第166回 課題文 解説


お待たせしました!

今回は、
映画「風と共に去りぬ」を
巡る話題です。

1936年に出版された
マーガレット・ミッチェルの小説
『風と共に去りぬ』
("Gone with the Wind")をもとに
映画化された作品で、
1949年のアカデミー賞も受賞し、
長い間、
不朽の名作として知られていました。

ところが、
今、アメリカでは
この映画が
奴隷制度を容認するものとして
糾弾され、
映画の配信も
一時、停止されました。

きっかけは、
アメリカのミネソタ州ミネアポリス市
で起きた
白人警察官による
黒人男性圧死事件です。

この事件をきっかけに
黒人差別に反対する
大規模なデモが全米に広がり、
今回の映画配給停止にも
つながりました。

実は、
南北戦争を南部の立場から
描いたこの映画は
傑作との高い評価を受けながらも、
人種の描写や
奴隷制度の描き方には
批判もありました。

黒人たちが従順で愚鈍に描かれたり、
奴隷制を懐かしむ場面も
あります。

映画の中で
主人公のスカーレット・オハラの
召使マミーを演じた黒人女性、
ハティ・マクダニエルさんは
アカデミー賞助演女優賞を
黒人俳優として初受賞。

それなのに、
当時のアメリカには
人種隔離制度があり、
彼女は表彰式会場のホテルに
入ったものの、
共演者と同じテーブルに
つくことができませんでした。

ただ、
いろいろな問題があったとしても
この映画の魅力そのものは
否定できません。

それぞれのキャラクターが
個性的で素晴らしいし、
恋愛映画としても
ひとりの女性の一代記としても
面白く鑑賞できます。

世の中が変わっていく中で
問題ある部分を
何とかうまく処理できないものか
と思います。

今回のような
注釈付きの配信は
配慮ある措置として歓迎します。

さて、
訳出する際には
配信停止から再配信に至った
いきさつが
さっと読んでわかるように
心がけました。

今回は応募者がなかったので
私の訳例だけ載せます。

あくまでも一例として
お読みください。

◆ 第166回 課題文

 米国映画「風と共に去りぬ」は南部から南北戦争を描いた傑作として人気が衰えません。しかし、最近の白人警察官による黒人男性圧死事件をきっかけに、奴隷制度を容認するものとして批判され、一時、映画の配信も中止されていました。注釈付きで再配信されるようになったことを伝えるニュースを訳してみましょう。


(1) Movie classic "Gone with the Wind" returned to the HBO Max streaming service on June 24, along with two extra features discussing its depiction of race in the Civil War era.

(2) The Oscar-winning 1939 film was pulled two weeks ago as the United States began a mass reckoning with systemic racism triggered by nationwide protests over police brutality.

(3) The re-released film, set on a Georgia plantation, was accompanied by a four-minute introduction and a recording of a panel discussion about the movie at a recent film festival in 2019.

(4) The film presents the "South as a world of grace and beauty without acknowledging the brutality of chattel slavery upon which this world was based," film scholar Jacqueline Stewart says in the introduction.

(5) "Eighty years after its initial release, 'Gone with the Wind' is a film of undeniable cultural significance. It is not only a major document of Hollywood's racist practices of the past, but also an enduring work of popular culture that speaks directly to the racial inequalities that persist in media and society today," Stewart added.

 [ 出典: 2020年7月5日付け The Asahi Weekly ]

[語句のヒント]
 (1) the HBO Max streaming service 動画配信サービスHBO Max / depiction 描き方 (2) pulled 放映が中止される / mass reckoning with systemic racism 制度的な差別に対する大衆の報復 (4) chattel slavery 動産としての奴隷制 (5) enduring work of popular culture 大衆文化の不朽の名作


(1) Movie classic "Gone with the Wind" returned to the HBO Max streaming service on June 24, along with two extra features discussing its depiction of race in the Civil War era.

Movie classic "Gone with the Wind" returned to the HBO Max streaming service on June 24, 「6月24日、不朽の名作映画『風と共に去りぬ』が動画配信サービス『HBO Max』で再配信されるようになった」

classic は「時代を超えて認められる名作」という意味です。ここでは「不朽の名作」としました。ちなみに、クラシック音楽を classic music とするのは誤りで、classical music と言います。

along with two extra featues discussing its depiction of race in the Civil War era 「南北戦争時代の人種の描き方について議論したふたつの追加の特集とともに」

feature とはもともと「目だった特徴」という意味ですが、「特集記事」「特集番組」という意味もあります。ここでは付け加えられた映画の解説、注釈を指します。よって、次のように書き直しました。

「ただし、南北戦争時代の人種の描き方について議論し、解説した動画を2本付け加えてである」。

(2) The Oscar-winning 1939 film was pulled two weeks ago as the United States began a mass reckoning with systemic racism triggered by nationwide protests over police brutality.

The Oscar-winning 1939 film was pulled two weeks ago 「1939年度のアカデミー賞受賞作である本作は、2週間前に配信停止されていた」

as the United States began a mass reckoning with systemic racism triggerd by nationwide protests over police brutality 「アメリカ合衆国が警察の暴力行為へに対する全国的な抗議がきっかけとなった制度的な人種差別への大衆の報復を始めた時」。

これでは直訳調なので、次のように書き直しました。「ちょうど、アメリカ合衆国では、警察の暴力行為に対する全国的な抗議が起こり、それをきっかけに制度的な人種差別への大衆の報復が始まっていた」。

(3) The re-released film, set on a Georgia plantation, was accompanied by a four-minute introduction and a recording of a panel discussion about the movie at a recent film festival in 2019.

The re-released film, set on a Georgia plantation, 「再配信された映画はジョージア州のプランテーションを舞台にしており」

was accompanied by a four-minute introduction and a recording of a panel discussion about the movie at a recent film festival in 2019「4分間の映画紹介と2019年の最近の映画祭で行われたパネルディスカッションの録画映像がついている」。

(4) The film presents the "South as a world of grace and beauty without acknowledging the brutality of chattel slavery upon which this world was based," film scholar Jacqueline Stewart says in the introduction.

The film presents the "South as a world of grace and beauty without adknowledging the brutality of chattel slavery upon which this world was based 「この映画は、奴隷制を基盤にしながらも、動産としての奴隷制の残虐さを認めることなく、優雅で美しい世界として南部を描いている」

film scholar Jacqueline Stewart says in the introduction. 「映画研究者、ジャクリーン・スチュワート氏は紹介動画の中で語っている」

(5)"Eighty years after its initial release, 'Gone with the Wind' is a film of undeniable cultural significance. It is not only a major document of Hollywood's racist practices of the past, but also an enduring work of popular culture that speaks directly to the racial inequalities that persist in media and society today," Stewart added.

Eighty years after its itinital reliease 「初公開から80年後」

'Gone with the Wind' is a film of undeniable cultural significance. 「『風と共に去りぬ』が文化的にも重要な作品であることは否定できない」

「否定できない」は「紛れもない事実です」とすると話し言葉らしくなります。

It is not only a major domumet of Hollywood's racist practices of the past 「ハリウッドの過去の人種差別的行為の重要な記録であるばかりでなく」

but also an enduring work of popular culture that speaks directly to the racial inequalities that persist in media and society today, 「今日のマスコミや社会に根強く残っている人種的不平等に直接訴える大衆文化の不朽の名作でもある」

これでは直訳調なので、話し言葉らしく書き直しました。「今日のマスコミや社会に根強く残っている人種的不平等をストレートに訴えている、まさに大衆文化の不朽の名作です

Stewart added. 「スチュワート氏は付け加えた」。

■ 小沢の訳

6月24日、不朽の名作映画「風と共に去りぬ」が動画配信サービス「HBO Max」で再配信されるようになった。ただし、南北戦争時代の人種差別の描き方について議論し、解説した動画を2本、付け加えてである。

1939年度のアカデミー賞受賞作である本作は、2週間前に配信停止されていた。ちょうど、アメリカ合衆国では、警察の暴力行為に対する全国的な抗議が起こり、それをきっかけに制度的な人種差別への大衆の報復が始まっていた。

再配信された映画は、ジョージア州のプランテーションを舞台にしており、4分間の紹介と、2019年の最近の映画祭で行われたパネルディスカッションの録画映像がついている。

この映画は「奴隷制を基盤にしながらも、動産としての奴隷制の残虐さを認めることなく、優雅で美しい世界としての南部」を描いていると、映画研究者、ジャクリーン・スチュワート氏は紹介動画の中で語っている。

「初公開から80年経ちましたが、『風と共に去りぬ』が文化的にも重要な作品であることは紛れもない事実です。ハリウッドが過去に人種差別的行為を行ったことの重要な記録であるばかりでなく、今日のマスコミや社会に根強く残っている人種的不平等をストレートに訴えている、まさに大衆文化の不朽の名作です」とスチュワート氏は付け加えた。

[小沢のコメント]
「風と共に去りぬ」は主演女優、ビビアン・リーの美しさ、気の強さ、たくましさが強く心に残った映画でしたが、人種や奴隷制の描き方に問題があるとは気がつきませんでした。マミー役のハティ・マクダニエルもいい味を出したのに、黒人であるが故の屈辱的な思いをされていたと知りました。今だったら、絶対に許されないでしょうに。