柳葉が、初めて[織田裕二]と言う人間の存在を意識してから、 二年半が経っていた。 確かに、最初は苦手意識が先行して訳もなく、織田の事を嫌っていた。 その後、段々と撮影が進み、織田のいろいろな面を見るにつれ、 織田への感じ方は変わっていったが、 やはり、彼を[苦手]と思う気持ちはいつまでも残り、 自ずと彼との関わりを極力避ける事となった。 それが、周りから見ると 「柳葉が織田を嫌って避けている」と取られてしまった一因だった。 「織田・柳葉不仲説」 ドラマ本編撮影中から始まって、結局は映画の撮影が終了してからも、 今日までそれは続いていた。 2年半の間に知った織田の中に、 今、目の前に居るような、こんな織田は居なかった。 今日、この瞬間にまた、新しい織田を知った。 一時、柳葉の胸をジンワリと温かいものが満たす。 そんな柳葉の沈黙を、なんと取ったのか、 織田はもう一度柳葉に視線を戻すと言った。 「とにかく!! もう、今日で全部終わりましたから」 「な・・・?!」 織田は柳葉が口を開くのを、続けざまに話す事で遮った。 「この世界(芸能界)は狭いから、 どっかで姿くらいは目に入っちゃうでしょうけど、 話し掛けたりしませんから。 挨拶もしないでしょうけど、その位は勘弁して下さい。 じゃ、これで・・・・・」 言うだけ言うと、 織田はエレベーターの待つ、室内への扉の方へと歩き出した。 柳葉は、今の言葉を黙って反芻していた。 「その位は勘弁してくれ」と織田は言った。 と言う事は、織田はまだ、この前言った気持ちのままだと言うことか? 思う間に、織田は足早に去って行く。 もう、此処には一時も居たくないとでもいうように。 柳葉は覚悟を決めた。 「放っとけない」 去り掛けていた織田の背中が、ピクリと小さく跳ねて止まる。 「今は、絶対にお前を一人にしたくない」 覚悟を決めたら、言葉は淡々と口から淀むことなく流れ出た。 「正直、あんときゃ驚いた。 俺、お前には酷い態度ばっかとってたしな。 お前が、あんな風に想ってくれてたなんて、 夢にも思った事無かった」 織田が、背を向けたまま首だけを捩って柳葉の方を見る。 その仕草が、恐る恐ると言う感じで。 俳優[織田裕二]とのギャップに、柳葉の気持ちも和らぐ。 「俺のこと・・・好きになっちゃったんだろう?」 織田は、不安げな瞳で柳葉を見ている。 「でもそれも、今日で止めちゃうのか?」 「だって・・・柳葉さん・・・・・」 声色にさえ不安が滲んでいた。 |
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