HOME言葉と音の世界言楽〜gengaku〜 > コンスタント


序章 ある夜の何気ない会話〜Quiz〜


 唐突なことなどというものは、いつだってこちらの想定を外れているものだ。
 だからこそ、唐突なのだし。
「…なあ、クイズやるか」
「…なに、急に」
「クイズっつうか、なぞなぞっつうか、まあそんな感じ。職場の同僚とか先輩とか後輩と
か、何人かにも聞いてるんだけどさ」
「…うん。まあ、いいけど」
「よし。
 じゃあな、例えばここに、ひとつの部屋があるとする」
「それワンルーム?」
「んー、まあ、なんでもいい」
「うん」
「で、そこに今、七人の人間がいる」
「ワンルームに七人? いきなりおかしいんじゃないの?」
「いや、間取りとかここじゃ関係ないから」
「…最初にそう言ってくれればいいのに」
「え?」
「いや、ボリューム大き目の独り言。それで?」
「ん。それで、その部屋に、外から一人の人間が入ってきた。そいつは、部屋の中にいた
七人を個別に呼び出して、それぞれに対して、この部屋の中にいる貴方以外の全ての人の
名前を教えてほしい、と言った」
「うん」
「まずここでお前に聞く。その七人、どう答えたと思う?」
「個人情報保護法とか関係なし?」
「一切そういうの気にしなくていい」
「それじゃあ、自分以外の六人の名前を普通に教えたんじゃない?」
「うん。まあ、そうだよな。俺も多分そうするわ」
「なに、それ」
「いや、ボリューム大きめの独り言。そんな気にしなくていい。
 じゃあ、ここから本題な。その部屋にいたのが、最初から七人だけだったって、どうや
ったら証明できる?」
「……え?」
「それから、その部屋に七人以外の人間がいたとして、その人間の存在を、どうしたら証
明できる?」
「…なにそれ。最初から七人しかいなかったんじゃないの?」
「うん」
「それ、問題になってないよ。おかしいじゃん。最初に七人だって言っておいて、途中か
ら七人じゃないなんて」
「うん。俺もそう思ったんだけどね」
「…なにそれ」
「やっぱ、クイズにしろ、なぞなぞにしろ、どっちにしても無理があるんだよなあ」
「……」
「ここは、やっぱり証明問題って勢いかなあ」
「…あのさ、兄貴」
「んー?」
「それ、どこで仕入れたネタ?」
「憶えてない」
「…なにそれ」