人類史に疑惑?(2)

 

 α(前回参照)が何故「面白い」のかというと、人類史の通説を根本から覆すものとなっているからである。そこで、先ずは、人類史についての通説を見ていこうと思うのだが、実はこれがなかなか難しく、必ずしも確定した見解があるとは言えない。現在では、よく教科書に出てくるような、猿人→原人→旧人→新人といった人類の「進化」の道程は、あまり妥当性がなく、猿人・原人・旧人・新人といった区分自体、かなりあやふやなところがあるように思われる。そういうわけで、何か重要な発掘があれば枠組みが大きく変わることもあり、現在の最有力な見解もいつまでその地位を保っていられるか、何とも言えないところである。まあそういうことを気にしていては何も書けないので、取り敢えず、現時点での最有力と思われる見解を自分なりに纏めていこうと思う。

 所謂「猿人」と現代人との関連というのは、どうもよく分からないが、どうもアファレンシスの一派が現代人(サピエンス)の祖先らしい。人類の最古の祖先についても現在のところはよく分からず、近年になって、約600万年前の化石が発見されたが、これが現代人の祖先なのか、それとも現代人とチンパンジーの共通の祖先なのか、或いはチンパンジーの祖先なのか、はっきりしない。恐らく、600〜500万年前頃に、現代人の祖先とチンパンジーの祖先とは分岐したのだろう。
 二百数十年前に、最古のヒト属が登場する(ホモ=ハビリス)。石器が最初に使われるようになったのはこの頃からとされているが、それ以前の石器使用の可能性を指摘する見解もある。続いて200万年前頃に、ホモ=ハビリスの一派からエルガステルが出現した。ここまで、人類「進化」の舞台はアフリカだったが、この段階で初めて人類はアフリカを出ることになる(第一次出アフリカ)。その時期は、約190〜170万年前といったところだろうか。
 アフリカを出たエルガステルは東方へと向かい、一部はスンダランド(海水面が低下していた氷河期に存在した、現在のマレー半島・スマトラ島・ジャワ島・カリマンタン島などを含む、東南アジア一帯に存在した大陸地。)へと向かい、繁栄した。この時期の東・東南アジアの住民は、エレクトスと呼ばれている。更にそこから、北上して中国大陸へと向かった一団もあった。故に、石器捏造事件があったとはいえ、日本で数十万年前の石器が今後発見される可能性は、皆無とは言えないだろう。

 100万年前頃には、アフリカに残ったエルガステルの一派から、ハイデルベルゲンシスが出現した。ハイデルベルゲンシスの一部は、氷河期の厳しい環境の欧州にも向かったが、その後一時撤退したようである。このハイデルベルゲンシスの中から、現代人の直接の祖先が誕生することになる。その時期は、約20〜10万年前というところだろうか。ただ、ハイデルベルゲンシスは現代人の直接の祖先ではなくネアンデルターレンシスの祖先で、エルガステルから分岐した一派が現代人の直接の祖先となった、とする見解もある。
 現代人は、約10万年前になるとアフリカを出て世界各地へと進出していき(第二次出アフリカ)、人類としては初めてアメリカ大陸にも進出した。アメリカ進出の時期は不明だが、約12000年前というのが通説である。ただ、最近になって、その時期が4〜3万年前に遡るのではないか、とする見解も提示されている。
 現代人は、世界各地で先住の人類に取って代わっていった。嘗ては、世界各地の「原人」がその地で各々「新人」へと「進化」した、とする多地域進化説も有力だったが、現在では現代人の起源はアフリカにあり、分化(出アフリカ)が始まったのは10万年前頃、とする単一起源説が有力である。それでも、東アジアにおける先住民との連続性を認める見解もあったが、
最近の遺伝学的成果により、今やそれも否定されつつある。つまり、現代の各地域集団(「人種」なる概念は、もはや生物学では無意味だろう)の特色(例えば、皮膚の色や足の長さの違い)は、精々この10万年間に形成されたものだということになる。

 以上、簡単に人類史を振り返ったが、恐らく、現代人への「進化」には何の「必然性」もなかったに違いない。ヒト属(ヒト属の出現にもまた何の「必然性」もなかっただろう)の「進化」には様々な可能性があり得たのであり、そうした様々な可能性の中から、数々の僥倖の結果として現代人が偶然にもヒト属として唯一生き残ったのだろう。恐らく、現代人とは直接関係がなく消えていったヒト属は、現在知られている以上にいるのではなかろうか。
 現代人の遺伝的多様性の乏しさはよく言われることだが、これは、一時期人口が激減したことを示唆している(ビン首効果)。つまり、現代人(及びその直接の祖先)は、いつの時点かは分からないが、滅亡の危機を経験した可能性が高い。仮に現代人が滅亡していたら、現在でも東・東南アジアではエレクトスが、欧州〜中近東にかけてはネアンデルターレンシスが繁栄していた可能性もあるだろう。そして、彼等が現代人へと「進化」した可能性は恐らくなかったであろうが、現代人とは違った意味で現代人以上の「知性」を獲得し、「文明」を築き上げた可能性は、必ずしも否定できない。
 人類の社会的「発展」の類型化についてもそうだが、恐らくは人類自身の「進化」についても、単線的な「発展」図ではなく、複線的な「発展」図の方が真に迫っているのだろう。

 

 

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