希望の力

ホームに戻る

前に戻る

第四章 自分と自分

第5話 モーレ目覚める(3)

「中井さん、聞こえてる」
「豊錐、いまモーレは記憶を思い出そうとしているんだ。だからじゃまをするな」
「意味不明なこと言うんじゃねぇよ。このまま返事しなかったらどうするんだよ」
「俺もこんな感じだったらしい。ただ覚えてるのは1週間ぐらいたったように感じたんだ」
「お前の意味不明な言動に耳を貸す暇は無いんだよ」
「1週間たったように感じたのに1分ぐらいしかたって無かったらしいんだ」
「それがどう関係有るんだよ」
「本当は豊錐がモーレを、いや中井さんを守ると思っていたんだ。しかし俺に攻撃を仕掛けてきた」
「それは君がいきなり中井さんを殴ったからで君がわるいんじゃん」
「それはそうだが豊錐、やっぱり小学校の時と変わったな」
「そんなことはどうでもいい。俺が河本君を殴らなかったらどうなっていたと言いたいんだ」
「徐々に思い出すはずだった。一気に思い出すと現実がわからなくなる。俺のようにな」
「それはそうと一つ疑問なんだけどなぜ君が来るときは人が少なくなるの?」
「それは・・・」
「君の言う過去のことに関係有るの?」
「過去の力」
「なにそれ」
「豊錐も過去の事を思い出したら解るよ」
「まあいいや。君の言うとおりに1分ぐらい待とう」

そのころ、500mほど離れた場所では6人乗りで銀色のワゴン車の中で3人のスーツを着た男がゲノン達の戦いのことを知っていた。
「もうそろそろ行くぞ」
運転席に座っているサングラスをかけ後ろ髪を束ねている男が言う。
「OK」
その隣にいる助手と思われるスポーツ刈りで牛乳瓶を付けたような黒縁めがねが特徴の男が答える。
「前回も駄目だったんだろう。今回成功するのか」
後ろで無精髭の男が言う。
「河本君が”今回は成功します”っていうんだから成功するんじゃないの」
「それは当てにならないって」
「それは行ってからのお楽しみ。それより急がないと一般人が来てしまうぞ」
「そうだった」
そういうとサングラスの男はアクセルをかけた。

「河本君、記憶戻ったのいつ?」
豊錐は壁に寄っかかりながら言った。
「4月ぐらいだったと思う」
「宏樹を襲った2ヶ月前か」
「そんなものだと・・・」
道路に目をやりながら言う。
「普段家に帰ってないみたいだけどどこにいるの?」
「それは後少しで解るよ」
「どういうこと?」
「来てほしいところがあるんだよ」
「でも今日は用事があるんだけど・・・」
「7時には家に帰れるから大丈夫だろう」
「ぎりぎりなんですけど」
「6時半には帰れるよ」
「それならだいじょうぶかな」
でも今度にしてほしいと豊錐は心の中で思った」

「あっ、あれじゃないか」
「多分そうだと思う」
「じゃあ俺が呼んでくるわ」
「たのんだ」
そういわれると無精髭の男はドアを後ろにスライドさせて痩せた体を重そうに持ち上げて3人の少年がいる方向に向かった。
「おーい。河本君こっち、こっち」
無精髭の男が大声で少年の一人を呼ぶ。しかし返事がないので少年達がいる方へ歩いていった。

「河本君。呼ばれたんじゃない」
豊錐が今さっき止まったと思われるワゴンから出てきた男を見て言った。
「いーや、聞こえない」
「手を振りながら来てるけど・・・」
「あっ、ほんとだ。秋本さんかな」
ゲノンが秋山だと思われる人に手を振った。
「秋山さんって・・・どういう関係の人?」
「研究員らしい」
「ふ〜ん」
「やっぱり、秋山さんだ」
秋山は豊錐に手を差し出した。しかし豊錐はその手をさけるように立ち上がった。
「初めまして。益井豊錐です」
豊錐は挨拶した。
「私は秋山浩一です。こちらこそよろしく」
そして秋山は中井を背負い豊錐に
「さあ行こうか」
というと豊錐はすぐに
「あ、はい」
と仕方なくついていくことした。