第142回 課題文 解説


お待たせしました!

今回は、
サッカーの話題です。

2018年6月14日から7月15日まで、
ロシアで開催されたワールドカップでは
西野監督率いる
日本チームが
「グループリーグ突破も困難」と
言われた下馬評をはねのけ、
ベスト16進出という大健闘を成し遂げました。

ベスト8進出をかけた
対ベルギー戦では、
世界ランキング61位の日本が
世界ランキング3位のベルギーと
互角に戦い、
一時は日本が2点先行という
夢のような展開で、
破れたとは言え、大健闘でした。

優勝はフランスで
5大会ぶり2回目の栄冠を手にしました。

フランスチームの要となった
エムバペ選手は
カメルーン出身の父と
アルジェリア人の母の間に生まれた
移民の背景を持つ選手です。

今回の大会でも
移民など
多様な背景を持つ選手の活躍が目立ちましたが、
それを熱い思いで眺めている
子どもたちが
いることがわかりました。

ワールドカップのような
華やかな国際舞台とは程遠い
紛争地や難民キャンプの空き地でも、
子どもたちが
夢中になってサッカーをしています。

今回、取り上げたの記事の中でも、
(課題文では割愛しましたが)
リビアのベンガジにある
爆撃され廃墟と化した学校のグランドで
サッカーをする少年が
「サッカーをして、ゴールを決めた時は
ふだんの生活に戻った気がする」と
語っています。

ボールひとつあれば
どんな場所でも熱中できるスポーツ、
サッカーの魅力を
改めて感じさせる記事でした。

スポーツ記事は
記者が楽しんで書いていることが多く、
文章もスポーツ同様に勢いがあり、
表現もカラフルです。

今回の課題もスポーツ記事なので
勢いがある分、
わかりにくい箇所があります。

わかりにくい箇所は
適宜、ことばを補って
読んですっと意味が通る訳文を
目指しました。

今回も千田良一さんが
応募してくださり、
以下の英語のコメントをくださいました。

***************

I watched all the four games of the Japanese squad
that were broadcast live from Russia.
I was most impressed
by the offside trap set up
by the Japanese against the Senegalise.
https://football-action.info/?p=4694 

To me, that was the most beautiful scene
showing the "Japanesey" attribute
(「日本人に元々備わっている」特性)
called "wa"(和)
or harmonic unity.

I believe among the 32 participating teams
it was perhaps a one-and-only strategy
workable by the Japanese players.
I think it can be said that
the world of "manga" has become a reality.

***************

千田さん、どうもありがとうございました。

私の訳例も載せますが、
あくまでも一例として
参考にして下さい。

◆ 第142回 課題文

 サッカー・ワールドカップが開幕し、世界中が開催地のロシアに注目している最中、ロシアから遠く離れた紛争地や貧民街でも子どもたちがサッカーに熱中しています。サッカーの魅力が伝わるように訳を工夫してみてください。


(1) The eyes of the world will be on Russia through July 15 for the World Cup. But it is in another altogether completely different location where the sport's beating heart can be felt most strongly: on the war-ravaged streets and in poverty-stricken slums where the simple act of scoring a goal transcends the grind of everyday life.

(2) For every goal celebrated by the 32 teams at the quadrennial gathering of soccer's superstars, thousands more will be scored on makeshift pitches in Yemen, Somalia, Gaza and beyond.

(3) They will not be recorded for posterity and replayed thousands of times over. But they will not be forgotten, and the scorer, for a few minutes at least, can dream of being a hero.

(4) "My favorite player is (Argentina's Lionel) Messi. When I score a goal I feel happy and successful, and I'm pleased that my teammates are also happy with me," 14-year-old Mohammed Ali Kargbo said after scoring a goal in Freetown, Sierra Leone.

 [ 出典: 2018年6月24日付け Asahi Weekly ]

[語句のヒント]
(1) transcend grind of everyday life 日々の生活の苦労を超越する (2) makeshift pitches 間に合わせのグラウンド (3) be recorded for posterity 後世のために記録される (4)(Argentina's Lionel) Messi (アルゼンチンのリオネル)・メッシ / Mohammed Ali Kargbo モハメド・アリ・カーボ / Freetown フリータウン ※ シエラレオネ共和国の首都


(1) The eyes of the world will be on Russia through July 15 for the World Cup. But it is in another altogether completely different location where the sport's beating heart can be felt most strongly: on the war-ravaged streets and in poverty-stricken slums where the simple act of scoring a goal transcends the grind of everyday life.

The eyes of the world will be on Russia through July 15 for the World Cup. 「7月15日まで、世界中の目が、ワールドカップの開催地であるロシアに注がれることだろう」。

through〜は「〜までずっと」という意味の前置詞です。

But it is in another altogether completely different location where the sport's beating heart can be felt more strongly 「しかし、そこは、全く違った場所でありながら、このスポーツの興奮がどこよりも強烈に伝わってくる」が直訳。

beating heart は直訳すると「鼓動する心臓」、つまり「心臓の鼓動」のことですが、ここでは「興奮」「胸のときめき」という意味でしょう。

: on the war-ravaged streets and in poverty-stricken slums where the simple act of scoring a goal transcends the grind of everyday life. 「紛争地や貧民街では、ゴールを決めるという単純な行為が日々の生活の苦労を超越する」。

「ゴールを決めるという単純な行為が日々の生活の苦労を超越する」は「ただゴールを決めるだけで、日々の生活の苦労が吹っ飛ぶ」の方がわかりやすいかも。

全部まとめて、「そことはかけ離れていながら、このスポーツの興奮がどこよりも強烈に伝わってくる場所がある。それは紛争地や貧民街だ。そこでは、ただゴールを決めるだけで、日々の生活の苦労が吹っ飛ぶ」として、読みやすくしました。

(2) For every goal celebrated by the 32 teams at the quadrennial gathering of soccer's superstars, thousands more will be scored on makeshift pitches in Yemen, Somalia, Gaza and beyond.

For every goal celebrated by the 32 teams at the quadrennial gathering of soccer's supersters, 「サッカーのスーパースターたちが4年に1度集う祭典で、32のチームに祝福されたそれぞれのゴールに対して」が直訳。

「サッカーのスーパースターたちが4年に一度集う祭典では」は「4年に1度開催されるサッカーのスーパースターたちの祭典では」に変えました。「4年に1度」を文頭に持ってきた方がわかりやすい気がしました。

For every goal celebrated by the 32 teams 「32のチームに祝福されたそれぞれのゴールに対して」の celebrate の訳を考えました。辞書には「祝福する」という意味が載っていますが、日本語として不自然です。もっと他に表現はないものか。よって、ゴールが決まって大歓声が沸き上がっているのだろうと想像し、「32のチームがそれぞれゴールを決めて大歓声が沸き上がるたびに」としました。

thousands more will be scored on makeshift pitches in Yemen, Somalia, Gaza and beyond. 「イエメン、ソマリア、ガザなどにある間に合わせのグランドでも、さらに数千本のゴールが決められている」。

ここは難しかったです。「ワールドカップで決められたそれぞれのゴールにつき、さらに数千ものゴールが決められている」とは、ワールドカップでゴールが決まっている時、別の場所でも、数千カ所でサッカーが行われ、数千本のゴールが決められているということだろうと解釈しました。

よって、「32のチームがそれぞれゴールを決めて嵐のような歓声が沸き上がっている間、イエメン、ソマリア、ガザなどにある間に合わせのグランドでも、ワールドカップのゴールが1本決まるごとに、さらに数千本のゴールが決まっている」としました。

千田さんは、ここの箇所を、すっきりとまとめられています。

それにしても「数千本」とは、ものすごい数です。最初、読んだ時は、地球上の数千の紛争地や貧民街でサッカーをしているのか、そんなにたくさん?と疑問に思いましたが、thousands には「非常に多くの数」という意味もあります。多分、そっちの意味、つまり「非常に多くの数」という意味だろうと解釈しました。よって、「数千本の」を「途方もない数の」に変えました。

(3) They will not be recorded for posterity and replayed thousands of times over. But they will not be forgotten, and the scorer, for a few minutes at least, can dream of being a hero.

文頭の They は goals のこと。They will not be recorded for posterity and replayed thousands of times over. 「ここでゴールを決めても、後世のために記録されるわけでもないし、何度も繰り返し再放送されるわけでもない」。

「後世のために記録される」は、聞き慣れた表現の「後世にまで語り継がれる」としました。

But they will not be forgotten, 直訳すると「(決められた)ゴールは忘れられないだろう」ですが、「ゴールを決めたことは忘れられない体験になるだろう」としました。

and the scorer, for a few minutes at least, can dream of being a hero.「そして、ゴールを決めた選手は、数分間だけでも、自分がヒーローになった夢を見ることができる」。

(4) "My favorite player is (Argentina's Lionel) Messi. When I score a goal I feel happy and successful, and I'm pleased that my teammates are also happy with me," 14-year-old Mohammed Ali Kargbo said after scoring a goal in Freetown, Sierra Leone.

My favorite player is (Argentina's Lionel) Messi. 「(アルゼンチンのリオネル)メッシが大好きな選手なんだ」。

When I score a goal I feel happy and successful 「ゴールを決めた時は、嬉しくて、やったぜという気分になる」。

and I'm pleased that my teammates are also happy with me,「それにチームのみんなも喜んでくれるから、よけいぼくも嬉しくなる」。

14-year-old Mohammed Ali Kargbo said after scoring a goal in Freetown, Sierra Leone. 「14歳のモハメド・アリ・カーボ君は、シエラレオネのフリータウンでゴールを決めた後、こう語った」。

■ 千田良一さんの訳

7月15日まで、世界の目は、ワールドカップが行われるロシアに注がれるだろう。しかし、サッカーというスポーツの鼓動を最も強く感じられるのは、それとはまったく違う対極にある場所・・・戦争で荒らされた通り、貧困に打ちひしがれたスラム街の片隅で、ゴールするという単純な行為が日々の苦悩に勝るのだ。

サッカー界のスーパースターたちが四年に一度、相集い、その32チームによる祝福される一つ一つのゴールに対して、数千本以上のゴールがイエメンやソマリア、ガザやその他、諸々の場所で、間に合わせのピッチ上で生まれている。

それらのゴールは、後世の人々の記憶に残らないだろうし、何千回も繰り返し再生されもしないだろう。だが、忘れられることはない。そのゴールを奪った者は、少なくても数分間ヒーローであることを夢見ることができる。

「僕の好きな選手は(アルゼンチンのリオネル)メッシ。僕は、ゴールするとうれしくてやったーという気持ちになるし、チームメートも一緒に喜んでくれるんだ」と、14歳のモハメド・アリ・カーボ少年が、シエラ・レオネのフリータウンで、ゴールを決めた後、話をしてくれた。

[千田さんのコメント]
 上記掲載。

■ 小沢の訳

7月15日までずっと、世界中の目がワールドカップの開催地であるロシアに注がれることだろう。しかし、そことは全くかけ離れていながら、このスポーツの興奮がどこよりも強烈に伝わってくる場所がある。それは紛争地や貧民街だ。そこではただゴールを決めるだけで、日々の生活の苦労が吹っ飛ぶ。

4年に1度開催されるサッカーのスーパースターたちの祭典で、32のチームがそれぞれゴールを決めて嵐のような歓声が沸き上がっている間、イエメン、ソマリア、ガザなどにある間に合わせのグランドでも、ワールドカップのゴールが1本決まるごとに、さらに途方もない数のゴールが決まっている。

ここでゴールを決めても、後世にまで語り継がれるわけではないし、何度も繰り返し再放送されるわけでもない。しかし、ゴールを決めたことは忘れられない体験になるだろうし、ゴールを決めた選手は、数分間だけでも、自分がヒーローになった夢を見ることできる。

「(アルゼンチンのリオネル)メッシ選手が大好きなんだ。ゴールを決めた時は嬉しくて、やったぜという気分になる。チームのみんなも喜んでくれるから、よけいぼくも嬉しくなる」と、14歳のモハメド・アリ・カーボ君はシエラレオネのフリータウンでゴールを決めた後、こう語った。

[小沢のコメント]
ただ、ボールを蹴って追いかけるだけの何が面白いんだろうと思っていたサッカーへのイメージが変わり、サッカーの魅力を見直しました。サッカーをすることで、紛争地、貧民街でも、子どもたちが夢と希望を持って生きられることがわかりました。