第130回 課題文 解説


お待たせしました!

今回は、
フェイスブックの創設者、
マーク・ザッカーバーグ氏が
母校のハーバード大学の卒業式で
行ったスピーチの一部です。

ザッカーバーグ氏は
ハーバード大学在学中に
フェイスブックの事業を始め
成功すると、
大学を中退してしまいました。

中退したのに
卒業式に来賓として呼ぶ
ハーバード大学にも
懐の深さを感じます。

フェイスブックとは
ネット上の
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)
のひとつで
2004年、ザッカーバーグ氏が
ハーバード大学の学生同士の交流を
図るための
本人登録制のサービスを
始めたのがきっかけです。

始めた当初は
ハーバード大学の学生に限定されていましたが
徐々に範囲を広げ、
現在では
13歳以上であると登録時に宣言すれば
誰でも入れるネットワークになっており、
世界中に広まっています。

2016年末の時点での
ユーザー数は18億人を超え、
世界的大企業になっています。

ザッカーバーグ氏は
スピーチの冒頭で
自分が中退し、卒業しなかったことを
自虐的なギャグにして、
「皆さんは、ぼくができなかったことを
やり遂げました」と
卒業生を持ち上げています。

ザッカーバーグ氏はさらに
最初の授業の時に
Tシャツを前後逆に着ていて
誰も話しかけてくれなかったとか
自虐ネタを披露して
笑いを取ります。

ただ、
笑いを取るだけでなく、
人生を目的をもって生きることが大切など
骨太な内容を展開します。

ミレニアル世代
(1980〜2000年頃に生まれた世代)
の一員らしく、
国家、民族の枠を超えて
世界市民としての自覚が高く、
グローバルな協力関係を築いて、
地球温暖化や感染症などの問題に
対処しようとも言っています。

このあたり、
成功者として
社会をよくする使命感を持っている
ことが伝わります。

でもまだ、33歳。
若いですねえ。

さて、訳出のヒントですが、
地の文は「だ・である」で訳しました。

ザッカーバーグ氏のせりふの部分は
卒業式の祝辞なので
フォーマルなことばが基本。

ザッカーバーグ氏の I は
「ボク」にしようか「私」にしようか
迷いましたが
フォーマルさを取って「私」にしました。

あとは、
できるだけ祝辞らしく聞こえるように
ことばを選びました。

今回は応募者がなかったので、
私の訳例だけ載せます。
あくまでも一例として
参考にして下さい。

◆ 第130回 課題文

 フェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏が母校のハ−バード大卒業式でスピーチをし、話題になりました。ザッカーバーグ氏自身は在学中にフェイスブックを立ち上げて中退してしまい「最も有名な中退者」と言われます。卒業生に送る彼のメッセージに耳を傾けてみましょう。


(1) Mark Zuckerberg returned May 25 to Harvard, where he launched Facebook and then dropped out, telling graduates it's up to them to bring purpose to the world, fight inequality and strengthen the global community.

(2) "Change starts local. Even global changes start small ― with people like us," the Facebook CEO said. He shared stories about graduates such as David Razu Aznar, a former city leader who led the effort to legalize gay marriage in Mexico City, and Agnes Igoye, who grew up in conflict zones in Uganda and now trains law enforcement officers.

(3) "And this is my story too," Zuckerberg added. "A student in a dorm room connecting one community at a time, and keeping at it until one day we can connect the whole world. "

(4) Such lofty talk now comes naturally to Zuckerberg, a 33-year-old billionaire who has committed to giving away nearly all of his wealth.

 [ 出典: 2017年6月11日付け Asahi Weekly ]

[語句のヒント]
 (1) bring purpose to the world 世界に目的をもたらす (2) start local 身近なところから始まる / legalize gay marriage 同性愛者の結婚を合法化する / law enforcement officer 警察官 / keep at it 根気よく続ける / lofty talk 志の高い話


(1) Mark Zuckerberg returned May 25 to Harvard, where he launched Facebook and then dropped out, telling graduates it's up to them to bring purpose to the world, fight inequality and strengthen the global community.

Mark Zuckerberg returned May 25 to Harvard, 「5月25日、マーク・ザッカーバーグはハーバードに戻ってきた」。

where he launched Facebook and then dropped out.「そこで、フェイスブックを立ち上げた後、退学した」。

telling graduates it's up to them to bring purpose to the world, fight inequality and strengthen the global community. 「そして、卒業生に、世界に目的をもたらし、不公平と闘い、国際世界を強化するのは皆さんにかかっていますと言った」。

「世界に目的をもたらし」がわかりにくいので、一工夫。「世界的規模で皆が目的を持って課題に取り組む」というような意味でしょうか。「世界中が目的を持って取り組む」「世界中の人が目的を持って生きる」など。

「不公正」は今流行りの「格差」にすると格調高くなります。

「国際社会を強固にする」とは「国際社会のつながりを強化する」「国際社会の絆を揺るぎないものにする」など。

(2) "Change starts local. Even global changes start small ― with people like us," the Facebook CEO said. He shared stories about graduates such as David Razu Aznar, a former city leader who led the effort to legalize gay marriage in Mexico City, and Agnes Igoye, who grew up in conflict zones in Uganda and now trains law enforcement officers.

"Change starts local 「変化は地方から始まる」。

local が訳しにくいです。global「地球規模」 の反意語としてよく使われますが、何と訳そう。「地域規模」「地域限定」「地元限定」など。結局、「地域レベル」を使い、「変化はまず地域レベルで始まる」としました。

Even global changes start small― with people like us, "the Facebook CED said. 「世界的規模の変化でさえ、始まりは小規模である―私たちのような人とともにとフェイスブックのCEOは語った」。

「私たちのような人」とは、「ごく普通の人」という意味でしょうか。「私たちのようなごく普通の人間が(始める)」。

He shared stories about graduates such as David Razu Aznar, a former city leader who led the effort to legalize gay marrige in Mexico City, 「彼が引き合いに出した卒業生の中には、メキシコ・シティで同性愛結婚を合法化する取り組みを率いた元市長のダヴィド・ラズ・アズナル」。

and Agnes Igoye, who grew up in conflict zones in Uganda and now trains law enforcement officers. 「そして、アグネス・イゴヤ、彼女はウガンダの紛争地域で育ち、今は警察官を訓練する仕事をしている」。

(3) "And this is my story too," Zuckerberg added. "A student in a dorm room connecting one community at a time, and keeping at it until one day we can connect the whole world. "

"And this is my story too,"Zuckerberg added. 「ここで私の話もしておきます」とザッカーバーグは付け加えた。

A student in a dorm room connecting one community at a time「寮の部屋にいる学生として一度にひとつのコミュニティをつなぐ」。

「寮の部屋にいる学生」とは「寮生活を送る学生」「学生として寮生活を送りながら」「学生だった私は寮生活を送りながら」の方がわかりやすいです。

「一度にひとつのコミュニティを結ぶ」もわかりにくいので、「ひとつひとつのコニュミティをつなぐ」としました。

and keeping at it until one day we can connect the whole world. 「いつの日か、全世界がつながらるれるまで、頑張り続けます」。

keep at it は「その調子でがんばる」というような意味。「がんばる」「頑張り続ける」だとくだけた感じなので、もう少し、格調高く、「努力を続けています」「打ち込み続けます」などを考えました。

(4) Such lofty talk now comes naturally to Zuckerberg, a 33-year-old billionaire who has committed to giving away nearly all of his wealth."

Such lofty talk now comes naturally to Zuckerberg, 「このような高尚な話をするのは当然、ザッカーバーグである」が直訳ですが、わかりにくいので、「このような高尚な話がザッカーバーグから出てくるのも当然である」としました。

a 33-year-old billionaire who has committed to giving away nearly all of his wealth. 「33歳の大富豪で、自分の財産のほぼ全てを寄付すると約束した」。

■ 小沢の訳

5月25日、マーク・ザッカーバーグはハーバードに戻ってきた。とは言え、本人はフェイスブックを立ち上げた後、退学している。そのハーバードで、卒業生に向けて「世界中の人が目的を持って生き、格差と戦い、国際社会の絆を揺るぎないものにするかどうかは、皆さんにかかっています」と語った。

「変化はまず地域レベルで始まります。世界的規模の変化でさえ、始まりは小規模です― 私たちのようなごく普通の人間が始めるのです」とフェイスブックのCEOであるザッカーバーグは語った。彼が引き合いに出した卒業生の中には、メキシコ・シティで同性愛結婚を合法化する取り組みを率いた元市長のダヴィッド・ラズ・アズナル、ウガンダの紛争地域で育ち、今は警察官を訓練する任務に就いているアグネス・イゴヤがいた。

「ここで私の話もしておきます」とザッカーバーグは付け加えた。「学生だった私は寮生活を送りながら、ひとつひとつのコミュニティをつないできました。いつの日か、全世界がつながれるように、努力を続けています」。

このような高尚な話がザッカーバーグから出てくるのも当然である。彼は33歳の大富豪でありながら、自分の財産のほぼ全てを寄付すると約束したのだ。


[小沢のコメント]
ザッカーバーグ氏はまだ33歳だったのか、その若さに驚きます。高尚な志を持ち続けて、世界をよりよい方向へ引っ張っていって欲しいです。