第140回 課題文 解説


お待たせしました!

今回は、
アメリカで銃規制を訴える運動が
若者中心に広がった
というニュースです。

2018年2月14日、
フロリダ州の高校で
銃乱射事件が起き、
17名の高校生が犠牲になりました。

犯人は元生徒でした。

今までも
学校を狙った銃乱射事件は
アメリカで多発しています。

米紙ワシントン・ポストの試算によると、
19年前にコロラド州のデンバ―郊外、
コロンバイン高校で
生徒二人が銃を乱射し、
13人が命を落として以来、
21万人以上の学生が
銃撃事件を学内で体験し、
少なくとも131人の生徒や教員が死亡、
負傷者は273人です
(2018年4月末現在)。

その度に抗議行動が起きていますが
銃社会の厚い壁に阻まれてきました。

今回は何か違います。

幼い頃から、
学内の銃撃戦を想定して
銃撃された場合の対策訓練を受けて育ってきた
「ジェネレーション・コロンバイン」
(コロンバイン世代)
の若者たちが
変化を起こそうとしています。

銃撃事件の起きた学校の
高校生たちを中心に
"March For Our Lives"
「私たちの命のための行進」という
銃規制を求める動きが国内外に広がり、
「規制強化は無理」と
半ば諦めかけていた大人たちをも
突き動かしています。

3月24日の抗議行動も
単なる追悼イベントというより、
安全な社会を作りたいとの訴えが強く、
具体的には
「安全な社会を実現してくれる
政治家を選ぼう」と
選挙での投票を呼びかけました。

米国では
憲法が国民の銃を持つ権利を認め、
自らの身の安全や命は
自分の手で守るという権利を
貫いています。

また、米国には
全米ライフル協会(NRA)という
巨大組織があり、
銃を持つ権利を主張しています。

トランプ大統領も
高校生たちの行動を称えつつ、
銃規制には消極的で
「学校の安全のために
教師に銃を持たせればいい」
と言っています。

銃規制への道は遠いようですが、
変化に向けて
一歩動いたことは確かです。
粘り強く、訴え続けて欲しいです。

さて、訳出のヒントですが
新聞記事なので
全体に「だ・である」調にしました。

わかりにくい箇所は
すっと読んで理解できるように
適宜、言い換えました。

今回も千田良一さんが
応募してくださり、
英語でコメントをくださいました。

以下、千田さんのコメントです。
***************

Gun control is an old and new problem
for the Unites States.
Basically, it is the issue of the U.S. Constitution,
which says every American citizen
has the right to "keep and bear arms".
Politically, the National Rifle Association
is a strong "gun lobby".

Although some states in the U.S.
enforce stricter gun laws,
they restrict the sale and use of machine guns only,
not handguns.
It looks like a perpetual battle
for the U.S. citizens.

In Japan, as I understand,
the success in banning the possession
and use of weapons is
attiributed to the two historic achievements:
the "Sword Hunt(刀狩)"
by Toyotomi Hideyoshi
and
the "Sword and Firearm Law(鉄砲取締)"
by the Meiji government.

Thanks to them,
we can enjoy greater safety in Japan.

***************

千田さん、どうもありがとうございました。

私の訳例も載せますが、
あくまでも一例として
参考にして下さい。

尚、エマ・ゴンザレスさんのスピーチは
ここで見られます。

◆ 第140回 課題文

 米フロリダ州の高校で起きた銃乱射事件に対し、高校生を中心に、銃規制強化を求める抗議デモが全米規模で行われました。それを伝えるニュースを訳して見ましょう。高校生たちの熱意が伝わるように訳を工夫してみてください。


(1) Chanting "never again," hundreds of thousands of young Americans and their supporters answered a call to action from survivors of the recent Florida high school massacre and rallied across the United States on March 24 to demand tighter gun laws.

(2) In some of the largest U.S. youth demonstrations in decades, protesters called on lawmakers and President Trump to confront the issue. Voter registration activists fanned out in the crowds, signing up thousands of the nation's newest eligible voters.

(3) At the largest "March For Our Lives" protest, demonstrators jammed Washington's Pennsylvania Avenue where they listened to speeches from survivors of the Feb.14 mass shooting at Marjory Stoneman Douglas High School in Parkland, Florida.

(4) There were sobs as one teenage survivor, Emma Gonzales, read the names of the 17 victims and then stood in silence. Tears ran down her cheeks as she stared out over the crowd for the rest of a speech that lasted about six minutes and 20 seconds, the time it took for the gunman to slaughter them.

 [ 出典: 2018年4月8日付け Asahi Weekly ]

[語句のヒント]
(2) confront the issue この問題に敢然と立ち向かう / votor registration activists fanned out 有権者に選挙登録を働きかける活動家たちが散らばった (3) jammed 詰めかけた / Marjory Stoneman Douglas High School in Parkland, Florida フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校 (4)Emma Gonzales エマ・ゴンザレス


(1) Chanting "never again," hundreds of thousands of young Americans and their supporters answered a call to action from survivors of the recent Florida high school massacre and rallied across the United States on March 24 to demand tighter gun laws.

Chanting "Never Again,"「ネバー・アゲン(二度と繰り返すな)」とシュプレヒコールを上げながら。

Never Againは「二度と繰り返さない」「二度とごめんだ」という強い反対の意志を表すことばで、戦争反対などを訴える時のスローガンとしてよく使われます。

hundreds of young Americans and their supporters answered a call to action from survivors of the recent Florida high school massacre and rallied across the United States on March 24 to demant tigher gun laws.「数十万人ものアメリカの若者と支持者たちが、フロリダ州の高校で最近起きた銃乱射事件の被害者からの呼びかけに答え、3月24日、銃規制強化を要求するために、全米で集会を開いた」。

文頭の Chanting から文尾の laws. まで、長文で、そのまま訳すとだらだらと読みにくくなるため、ふたつに切りました。まず、前半を「『ネバー・アゲン(二度と繰り返すな)』とシュプレヒコールを上げながら、数十万人ものアメリカの若者と支持者たちが立ち上がった」と「立ち上がった」という動詞を加えてひとつの文にしました。

後半は、「3月24日、フロリダ州の高校で最近起きた銃乱射事件の被害者からの呼びかけに答え、銃規制強化を要求する集会を全米規模で開いたのである」としました。

(2) In some of the largest U.S. youth demonstrations in decades, protesters called on lawmakers and President Trump to confront the issue. Voter registration activists fanned out in the crowds, signing up thousands of the nation's newest eligible voters.

In some of the largest U.S. youth demonstrations in decades, 「アメリカの若者のデモ行進としては過去数十年で最大規模のもので」。

some of the largest〜「最大の〜のうちのいくつか」は、one of +最上級で「最も〜のうちなひとつ」という表現と似たようなものだろうと解釈しました。

Tokyo is one of the largest cities in the world.「東京は世界でも有数の大都市である」「世界屈指の大都市である」のように、one of the+最上級は「有数の」「屈指の」と訳されることが多いですが、ここではそう訳すと変。よって、some of the largest〜 は「〜としては最大規模のもの」としました。

protesters called on lawmakers and President trump to confront the issue. 「抗議者たちは議員とトランプ大統領に対しこの問題に敢然と立ち向かうように要求した」。

lawmaker とは「法律を作る人」、「立法府の議員」を指します。「議員」でもいいですが、アメリカでは政治家のことを lawmaker と呼ぶことが多いので、「政治家」としました。

Voter registration activists fannet out in the crowds, 「有権者に選挙登録を働きかける活動家がデモ参加者の間に散らばり」。

signing up thousands of the nation's newest eligible voters. 国の新たな有権者数千人と契約した」。

これだと意味不明。sign up は「〜と契約する」「〜を加入させる」という意味。この文の意味は、選挙登録の呼びかけに答えて、数千人が新たな有権者登録をした」という意味だろうと解釈しました。

アメリカでは日本と同様、18歳から投票できますが、事前に有権者登録をしておかねばなりません。今秋、連邦議会の中間選挙が行われ、2020年には大統領選挙があります。政治に無関心だった若者が選挙に行って、銃規制に消極的な政治家を落選させれば、銃を巡る状況も変わるでしょう。

(3) At the largest "March For Our Lives" protest, demonstrators jammed Washington's Pennsylvania Avenue where they listened to speeches from survivors of the Feb.14 mass shooting at Marjory Stoneman Douglas High School in Parkland, Florida.

At the largest "March For Our Lives" protest, 「最大のマーチ・フォ・アワ・ライブズ(私たちの命のための行進)」抗議デモで」。

the largest とあるので「全米規模で行われた抗議デモの中でも最大のものが」という意味でしょう。千田さんは「最大級となった」と訳されていて、いいと思います。

"March For Our Lives"とはフロリダ州の銃乱射事件の被害者の高校生たちが立ち上げた抗議デモのことだそうです。銃規制を求める動きは今までもありましたが、今までと決定的に違うのは選挙権を持たない子どもたちが「子どもの命を守れ」と呼びかけているところです。

demonstrators jammed Washington's Pensylvania Avenue 「デモ参加者たちは首都ワシントンのペンシルベニア大通りに結集し」

where they listened to speeches from survivors of the Feb.14 mass shooting at Marjory Stoneman Douglas High School in Parkland, Florida. 「2月14日、フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で起きた銃乱射事件の被害者たちが訴えるスピーチに耳を傾けた」。

survivor は「生き残った人」。最近は、原爆被害に遭って生き残った「被爆者」のことを A-bomb survivor と表すので、私は「被害者」としましたが、千田さんは「生存者」とされています。「生存者」の方がわかりやすいです。

(4) There were sobs as one teenage survivor, Emma Gonzales, read the names of the 17 victims and then stood in silence. Tears ran down her cheeks as she stared out over the crowd for the rest of a speech that lasted about six minutes and 20 seconds, the time it took for the gunman to slaughter them.

There were sobs as one teenage survivor, Emma Gonzales, read the names of the 17 victims and then stood in silence. 「被害者のひとりである十代のエマ・ゴンザレスさんが17名の犠牲者の名前を読み上げ、その後、黙とうを捧げるとすすり泣きが聞こえた」。

ニュース報道では、英語の場合、一般人の名前でも Emma Gonzales のように敬称なしで書かれますが、日本語表記では、一般人に対して「〜さん」などの敬称をつけます。よって、Emma Gonzales は「エマ・ゴンザレスさん」としました。

sob は「すすり泣き」「むせび泣き」など。「泣きじゃくる声が聞こえた」でもいいでしょう。

Tears ran down her cheeks as she stared out over the crowd for the rest of a speech that lasted about six minutes and 20 seconds, 「約6分20秒に及んだスピーチの残りの時間、集まった人たちを見詰めながら、ゴンザレスさんのほほに涙が伝った。

「ほほに涙が伝った」のところ、千田さんは「涙が彼女の頬を伝って次から次へと流れ出た」とされていて、臨場感が出ています。

ここは、わかりにくかったです。スピーチの残りの約6分20秒とは何なのか。黙とうを含めたスピーチ全部が6分20秒なのか、スピーチ後の黙とうが6分20秒なのか。

グーグル検索してみると、ゴンザレスさんは17名の犠牲者の名前を読み上げた後、沈黙しました。沈黙が続いて、会場の緊迫感が最高潮に達した時、アラームが「ピピピ」と鳴り、「私がここに出てきてから6分20秒経ちました」と結んでいます。沈黙そのものは4分強でした。

よって、次のように書き換えました。「スピーチの後の黙とうを含めて、スピーチは約6分20秒に及び、集まった人たちを見詰めながら、ゴンザレスさんのほほに涙が伝った」。

the time it took for the gunman to slaugher them 「その時間は、犯人が銃撃にかけた時間でもあった」。

さて、私は stand in silence を「追悼する」の意味にとりましたが、実際の映像では、ゴンザレスさんは追悼をしているというより、真っすぐに前を見て立ち続けています。だから、ここは千田さんのように「沈黙」と訳した方がいいと思います。

■ 千田良一さんの訳

スローガンが繰り返された、「もう二度と」と。数十万人の若いアメリカ人とその支持者たちが、先日起こったフロリダ州の高校での大虐殺事件を生き延びた人々からの呼びかけに答え、3月24日に米国全土でデモを行い、更に厳しい銃規制法を要求した。

数十年間で最大規模となった、この米国の若者のデモの一部では、反対を訴える人々がその問題に立ち向かうことを議員やトランプ大統領に要求した。有権者に選挙登録を働きかける活動家たちは、群衆の中に散らばり、米国全土で新規有権者数千人を入会登録した。

最大級となった「私たちの命のための行進」の抗議集会で、デモ隊は、ワシントンDCのペンシルベニア・アベニューを満たし、フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で2月14日に起こった銃乱射事件の生存者たちのスピーチを聴いた。

十代の生存者の一人、エマ・ゴンザレスが17人の犠牲者の名前を読上げたときにすすり泣きが聞こえた。読み終えた後、彼女は、声もなく立ち尽くした。沈黙は、銃を持った犯人が大量殺りくを行った時間と同じ、約6分20秒続いた。そのスピーチの残りの時間、彼女は群衆を見渡し、その間、涙が彼女の頬を伝って次から次へと流れ出た。


[千田さんのコメント]
 上記掲載。

■ 小沢の訳

「ネバー・アゲン(二度と繰り返すな)」とシュプレヒコールを上げながら、数十万人ものアメリカの若者と支持者たちが立ち上がった。3月24日、フロリダ州の高校で最近起きた銃乱射事件の被害者からの呼びかけに答えて、銃規制強化を要求する集会を全米規模で開いたのである。

アメリカの若者のデモ行進としては過去数十年間で最大規模のもので、抗議者たちは、政治家たちとトランプ大統領に対し、この問題に敢然と取り組むようにと要求した。有権者に選挙登録を呼びかける活動家がデモ参加者の間に散らばり、呼びかけに答えて、全米で数千人が新たな有権者登録をした。

「マーチ・フォ・アワ・ライフ(私たちの命のための行進)」抗議デモとして最大のものが、首都ワシントンのペンシルベニア大通りで行われた。デモの参加者たちはこの場で、2月14日、フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で起きた銃乱射事件の被害者たちが訴えるスピーチに耳を傾けた。

被害者のひとりである、十代のエマ・ゴンザレスさんが17名の犠牲者の名前を読み上げ、その後、黙とうを捧げると、すすり泣きが聞こえた。スピーチの後の黙とうを含めてスピーチは約6分20秒に及び、集まった人たちを見詰めるゴンザレスさんのほほに涙が伝った。その時間は、犯人が銃撃にかけた時間でもあった。

[小沢のコメント]
ゴンザレスさんの毅然とした表情に圧倒されました。銃撃が行われていた6分20秒間、どんなに怖かったでしょう。若者たちを中心に状況が少しでも良い方に変わりますようにと願います。