Paper techniques

すみや流 ペーパー・テク March '08

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ヴァイオリンをつくっていて、サンド・ペーパーのかけ方、使い方は重要な要素になります。

白木の段階で、木地づくりから、ニス仕上げの研ぎ出しにいたるまで、いろいろなペーパーのお世話になります。
だからといって、平らにしたいからと、むやみにペーパーをかけるのは決していい方法とはいえません。

ときには、刃物でカットしたシャープな切り口の方が、ずっといい場合だってあるわけです。

どんなものでも適材適所、何を使ったらいいか。また、それらの使い方など、
ここでは、そうした「すみや流ペーパー・テク」を説明いたします。

◇ 愛用の各種ペーパー・ツール 筆者が日頃から愛用しているペーパーツールと補助具
◇ なぜ、補助具を使うのか それを使う理由
◇ 日本古来からのトクサ・ペーパー?  いにしえよりいろいろな職人に使われてきた、トクサの実験

◇ 筆者・愛用の各種ペーパー・ツール

まず、筆者が日頃から工房で愛用しているペーパー・ツールをご覧下さい。

左上の、ふたつに折ってあるのが水研ぎペーパー(「油研ぎペーパー」ともいう)。

上の、丸く巻いてあるのが「住友3M」の木工用ペーパー。

こげ茶の濃い色の木製ホルダーは、その3M専用の、筆者お手製のすぐれもの。

右上の、茶色の板に貼り付けたものは、一方の角を丸く削った板に、あらかじめナイロン製の、幅広のワンタッチ・シート♂を貼ってあます。

このペーパー自体が、ワンタッチ・シート♀になっているからです。

下に並べた板や丸棒、いろいろな木の切れ端も、これらも、もう何年も使っている重要なサブ・ツールなんです。

中央の、手前の先を少し細くした半丸棒は、もっぱらスクロールの仕上げに使ったりしています。半丸や、丸棒は、裏板・表板の、しかもC部コーナー部や曲線に対応させるためのもの。
そのアップがこちら。小生は、なぜ、木工用として住友3Mにこだわっているのか?

このペーパーは、裏側が粘着式で、板や棒に、簡単に貼り付けることができる。

そして、なによりその表面のつくり方。

表面が細かなさざ波のような構造になっているため、目詰まりしにくく、 また、削った木の粉の「はく離性」にもすぐれています。
そのため劣化が少なく、結局、少しぐらいコスト高でも効率よく削ることができるからです。

左側の2枚は、ワンタッチ式の80番(手前)と100番(奥)、 場所によってはスクレーパーで削るより、ずっと効率よく削り取れます。これらは、荒削り専用に使っています。

なお、奥のものは板の片側だけにアールをつけ、曲線に対応させています。
3Mの、市販の専用プラスチック製ホルダーは、平面のものだけしかなく、直線部分しか使えないという欠点があります。

それで、これはペーパーの出口の一方にアールをつけてあるので、このカエデ材でつくった自作のホルダーは、曲線にも平面にも対応しているのです。

さらに、最初の写真でお分かり頂けと思いますが、背中の部分をしっかりと、グリップしやすいようなデザインにしていることも自慢のひとつです。

このペーパーも、何種類かの番手を揃えていますから、任意で差し替えたり、付け替えて使っています。

◇ なぜ、補助具を使うのか

サンド・ペーパーはたいへん便利なものですが、その使い方でいろいろな欠点も出てきます。

それは、なにぶんにもベースの素材がペーパー(紙)であるから柔らかく、直線ではないこと。

そのため、ただ手や指をあてがってこすっても、なかなか平らになりにくいのです。

次のイラストは、その説明のための模式図ですが、、例えば、右のような細かな凹凸だけの板なら、ペーパーを指にあてがってこすれば、比較的、簡単に平らになります。

しかし、左のように、大きくうねっている凹凸だと、出っ張りも削れるが、凹みにも指先のペーパーが入ってしまい、そこも削っていることになります。
結果として、全体がややなだらかな平坦になる、というだけで完全な平面にはならないで終わってしまいます。

一方、スクレーパーとか、平らな板を沿えたペーパーなら、出っ張った部分しかスクレーパーの刃やペーパーが当たらないわけで、 その結果、凸部だけは削れ、凹みは削れないことになり、そのため、早く平らになっていくのです。
とりわけ、その部分が接合面である場合、貼る物、貼られる物の表面をできるだけ平らにする必要があります。

例えば、目の荒いペーパーだと、木の繊維を引きちぎるようにして削りますから、ルーペで見たら、表面がザラザラということになります。
それをそのまま貼ったとすると、ニカワは、その凹凸の出っ張り部分でしか接合していないことになります。

右の図でお分かりの通り、凸面の先っぽ、その点だけの部分で接着した場合と、真っ平らな全面で接着した場合、その接着強度は一目瞭然でしょう。

そのため、筆者は、へんな棒などであっても、そうした補助具をよく使っているのです。

◇ 日本古来からのトクサ・ペーパー?

賢明なる読者諸兄は、よく裏庭などに植えてあるトクサ(砥草、木賊とも書く)という植物、その茎の表皮は、古来より日本で使われてきたサンドペーパーになることをご存じでしょう。

昨年の晩秋、我が家の裏庭に植えてあったトクサ(砥草)が殖えにふえ、隣の寿司屋さんの方にまで伸びようとしていたのです。

それで、一部を抜き取り、工房で日陰干しにして保存してありました。

ちなみに、ストラドなど、古いヨーロッパではサメの皮を使うとか、ニスの磨きなどには羊皮紙を使っていたとか???

また、隣の寿司屋さんでは、ワサビをすり下ろすのに、サメの皮を使っているんですヨ。
この草は、縦方向の筋(繊維)が特別硬く、とがっていて、その部分で研磨するという仕掛け。

昔の建具屋さんや指物師、それに表具屋さんなど、木や骨、ツノ材などの面(角)をとったり、ならしたり、磨いたり・・・、そうした使い方をしていたものです。

材料がそこにあり、知っていて使わない手はないと、気分は『実験考古学?』、興味があるものはなんでも試してみたいのです。
◇ 下準備

干してミイラ化していたものから、ひと節ずつに切り、一旦、水につけて柔らかく戻します。

それをカッターナイフでタテに割り、アイロンで平らに延ばしてから板に貼る、それでできるはず。

写真のいちばん上が、干してひからびているトクサ、2番目が水で戻した一節ずつのもの。

下は、タテに割ったものをアイロンで平らに延ばしたものです。

それと、真ん中のカマボコ板。

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 ↑このカマボコ板は、お正月の千歳料理の残骸で 多分、北米産のホワイト・スプルース製? 非常に細かな木目だったので、こんなときのために、きれいに洗ってとっておいたものです。

なお、ここで使っている小型アイロンは、知人からいただいた「和裁専用のハンディ・タイプ」のもの、こんなときには便利です。

まず裏側から、含んだ水分を飛ばすようにしてアイロンします。

それから、表面からも押しつけ上に置いた2枚のように、逆に反り返るぐらいの方が、後の接着が楽です。

アイロンの熱ぐらいでは、尖った植物繊維には何ら影響がありません。それぐらい、固い繊維でした。
それを、カマボコ板にニカワを塗り、当て木をあててクランプして圧着。

乾いたら出っ張った部分をカットし、ペーパーでならして完成。


で、早速、使って削ってみました。


工房の日陰でとっておいたトクサでしたから、アイロン掛けし、貼り付けてもまだ緑色です。

いずれ、植物の緑は葉緑素が色素ですから、日焼けして黄色くなるのはタタミと同じ、そのうち色は抜けます。


これは、植物の縦筋しか使わないため、ペーパーとは違い、縦、横、斜め、いずれの方向でも削れるというものではなく、 写真に少しあとがついているように、この場合の貼り方だと横方向しか使えません。

でも、まさに古来よりの自然素材、偉大なる先人たちの知恵、エコ的にも、素材にもやさしそう!(3/28)
上の完成品は、平面や直線、それに凸部の角の面取りにしか使えませんが、ヴァイオリンづくりでは、どうしても必要な形がアールのついたもの。

後日つくった次の木地は、正真正銘カマボコ形。

しかも、ヴァイオリンの、どんな曲線にも対応できるよう、実物の表板にあてがい、曲線の形を整えました。

(下の、完成品の写真を参照。)
最初の、平らな方は丈夫な接着ということでニカワで貼りましたが、今回はアールがあるので、当て木をつくるのがやっかい。

それで、木工用ボンドとアイロンの組み合わせで接着。

アイロンの熱で、曲線部も強引に乾かしながら貼っていきますが、これが意外と楽で、きれいに仕上がりました。

貼り終わったら、前回同様に、余分なところをカット、その周囲もペーパーで面をとりました。

それは、もし、トクサの固い繊維のささくれがでていて、少し引っかけただけでも剥がれることがないような配慮からです。
これで、柔らかい表板のエッジ処理の削りには、なんとか使えそうです。 ・・・という、まさに遊び心でつくりましたが、これも我が得心の愛用品になることでしょう。
◇ ボディ内部をきれいにする 同じ自然素材で、ボディの中をきれいにする方法。
エフ字孔から適量のお米のモミを入れ、ガサガサと揺すり、中をきれいにします。 種籾の表皮もトクサ同様、結構ざらついていてその摩擦できれいになります。終わったら、逆さにして全体を揺すり種籾を取り出します。

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