金色の夜

ふりしきるよ ひかり 満月

蜂蜜のような

恋が終わる 甘く

はりつめた視線を

そのまま 感じて

最後の場面を どうぞこわさないで



金色の夜

Where's my truth?

完成する この世界

この丘の この場所に






… 金色の恋 ・ 暗闇の恋 …








 好きでもない奴と肌を合わせるのは、意外と簡単。
 体なんていい加減で、愛はなくても快楽はちゃんと感じる。
 男のくせに男を感じる事だって、どういう訳だか出来てしまう。

 自分を抱きしめるこの腕は、慣れてしまえば戸惑う程に心地よくて.
 その事実は、僕をただひたすらに混乱させる………








 睦事の後のベッドはどうも居心地が悪くて、いつも夜半に目が覚める。
 すやすやと隣で眠る横顔にため息をついて、伸はベッドから抜け出した。
 下着さえも身につけていない素肌に当然の寒さを感じて、あたりに落ちているパジャマを着込む。
 と、見たくもないのに見えてしまう、一応服に隠れる範囲に控えめにつけられた紅い印。
 二度目のため息をつきながら、伸は頭を冷やしたくてベランダへ出る窓を開けた。

「う…ん」

 小さな声に振り返ると、当麻は寝返りを打った後だった。
 
(あいつがこれぐらいの事で起きる訳ないか…)

 伸はそう納得して冷えた空気の中に身をさらし、それでも細心の注意をはらって窓を閉めた。



 風もない、澄んだ夜空。
 闇夜にしんと輝く月。
 火照った体に、ひんやりと空気が心地良くて、ベランダの手すりにもたれて目をつむる。

「はぁ…」

 3度目のため息は、声に出して。

「(もう、何度目になるんだっけ…)」

 当麻と、こんな風に夜を過ごす事。

 最初の時はひどいショックと痛みで、こんな風に夜半に起きあがる事なんてとても出来なかったけど。
 それはやっぱり自分も男であるという身で男を受け入れるのだから、仕方のない事だろう。
 今思えばむしろ、それは驚くほど優しい行為だった。







「僕は遼の事が好きだよ。遼の為ならなんだってしてみせる。別にそのせいで、僕のこの体なんてどうなったって構わない」

 吐き出すように告げた言葉。
 当麻は、ひどく歪んだ顔で伸を見返した。

 口に出す言葉はひどかったけど、隙をついてベッドに押し倒すその動きは抵抗を許さない程に乱暴だったけれど。

 行為自体は、優しかった。
 壊れ物を扱うように、大切に…



 それから幾度肌を合わせても、当麻の態度は変わらなくて。
 初めは分からなくて、怒りと反感を重ねていたけれど。
 気づいたら、胸が痛かった。

 どうして僕なんかを、そんなに大切に扱うのか。
 どうして僕なんかに、そんなに優しくするのか。

 それが“愛されている”という事なのかと思ったら、苦しくなった。

 僕が好きなのは、君じゃないよ?
 僕は君の事を、好きになったりはしないよ。

 僕の想いは、告げられない想いだけど。
 僕の恋が、叶う事はないけれど。







「伸?どうしたんだ、こんな時間に?」

 ふいに声をかけられて、伸は驚いて顔を上げた。
 淡い月明かりの下。
 長い黒髪のシルエット。

「遼?」

「…やっぱり、外は冷えるな」

 返事のかわりにうなづいて、遼は伸の横へ来てベランダにもたれた。
 しなやかなその動きに一瞬見とれて、はっと気づいて慌てて言う。

「そうだよ。ダメじゃないか遼、そんな薄着で外に出ちゃ!」

「ははは、お母さんみたいだな」

「もうっ!」

 上着を取ってこようか、と行こうとする伸の手を遼が掴んで止める。

「いいよ。伸こそそんな薄着のくせに」

「僕はいいんだよ」

「だったら!」

 大きな声に、伸の体がふるえる。

「俺も、いいよ」

 うってかわった静かな声。
 遼は掴んだ伸の手を軽く引き寄せて、そのまま体を寄せた。

 いつの間にか、追い抜かれていた身長。

「遼?」

 なんとなく、居心地が悪くて。伸は声を出す。

「どうしてこんな時間に起きてるの?」

「伸こそ。…当麻の部屋だよな、そっち」

 黒い瞳。
 月明かりの下、何をいわんとしているのか…

 ふっと、遼の唇が、伸のそれをかすめた。

「りょっ」

 驚いて声をあげる伸の体をつきはなす。

「部屋に戻るよ。当麻によろしく」

 にっこりと微笑んで、動けないでいる伸をそのままに、遼は立ち去った。


 さわさわと、吹き始めた風が辺りの木々を揺らす。
 雲が動いて、月が影に隠れた。







 4度目のため息と共に伸が振り返ると、いつの間にか窓にもたれて当麻が立っていた。

「どうしたのさ?君が一度眠った後で起きるなんて」

 いつもの口調。
 いつから?とか、見ていたの?とか、聞かない。

「まあ、そういう時もあるかなと」

「朝は蹴っても起きないくせにね」

「ホントに蹴るのはお前ぐらいだよ」

 軽口をたたきながら、当麻は戻ってきた伸の体を抱きしめる。
 雲は完全に月を隠して、辺りは闇に包まれた。








「冷えてるな」

「寒かったからね」

「暖めてやるよ」

「いいよ、もう」

「遠慮するなよ」

「だ〜れが遠慮なんて………んっ」



 何も聞かない、踏み込まない。
 それが当麻の優しさだと、伸はもう気づいているけれど。

 胸の内で繰り返す。


 僕が好きなのは、君じゃないよ?
 僕は君の事を、好きになったりはしないよ。

 僕の想いは、告げられない想いだけど。
 僕の恋が、叶う事はないけれど。

 僕は…





暗闇の夜

まよわせないで もう

初めから私は

嘘つき 偽善者

あなたを愛するつもりなどなかった







 君はどうして、僕を抱くの?

 僕はどうして、君に抱かれるの?







暗闇の夜

Where's my truth?

きりさかれて 血を流す

恋がただ したかった







 好きでもない奴と肌を合わせるのは、意外と簡単。


 自分を抱きしめるこの腕は、慣れてしまえば戸惑う程に心地よくて。

 その事実は、僕をただひたすらに混乱させる………







金色の夜

ふりしきるよ ひかり…







<fin>    




金色の恋・暗闇の恋の解説を読む(^^;

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