ガンパレ妄想劇場2.13



「2時方向、距離200。壬生屋機が囲まれた!危険だぞ」
「うん、判った。ねえ、ここで一気にキメようか?」
「ああ、任せる」

熊本軍のエース中のエース、5121小隊。その中でも抜群の功績を上げている一騎の複座士魂号。
パイロットの速水厚志、ナビゲーターの芝村舞。
この2人の少年少女は、完璧なチームワークで士魂号を駆り、今日も戦場を疾駆する。

「飛び込むよ!気をつけてね」
「ああ、良いぞ」
「着地後、ミサイル斉射。データ入力頼んだよ」
「了解、任せるが良い。目標座標入力開始!」

敵のレーザー斉射!計算されつくしたかのような動作でレーザーの林をすり抜ける。
敵幻獣の集団を前に大跳躍!陽光に照らされるその姿は、人類を護る聖騎士が銀の剣。
駆ける。否、むしろ踊るような軽快さで敵を翻弄してゆく一騎の士魂号。
さながら、2人の舞踏会の如し。

「データ入力完了!良いぞ、厚志」
「準備完了、ファイヤ!」

士魂号登載の『屠竜』95式多目的短ミサイルが一斉に空を舞う。
天を翻ったミサイルは、血に飢えた狼の群れの如く幻獣に襲いかかる。
衝撃波!爆音!断末魔!幻獣の群れを包んだ死の嵐は、全てを無に帰す!


「敵集団は全滅したそうです。皆さんご苦労様でした」
善行司令が戦闘の終結を宣言する。小隊指揮車に歓喜の喝采が轟いた。

「ありがとうございます。正直言いますと、今回はちょっと危なかったんです☆」
1番機の壬生屋は、そう言うと舌をぺロっと出して微笑んだ。
「畜生!いつもオイシイ所ばっか取りやがるもんなぁ…」
皮肉を言うは、2番機の滝川。しかしながら、その口調は勝利の喜びに酔っていた。

「スカウトは速やかに指揮車に乗車。帰還します。良いですか、皆さん?『遠足』は家に帰るまで終わりませんからね」
善行は眼鏡を直しながら、真顔で冗談をこぼした。小隊に爆笑が巻き起こる。

「16、17、18……」
速水が機体の電算機のデータを広げ、何かを数えている。
「19…20!やったぁ!!」
歓喜の声を上げる速水。
「?…厚志、どうしたのだ?」
「今回の戦闘で20匹墜としたんだよ!」
100点の答案を親に誇る小学生のような快心の笑顔で、速水は舞に戦果を語った。
「ああ、銀剣突撃勲章だな。明日にでも授章式があるだろう」
いつものように、素っ気無い口調で言う舞。
しかし、戦果を喜んでか、又は、愛する者の思いも寄らぬ笑顔につられてか、その口元は笑みに緩む。

「舞も嬉しい?」
「ああ、悪くは無いな」
「なら、ご褒美ちょうだい☆」
パイロット席を立ち上がり、上のナビゲート席の舞に言い寄る速水。
「……!!」
その言葉の『真意』を悟り、赤面する舞。

「た、たわけ!!厚志、そなた何を考えておる?!」
「だってさ、僕、頑張ったんだよ?」
「それは判っておる!明日、表彰式で勲章を貰えばよかろう」
「でも、そこで誉めてくれるのは、変な靴下フェチなんだよ」
「準竜師スレッドの連中も読んでいるのだぞ!言葉を慎め!!」
速水の提案に、赤面しながら抗議する舞。
それに受け答える速水。さながら、舞の態度を楽しんでいる感である。

「……夜まで待つが良い」
羞恥心に辛うじて耐え、速水への代案を口に出した。
「イヤだ。『ちょっと』で良いから、今欲しい!勿論、『正式』なのは後で貰うけど」
「たわけ!あれほど人前でそのような態度を取るなとだな……」
「ここは士魂号のコクピット。僕達以外は誰もいないよ」
必死な舞の抗議の根拠を、あっさりと否定してみせる速水。

「……判った。厚志、眼を閉じろ」
真っ赤な顔を更に赤面させ、観念した舞。
「良いか?恥ずかしいから、決して眼を開けるな!!」
「は〜い☆」
視界が真っ暗になる。
闇の中、唇から暖かい感触が伝わる。
胸の奥底から心地よい感覚が込み上げ、やがて全身を駆け巡る。

速水の大きな手が舞の肩を探り寄せ、その華奢な肩を抱き寄せた。
「(あ…あの馬鹿者めが!!)」
舞の理性が、速水の行為に瞬間的に怒りを顕わにするも、結局、本能の希望に従い、速水を受け入れる。


かくして、若いと言うには幼い少年少女2人は、込み上げてくる感情の侭、互いの唇を貪り続けた。
が、芝村にあるまじき致命的なミスを犯している事に、舞は気付いていない。
通信機のカメラがオープンのままであった。
つまり、この洋画さながらのラブシーンは、小隊のメンバー全員の目に入る事となった(笑)


「何やってやがるんだぁ〜速水の奴ぅ〜!」
「は…はれんちです!!絶っっっっ対に許しません!!!!!」
「ガハハハ!やりよるなぁ」
「……(苦笑いしつつ帽子を被り直す)」
「あらあら、お盛んねぇ…」
「ハハハハ、立派だぞ。これでこそ、俺の弟子だ」
「ふぇぇ…あっちゃんとまいちゃん、ちゅーしてるよぉ」
「こんな事をする為に、コクピットの居住性を上げたワケじゃありませんからね!!」
「ごっつう、ええ度胸しよるやっちゃなぁ〜」
「こ…こんなの見たの…初めてです…」
「ば、馬鹿野郎!!!」
「……呪うわ」
「フハハハ、凄かねぇ〜」
「見ちゃった〜見ちゃった〜〜帰ったらみんなに言わなきゃ〜」
「奴らめ、何を考えているんだ!」
「フッ…これだから芝村は…」
「ラブは良い事ネ!」
「これはいけませんね…」
「愛!そう、それこそ世界の真理なりィィィィィィ!!!!!」
各々、各自に感想を述べる小隊メンバー。


「…速水くん、芝村さん。聞こえますか?善行です」
善行の通信に、現実世界に強制送還された2人。
「自由恋愛は多いに結構です。しかし、時と場所はわきまえる様に」
「????」
キスの余韻で頭が上気してか、今一つ理解していない2人。
「先程のラブシーン、見せて頂きましたよ」
「…なっ!なななななななななななななななななな何ィィィィィ?!」
善行の言葉をようやく理解し、困惑しまくる舞。
「貴方達、カメラがオープンになってたでしょう?」
慌ててコクピットの通信端末を見る舞。不幸な事に、端末ディスプレイのカメラスイッチは、オープンで点灯していた。
「そ、そそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそれでは…?!」
「ええ、小隊のメンバー全員が貴方達を見てましたよ」
困惑する舞に、善行は、眼鏡を直しながら事も無げに言った。

「あ〜〜〜つ〜〜〜しぃ〜〜〜〜〜〜」
幻獣の前でも見せたことの無い、極上の怒りの表情の舞。
キスの余韻に呆けていた速水だったが、ようやく命が危険に晒されている事を悟った。
「ま、待って、舞!は、話せばわか…」
「問答無用!!!!」
舞に本格的、かつ徹底的にボコられる速水。
舞のその拳には、何故か田代のライダーグローブが装着されていた。


翌日の勲章授与式典には、速水の姿は無かったという…



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