第153回 課題文 解説


お待たせしました!

今回は、
宇宙のブラックホールの姿を
写真にとらえたという
天文学上、
画期的なニュースです。

ブラックホールと言っても
「黒い穴」ではなく、
とてつもなく重たい天体です。

あまりに重いので
周囲の全てのものを強い力で引き寄せ
光でさえ
ブラックホールに近づいたら
闇と化してしまうことから
「穴」のイメージが持たれています。

今回、撮影に成功した
M87銀河のブラックホールは
質量が太陽の65億倍、
地球から5500万光年のかなたにあります。

2017年4月、
スペイン、アメリカ、ハワイ、南極、チリなどの
8台の電波望遠鏡をネットワーク化して
地球全体の大きさの望遠鏡を
仮想的に作りました。

直径1万キロの
超巨大パラボラアンテナに見立て
いっせいに
4日間にわけて撮影したのです。

「暗い」ブラックホールが
どうやって撮影できたかというと、
周辺に引き寄せられた
ガスなどが明るく光り、
この光と対照的に
ブラックホールが影のように
浮かび上がるのです。

撮影したデータは望遠鏡一台につき
一日約350テラ(テラは約1兆バイト)。
大き過ぎて通信網で送れないので
人が運んで持ち寄り、
2年かけてコンピュータ解析し、
写真を作りました。

その結果が
例のドーナツのような写真です。

ドーナツの穴に当たる
中心の黒い部分がブラックホールです。
やっぱり「黒い穴」にしか見えませんが…。

ブラックホール研究が幕を開けたのは
1916年。
アインシュタインの
一般相対性理論により
「巨大な質量が集中する天体では、
周囲に事象の地平面にあたる境界線ができる」
と予想されたものの、
当初、科学者たちは
ブラックホールが実際に存在するとは
思っていませんでした。

今回の撮影が
いかに衝撃的な出来事だったか
わかります。

これより、
ブラックホールは
撮影可能な天体となりました。

さて、
訳出のヒントですが、
ふだん馴染みのない宇宙の話なので、
知識がなくても
読んでわかるような訳文を
目指しました。

今回は応募者がなかったので
私の訳例だけ載せます。

あくまでも一例として
参考にして下さい。

尚、今回撮影された
ブラックホールの写真は
ここで見られます。

◆ 第153回 課題文

 国際科学チームが巨大ブラックホールの撮影に成功したというニュースを訳してみましょう。ブラックホールとは何か、わかりやすい訳文を考えてください。


(1) Using a global network of telescopes to see "the unseeable." an international scientific team on April announced a milestone in astrophysics ― the first-ever photo of a black hole ― in an achievement that validated a pillar if science put forward by Albert Einstein more than a century ago.

(2) Black holes are monstrous celestial entities exerting gravitational fields so vicious that no matter or light can escape. The photo of the black hole at the center of Messier 87, or M87, a massive galaxy in the relatively nearby Virgo galaxy cluster, shows a glowing ring of red, yellow and white surrounding a dark center.

(3) The research was conducted by the Event Horizon Telescope(EHT) project, an international collaboration begun in 2012 to try to directly observe the immediate environment of a black hole using a global network of Earth-based telescopes. The announcement was made in simulataneous news conferences in Washington, Brussels, Santiago, Shanghai, Taipei and Tokyo.

 [ 出典: 2019年4月21日付け Asahi Weekly ]

[語句のヒント]
 (1) astrophysics 天体物理学 / validated a pillar of science 科学理論のひとつの柱の正当性を証明した (2) monstrous celestial entities 巨大な天体 / exerting gravitational fields so vicious that 強烈に強い重力場を放っているので / Virgo galaxy cluster おとめ座銀河団


(1) Using a global network of telescopes to see "the unseeable" an international scientific team on April announded a milestone in astrophysics 「4月、国際科学者チームは「見えないもの」を見るための世界規模の望遠鏡ネットワークを駆使して、天体物理学上、重要な通過点となる出来事を発表した。

milestone は「一里塚」という意味が辞書に出ています。「一里塚」ではわかりにくいので「重要な通過点となる出来事」と訳しました。ネットで検索すると「より大きな目標を達成する途中にある、重要な中間目標」とありました。10キロのダイエット目標なら、2,5キロ減らす毎にmilestone に到達したとも言えるそう。

語源的には、道路の距離を示すために、1マイル毎に標石を置く昔の習慣から来たそうです。そう言えば、アメリカでは距離を表す単位として、キロでなくマイル(1,609)を使用します。

the first-ever photo of a black hole 「初のブラックホール写真」ですが「初のブラックホール撮影」の方がわかりやすいです。

in an achievement that validated a pillar if science put forward by Albert Einstein more than a century ago.「一世紀以上前にアルバート・アインシュタイ
ンが提唱した科学理論の柱のひとつの正当性を証明した成果において」が直訳。

これでは直訳調なので、「今回の成果により、一世紀以上前にアルバート・アインシュタインが提唱した科学理論の柱のひとつが正しかったと証明された」に変えました。

(2) Black holes are monstrous celestial entities exerting gravitational fields so vicious that no matter or light can escape. The photo of the black hole at the center of Messier 87, or M87, a massive galaxy in the relatively nearby Virgo galaxy cluster, shows a glowing ring of red, yellow and white surrounding a dark center.

Black holes are monstrous celestial entities exerting gravitational fields so vicious that no matter or lightcan escape. 「ブラックホールは巨大な天体であり、強烈に強い重力場を放っているので、いかなる物質も光も脱出することができない」。

The photo of the black hole at the center or Messier 87 orM87, a massive galaxy in the relatively nearby Virgo galaxy cluster, 「おとめ座銀河団の比較的近くにある巨大銀河、M87の中心にあるブラックホールの写真は」。

M87はおとめ座にある楕円銀河として知られています。

shows a glowing ring of red, yellow and white surrounding a dark center.「暗い中心を囲む赤、黄、白の輝く環を示している」。

これだと直訳調なので、「写真には~が写っている」と変えました。

(3) The research was conducted by the Event Horizon Telescope(EHT) project, an international collaboration begun in 2012 to try to directly observe the immediate environment of a black hole using a global network of Earth-based telescopes. The announcement was made in simultaneous news conferences in Washington, Brussels, Santiago, Shanghai, Taipei and Tokyo.

The research was conducted by the Event Horizon Telescope(EHT) project,「その研究は「イベント・ホライズン・テレスコープ(事象の地平線・望遠鏡)というプロジェクト(EHT)が行ったもので」。

an international collaboration begun in 2012「2012年に開始された国際共同作業である」。このbegun は過去分詞でinternational collaboration を修飾しています。

to try to directly observe the immediate environment of black hole 「ブラックホールの周辺を直接見ようとして」。

using a global network of Earth-based telescopes. 「地球に設置した複数の望遠鏡の世界規模のネットワークを使って」。

実際は、南極、欧州、米国などにある8台の望遠鏡をつないで地球規模の大きさの望遠鏡を仮想的に作り撮影されました。

長い文章なので、ふたつに分けて、次のようにしました。「撮影を行ったのは、イベント・ホライズン・テレスコープ(事象の地平線・望遠鏡)というプロジェクトで、2012年に開始された国際共同作業である。ブラックホールの周辺を直接見ようとして、地球の複数の場所に設置した望遠鏡を世界規模のネットワークでつないで撮影された」。

The announcement was made in simultaneous news conferences in Washington, Santiago, Shanghai, Taipei and Tokyo.「発表は、ワシントン、サンチャゴ、上海、台北、東京での同時記者会見の席上で行われた」。

■ 小沢の訳

4月、国際科学者チームは「見えないもの」を見るために国際的な望遠鏡ネットワークを駆使して、天体物理学上、重要な通過点となる出来事を発表した。それは初のブラックホール撮影である。今回の成果により、一世紀以上前にアルバート・アインシュタインが提唱した科学理論の柱のひとつが正しかったと証明された。

ブラックホールは巨大な天体であり、強烈に強い重力場を放っているので、いかなる物質も光も脱出することができない。おとめ座銀河団の比較的近くにある巨大銀河、M87の中心にあるブラックホールの写真には、暗い中心を囲む赤、黄、白の輝く環が写っている。

撮影を行ったのは「イベント・ホライズン・テレスコープ」(事象の地平線・望遠鏡)というプロジェクトで、2012年に開始された国際共同作業である。ブラックホールの周辺を直接見ようとして、地球の複数の場所に設置した望遠鏡を世界規模のネットワークでつないで撮影された。発表は、ワシントン、サンチャゴ、上海、台北、東京での同時記者会見の席上で行われた。

[小沢のコメント]
 スケールの大きな話なので、訳しつつピンとこないところもありました。訳し終えても、ピンときてないのですが、たまには宇宙の話もいいでしょう。