ガンパレ妄想劇場「黄金剣の夜」
幻獣150匹を墜とし、黄金剣翼突撃勲章を授与される事となった速水と舞。
大統領直々に勲章を授与する為に、2人は東京へ飛んだ。
眠気と戦いつつ大統領のアジ演説を聞き流し、マスコミ責めに逢い、無数の各種式典に連行され、
と、戦闘よりもよっぽど過酷なスケジュールで、東京での2日間を過ごした。
ようやく熊本へ帰ってきた翌日の朝、速水と舞はいつものように一緒に登校していた。
「ほら、厚志、見てみよ」
舞は朝刊を、まだ寝ボケてる速水に手渡す。
「何だい、舞?僕は疲れてるんだよぉ、ふわぁぁ……おおっ凄いや!」
速水と舞の写真がデカデカと載ったトップ記事を見るや、速水は瞬間的に目が醒めた。
「僕達って、有名人なのかなぁ?全然実感わかないけど…」
「戦況は芳しくないようだ。だから、それを隠す為に、国家は英雄を必要としている。お前が望む望まないは関係ない」
「そんなものかなぁ〜?」
「フフフ、お前らしいな」
今一つ自覚に欠ける速水。相変わらずのぽややん顔を見て、舞は微笑んだ。
見てるだけで、何故か心が休まる。そのぽややん顔を、舞には何よりも愛しく思えた。
「(それでいて、戦場では別人のように狩猟者のような表情(かお)となり、期待以上の結果を出す。まったく…判らない男だ)」
極めて芝村的な要素を秘めていながら、それを全く感じさせない。そんな隣のぽややん顔に、ただ苦笑いするのみの舞であった。
いつものように、尚敬高校をくぐる2人。
いつものように、ロビーを通り、校舎へ向かう2人。
いつものように、階段を上がり、教室へ上がる2人。
いつものように、HRが始まり、授業が始まる。
ただ、一つだけ相違点があるとしたら、
学校で会う者全てが、勲章授与への賛美を述べる事であった。
尤も、そのような事態は、2週間前の黄金剣突撃勲章授与の時に経験済みなので、2人としては、大した問題とはみなしてはなかった。
「僕達、やっぱり大変な事をしちゃったのかなぁ…」
「うむ。人間として、最高の勲章だからな」
「でも、絢爛舞踏があるよ」
絢爛舞踏の『意味』を理解してない速水に、舞は苦笑いする。
「あれは人間を超越してしまうからな。厚志、お前バケモノになる気か?」
「い、いや…そんなつもりじゃあ…」
「フフフ、まぁ良い。時に、今度の功績で部隊ごと休暇を貰ってる。どうだ?祝いの宴をせぬか?」
「えっ?」
舞の思いがけない提案に驚く速水。
「今までここまでやれたのは、正直、厚志がいたからだと思う。その礼と、絢爛舞踏の前祝いを兼ねて、だ。今夜、一緒に夕食はどうだ?案ずるな、無論、私の奢りだ」
舞は、はにかみながら速水に言った。
「それはいいけど、奢りだなんて悪いよ…」
「何?そんな事を心配しておるのか?案ずるな、私に任せておけ」
「そ、そう?……あ、ありがとう」
速水も、ちょっとはにかみながら答えた。
「ならば、1800時に校門前に来るが良い。来る時は、黄金剣翼章を胸に着けよ」
「え、勲章を?何で?」
「しかと申し付けたぞ」
「う、うん。分かったよ」
「では、待ってるぞ!」
そう言うと、舞は新井木ダッシュで走り去った。
1800時。世間一般的には、夕方6時。
尚敬高校校門で、そわそわと落ち着かぬ表情で舞を待つ速水。
「すまぬ!遅れた」
15分遅れて、舞が走って来る。一刹那、息継ぎをし、舞は速水の顔を向いた。
「……」
普段から化粧っけは、全くの皆無である舞。
今日の舞は、ピンクの口紅を薄く刷いただけの、薄化粧と言うには余りにも簡素な出で立ちであったが、
すっぴんの顔しか見た事の無い速水にとっては、心臓が止まりそうな程、艶やかで美しく思えた。
「ん?厚志、どうした?」
「い、いや…化粧した舞って初めて見た」
「へ、変か?」
「そ、そんな事無い。すっごく…綺麗」
「言うな!照れるではないか」
いつもとは違う舞の側面を見て、どきまぎする速水。
舞は、やはり事前に原に相談しておいて正解だった、と内心安堵していた。
「で、どこに行くの?」
「おお、そうであったな。ついて来い」
舞のリードで歩き、速水は慌てて後をついて行く。
いつものパターンで、2人は新市街へと向かった。
「舞…ここって?」
「うむ、ここだ」
舞に連れてこられ、辿り着いた所は、新市街でも一番有名なフレンチ料理店。
常に数ヶ月は予約で埋まっている程の名店であった。
「凄いや、予約してたんだ?」
「いや、芝村に予約は無い」
腕を組むお決まりのポーズで、平然と答える舞。
「え?予約してないとダメなんじゃあ…」
「構わぬ、行くぞ」
驚く速水を尻目に、舞は店の扉を開いた。
「ま、まってよ…」
慌てて後を追う速水。
「お客様、当店は予約の無い方のご来店は…」
出てきたウェイターは、当然の事ながら、この若い一見さん約2名を店に入れる事を拒否した。
舞はウェイターの言葉を意にも解さずに、お世辞でも豊かとは言えない胸を反り返した。
あたかも、胸に輝く勲章をウェイターに見せつけるかのようである。
「し、失礼しました!黄金剣の英雄のお2人様でございますね」
ウェイターは、この世間知らずの少女と少年の胸に輝く黄金剣を見止めるや、態度を180度変化させた。
「最高のテーブルをご用意致します。さ、こちらへ…」
このウェイター氏は、先程の侮蔑的な表情とは打って変わって、ペコペコと2人を応対した。
「さ、入るぞ」
「う、うん…」
育ちの良さか、芝村的傲慢か、ごく当たり前に、自分の家へ入るかのように店へ入って行く舞。
速水は、そのような舞の態度に驚きとともに関心しつつ、後を追った。
「…驚いたよ。勲章つけたのはこの為だったんだね」
「まあな。お前も私も頑張ったのだ、これぐらいの役得は当然であろう」
庶民階級の速水及び、殆ど全ての読者諸兄が見たことの無いような、豪華な装飾の店内。
その一番奥のテーブルに、黄金剣の若い英雄たる少年少女が座していた。
「厚志の為に」
「舞の為に」
「5121小隊の為に」
「人類の未来の為に…乾杯」
グラスを合わせる舞と速水。グラスの軽快な音が、向こうのバイオリン演奏に溶けてゆく。
「おや?こんな所で会うとは思いませんでしたね」
聞きなれた声に思わず振り向く、黄金剣の2人。
「善行です。皆さん、こんばんは」
振り向いた先には、善行がそこにいた。
正装でキメたその姿は、流石に年相応の気品に満ちていた。但し、ここでも半ズボンだが。
「私ですか?私は原さんに食事をご馳走する事になってましてね。ほら、今来ますよ」
善行が指差した向こうには、ドレス姿の原。
「あらあら、意外なところで会うわね。こんばんは、お2人さん☆」
男女の理を知り尽くした者だけに可能な、見る者を魅惑せずにはいられない、妖艶なる化粧。
天使を思わせるような、華麗なドレスを完璧に着こなしていた。
そして、開いたドレスから覗かせる豊かな胸元に、速水の視線が『CA』された時、渾身の力で頬をつまむ事を忘れるほど、芝村の者はお人好しではなかった。
「私達に邪魔されて迷惑だ、と言う顔をしてますねぇ…そもそも、貴方達に原因があるのですよ」
眼鏡を直しながら、半ズボン善行は言う。
「芝村さん。先週の速水くんとのデート、外泊しましたでしょう?」
善行改め奥様戦隊善行は、舞の顔を見ながら言う。
「◎▲■×β×…!!!!」
顔を真っ赤にし、動揺しまくる舞を無視し、今度は奥様戦隊原が言う。
「その日の貴方達の泊まり先が、ホテルか、それとも速水くんの家か、で、私と善行で賭けをやったの。結局、私の勝ち。で、こうやって善行にご馳走になってるってワケなの」
『奥様戦隊』は『ハンター』よりも危険だ!
いずれ芝村の力で排除せねばならぬ。赤面しながら、そう決心した舞であった。
「それより、この『グレープジュース』は何でしょうかねぇ?おやおや、これは凄い物を飲んでますねぇ…」
善行は、テーブルにあった、いかにも高そうな『グレープジュース』を手に取り、ラベルを見ながら言った。
「これはいけないわねぇ、風紀委員憲兵に突き出してやろうかしら?」
悪戯っぽい目をしながら、原も言った。
「ま、これの残りは『口止め料』って事で、私達で頂いておきましょう」
「フフフ、お2人さん、ごゆっくり☆じゃあね」
善行は、舞達の『グレープジュース』のボトルを取り上げ、原と共にテーブルから去って行った。
夢のような一時であった食事を終え、舞と速水は今町公園へと移動した。
「はい、お待ちどう様」
「うむ」
舞は、速水が買って来てくれた『五虎将の紅茶ミルクティー』を受け取り、一口飲んで一息ついた。
「…夢みたいだったね」
「うむ、満更ではなかったぞ」
ベンチに座り、星空を眺める舞と速水。
「のぉ、厚志よ」
「ん?」
星空を見ながら、舞は速水に語りかける。
「前から聞きたかったのだが、お前は私のどこを好いたのだ?」
紅茶の缶を両手で持ちながら、星空から目を離さずに、舞にしては意外な質問を速水に投げかけた。
「そうだね…」
速水は、そこまで言いかけて、ふと舞の顔を見た。
舞は、優しい笑みを浮かべつつ、幸せそうに星空を見ていた。
この光景を、仮に小隊の連中に言ったとしても、絶対に信じてもらえないだろう。
速水にだけしか見せない、『カダヤ』の笑みであった。
「舞のすべて、かな?」
速水は、星空を見上げ、また語り出す。
「いつもの普段の機嫌わるそうな舞。恥ずかしくなって、しどろもどろになってる舞、これはすっごく可愛いね。そして、こうやって星を見てる舞も大好きだよ」
舞の顔を見ながら、速水は微笑んだ。
「た、たわけ!!」
速水の言葉に、舞は顔を真っ赤にして怒鳴る。その顔を見ながら、また微笑む速水。
「わ、笑うな!」
「だって、今の舞、可愛いんだもの」
「たわけ!!」
いかなる状況の舞であっても、速水は、それを最も愛しい存在として受け入れている。
速水の恋愛感情は、完全に舞に適応してしまっていた。
「よくもまぁ、今までこんな私につきまとって来たものだ。女らしい所なんて無いのに…私でも感心するぞ」
舞は、冷たくなった紅茶を一口飲み、顔を曇らせてつぶやいた。
舞は内心、自信が無かった。
確かに、厚志はどんな時でも、穏やかなぽややん顔で接してくれる。
だけど、厚志の本心はどうなのだろう?
私は、女らしい所なんて無いと自覚してるし、客観的に評価すると、傲慢で身勝手だし、好かれる要素なんて思いつかない。
いい加減、愛想を尽かせたのではないのだろうか?
思うたびに、不安が暗雲の如くたれ込め、心を苦痛が蝕む。
「舞!」
ぽややん顔からいきなり真顔になり、舞の顔を凝視する。
速水の思わぬ奇襲にハッとなる舞。
そんな舞の顔を見るや、速水は再びぽややん顔に戻り、語り始める。
「僕はね、舞が、とっても心配なんだ。目的のためならどんな無茶をして、いくら敵が出来てもお構いなし。そんな舞を見てるだけで心配になってね。…もっとも、最初は単なるおせっかいだったかもしれない。でも、舞が好きになってから、その思いは強くなったんだ」
速水は、そこまで言うと、冷え切った紅茶を飲み干して、また語り出した。
「僕なりに何とかならないかな、って思って頑張ってみたけど、結局、僕には舞を止めるとはできない…それなら、せめて舞と共に行こう。舞の力になろう!そう決心したんだ」
星空を眺め、一息し、また口を開く。
「舞が無茶するなら、全力で手助けをしよう。舞が疲れたのなら、その心も体も癒してあげよう。舞が危ないときには、全力で守ってあげよう。舞が行く所なら、例え地獄でもついて行こう…覚えてる?屋上で、舞が僕に告白してくれた日。あの時、僕はそう誓ったんだ」
速水の言葉を、速水の顔を見ながら、じっと聞く舞。
その視線を感じてか、舞の顔を見ながら、口を開いた。
「僕は舞が好きだから、だた、それだけの理由でついて来てるんだ。別に後悔はしてない。この前の熊本城の時だってそうさ。どんな時でも僕が傍ににいてあげる。だから、何も心配しなくてもいいよ」
そこまで言い終わり、速水はニッコリと舞に微笑んだ。
「………お前は…馬鹿な男だ」
舞は、直ぐにでも溢れ出そうな涙をこらえ、小声で呟いた。
「馬鹿でいいよ☆」
速水は優しい口調で言うと、舞の肩にぽん、と手をかけた。
「絶対に…離さぬぞ」
込み上げてくる感情に耐えられなくなって、思わず速水の胸に抱きつく舞。
速水の広い胸板から、穏やかな鼓動と暖かい肌の温もりが伝わる。
春先の寒い夜風の中に、その温もりは心地よかった。
「お前を離さぬぞ…絶対に逃がさぬ…覚悟いたせ……」
夜中の今町公園。静寂の中、舞の微かな嗚咽だけが響いていた。
「今夜は帰らぬ……泊めよ」
速水の胸の中で、舞は微かな小声で懇願した。
「うん…いいよ」
そう言うと、速水は舞の華奢な肩を抱き寄せ、ベンチを立ち上がった。
「おいで…」
速水は、優しい声で舞に囁く。思わず、抱き寄せた肩に力が入る。
こうして、身を寄せ合いながら、2人は今町公園を後にした。
「…ふむ、今回は私の勝ちですね」
「……わかってるわよ」
公園の茂みの中に、舞と速水の一部始終を観察していた、奥様戦隊善行&原がいた事を、2人は知る由もなかった。