第156回 課題文 解説


お待たせしました!

今回は、
ひとり結婚式(ソロ・ウェディング)
の話題です。

結婚はしないけど、
結婚式は挙げる女性が登場しています。

国勢調査によると
1990年代半ばには
50歳まで未婚の日本人女性は
20人に一人でした。

しかし、2015年の統計では
その数字は劇的に変化し、
7人に一人が未婚となっています。

35歳から39歳までの女性について言えば
割合はさらに高く、
およそ4人に一人が未婚です。

女性が結婚したがらない理由は
仕事をして、経済力を持つ女性が増え、
結婚して
家事、育児の担い手になる生き方に
魅力を感じなくなっていることが
大きな要因だと言われます。

独身に限らず、
おひとり様女性に特化した
新ビジネスも数々登場しています。

独身女性向けのマンション物件、
女性の一人旅ツアー、
女性一人客用レストラン
などはすっかり定着しました。

結婚しなくても、
写真スタジオで
ウェディングドレスを着て
ソロ・ウェディングのポートレートを
撮影するサービスも
人気があります。

ただ、
ひとり結婚式という企画は
目新しく、
興味を持って読みました。

今回、記事に登場した
ハナオカ・サナエさんは
花屋に勤めており、
自活できるだけの
経済力を持っています。


31歳という年齢も
揺れ動く年頃です。

仕事が充実していれば
わざわざ結婚する必要がない
と考えるのも
自然な流れかもしれません。

でも、
ウェディングドレスは着たい、
結婚式はしたいという気持も
女心として捨てがたいものなのでしょう。

男性の未婚率も上がっていますが、
ひとり結婚式をして
タキシードを着たいという感覚は
男性にはなさそうです。

さて、
訳出するに当たっては、
わかりにくい箇所は
適宜、ことばを補って
すっと読んでわかることを目指しました。

今回は応募者がなかったので
私の訳例だけ載せます。

あくまでも一例として
参考にして下さい。

◆ 第156回 課題文

 結婚したがらない日本人女性が増えている中で、ユニークな結婚式を紹介した記事を訳してみましょう。女性の本音が伝わるように訳を工夫してみてください。


(1) The bride wore a birthday cake of a dress, with a scalloped-edged bodice and a large hoop skirt. Moments before the wedding began, she stood quietly on a staircase, waiting to descend to the ceremony. "Wow," she thought. "I'm really doing this."

(2) This was no conventional wedding to join two people in a matrimony. Instead, a group of nearly 30 friends gathered in a banquet room in Tokyo to witness Sanae Hanaoka, 31, as she performed a public declaration of her love ― for her single self.

(3) "I wanted to figure out how to live on my own, "Ms. Hanaoka told the group, standing alone on a stage as she thanked them for attending her solo wedding. "I want to rely on my own strengh."

(4) The percentage of women who work in Japan is higher than ever, yet cultural norms have not caught up: Japanese wives and mothers are still expected to bear the brunt of the housework, child care and help for their aging relatives."

 [ 出典: 2019年9月1日付け The New York Times International Weekly ]

[語句のヒント]
 (1) scallop-edged ホタテ貝の縁取りがされた / bodice 胴着  (4) brunt 負担


(1) The bride wore a birthday cake of a dress, with a scalloped-edged bodice and a large hoop skirt. Moments before the wedding began, she stood quietly on a staircase, waiting to descend to the ceremony. "Wow," she thought. "I'm really doing this."

The bride wore a birthday cake of a dress, with a scalloped-edged bodice and a large hoop skirt. 「花嫁はドレスのバースデーケーキを来ていた、ホタテ貝の縁取りがされた胴着とフープスカートがついている」が直訳。

まず「ドレスのバースデーケーキ」とは何だろうと悩みました。「胴着の裾がホタテ貝模様で縁取りされていて、スカートが大きくふくらんでいる」と後ろにあるので、地味なドレスでないことは確か。タレントでグルメリポーター、彦摩呂氏の口調で「まるで、ドレスのバースデーケーキや~」というせりふが浮かんできました。

悩んだ末、「バースデーケーキを着ているのかと見紛うようなドレス」としました。

with a scalloped-edged bodice and large hoop skirt. 「ホタテ貝の縁がついた胴着」の意味がわかりにくいですが、実際に、ホタテ貝のような半円形を重ねた縁取りのデザインがあるそうです。ネット検索すると「スカラップ縁取り」と出ていました。女性の喜びそうな、かわいらしいデザインです。

hoop skirt 「フープスカート」とは、中世以降の欧米の上流階級で、女性が着用した、針金のフープ(輪)を用いてふくらませたスカートのこと。

全部まとめて、「花嫁はバースデーケーキを着ているのかと見紛うようなドレスをまとっていた。胴着の裾はスカラップ(ホタテ貝)模様の半円を重ねて縁どられ、スカートはフープ(輪)で大きくふくらんでいる」としました。

Moments before the wedding began, she stood quietly on a staircase, 結婚式が始まる直前、花嫁は静かに階段の上に立ち」。

waiting to descend to the ceremony.「式場に降りていくのを待つ」。

"Wow," she thought . "I'm really doing this." 「まあ、私ったら。本当にこんなことをやってるわ」と花嫁は思った。

「本当にこんなことやってるわ」は「とうとうやってしまったわ」でも臨場感があっていいかも。

「思った」は、「感慨無量である」に変え、ドラマチックな表現にしました。

(2) This was no conventional wedding to join two people in a matrimony. Instead, a group of nearly 30 friends gathered in a banquet room in Tokyo to witness Sanae Hanaoka, 31, as she performed a public declaration of her love ― for her single self.

This was no conventional wedding to join two people in matrimony. 「これは結婚においてふたりを結びつける従来の結婚式とは全く違う」が直訳。これだとわかりにくいので、「従来の結婚は、ふたりの人物を結びつけるものだが、この結婚式は全く違う」と変えました。

Instead, a group of nearly 30 friends gathered in a banquet room in Tokyo to witness Sanae Hanaoka, 31, 「それどころか、30人近い友人たちが、東京の披露宴会場に集まり、花嫁であるハナオカ・サナエさん(31歳)の結婚式に参列した」。

as she performed a public declaration of her love ― for her single self. 「彼女が人前で愛―独身である自分への愛を宣誓する時」が直訳。

全部まとめて、「それどころか、30人近い友人たちが、東京の披露宴会場に集まり、ハナオカ・サナエさん(31歳)の結婚式に参列する中で、ハナオカさんは公に愛を誓ったのだが、その愛は独身である自分に対してだった」としました。

(3) "I wanted to figure out how to live on my own, "Ms. Hanaoka told the group, standing alone on a stage as she thanked them for attending her solo wedding. "I want to rely on my own strengh."

I wanted to figure out how to live on my own. 「どうやってひとりで生きていくのかを答えを出したかった」。

Ms. Hanaoka told the group, standing alone on a stage 「ハナオカさんは、ひとりで舞台に立って友人たちに語った」。

as she thanked them for attending her solo wedding. 「ひとり結婚式に出席してくれたことを感謝しつつ」。

I want to rely on my own strengh. 「私は自分自身の力に頼りたいです」。これでもいいですが、もっと自然な訳として「誰にも頼らずに生きていきたいです」を思いつきました。

(4) The percentage of women who work in Japan is higher than ever, yet cultural norms have not caught up: Japanese wives and mothers are still expected to bear the brunt of the housework, child care and help for their aging relatives."

The percentage of women who work in Japan is higher than ever, 「日本で働く女性の割合は上がっているが」

yet cultural norms has not caught up. 「文化規範はそれに追いついていない」が直訳。これだとわかりにくいので、「男は仕事、女は家事という文化規範はその変化に追いついていない」とことばを付け加えました。

Japanese wives and mothers are still expected to bear the brunt of the housework, child care and help for their aging relatitives. 「日本人の妻や母親は「家事、子育て、年老いた家族の世話などの負担を担うことを期待されている」。

「負担を担うことを期待されている」も、もう少しわかりやすく「負担を担って当たり前と思われている」としました。

■ 小沢の訳

花嫁はバースデーケーキを着ているのかと見紛うようなドレスをまとっていた。胴着の裾はスカラップ(ホタテ貝)模様の半円を重ねて縁どられ、スカートはフープ(輪)で大きくふくらんでいる。結婚式が始まる直前、花嫁は静かに階段の上に立ち、式場に降りていくのを待ちながら、感慨無量である。「まあ、私ったら。とうとうやってしまったわ」。

従来の結婚は、ふたりの人物を結びつけるものだが、この結婚式は全く違う。それどころか、30人近い友人たちが東京の披露宴会場に集まり、ハナオカ・サナエさん(31歳)の結婚式に参列する中で、ハナオカさんは公に愛を誓ったのだが、その愛は独身である自分に対してだった。

「どうやってひとりで生きていくか、答えを出したかったんです」。ハナオカさんはひとりで舞台に立って友人たちに語り、彼女のひとり結婚式に出席してくれたことを感謝した。「誰にも頼らずに生きていきたいと思います」。

日本で働く女性の割合は上がっているが、男は仕事、女は家事という文化規範はその変化に追いついていない。日本人の妻や母親は、家事、子育て、年老いた家族の世話などの負担を担って当たり前と思われている。

[小沢のコメント]
今回はウェディングドレスの描写の訳に苦労しました。どんなドレスだったか、見てみたいです。新郎はいなくても、ウェディングドレスを着て、美しい自分の写真を残すことも楽しみのひとつでしょう。ひとり結婚式といっても、悲壮感はなく、やりたいことはやっちゃえ!というハナオカさんの心意気にはたくましさとユーモアを感じます。