結び

 

今後の課題
 以上、またしても長々と述べてしまった。些細なことを詳しく書き、大事なことを書き漏らしているような気がするが、とりあえず現時点での自分の考えはおおむね述べられたと思う。しかし、第2版からの課題である、家族形態を含む人類の組織形態、中央・南・東南・東アジアでの人類集団の活動、言語の使用といった諸々の事象の変遷については、相変わらずの勉強不足のためまったくと言ってよいほど述べられなかった。これは第5版執筆のさいの課題となるが、正直なところ、あるていど以上のことを述べられる目処がまったく立っていないことも否定できない。

種区分の問題についても、全体的に整合性のとれた区分が必要だと強調しながら曖昧なままにしてしまい、第2版からの課題をまったくと言ってよいほど解決できなかった。もっともこれは大問題なので、私にはとても解決できそうにないことも否定できない。とりあえず今回も、ホモ属にはエレクトス・ハイデルベルゲンシス・ネアンデルターレンシス・フロレシエンシス・サピエンスの5種が存在し、ハビリスやルドルフェンシスはアウストラロピテクス属であるとしたが、第5版の執筆までには、もう少しはっきりとしたことが述べられるように勉強しておきたい。とくに、かなりの変異幅が認められると思われるエレクトスについては、もっと勉強が必要である。
 こうした種区分の難しさという問題は、人類進化の複雑さが根本的な要因となっている。猿人→原人→旧人→新人というおなじみの一直線の進化図式は、もはや破綻したと言うべきだろう。ホモ属の登場以降、多様な人類集団が広範な地域へと進出した。そうした人類集団は、ときには進出先から撤退しつつも多様な進化を遂げた。世界各地においては、同時代に複数の異なる人類集団が存在した場合が多かっただろう。それらの相互関係については、混血や闘争や交易や接触なしといったさまざまな可能性が想定され、全体像を把握して的確な人類史像を提示するのは至難の業である。

ゆえに、この第4版も的確な人類史像を提示できたとはとても言えず、近いうちに大幅な改訂が必要になりそうだが、それでも現時点での私の考えを精一杯述べたものである。これまでもそうだったが、この第4版も誰かに読んでもらうというよりも、むしろ自分の考えと参考文献の整理のために執筆したところがある。その意味で、備忘録的な性格がたいへん強くなっており、かなり自己満足的な文章になったのは否定できないが、お読みいただき、ご批判・ご教示いただければ幸いである。

 

「モザイク状」という概念
 以上、第4版を執筆していて思ったのは、人類進化史を見ていくうえで重要な概念となるのは、「モザイク状」という言葉ではないかということである。サピエンス1種しか存在しない現代は、複数種が存在した過去ほどではないだろうが、人類はずっと多様な形態を維持し続けてきたものと思われる。多くの人類には原始的特徴と派生的特徴とが混在しており、種区分や系統樹の作成が容易ではないが、そのような多様で混沌とした中から新たな種が生まれていったのだろう。その新たな種にしても多様性を維持しており、派生的特徴を強めつつも、原始的特徴を強くもつ個体も少なからずいたものと思われる。ドマニシ人やフロレシエンシスの存在も、こうした観点から説明できるのではないかとも思う。

人類の文化もモザイク状の「発展」を示しており、ある「低級な段階」から「高度な段階」へと階段をのぼるように「発展」していくのではなく、それぞれの集団が異なった様相で「先進的」要素と「後進的要素」とを混在させ、ときには「後退」しつつ「発展」していったのだろう。人類の形態にせよ文化にせよ、なにかの公式にあてはまるほど単純なものではなく、そうした複雑さが人類史の魅力と面白さにもつながっているのだと思う。

 

 

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