GQカバーのきりりブレン!

―――眩惑されて、酔わされて―――  

 「GQ」September, 2000より。


 ブレンダン・フレイザーがスターであるのは明らかだ。“ハムナプトラ”“原始のマン”“青春の輝き”などは何千万ドルもの興収を上げ、“ゴッド & モンスター”では批評家の絶賛を受けた。事実、他のすばらしい主役級俳優と同様に、彼も、コメディからドラマまであらゆる役を演じることが出来る。では、彼はどういう人間なのか?・・・探り出すことができないものだろうか?John Brodieがこの【誤解されている俳優】と話をした。

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 ロス・アンジェルスのとある倉庫、パリっと糊付けされた白い研究着に身を包んだ科学者達が、新世紀にふさわしい映画スターを開発しようと躍起になっていた。《主演男優プロジェクト》・・・セキュリティは万全なのだが、すでにいくつか秘密が漏れていた。この新型は、水準以上のルックスと演技力を持ち、子供達や犬までもが、為す術もなく彼の虜になってしまう。もし、研究がすべてうまく運んだら、彼は安全装置を備えることができる。車をめちゃくちゃに壊されることもないし、何週間か姿を消したあげく原因不明の肝臓病でシダーズ・サイナイ・医療センターに入院するようなことも起こさずに済むのだ。

 だが、この新製品は、Lara Croftのようにチップやビットをつぎはぎして作ったレプリカントではない。我々に囲まれて歩む“トゥーム・レイダー(=墓荒らし)”は、生身の人間である。私はこの春、彼に会った。スモッグのない、ロスの朝のことである。《Fraser 2000》と呼ばれている彼は、ブレンダンの姿とぴったり符合していた。
彼が大股で歩いて、Gettyセンターのベランダの所に来ると、美術館の大理石の壁を陽の光が暖めていた。すると、その壁の大理石が、フィレンツェの人々に与えられた《ミケランジェロのダヴィデ》として知られる美男像と同じ岩のくぼみから切り出されたもののように見えてきた。

 Gettyセンターは、古い時代の彫刻と21世紀風のなめらかなデザインが統合されており、“ジャングル・ジョージ”でよく知られている美男との遭遇に効果的な背景に思われた。とにかく、ブレンダン・フレイザーは、倉庫の科学者達が言うところの【混成品】--SUV車にレースカーのエンジンを取り付けたような--なのである。というのも、《Fraser 2000》は、凹凸のあるハンサムなルックスと豊かな才能を誇っているからであり、それは、映画スタジオのシステムに乗った昔のスターのように、『月曜に空威張りしていたかと思うと火曜にはコケていた』と言われそうな類のものなのだ。だが、私にはすぐにわかった。この31歳の主演俳優は、その幌付きの額の下に《アーティスト》の顔を持っているのだということが・・。そして、その【内なる(ケヴィン・)スペイシー】こそが、常に彼を増幅させ続けていて、芸術的な映画に出演したり、ロンドンで“熱いトタン屋根の猫”の舞台に立つというようなリスクの大きい選択をさせたりするのだ。

 原型がどういうものであっても、衝撃的な新型というのは疎まれる。ハリウッドでは、Fraserブランドについて述べる時に、『ヴェルヴェットのように柔らかな印象』と見下げたような意見や、『彼は作られたスター』だという言い方がなかなかおさまらない。言い換えれば、彼は、“ハムナプトラ”のような娯楽大作がヒットした結果生まれたスターであり、彼のおかげで映画がヒットするわけではない・・・ということなのだ。このような誤解が、彼を最も悩ませる。美術館のギャラリーへ行く前に、アイス・コーヒーで鋭気を養いながら、私は彼に率直に訊いてみた。
「君のキャリアというのは、『今まで気に入らなかった【腰蓑】は無かった』というモットーで表すことができるだろうか?」

 しばらくの間、じっと私の方に目を向けてから、彼はきびきびとした調子で言った。
「みんな、僕が『純真』な役を好むので、僕自身のことまでそうだと思ってるようだね。僕はマヌケじゃない。僕のことを『ハンバーガーくらいしか作れない人間だ』と思ってる人には、“ゴッド & モンスター”を観てもらえればわかる。もっと手の込んだ料理だって作れるんだってことがね。」

 多分、その通りなのだろう。だが、6.3フィート189ポンドの体を持つ俳優が提案した会見のセッティングは、私にはちょっと鼻につく感じがして、『大男、知的な部分を披露する』という偏った解釈をしてしまうのだ。それで、Carleton Watkinsが古い西部を探しながら撮影したという写真の展示を、二人であてどもなく観て歩いていくうちに、私は皮肉を言いたい気持ちに負けてしまった。彼が間違えること請け合いの質問を投げかけてみたのだ。
「ねえブレンダン、アルブミン印画とゼラチン印画って、どう違うんだい?」

 ・・・愚かなレポーター!子供だましの企みだった。彼は、この2種類の化学的工程の違いや、それぞれがどう写真の外観を変えるのかを、苦も無く説明してのけた。しかも、そこで終わる彼ではない。家に暗室があり、20台以上ものカメラを持っている熱心な写真家として、目の前にある作品の構図について、私に個人指導をしてくれるのだ。

 歴史クラスで女の子のサンドレスに見とれる時間をもう少し減らしていたら、私も今頃は、映画一本で1,200万ドルを稼いで、丘の上でブロンド美人の妻と暮らしているんじゃないか?・・・と、わかり始めたのだが、ブレンダンの仕事仲間と話してみて、私は知った。彼が'90年代半ばの不遇な時代を通り越して成功への扉にたどりつけたのは、彼に【気力】以上のものがあったからだということを。
'90年代半ば・・・メジャー大作の“くちづけはタンゴの後で”や、忘れられない芸術作品“聖なる狂気”などで、彼のキャリアは完全に凍り付いてしまった。

 どのくらい【寒かった】のか?
彼がサー・イアン・マッケランへ“リチャード三世”への出演を懇願する手紙を送った時、後の“ゴッド & モンスター”での共演者であるサーは、すげなく断った。もちろん、サーはその後態度をガラッと変えて、最近私にこう語った。
「今では、ブレンダンを、ハリウッドでも称賛されるべき若い俳優達--ジョニー・ディップ、ショーン・ペン、ロバート・ダウニー・Jr.、エド・ノートンなど--と同じ仲間だと思ってるよ。彼らは、富や名声を求めるのでなく、自分の才能を伸ばしたいと思っているんだよね。」

 私達がギャラリーを出ようとすると、子供達の一団がブレンダンを待ち伏せしていた。みんな、彼のことを自分達だけの動くオモチャだと思っているのだ。彼は、こういう注目に気持ちよく応えている。あこがれのスターに出会って緊張してしまい、話しかけられても、自分の名前さえ思い出せないような人達に対しては、特に親切だ。彼が子供達の持っていた美術館案内書にサインしてあげているのを見ながら、私は頭の中で、ある実験をしてみた。ディップ、ペン、ダウニー、あるいはノートンが、こういう気のいい人達につかまってニコニコとサインしてあげている図を想像しようとしたのだが、私の心に浮かんだのは、ペンがパパラッチを殴り倒してる写真だけだった。

 彼ら【悪い子集団】と、Fraser2000との違いは著しい。ブレンダンは、【デ・ニーロ病】に対する免疫があることを、さわやかに証明してくれた。【デ・ニーロ病】とは、若い俳優達のキャリアを腐らせ、彼らの心を混乱させるもので、この病気にかかると皆、『クールに見える役、苦しんでる、サイコに見える役だけを選ばないと・・・』と思いこんでしまうのだ。デ・ニーロや、彼と同時代のアンチヒーロー達が頭角を現してきてからというもの、ハリウッドの業界にも映画ファンにも、『僕は映画スターだ!楽しいな〜!』という演技をする俳優達の価値を低く見る風潮があった。
事実、我々は苦悩する若者達--ずうたいは大きいのに、陰気な演技をする--に執着している。彼らを見ると、いつもこういうセリフを思い起こす。『あんたには俺の痛みがわからないのか?だったら、いったいどこに“芸術”があるってんだよ?』

 ブレンダンは、とにかくがんばり続けた。そうする間もずっと笑っていた。そして、コメディ映画の主演俳優が不足している間に登場したことで、成果を得ているのだ。
「ブレンダンは背が高くて、深みがあって、ハンサムでおもしろい人よ。」と、最新公開作“悪いことしましョ!”で共演したエリザベス・ハーリーは言う。「ヒュー・グラントやジョージ・クルーニーは別として、ああいうタイプの人は他に思いつかないわ。」 

 ブレンダンがコメディ映画で成功してるのは、危険を冒して“おバカ”に見えるのを恐れていないことに秘訣がある。彼は、TV“サタディ・ナイト・ライヴ”の中で、アマゾネスの女王ゼーナのライヴァルを(女装して)演じたり、Jay Ward原作のマンガの主人公を実写版で演じたりもする。
純真でおバカなアウトサイダー達をうまく演じられる彼の才能は、疑いもなく、彼が過ごした少年時代の結果なのである。
カナダの観光局役人を父に持つ4人息子の末っ子として、17歳になるまでに、インディアナポリス、デトロイト、シンシナティ、カナダ、イギリス、オランダ、ワシントン州などに移り住む生活を送ったブレンダン。今になっても彼は、『学年の途中でクラスにやってきた、フランス製のジーンズをはいてマジメくさってる転校生』といった第一印象を与える。
彼を気に入ると思うよ。ちょっと他の人とは違うエネルギーがある。

 「ブレンダンはあちこちとよく動き回る。いつも思うんだが、賢い人達というのは“浮き世離れ”する傾向があるね。これは、コメディをやる上で良い姿勢なんだ。」と、“悪いことしましョ!”の監督レイミスは言う。「たぶん、そういうふうに“浮いてる”から、ブレンダンは、自分のことを“はぐれ者”だとか“負け犬”だと感じてる人々の共感を得ることができるんだろう。あんなにパワフルで魅力的な身体を持つ男が、自分なりのやり方で“ダサい男”を演じる・・・そのためには、心理的に深いレベルまで理解しなければならないんだよね。」

 別の言い方をすれば・・・シャイな男を上手く演じられるというブレンダンの才能は、彼のほんとうの“人となり”と深い繋がりがあるのだ。

    

PART2につづく・・・)


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