第151回 課題文 解説


お待たせしました!

今回は、
アメリカので発覚した
大がかりな大学不正入学事件を
伝えるニュースです。

2019年3月12日、
マサチューセッツ州の連邦検察は
スタンフォード大学やイェール大学などの
名門大学7校への不正入学に関与した
50名の保護者を起訴したと発表しました。

この中には、
アメリカ人気テレビドラマ
「デスパレートな妻たち」に出演していた
フェリシティ・ハフマンや
同じく人気ドラマ「フルハウス」
に出演していた
ロリ・ロックリンが含まれ
大スキャンダルとして報道されました。

こうしたセレブな親たちは
カリフォルニア州の仲介業者に
多額の資金を渡し、
我が子の不正入学を依頼していました。

不正のやり方は2通りで
ひとつは成績の改ざん、
もうひとつは
スポーツ実績の改ざんです。

アメリカの大学受験では
SATという進学適性検査を
受けねばなりませんが、
仲介業者は
替え玉受験をさせたり
試験業者を買収して
成績に水増しさせていました。

日本で言うなら、
センター試験業者を買収するようなものです。

もうひとつは
大学のスポーツコーチの買収です。
仲介業者は多額の金でコーチたちを買収し
スポーツの実績を捏造していました。

不正入試が横行するということは
アメリカの大学入学を巡っては
非常に厳しい競争が存在するということ。

実力本位の国というイメージとは裏腹に、
実際のアメリカは
大変な学歴社会です。

ロリ・ロックリンの場合、
ボート経験がない娘2人を
スポーツ枠で合格させるため
ボート漕ぎの練習をしている写真を撮影し
選手である「証拠」として提出していました。

多額の寄付をする富裕層が
 大学入学に有利であることは
珍しくもないですが、
今回、画期的だったのは、
賄賂を使っての入学が
違法であると認定されたことです。

今回起訴された50人に限らず、
徹底的に実態を暴露していって欲しいものです。

また、密かに注目されているのが
トランプ・ファミリーで
トランプ大統領自身や
娘のイバンカ氏
娘婿のクシュナー氏にも
大学不正入学の疑惑があり、
ここまで追及の手を伸ばして欲しいものです。

さて、訳出のヒントですが、
今回も新聞記事で
情報が詰まっています。

パッと読んでもわかるように
もっと言えば、
全部読まなくてもわかるくらい
内容を整理して訳出することを目指しました。

今回は
chamy さんが応募してくださいました。

chamy さん、
どうもありがとうございました。

私の訳例も載せますが、
あくまでも一例として
参考にして下さい。

◆ 第151回 課題文

 アメリカで起こった大掛かりな大学不正入学事件を伝える記事を訳してみましょう。人気ドラマ「デスパレートな妻たち」に出ていた女優、フェリシティ・ハフマンや「フルハウス」に出ていたロり・ロックリンも関与したと報道され大騒ぎになりました。いったい何があったのか、わかりやすい訳を工夫してみてください。


(1) Fifty people, including Hollywood stars Felicity Huffman and Lori Loughlin, were charged March 12 in a scheme in which wealthy parents bribed college coaches and other insiders to get their children into some of the most elite schools in the country, federal prosecutors said.

(2) Authorities called it the biggest college admissions scam ever prosecuted by the U.S. Justice Department.

(3) "These parents are a catalog of wealth and privilege," U.S. Attorney Andrew Lelling said in announcing the $25 million (about 2.77 billion yen ) bribery case, code-named Operation Varsity Blues, against 50 people.

(4) The scandal is certain to inflame long-standing complaints that children of the wealthy and well-connected have the inside track in college admissions ― sometimes through large, timely donations from their parents ― and that privilege begets privilege.

 [ 出典: 2019年3月24-31日付け Asahi Weekly ]

[語句のヒント]
 (1) bribe 賄賂を贈る / scheme 陰謀 / federal prosecutors 連邦検察 (2) college admissions 大学入学 / scam = scheme (3) U.S. Attorney Andrew Lelling アンドリュー・レリング米連邦検事 / a catalog of wealth and privilege 富と特権を手にした人たちの一覧 (4) have the inside track 有利な立場にある ※ トラックの内側を走ることから / beget~ ~を 生む 


(1) Fifty people, including Hollywood stars Felicity Huffman and Lori Loughlin, were charged March 12 in a scheme in which wealthy parents bribed college coaches and other insiders to get their children into some of the most elite schools in the country, federal prosecutors said.

これで一文です。長い文なので少しずつ分けました。Fifty people, including Hollywood stars Felicity Huffman and Loli Loughlin, were charge March 12 in a scheme 「3月12日、ハリウットスターのフェリシティ・ハフマンやロリ・ロックリンなど総勢50名が陰謀で起訴された」が直訳。

この scheme は「陰謀」という意味ですが、ここでは賄賂の話なので「収賄」と訳すことにしました。

a scheme の後ろに in which から続く修飾節が続いています。この which は前にある名詞、a scheme のこと。つまり、in which = in the scheme wealth parents bribed college coaches and other insiders to get their chilfren into some of the most elite schools in the country, となります。「その収賄事件では、裕福な親たちが大学のコーチや内部関係者に賄賂を贈って、我が子を国内でも有数のエリート大学数校に入学させた」。

some of the most elite schools in the country「国内で一番のエリート大学のの数校」が直訳で冗長な感じになります。「国内でも有数のエリート大学」「国内でも選りすぐりのエリート大学」とするとすっきりします。

federal prosecutors said 「連邦検察は言った」。

全部まとめて、「連邦検察によると、3月12日、ハリウッドスターのフェリシティ・ハフマンやロリ・ロックリンなど総勢50名が収賄で起訴された。その収賄事件では、裕福な親が大学のコーチや内部関係者に賄賂を贈って、我が子を国内でも選りすぐりのエリート大学に入学させたというものである」。

insiders「内部関係者」は「大学関係者」「大学職員」と言い切ってもいいでしょう。

(2) Authorities called it the biggest college admissions scam ever prosecuted by the U.S. Justice Department.

冒頭の Authorities は権力を持つ機関を表し「当局」と訳されます。ここでは具体的に「検察当局」としました。

「検察当局によると、本件は今まで米国司法省が起訴した中で最大の大学不正入試事件である」。

「最大の大学不正入学」は「米史上最大規模の大学不正入学事件」とすると、かっこよく聞こえます。

(3) "These parents are a catalog of wealth and privilage," U.S. Attorney Andrew Lelling said in announcing the $25 million (about 2.77 billion yen ) bribery case, code-named Operation Varsity Blues, against 50 people.

These parents are a catalog of wealth and privilage, 「この親たちは富と特権のを手にした人たちの一覧です」が直訳。a catalog ということばで、親たちの顔写真がずらっと並んでいる様子がぱっと思い浮かびました。

それで「この保護者リストを見ると、富と特権を手にしたそうそうたる顔ぶれが並んでいます」を思いつき、呆れたという気持がにじみ出るように「この親たちの顔ぶれを見る限り、富と特権を手に入れたそうそうたる面々です」に変えました。

US. Attorney Andrew Lelling said 「アンドリュー・レリング米連邦検事は述べた」。

in announcing the $25 million (about 2.77 billion yen ) bribery case, code-named Operation Varsity Blues, against 50 people. 50人に対し2,500万ドル(約27億7,000万円)の収賄事件、コードネーム「オペレーション・バーシティ・ブルース」を発表するに当たり」。

全部まとめて、「アンドリュー・レリング米連邦検事は、50人を対象に2,500万ドル(約27億7,000万円)の収賄事件、コードネーム「オペレーション・バーシティ・ブルース」を発表するに当たり、「この親たちの顔ぶれを見る限り、富と特権を手に入れたそうそうたる面々です」と語った。

「富と特権を手に入れた」の部分、chamy さんは「富裕層の特権階級の者」とすっきり訳出されています。

Operation Varsity Blues 「オペレーション・バーシティ・ブルース」の「オペレーション」は軍隊用語で「作戦」という意味で用いられます。1991年、米国がイラク戦争で用いた Operation Desert Storm 「砂漠の嵐作戦」が有名。

この「バーシティ・ブルース」というコード名、実は「バーシティ・ブルース」という高校のアメフトチームを舞台にしたアメリカの青春映画から採られています。

varsity blues とは何なのか。varsity には「スポーツの名門チーム」という意味があります。blues は最初、ブルースという音楽のことかと思ったのですが、映画「バーシティ・ブルース」のアメフト選手が青いユニフォームを着ているのが目に留まりました。

するとこれはサッカーの日本代表チームのユニフォームが青色であることから「サムライ・ブルー」と呼ばれているのと同じ「青色」を指すのかも。あえて訳せば「青色名門チーム」でしょうか。(確証が得られなかったので間違っているかもしれませんが)。

結局、コードネーム「オペレーション・バーシティ・ブルース」の後ろに(青色名門チーム作戦、「バーシティ・ブルース」という高校のアメフトチームを舞台にしたアメリカの青春映画より名前を借用)という補足説明をつけ加えました。

作品名について、chamy さんは補足説明をうまく加えられています。

(4) The scandal is certain to inflame long-standing complaints that children of the wealthy and well-connected have the inside track in college admissions ― sometimes through large, timely donations from their parents ― and that privilege begets privilege.

The scandal is certain to inflame long-standing complaints that children of the wealthy and well-connected have the inside track in college admissions 「今回の不祥事は裕福でコネを豊富に持つ家庭の子どもが大学入学で優位だという長年の不満に必ず火をつける」が直訳。

語順を変え、「今までも、裕福でコネを豊富に持つ家庭の子どもが大学入学で優位だという不満が長年くすぶっていたが、今回の不祥事発覚でその不満に一気に火がつくことは必至である」とわかりやすくしました。

「裕福でコネを豊富に持つ家庭の子ども」の部分、chamyさんは「裕福で人脈のある富裕層出身の子供」とうまく訳されています。

sometimes through large, timely donations from their parents 「時には親からの大口のタイミングよい寄付を通じ」。これは「親からの大口寄付がタイミングよく寄せられることもあり」に変えました。

and that privilege begets provilege. 「そして、特権がまた特権を生む」。

この(4)全体を、chamy さんは語順を工夫して、わかりやすい訳文に仕上げておられます。

■ chamyさんの訳

米連邦検事は3月12日富裕層の父兄ら50名を、自身の子供を米国有数のエリート校へ入学させるため大学のコーチや内部の人間に賄賂を贈った疑いで告発したと発表した。関連した人物の中には、米人気ドラマに出演したハリウッド女優のフェリシティ・ハフマンやロリ・ロックリンも含まれていた。

当局によると今回の事件は米司法省に過去に起訴された中で最も大規模な大学不正入学事件だという。


「起訴された人物らは、みな富裕層の特権階級の者です」。アンドリュー・レリング米連邦検事は報告で、今回の2500万ドル(およそ27億7000万円)もの贈賄事件 ― 大学への入学を賭けフットボール試合に挑む高校生と鬼コーチとの攻防を描いた米国映画から「バーシティブルース陰謀事件」と呼ばれる― の50名の容疑者についてこう述べた。

今回のスキャンダルで、裕福で人脈のある富裕層出身の子供は大学入学に関し有利な立場にあるとの長年の鬱積した不満 ― 時に親からの莫大な寄付を通じて利益が利益を生む構造 ― がさらに深まるであろうことは明らかである。

chamy さんのコメント]
 事件の報道なので新聞記事を意識して字面なども気をつけてみました。補足的な修飾の節が多くて日本語にするのが難しかったです。

■ 小沢の訳

連邦検察によると、3月12日、ハリウッドスターのフェリシティ・ハフマンやロリ・ロックリンなど総勢50名が収賄で起訴された。その収賄事件とは、裕福な親たちが大学のコーチや大学職員に賄賂を贈って、我が子を国内でも選りすぐりのエリート大学に入学させたというものである。

検査当局によると、本件は米国司法省が起訴した中では米史上最大規模の大学不正入学事件である。

アンドリュー・レリング米連邦検事は、50人を対象にした2,500万ドル(約27億7,000万円)の収賄事件、コードネーム「オペレーション・バーシティ・ブルース」(青色名門チーム作戦、高校のアメフトチームを舞台にしたアメリカの青春映画「バーシティ・ブルース」より名前を借用)を発表するに当たり、「この親たちの顔ぶれを見る限り、富と特権を手に入れたそうそうたる面々です」と語った。

今までも、裕福でコネを豊富に持つ家庭の子どもが大学入学で有利だという不満が長年くすぶっていたが、今回の不祥事でその不満に一気に火がつくことは必至である。親からの大口寄付がタイミングよく寄せられることもあり、特権がまた更なる特権を生むのだ。

[小沢のコメント]
 今回一番手こずったのはコードネームの訳し方でした。アメリカの映画やドラマに詳しいと有利だったかもしれません。それにしても、今回の起訴は米史上最大規模とは言え、まだ氷山の一角という気がします。富も特権も持たない庶民はもっと怒らねば。