あらすじ&みどころ |
物語の舞台は九州のどこか、「三途の猫町」。かつては「猫町銀座」と呼ばれる猫だけのユートピアだったが、ある時大阪から流れてきたヤクザ猫の一団がトランプ・カブの賭場を開き、対抗した地元ヤクザが丁半バクチの賭場を開いたことから縄張り争いが勃発。カタギの猫は町を追われ、住民みなヤクザという異常事態に。ニ大勢力の抗争は激化の一途を辿り、互いにダイナマイトをぶつけ合う大戦争に発展。結果「あまりに大量の猫が死ぬために」戦争は正午から午後1時まで、という条約までが結ばれている狂った町だ。今では両勢力が10本ずつ保有するダイナマイトが抑止力となり、なんとか崩壊を免れている。しかしどちらかがダイナマイトを使えば、武力の均衡は即座に崩れてヤケクソの喧嘩が始まり、町は跡形もなくなってしまう!…ゾクゾクするでしょ?少なくともオレはゾクゾクしたから話を進めるが。
そこへフラリと迷い込んだ一匹の猫。のちに月の輪の雷蔵と呼ばれることになるこの男、ほんの暇つぶしのつもりで地元九州組のボス、西鉄親分に接触。敵対する大阪組のモヒカン親分の息子を人質にとる西鉄親分をダイナマイト(実は泥を塗ったソーセージ)で脅迫、人質を奪う。「ガタガタ騒ぐなよ オレはカッとなったら すぐ死にたなるタイプやからなあ」返す刀で今度はモヒカンと接見。息子を奪還してきた礼にコーヒーを奢ってもらうが、逆上した西鉄親分が条約を破って大阪組に夜襲をかけてきた。ダイナマイトが盛大に飛び交い、西鉄親分が「お好み焼のこげた臭いが ワシの狂気を火の玉にするぜ」と狂喜乱舞する戦場で、雷蔵はちょうど帰郷した西鉄親分の息子カズヒサに襲われる。遠征先のオーストラリアでカズヒサが会得してきたブーメランを食らい、雷蔵は失神。九州組に拉致される。厳しい拷問を受けながらも、町で唯一のカタギ猫・オヤジの手引きで小鉄は何とか脱出。その背後では大阪組の戦没者たちがガソリンをかけられ、盛大に燃え上がっていた。逃げ延びた先の廃坑に横たわる雷蔵はオヤジへの恩返しのため、三途の猫町からヤクザを一掃しようと決意する。 オレは苦痛で ノドから漏れそうになるうめき声を 必死で押さえながら そのままの格好で体力の回復を待った たとえ 蚊もたたけぬ体力だとしても……… まだ 死ぬわけにはいかない …オレは本気でしびれましたよ。こんな台詞が何気なく床屋で読んでたマンガ、しかも『じゃりン娘チエ』の番外編から飛び出してきたと思いねえ。そんなときに人間は「ああ、生きててよかった」と本気で思うのだ。事実オレはこの台詞を手帳に書き留めようと思い、しかし手帳なんか持ってないことに気付き、どうしたかといったらマンガを腹に隠して盗んで帰ったのだ。というぐらいに魅力的なダイアローグが必要以上に詰め込まれた一編なのである。ヤクザ映画なりヤクザマンガなり、とかく品がないだけの不粋な台詞のオンパレードになりがちだが、ここではすべての台詞が光り輝いている。まァ品がないといえば当然ないんだが、それでもどこかに気高さをすら感じさせるような。またはあまりに頭が悪すぎて逆に詩的にさえ聞こえるような。できれば全部ここに書き写したくなるような。なおかつそれをプリントアウトして肌身離さず持ち歩きたくなるような。 拷問で負わされた傷が癒え、カズヒサの愚弟フトシを通じて手に入れたブーメランの特訓に打ち込む雷蔵。その頃、混乱に乗じて脱出していたモヒカン親分率いる大阪組の残党は残り少ないダイナマイトを抱え、地元九州組に命がけの夜襲をかけようとしていた。今ではたったの4人になってしまった大阪組。だが追い詰められたモヒカン親分の秘策がここで炸裂する!まず九州組の縄張りの四方から全力で「田舎コール」を敢行。「イーナーカ」「イーナーカ」の連呼に逆上して飛び出してきた九州組にダイナマイトをぶつけまくって皆殺しという、こうして書いてみるまでもなくシンプルな作戦だった。しかしこの、モヒカン親分言うところの「心理とアクションの両面を兼ね備えた」奇襲攻撃は見事に成功。出撃の際、景気づけに歌った「大阪の国歌」もその成功に一役買っていたことは間違いないだろう。♪アカい灯〜 アオい灯〜 ドオトン堀の〜 (何よ…その歌) さて、先の大興行で既に九州組はダイナマイトを使ってしまっているからもう武力の均衡は崩れてるんだが、ここまでダイナマイトを温存してきた大阪組がいよいよ開き直った総攻撃をかけるときが来た!もうヤケクソの喧嘩ですよ。ここまではなんとか崩壊を免れてきた「三途の猫町」。ここがゾクゾクするポイントだったわけですが、そうやって辛くも存続してきた町は…やっぱり崩壊するんですねえ。だから尚のことゾクゾク来るんだが、何しろそんなヤケクソのドンパチがついに始まったあたりのノリノリさ加減たるやこれがただ事じゃない。これでまだマンガ家はるき悦巳が退屈な人情喜劇作家だと言うんならオレはもう帰りますよ。まァ左の画像をクリックして実際にブツを見ていただこう。…見ました?見たものとして話を進めるが、この恐ろしいまでのテンションで抗争のクライマックスを描ききってそれからどうなるのかといえば。 奇襲成功も束の間、ホームタウンの危機に駆け付けたカズヒサによって大阪組は倒れる。一転して静寂に包まれる三途の猫町。この緩急の妙。祭りのあとの静けさですな。実際は死体を吊るしてどれが最初に腐って落ちるか、という地獄のようなゲーム「てるてる坊主賭博」が始まったから誰もがビビって黙ってるだけなんだが。で大事なのが、三下ヤクザがブツブツ喋ってるんですよ。 「とにかく もお後戻りは出来んよ ばってん」 「ワシら親分と一緒に 行くとこまで行くしかないんや どってん」 「ワシらの行くとこて どこやろ………ばってん」 実際にはもう行くところなんてどこにもあるわけがないんだが。『ゾンビ』を彷佛とさせますな、この後のなさ。もうどこに行くわけにもいかないんです。ビビって逃げたら自分も殺されて吊るされるから。こういう名前もないような三下の描写にリアリティがあるかないかでマフィア映画の出来不出来は左右されてきますな。 さてそんな残酷すぎるギャンブルを、顔色ひとつ変えずに取り仕切るカズヒサ。そんなカズヒサの発狂ぶりに、ついに雷蔵の怒りが爆発する。敵味方入り乱れた死体が吊るされた三途の猫町。ダイナマイトの爆煙の向こうから、ついに雷蔵が現れた! |
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最後の決闘はこんな会話で、実に静かに始まる。言うまでもないがオレはもうしびれっぱなしである。この決闘の結末をここで書くのは野暮というものだろう。ちょっと大きめの本屋に行けばまだまだ売ってる本ですから、そこは自分の目で確かめていただきたいんだが、まァとにかくここだけの話、オレは号泣した。いや床屋でかっぱらったマンガにここまで泣かされるとは思ってもみなかった16歳の夏であった。 そんなわけでこうして最後まで読んでみると「男とゆう言葉が 色あせたスカ屁…うまくいえないが そんなものに変りかけていた」という冒頭の独白がズシーンと胸に響いてくる。男という言葉とバカという言葉には実に密接な関係があるように思えてならない昨今だが、この一作にはそうした関係を読み解く重大なヒントがあるだろう。とか何とか、最も重要っぽい問題を投げっぱなしにしてこのコーナーは次回に続くのであった。 |
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