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 ベルが鳴って第二幕が始まる。
暗転している舞台にまたブレン達が「さささっ」と戻ってくる。
明かりが点くと一幕の最後の場面から演技が始まる(VTRをちょっと巻きもどすみたいに)。

いよいよビッグダディ登場だ。小柄な太ったおじさんだが、話が進むにつれ、この人がいると場面か締まるような気がする。もちろん台詞に付いてはよくわからないのだが、その解らない人にそう感じさせるってすごくない?!この人の評価が高いのもうなづける。

さて、皆さんこの芝居、笑うとこが多いと思ってました?
私はシリアスものだと思っていたのであんなに笑いが起こるとは思わなかった。
イギリス人は辛口のジョークがお好きらしく、皮肉まじりの辛辣な台詞の時に良く笑っていた(私にはちんぷんかんぷんだったが)。
ブレンもなかなか頑張っていた。登場してすぐマギーの台詞に対し「僕は映画なんか出てないよ」だって。つかみはOKっていう感じだった。
台詞は少ないけど、色んな場面でも表情で笑いを取っている。
もっと簡単に笑いが取れるのはメイと子供たちだ。
ビッグダディへのあからさまな媚び方があまりに嫌らしくて笑えるのだ。
中でもビッグダディへの誕生日プレゼントの歌と踊りといったら!大爆笑である。天才子役達?! 

 ビッグダディが他の家族を追い出してブリックと2人きりになる。
だんだん二幕の山場に近づいている。
アル中になった理由を問いただす父親に対して、
適当な返事でかわそうとする息子。とうとうもみ合いになり、ブリックが大きく倒れ込んでしまう。思わず客席から「アアッ」というため息が出る。
それまでも度々転んでいるが、ここが一番派手な転倒シーンで、
つい身を乗り出してしまう(ブリックは舞台の先端で転ぶことも多く、その近くの最前列の人達はその度に思わず後ろにのけぞっている)。
ブリックは苦痛に顔を歪めて足を抱え込んでいる。
引き続き追求と逃げの緊迫した応酬が続く。舞台正面ギリギリに出てきて酒を飲むブリックの手が震えている(正面に立つブレンダンは実に大きい)。
何とも言えない苦しい顔をして涙を浮かべている。
最前列の人達はほとんど真上を仰ぎ見るように首を伸ばしている。
追いつめられたブリックはとうとうスキッパーとの友情について話し始める。(ブレンたら、ほんとに泣いている…。顔をくしゃくしゃにしてまるでリンクの時のようだわ。)
とまどうビッグダディ…。慰めようとするビッグダディに対し、感情が高ぶったブリックはつい父親に死期が迫っていることを喋ってしまう。
愕然とする2人(私の真後ろの男性が「..oh..no...」と呟いた。)
肩を落として部屋を出て行こうとする父と、キャビネットによりかかる様にして呼びかける息子。父はそのまま出ていってしまう。
うなだれる息子…暗転。

大きな拍手が起こり、長く続く。
この芝居は本来ブリックとマギーの夫婦の話が軸となっているのだが、このロンドンの舞台では父と息子の話の方がメインのようにも見える(そしてブレンは映画の時でも、いつも父子のテーマのやつはとても出来が良いから不思議だ)。この幕が一番長い。

余談だがこの幕の中で、ビッグダディの台詞の間ブレンが黙って寝椅子に座っているところがある。泣いた後の虚脱といった様子で客席を向いている。
私は頬杖を付いてブレンを眺めていた。例によってどうしても目が合っているような気がしてならない。しかも長い間視線が離れない。それでつい、頬杖を付いたまま指だけを変な風に動かしてみた(半ば無意識でした。良い子は真似しないでね (^^ゞ)。そしたら間髪入れずにブレンが同じように指を動かしたのだ!!びっくりして立ち上がりそうになる。
ブレンはそのまま顔を拭うような演技をしている。見間違い?!いやいや、確かにしたよね?!涙を拭くにしては変な動きだったし…、ちょっとしたイタズラ心かなと思うが、確認の仕様が無いので、間違いなかったと思っておこう。うん、究極の自己満足だ(笑)。


 再び短い幕間を挟んで、最後の幕。
暗転が終わり、ビッグダディが出ていこうとするところからだ。他の家族達が次々と入ってくる。ブリックはベランダの寝椅子へと逃げ込んでいる。いかにも悩める様子だ。
マギーが心配して後ろから彼の頭を胸に抱く。それまでマギーを寄せ付けなかったブリックだが、ここで初めてマギーを拒絶せず抱きしめられるままになっている。
またマギーの腕ごと自分を抱くような様子も見せる。マギーが室内に呼び戻され離れようとすると「マギー、マギー……」と、すがりつきさえする。

この時のブレンの手の白さと言ったら。拳のとこだけポッとピンクがかっている。プレミアの時にりえさんが撮って下さった写真を思い出した。フランシスもとても色白なのだが、彼女のは紙のような白さで、ブレンのは乳白色。ちょっと違う白さなのよね(言いたい事伝わるかな?!)。

ビッグママへの告知があり、家族同士がもめている間、ブリックはベランダで自分の世界に浸っている。口笛を吹いたり鼻歌を歌ったり。
口笛は「マイ ファニー バレンタイン」と聞いていたけど、どちらもよく解らなかった。元々サビしか知らないのだけど。歌の方はお月様に関するものだ。ブレンちゃんやっぱりちょっぴり音痴くん?! 

やがてビッグママに乞われ、ブリック自身も室内に呼び戻されるが、彼女に抱きしめられ「赤ちゃんだったお前がどんなに可愛らしかったか!」なんて事を言われると思わずマギーを見て顔をしかめる。場内笑う。

グーパーとメイはビッグママの協力を得ようと必死だが、彼女がブリックばかりを頼りにするので、彼を侮辱するような行動をとる。
グーパーがブリックのお尻を叩いたことをきっかけに、怒ったマギーが彼らに掴みかかって取っ組み合いになる。原作では女2人を引き離すのはグーパーということになっているが、舞台ではブレンの役目だった。
メイの両腕を掴んで軽々と(ひょいって感じだよ!)持ち上げるのだ。(マギーのちょっと勝ち誇った表情がいいわ)。かなりの高さまで上がっている。すごい!1mは離れた場所に降ろしているし…場内も「おおっ!」という感じ。
なんかちょっと嬉しい驚き。ブレンたら力持ちー!あのたくましい二の腕は飾りじゃないのねっ!私のことも持ち上げてー!!とちょっと壊れてみたりなんかして(笑)。

 私がそんなアホなこと考えて壊れている内に再びビッグダディ登場だ。
グーパーの書類を片手にいろいろ喋っている。話は下ネタに移っていくが幸か、不幸かよくわからない(笑)。ブリックブレンが肩を震わせて笑いをこらえているので、アドリブが入ったのかなぁなんて思いつつ見る。最後に一言だけ単語が聞き取れる。場内大爆笑だが、パパったら…(赤面)って感じ。ビッグダディは二幕とは雰囲気が変わっている。角がとれて妙に機嫌が良い。どこか諦めや哀しさを含んだような穏やかな印象である。

マギーは椅子に座ったビッグダディの前に、多少はしたなく全身をくねらせる様にして跪き、グーパーとメイをカリカリさせる。更に「ビッグダディにプレゼントがあるの」と妊娠宣言をして爆弾を落とす。2人もあんぐりするが、ビッグダディとブリックも驚く。
ビッグダディは多少疑うような眼差しをブリックに注ぐが(ブリックは客席に背を向けている)、彼が何も言えない内にマギーに祝福を与え承認してしまう。
ここで振り向くブリックの表情が何とも言えず可笑しい。場内爆笑だ。爆弾宣言から一瞬の沈黙とブリックの表情までの間がなかなか良い。
ビッグダディは部屋から出て行く。しかしメイは大騒ぎだ。嘘だと決めつけ憤慨しまくっている。一緒に寝てないくせに妊娠なんて出来るわけないと言う訳だ。
隣の部屋からの盗み聞きをつい認めてしまうが、ブリックはうんざりしつつも愛し合う時に誰もが大騒ぎをする訳じゃないと言って、マギーをかばう。ブリックにそう言われては反論できない兄夫婦は怒ったまま出ていく。おさまらないメイの捨て台詞付きで。

2人きりになる。マギーはブリックの様子を覗っている。ブリックは疲れきった様子で、ベットに歩み寄り枕をとって寝椅子に戻る。いつも通り寝椅子で眠ろうというのだ。
マギーは枕を取り戻す。そしてキャビネットへ行くと酒類を持ち出しベランダから投げ捨てる。短い言い争いの後、ブリックがベットの足元に座りこむ。
マギーも寄り添うようにベットへ上がり(舞台の照明が落ち、2人にピンスポットが当たる)ブリックの頬に手を添え、優しく説得している。
ブリックは何事か言うが、曖昧な表情だ。困惑とでもいうような…。暗転。拍手がおこる。(終わった〜)。2人はさっと引っ込む。


 拍手がおさまるとすぐカーテンコールが始まる。
出演者が部屋のドアとそのすぐ横のベランダへの窓から別れて入ってくるのだ。
召し使い役の2人と看護婦(ナニー)が最初に入ってくる。次は司祭と医師。そしてグーパーとメイ、ビッグダディとビッグママ。最後にブリックとマギーだ。皆ニコニコしている。
各カップルは部屋に入るなり手を繋ぎ深々とお辞儀をする。

それぞれに拍手が送られるが、ビッグダディとビッグママの人気はすごい。
ブレンとフランシスは少し駆け込む様にして入ってくる。
ブレンはフランシスに微笑みかける。2人並んで手を繋いだまま、反対の手は力を抜いて床に届くまで前屈するように深く礼をする。

2人が起き上がると、今度は召し使い達を除く主だった出演者達が一人ずつ一歩前に出て礼をする。(この間もブレンは実に嬉しそうだ。こみ上げるニヤニヤ笑いを押さえるかのような表情をしている。誇らしげに立ち大きく息を吸う)。
ここでもビッグダディが一際大きな拍手と声援を受ける。
ブレンダンはそれがとっても嬉しそうだ。

自分の番が来てもう一度同じようにお辞儀をする。
もちろん座長(っていうのかな?!)のブレンが一番大きな拍手をもらえるのだが、すぐ全員で手を繋ぎまた深々と頭を下げる。
あくまでチームの一員という感じでとても控えめな印象を受ける。

この席からはビッグダディが邪魔になってブレンがよく見えな〜い!退いてくれーー!!と思っている内に皆引っ込んでしまった…。うそっ短い…、短すぎ…。
もう一回出てきてブレンダーン。私、カーテンコールとはもっと派手なものかと思っていた。
例えば花束を受け取ったり、手を振ったり投げキッスをしたりなんかするものかと。
皆お辞儀をするだけで、何とも日本的!

気が付くと11時。観客もあっさり帰り支度だ。
劇場を出るとさすがに寒いが、来る時ほどではない。
あぁ、何とも言えない不思議な気持ち。私のロンドンは終わったのね…。

(第一部終わり)


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