二週間目。


SIDE 伸

 遼とはまだ、仲直りしていない。
 朝から気分が悪かった。寒気がするし、なんだか熱っぽい。
 それでも着替えて降りていったら、ナスティにつかまった。
 熱があるだのなんだの言われて、ベッドに押し戻される。

「まったく!遼は何だかぼーっとして元気がないし、伸は伸で熱なんかだして・・・・・」

 しばらくぶつぶつ言っていたけどそのうちに、

「お粥を作ってくるから、しばらく寝てるのよ」

 言い残して、部屋を出ていった。
 だけどここの所、毎日部屋でごろごろしているんだ。
 そうそう眠る気にもなれない。
 白い天井を見上げながら、つらつらと考え事をする。

 二週間だ、もう!!
 初めてじゃないだろうか?、こんなにも長い間、遼の顔をみていない、声も聞いていない。

 否――違うな。
 亜羅醐と戦っていた時には、もっと長い間離れていたこともあった筈だ。
 大体、ほんの一年半ばかり前にあったばかりで、それ迄は互いに名前も知らなかったのに。
 どうして、こんなに夢中になってしまったんだろう。

 遼の傍にいたい、何時も見つめていたい。
 遼になにかあった時、いつでも僕が助けてあげたい。
 一番に飛んでいって、腕を差し伸べたい。僕が――

 僕が?

 どうして?

 遼に差し伸べる腕が、僕のものでなくてはいけないと、誰が言った?、誰が決めた?。

 そんなの、たんに僕の我侭にすぎない。

 これが、僕の中の迷いだった。




 午後になって、当麻が顔を出してくれた。

「よう、とうとう倒れたらしいな」

「嬉しそうだね、どういう意味?]

「別に、秀から話を聞いていたんでな」

 ――?

「食事もろくにしてないし、何か悩んでるみたいだし、夜中に泣いてるみたいだってな」

「泣いてる?、まさか]

 そんな筈はない。ましてや、秀に聞かれる程の大声でなんて。

「夜中に、何かうなり声がして、目を覚ますんだそうだ。みると、お前が苦しんでる」

 ・・・・・・。

「泣いてるんだろ?」

 当麻は、何も言わない。
 その特徴ある瞳に(素直にたれ目と言わない辺りに、心遣いを感じて欲しい)やさしげな色をただよわせ、話してみろと、無言でうながす。

 僕は少し迷って、当麻の視線をさけるように、窓をみていた。





SIDE 遼

 2週間。

 あいつとけんかして、もうそんなにもなるんだ。
 否。
 何だか、もっとずっとずっと長い間口きいてないような気がする。
 素直に謝ると、征士に言ったのは3日目だったのに。
 何だか機会が無くて、ずっと言い出せなかった。

 あらから何度も、当麻やナスティや秀に、謝れとすすめられたのだけど、何だかそれがお節介に聞こえて、ついつい、無愛想に答えてしまう。
 今日は朝から、何だか機嫌が悪かった。(ここんとこずっとそうなんだけど)
 だけど久し振りに遊びに来てはしゃいでる純の手前、そうそう不機嫌な顔してるわけにもいかない。

「遼兄ちゃん、キャッチボールしようよ」

 誘われて、表に出る。
 最初は付き合いで始めたんだけど、何だかんだ言って久し振りに体を動かすのは気持ち良かった。
 いつの間にか、結構楽しんでたりする。





SIDE 伸

「夢を、みるんだ」

 いきなり話だしたのに、驚きもせずに当麻は言う。

「どんな?」

 遼が雨の中に立っていた、あの日から、毎夜みる夢――悪夢。

「遼が、燃えているんだ。炎に包まれて、苦しそうに叫ぶ。助けようと思って、雨を降らす。すると今度は、辺り一面の洪水になって、溺れだすんだ。助けようと思っても、助けられない――」

 やっとわかった、どうしてこんな夢をみたのか。
 迷っているんだ、僕は。

 僕でない誰かなら、もっと別の方法で遼を助けられたかも知れない。
 例えば、天空。例えば光輪、金剛・・・・・・。
 彼等なら、もっと遼の力になってあげられたかも知れない。

 僕は遼を助けられなかった。
 そればかりか、僕の力はかえって遼を苦しめた。
 これからもし、現実にこんな事があったら・・・。

 火と水は、対立しているんだ。
 水滸の力が、烈火にとってマイナスの方向へ動くなら――
 僕は、遼の傍にはいられない。





SIDE 遼

「あーあ、遼兄ちゃん、とどかないよ」

「悪い、純」

 ちょっと本気になりかけたら、手加減するのを忘れてしまった。
 俺の投げたボールは、純の頭上を遙か飛越して、柳生邸前の池に落ちる。

「かなり真ん中当たりまで行っちゃったね」

 残念そうに、純が言う。

「う〜ん」

 やっぱり純相手じゃ力一杯遊ぶことは無理だなー。今度伸でも誘ってやろうか。
 一瞬考えて、次の瞬間焦ってしまう。
 何でこんな時に伸が出てくるんだよっ!。喧嘩中だってのにっ。

「伸兄ちゃん、いるかなぁ。ボール、取ってきてくれないかなぁ」

 純が言う。
 それ聞いたら、何で俺が横にいるのに伸の名前が出てくんだよ、とか、どーせ俺は頼りになんないよ、とか、くだんないこと、考えてしまって。

「俺が取ってきてやるよ」

 呟いていた。

「遼兄ちゃんがぁ?。無理だよぉ、水は苦手なんでしょ?」

 純があんまり呆れたように言うもんだから、思わずムッときたりして。

「まかせろよ、待ってな」

 準備体操もそこそこに、そろそろ冷たくなってきた秋の池に飛こんだ。





SIDE 伸

「なる程、おまえらしくない考えだな、それは」

 当麻は、目を細めながら言う。

「・・・・・・うん、そうだね」

 判っては、いるんだけどね。
 だけど、考えずにはいられない。

「しかしそれは、全く無用な考えだな」

 どうして?――瞳で続きを促す。

「いいか、伸、確かに火と水」

「まってよ、遼兄ちゃん、駄目だってばっ!!!」

 突然、当麻の台詞をかき消すような叫び声。

「純の声だ!」

 当麻が言う。

 ‘遼に何かあったんだ’

 思った瞬間、部屋を飛び出していた。





SIDE 遼

 はっきし言って、水は冷たかった。
 おまけに水がやたらと汚れてて、ちっとも先に勧めない。
 今更ながらに後悔して、戻ろうか、なんて顔を上げてみる。
 とたんに、

「遼、なにやってんだー!」

「戻って来なさーい!」

 純の声を聞いて、集まってきた皆の声が聞こえる。
 ばっかやろ。今更引っ込みがつかないじゃないか。
 しょうがなく泳ぎ続ける。んだけど、体が重くて、手足が言うことを聞かない。

「・・・はっ!!」

 突然、足を引っ張られるような感覚。
 で、痛いっ。
 なんなんだ?。





SIDE 伸

「足がつったんだ」

 呟いた瞬間、池に飛びこんでいた。

「伸っ、あなた風邪ひいてるのよっ!」

 ナスティが何か言っていたけど、そんなこと構っていられない。
 水は冷たかった。
 かなり伸びた藻が体中にしがみついて、泳ぎにくい。
 おそらく遼は、このせいで足を捕らわれたのだと思う。

「幅が広いし、みかけよりはかなり深いの。だから飛び込んだりしては駄目よ」

 ナスティが、純に話していたのを思い出す。
 なんだってこんな池に飛び込んだんだ!。遼だって、判っていた筈なのに。
 真ん中辺りで、一度顔を上げる。

「その辺りよー、遼が潜ったのは」

 ナスティの声を聞いて、息を吸い込んで潜ってみる。
 池は汚れていて、視界をさえぎる緑の藻が恨めしい。

 どこにいるんだ、遼。
 しばらく潜ったところで、少し先に人影をみつける。遼!。
 足を釣った後、かなり暴れたみたいで、すでにほとんど意識が無いようにみえた。
 もう少し、もう少し近づけば・・・。

 息苦しくて、一度上がるべきなのに、無理に手を伸ばす。
 何故だか、今をのがしたらもう二度と遼を捕まえられないような気がして。
 やっとの思いで、遼の腕を掴む。

 伸――

 微かに開けられた遼の瞳が、そう言ったように見えた。
 力無い遼の体を腕に抱く。

 やっと、つかまえた。

 もう、離さない――





SIDE 遼

「う・・・」

 窓から差し込んでくる朝の光を体に感じて、目が覚めた。
 とっさに辺りを見回す。
 自分の部屋。
 まわりには誰もいない。
 ということは、あいつはまだ倒れたままなんだ。

 伸は俺を助けて岸に上がった後、俺の無事を確認すると、そのまま倒れた。
 ここ1〜2週間辺りの睡眠不足と、食事をしっかり取っていなかったことが重なって風邪をこじらていたのに、いい加減泳ぐには冷た過ぎる季節の池に飛び込んだのが追い打ちを掛けて、肺炎になりかかっているのだと、夜になって目が覚めた俺に当麻が教えてくれた。

 どうしよう、俺、馬鹿だ。
 俺に何かあったら、伸が無茶するの判ってた筈なのに。
 一晩中、不安で、心配で、本当はずっと横についてたかったのに、何故だかあいつの部屋には近寄れなかった。

 俺のせいであいつが苦しんでるのを見るのが辛くて、あいつにもし、何かあったら、俺・・・・・。

「遼、入るぞ」

 ノックとともに当麻と征士が入ってくる。

「伸の様子はっ!」

 不安も焦りも、涙さえも隠せずに聞く。

「今、目が覚めたところだ。もう大丈夫」

「・・・・・・良かった」

 心から、思う。

「遼」

 当麻が言う。

「もう2週間だぞ。いい加減意地はってないで、謝ったらどうだ」

 う・・・・・・。

「遼」

 重ねて、征士が言う。

「私と話していたのは、3日目だったな」

 うう・・・・・・。

「午後になったら、伸の部屋に行くぞ。いいな、遼」

 有無を言わせず、といった口調で、当麻が言う。

「わかった」

 仕方無く、うなづいたけど。

 今更、なんて言えばいーんだよぉー。





SIDE 伸

 目が覚めたら、もう昼過ぎだった。
 食欲は無かったけど、ナスティに言われて、しぶしぶお粥なんかを食べた。
 落ち着いた頃に、当麻が顔を出す。

「よう、もう熱は下がったのか?」

「だいたいね」

「ふん、それなら、少し起きてても平気だな」

「どうかしたの?」

「遼をつれてきた」

 いかにも何でもない事のように、さらりと言ってのける。
 そんな当麻を、思わず睨み返す。
 どういうつもりだい、と。

「いい加減、くだらない意地は捨てるべきだろ」

「くだらない?」

 聞き捨てならないね、今のは。

「違うか?大体、遼みたいに、無鉄砲な奴には、お前みたいなのがついてないと駄目だな。危ぶなっかしくってたまらん。今度のことだって、お前がいつもみたいにあいつのそばについてなかったから、遼が無茶をしたんだろうし」

 おやおや、何でこんな事まで僕のせいになるんだか。
 内心思って、黙っていようと思ったのだけど、当麻はこちらの返事を待っているみたいで、何も言わない。

「確かにね、僕がついていたら、遼にあんな無茶はさせない」

 仕方無く答えた僕の言葉に、当麻は満足げにうなづいて、それから真面目な顔で言葉を続ける。

「いいか、伸。確かに水の力は、火を苦しめることも出来る。だが、逆に火を助けることも出来るんだ。そして水を司っているのは、伸、お前だ。わかるだろ。燃え盛る炎にも、休息の時は必要なんだ。それをつくってやれるのは、お前だけだ」

 我等が智将天空の言葉は、それなりの説得力をもって、僕に呼び掛ける。

 我が名は水滸。水を司り――。

 それなら、救えるだろうか、この力で、遼を、烈火を。

 真面目に考え込んだ僕を見て、当麻は表情を崩し、片目をつむりながら(ウインクと言うには、多少の抵抗を感じる)言う。

「まあそう考え込むな。実のところ、この二週間、遼の扱いには皆で手をやいてな。さっさと仲直りしてもらわんと、こっちが困るんだ」

 いかにもそれっぽいさっきの説得より、余程説得力のあるその言葉に、思わず苦笑しながら。

「僕は遼のお目付訳なわけ?」

「まあそんなところだな」

 言いながら当麻は、にやりと意地悪そうな顔をつくる。

「ねえ当麻、言ってもいい?」

「何だ?」

「当麻ってさ、たれ目のくせに、何でそういう意地悪な顔が似合う訳?」

「・・・・・・伸、お前、自分の顔を鏡で見たことがあるか?」

「一応ね、それがどうかした?」

「・・・・・・そういう奴だよ、お前は」

 くすくすくす。
 ひとしきり笑った後、

「おっと、話しすぎたな、遼!、入ってこいよ」

 当麻の呼び掛けに、この二週間さんざん皆を手こずらせた少年が、下を向いたまま、おずおずと部屋に入ってくる。

「じゃあな、頑張れよ、上手くやりな」

 言い捨てて、意地悪な顔の似合うたれ目の小年は、部屋を出ていった。
 何を頑張るんだか。
 苦笑しながら、部屋の隅でうつむいている少年に声をかける。

「遼、こっちへ来なよ」

 その声は、自分でも驚く程冷たいもので、少年は目に見えてふるえた。

 ――僕は別に、サドじゃないんだけどな。





SIDE 遼

 2週間ぶりに見た伸は、怒ってるみたいだった。
 少なくとも、俺にはそう見えた。 
 勧められるまま、近寄ったけど。
 普段は穏やかで、傍にいるだけで安心出来るような伸なのに、今は冷たくポーカーフェイス。
 見えない壁で、俺を拒んでいるような気がする。

 ‘あいつだって、かなり煮詰ってる筈だから、2.3言の嫌味を行った後で許してくれるさ’当麻はそう言って、ニヤリと笑ったけど。
 今の俺には、伸は、まだかなりマジで怒ってるみたいに見える。

 頼む、そんな顔しないでくれよ。
 握った手が、震えてる。

 知らず、唇を噛み締めていた。

「遼」

 限り無く冷たい声で、俺の名を呼ぶ。

「どうしたの、何か話があったんじゃないの?」

 そんなこと言ったって、お前笑ってくれないから。
 何も言えないじゃないか。
 だけど取り合えず、溺れた俺を助けてくれたお礼だけは、言いたいと思って、

「伸、た」

「助けたお礼なんて言ってもらっても、嬉しくないからね」

 ・・・・・・。

 ばっかやろ。
 これじゃ、何も言えないじゃないか。





SIDE 伸

 僕だって別に、遼を困らせたかったわけじゃないんだけどね。
 ただ、そんなことより先に聞きたい言葉があっただけ。

 だけど遼は、再びうつむいて黙り込む。
 その瞳から、今にも涙が溢れそうで。

 今のはちょっと酷すぎたかと、さすがに胸が痛んだ。
 だけど――。

 こっちはさんざん心配させられたんだから、少し位困らせたっていいじゃないか。
 そう思っていたら、遼はいきなり立ち上がり、部屋を出ていこうとする。

「遼!」

 慌ててベットから飛降りたら、その瞬間、ふらついて、倒れそうになる。

「伸っ!!」

 叫んだ遼に抱きかかえられて、ベットに腰掛ける。

「まだ動いたら駄目なんだろ!」

 僕が動いたのは誰のせいだと思ってるんだか、遼は真剣な顔で言う。

「僕が聞きたいのは、そんな言葉じゃないんだよ」

 途端、遼は真っ赤になって黙り込む。
 その様子が、あんまりにも年相応で、何だか妙に可愛くて。

 やっぱり、駄目だね。
 これ以上君に、こんな顔をさせられない。

「遼、黙ってたら、わかんないだろ?」

 その言葉は、いつも以上に、やさしげな音になる。
 そのとたん、

「う、うわぁぁぁぁ・・・」

 遼は泣き出した。

「リ、リョオ?」

「ごめん、伸、俺が悪かった。だっ、だからっ」

 泣きながら言う遼を、何だか、とても温かい気持ちで抱き締める。

 そうだね、これが、遼だね。
 いつだって、真剣で、いつだって、一生懸命で。

「シッ、シン〜」

 遼は、捜していた母親を見つけた子供のように泣きじゃくる。

 そんな君だから、僕は君のことが、大好きなんだよ。

 だけどいい加減、本気で困ってきた。

「りょ、遼〜、もう泣き止んでよ〜」

「うっ、うぅ〜、伸のばかー」

 遼、本当に、本気で、大好きだよ。





SIDE 遼

 伸の風邪はその後、かなり長びいた。
 あの後、伸はもうあんな冷たい声で俺を呼ぶことはなくなったけど。
 後にも先にもあの時だけで。

 ‘君のあんな顔を見てることほど、辛いことはないんだよっ’って、照れてる俺の頬に、キス、してきた訳だけど。(言っとくけど、いつもだったら、絶対大人しくなんかしてないからな。あの時だけだからな!)

 だけど俺は、忘れないでいようと思う。
 あいつにあんな顔されて、あんな声で呼ばれて、どんなに辛かったかを。

 あいつが俺にとって、どんな存在であるかなんて、まだわかんないけど、抱き締められた腕の温もりだけは、確かな物だと信じていたいから。

 それくらい、いいよな、伸。





SIDE 伸

 僕の風邪は、完全に直る迄に、また二週間ほどかかってしまった。
 で、二週間と一日たったその日、ナスティからようやく外出禁止令を解かれた僕は、遼を散歩へと誘う。

「本当に、大丈夫なのか?。えらかったら言えよ」

 遼はその後やたらと僕に気を使ってくれる訳で、僕としては嬉しかったりする。
 で、聞いてみた訳だ。
 もう、一ヶ月も前のあの日のことを。

「ねぇ、遼、遼はどうして、あの時あんなに怒って部屋を出ていったの?」

 と、言う大変基本的な喧嘩の原因を。

「何だよ、今更」

 遼は心持ち赤くなって、言葉を濁す。
 それから、僕の顔をちらりと見て、少し照れながら、言葉を続ける。

「だっからー、あのとき伸、言っただろ?。俺のこと、守ってやるって」

 へ?。


 僕は、目を白黒させながら、あの時の光景を思い出す。
 確かにね。
 何かのはずみで、僕は言った訳だ。

 ――平気だよ、遼はいつだって、僕が守ってあげるから。

「それが、やだったの!」

「な、んで?」

 自分でも、いい加減間が抜けてると思う声を出す。

「だって俺、男だぜ。‘守ってやる’だなんて、女扱されてるみたいじゃんか。やだぜ、そんなの」

 心地良い午後の風に、綺麗な黒髪をなびかせながら、遼は言う。

「だのにお前、あんまり自然に言うだろ?いかにもそれが当然って感じで。だから、ついカッとして」

 だって、本当に、当然のことなのに。
 そのときの僕の顔は、きっと凄く、間が抜けてたと思う。

「何だよ、なんて顔してんだよ」

 だって、 そんなこと、僕でなくっても、みんな当然と思ってるのに。
 そして、僕ならなおさら。

 君を、守ってあげたい。
 いつでも、いつだって。
 これ以上君を苦しませたくない。
 君の涙を見たくない。

 ずっと、捜してた。
 やっと、見つけた。

 君は、僕の、一番だから。


 遼は、数歩進んで、呆然と立ち尽くしていた僕を振り返る。

「なにやってんだよ、行くぞ!」

「待ってよ、遼!」

 もう、何があっても、迷わない。

 ‘一緒にいると、不孝になるよ’

 夢の中の声は、また繰り返すかも知れないけど。

 不幸になんて、させない。

 僕が、遼を守るから。

 君が嫌がるのなら、口に出しては言わないけれど。

 だって僕はきっと、君が思う以上に、君のことを想っているよ。

 だから――



 これは、僕だけの誓。

     僕が、君を、守るから。

 少し冷たくなってきた秋風の中、照れたように立ち尽くす少年に抱きついた。














<fin>    




守ってあげたいの解説を読む(^^;

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