自分が欲したは[父性]。

餓(かつ)えていた[父性]を求めた。

満たされたからこそ、今の自分がある。

親となった今、思いつく限り、与えられる限りの情愛を、
父親として娘に注いでいる。

父とはこんなものかもしれないと、密かに慕った彼から与えられる事で
満ち足りたからこそ出来る事だと思っていたのに・・・・・

違うというのか?

ならば・・・・・この心持ちは何だというのか?

まだ何かが足りないと?

例えば、揺ぎ無い信頼関係?

自分は背中を預けられる相手と、彼に認められたいのだろうか?

それなら・・・・・もう既に、充分な程に認めてもらっていると思う。

彼が、自分に対してどれだけ無防備に自身の背中を、
自身の弱さを見せてくれるか。

また、そんな彼の態度に、自分もどれだけ嬉しく思っているか。

たとえ自惚れだとしても、彼の副官として、
誰より近い場所に居ると思っている。

ならば・・・・・この心持ちは何だというのか?

これ以上、自分は彼との関係に何を望み、欲しているのか?



(父さんを重ねていたのじゃなかったのか?)

(父さんから貰うはずだった愛情が欲しかったんだろう?)

(父親としての愛情の与え方ならば手に入ったじゃないか?)

(副官としてのこれ以上を求めているのか?)

(俺がこの人に求めていたのは副官としての絶対無二の立場だろう?)

(副官としての信頼も身に過ぎる程に受けているじゃないか?)



ナラ・・・・・コレハナンダ・・・・・・・・?
コレイジョウ・・・・・ナニヲ・・・・・ノ・・・ゾ・・・ム?



眼の前一杯に広がった厚い胸板に、
我に返った木崎は驚いて飛びすざり掛けた。
そこに2度目、3度目の衝撃が立て続けにきた。
ドン、ドンと衝撃の度、思わず木崎は絹見に縋りついてしまう。
余りに密着している体勢のせいで、木崎はバランスが取り辛く、
その結果、無様に転げ回る事は無い代わりに、
眼の前の絹見のブルゾンを握り締めているしかない。
それでも崩れそうになる木崎を、他人の重さまでをも支える事になっても
ビクともしない強さでもって絹見はその場に立っていた。
やがて揺れは収まり、如何にか体勢を整える事に成功した木崎は、
言葉の代わりに絹見の胸元を掴んでいた手を離し、
その掌でそっと絹見の胸を押し戻す事で自分はもう大丈夫だと伝えようとした。



本能が告げる
今は駄目だと


口を利いたら
どうなるか


一言でも漏らしたら
どうなるか


皮肉な事に本能が告げていた
戦場で余り以上に研ぎ澄まされた本能が


無言で居ろと
溢すなと


羽音の如き囁きでさえも
欠片でさえも発すれば


何かに火が点いてしまう
何かが動き出してしまう


もう戻れなくなってしまう・・・・・

                                       〜第11週〜