパーをつけておきますから、 後から角を削る必要はありません。

貼るだけ貼り、ニカワが乾いてから、リブよりはみ出している部分を豆カンナで平らにならすだけで、ほぼライニング作業はできてしまいます。


ここで、新しく取り替える黒檀の指板を、ネックにクランプで仮固定し、あらかじめネック角度もチェックしておきます。ストップ位置に置いた、左の低い駒が既存のもの。この差が、今と昔の差?

右側のものが、現代チェロのやや標準的な高さのもの。左側のものは昔のタイプで、標準よりやや低目でしたから、今度はほぼ標準の高さ(81mm)に上げるよう、ネックの角度を保たせなければなりません。
表板の接着は、まずネック側とエンドピン側、その両方をまず固定、それから順次、下に下がっていくように周囲を貼り付けました。
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