長年、身に馴染んだ感覚というモノがある。
例えば、降る雪だとか。
深々と音も無く降る雪の、微かな気配を感じる。
雪国で生まれ、育ったからだろうか、
星一つ無い、真っ暗な闇夜でも、
厚いカーテンで締め切った部屋の中に居ようとも、
雪の気配は容易く感じ取る事が出来た。



雪見の窓から外を見れば、思った通り、
いつの間にやら雪が降り始めていた。
読んでいた本から目を離して見た外の景色は、
故郷の冬の景色には到底及ばないながら、
それでも何とはなしに懐かしさを感じずにはいられない。
炬燵の上に置いてあった飲み掛けのコーヒーの入ったマグカップを取り上げ、
肘を付いて、両手で包む様にしてコクリと一口飲んだ。
充分に暖かな部屋の中でも、より暖かな飲み物からは湯気が立ち昇り、
外を見詰めたままだった室井の視線に、
一瞬白く、薄い膜を張っては消え、張っては消えした。
湯気の向こう、懐かしい光景が見えた気がして、
室井は「ふふ・・・」と小さく笑った。



「どうしたんですか?」
炬燵の上に、もう一つマグカップが置かれた。
それからも白い湯気が立ち昇っている。
「う~っ、寒ッ!!」
炬燵布団の端が持ち上げられたかと思う間もなく、
室井の標準にしては僅かに小柄な身体を、
その両足の間に挟む様にして、背後から同居人の青島が炬燵に入ってきた。
両の腕ごと、抱き締める様にすれば、
「コーヒーが零れる!!」と、即座に窘められた。
「あ、すいません」
其処は素直に謝るものの、僅かに抱き締める腕の力を緩めただけで、
肩越しに室井の持つカップの中身の具合を確かめ、ポテリとその肩に顎を乗せた。
青島が腕の力を緩めてくれたおかげで、口元まで運べる様になったカップを傾け、
もう一口コーヒーを飲む。
足元は炬燵おかげで暖かい。
コーヒーのおかげで身体の中も暖かい。
背中も、恋人のおかげでホコホコと暖かい。
ホッと息を付けば、もう一度恋人が耳元から聞いてきた。
「どうしたんですか?
 良い事でもあったんですか?
 何だか、すごく嬉しそうにしてたけど?」
少しだけ、首を傾げ加減に捩って室井は青島と視線を合わせた。
「思い出してたんだ」
「思い出し・・・・・笑い?」
「ふふ・・・・・」
「え、何?
 俺にも教えて下さいよ、何??」
青島から視線を外し、今度はまた外で降り続く雪を追いかけながら、
室井は懐かしむ声で言った。
「調度、こんな季節の頃だったなぁって・・・・・」



『室井さん、ウチに帰りましょう・・・・・俺達のウチに』



巷は真冬の寒さも吹き飛ばす熱気に包まれていた。
雪の代わりに降るのは色とりどりのハート。
大小のパッケージはカラフルにラッピングされ出番を待つ。
其処彼処からは甘くほろ苦い香りと悲喜交々な結末。
やっとの事で捥ぎ取り、重なり合わせた休日の終わり。
世間の恋人達が右往左往するその日、St.Valentain's Day。
遂にプロポーズ(?)は為されたのだった。/プロローグ


今年は初心に帰って[青室]にての季節物をお送り致します。
私のやる事ですので、どうなる事やら不安ですが、
お付き合い、どうぞよろしくお願い申し上げます♪

                                        
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