全ての賞の受賞が終わり、其々の賞の受賞者は記念写真の撮影の為、
用意されたマスコミ用のひな壇へと移動した。


柳葉は今回は優秀賞の受賞者という事で先に会場を出て、
役者仲間達と控え室で話をしていた。
久しぶりに会った者同士が、部屋の其処此処で話し込んでいる。
柳葉もそんな中の一人だった。
だが、頭の中は別の事で一杯で、話も何処か上の空だった。
つい、部屋の入り口のドアに目が行く。
ドアが開いて、誰かが入って来る度に、ドキリとしながらも目を凝らして、
誰が入ってきたのかと確認してしまう。
「ギバちゃん、どうしたの?」
とうとう、不審に思った一人が尋ねた。
「誰か探してンの?」
他の誰かも尋ねる。
「え・・・いや、別に・・・・・」
否定する柳葉の態度があまりに見栄見栄で、誰かが言った。
「あ!分かった!!
 昔の悪いクセが出て、誰かいい子がいないかナ〜なんて思ってんじゃない?」
「何だと?今、何つった?!」
思わず柳葉が本気で声を荒げ掛けた時、急に部屋がざわめいた。
その後の言葉は続けず視線を巡らすと、さっきまで見ていた入り口の所から、
ざわめきは部屋の中へと広がってきていた。


会場に入って来たのは織田だった。
特番用のテレビスタッフを引き連れて入ってきた織田は、
そのまま会場の隅の方へ歩いてゆく。
そんな織田の後を追うように、今回のアカデミー賞審査員の
織田に対する評価について、口さがない者達が聞こえよがしに話を始めた。
織田はそれを気付いていないのか、それとも聞こえない振りをしているのか、
特番用の撮影を始めた。
そして織田は、最優秀主演男優賞を取れなかった事を、
画面を通して、おどけた調子で謝った。
「・・・ゴメンッ!!取れなかった!!」
柳葉の近くで誰かがそれを見て、失笑するのが分かった。
「本気で取れると思ってたのかね〜」
男はそう言った途端、柳葉の、見られた方が震え上がる様な視線を浴びる事となった。


男を射殺さんばかりに睨み付けた柳葉が視線を戻した時、
織田の姿は何処かへ消えてしまっていた。
慌てて柳葉はテレビクルーを一人捕まえて尋ねた。
「ああ・・・織田さんならもう帰られるとかで、地下の駐車場に
 マネージャーさんと向かわれたみたいですよ」
「ありがと」
柳葉は礼を言うと、織田の後を追って駆け出した。