火と水は、相反する物だから。

一緒にいても、幸せにはなれないよ。



水は火の勢いを消し

火は水の中で本来の姿を保つことは出来ない。



一緒にいると、不孝になるよ。




 一 ・ 緒 ・ に ・ い ・ る ・ と ・ 不 ・ 孝 ・ に ・ な ・ る ・ よ 











━━ 守ってあげたい ━━












SIDE 伸

 嫌な夢で目が覚めた日、遼と喧嘩をした。
 最初は、何でもないこと。
 何気なく僕が口にした一言に、遼が怒って・・・。
 いつもなら、すぐに僕が下手に出て謝るのに、朝の夢が気になって、何だか素直になれない。

「ばかやろうっ!」

 部屋を飛び出した遼の泣き顔と、叫び声だけが、やけに耳に残る・・・。






SIDE 遼

 泣きながら、自分の部屋に駆け込む。
 なんであんな事、突然言いだすんだよ。いつもだったら、軽く受けながす俺の言葉、なんで本気にするんだよ。

「いつもだったら、あんなふうにおこんないくせに・・・」

 呟いたら、よけい悲しくなって、涙が止まらない。

 傷ついたような顔してた。
 困ったような顔してた。
 引き止めてもくれなかった。
 追い掛けても、こない。

「もう、知らない、あんなやつ」

 いつのまにか、心にも無いことを呟いていた。

「俺、怒ったから。もう、口きいてなんか、やんないから」





SIDE 伸

「伸、悪いんだけど、ちょっと、手伝ってもらえない?」

 夕方頃、暇を持て余してぶらついていたら、訳5名の欠食児童をかかえた家政婦と化しているナスティにつかまった。
 暇だし、夕食の準備を手伝う。
 ナスティの料理は、母さんの料理には負けるけど、それなりに、おいしい。(僕と比べて、という辺りは、あえて省いておく。)
 台所に立つのは嫌いじゃないから、別に僕が作ってもいいのだけど、その辺はナスティの‘女の意地’とでもいうものがあるらしく、特別な時以外は彼女が頑張っている。(ただ、包丁を使う手つきも、揚げ物なんかする時も、何だかあぶなっかしくて、代わりたいと思う時も少なくないんだけどね。)

「いっただきまーすっ」

 育ち盛りが5人もそろうと、広い食堂も、途端に狭く感じられる。
 ただ、喧嘩続行中の場合、同じテーブルで食事をとるというのは、何だか辺に気まずいものがある。

「なんだあっ、二人とも、全然食ってねーじゃないか」

 最初に気付いたのは、秀だった。

「いらねーんならもらうぜ。ナスティ、おかわりっ!!」

 秀の茶碗を持って立ち上がりながら、ナスティが言う。

「本当ね、二人とも、どうかしたの?」

「別に、何でもねーよっ」

 ナスティは思いのほか機嫌の悪い遼の返事に首をすくめながら、秀の茶碗を持って台所に消える。
 そんな彼女を横目で見ながら、当麻が言う。

「喧嘩でもしたのかよ」

「そんなんじゃないったら!」

 遼のどなり声に目を細めて、当麻が僕に耳打ちする。

「おい、どうしたんだ?」

 ‘さあね’。軽く首をすくめるだけで、声には出さない。

「どーせまた遼がわがまま言ったんだろ」

 決め付ける秀に、山盛りにご飯をついだ茶碗をわたしながら、ナスティが言う。

「遼、あんまり伸を困らせちゃあいけないわよ」

 そんなナスティに茶碗を差し出しながら、当麻が言う。

「いつもの事さ。伸は慣れてるだろ」

「当麻、おかわりなら、秀と同じ時に言ってよね」

 言いつつも、当麻の茶碗を持って台所に行く。

「喧嘩なんかしてないって言ってるだろ」

 苛立ったように遼が言う。
 征士が、‘食事中に騒がしい’とでもいうように顔をしかめる。(その内心、‘皆がこうも喋っては、私の台詞がないではないか’、と思っている、かどうかは知らない)

「なんだあ?、えらく機嫌が悪いんだな」

 秀が顔をしかめる。

「うるさいなっ」

 本気でおこりだした遼の様子に、それまで黙っていた白炎がうなる。

「ほらっ、白炎も不思議がってるぞ」

 おもしろそうに言う当麻を、遼が睨む。

「おいっ、そんなにマジになるなよ」

「当麻が遼をからかうからよ」

 言いながら、ご飯をついだ茶碗を当麻に渡す。
 そんなナスティに、征士が無言で茶碗を差し出した時の彼女の顔は、ちょっと見物だったかも知れない。
 まあ、そんなことはどうでもよく。
 皆にさんざん責められて、真っ赤になった遼が、とうとう立ち上がる。

「どこに行くんだ、遼」

「部屋にもどる」

「食事は?」

「いらない」

 そんな会話を耳にしながら、僕はようやく重い口を開くことにした。

「待って、遼」

 立ち上がりながら言う。
 返事はない。ただ、白炎をつれて部屋を出ていこうとした遼の動きが止まる。

「僕が、席を外すよ」

「伸?」

 
「それなら良いだろう、遼。君はちゃんと食事を取らないと、体を壊すよ」

「伸、あなたはどうするの?」

 征士の茶碗を持って戻ってきたナスティが聞く。

「僕はもういいよ、食欲ないんだ。じゃね」

 遼の返事も、皆の静止の声も聞かずに、素早く部屋に戻った。




 気分じゃないから、電気はつけづに、ベットに横になる。
 何だか、すっきりしない。胸に何かつっかえてるみたいだ。

   火と水は、相反する物だから――

 朝の夢が、頭から離れない。
 何で、あんな夢を見たんだろう。
 何か、僕の中に迷いでもあるんだろうか?
 なにを――?

 感情だけなら、こんなにも遼を愛しく思っているのに。
 感情だけなら?
 
 否、全身全霊をかけて。

 ・・・・・・。

 おかしいな、なんだからしくない。
 何で、突然こんな事考えたんだろう。





SIDE 遼

「何だよ、当麻」

 伸が出ていった後、当然と言えば当然だが、皆の目が俺にそそがれる。

「俺知らねーぜ。あいつが勝手に出ていったんだから」

 早口で言う。
 何だか、言い訳じみてる、なんて、自分でも思う。
 とにかくむかついて、それでも席に戻って、ご飯を食べる。

「遼」

 明らかに事態を面白がってる当麻が憎らしい。

「箸、逆さまだぜ」

 ・・・・・・。

 食えるんだからいいじゃないか。
 それでも一応正しく戻して、食べ続ける。 

「おい、遼」

 今度は秀だ。

「何だよ」

「飯粒、半分以上こぼれてるぜ」

 ・・・・・・。

「勿体ないことするなよ〜。お百姓さんに悪いぜー」

「うるさいな!」

 それでもこぼれた分を拾って食う。

「ねぇ、遼」

 今度はなんなんだ!

「何だよ、ナスティ」

「それ、伸のおかずだと思うんだけど?」

 ・・・・・・。

 どうせ残ってるんだからいいじゃないか。

「遼」

「・・・・・・何だよ、征士」

「そこ、お前の席じゃないぞ」

 ・・・・・・。

 伸が悪いんだ。
 誰が何と言おうと、こんな時、自分ひとりだけカッコ良く部屋出ていったあいつが悪いんだ!
 こんな時にまであいつに八つ当たりしてる自分が情けなくって、泣きたくなってきた。






SIDE 伸

「なんだあ?。電気も付けづに。伸、いるんだろう」

 声とともに秀が入ってきたのは、それから大分たってからで、僕は少しうとうとしてたみたいだった。

「あっ、悪い、寝てたのか?」

「いや、いいよ。少しうとうとしてただけだ」

 起きあがりながら言う。急に明るくなったせいか、目がちかちかして眩しい。

「ナスティがさ、おにぎり作ってくれたんだ。ほとんど食ってないから、腹減ってるだろうって。食えよ」

 「ありがと」 

 本当は食欲なくって、あまり食べる気しなかったのだけれど、せっかくつくってくれたナスティに悪いと思って、いくつか食べる。
 秀は自分用につくってもらったおにぎりを満足そうにほおばりながら、僕が食堂を出てからの遼がいかに機嫌が悪かったかを(時々ご飯を喉につまらせながら)話してくれた。

「しっかしさーあ」

 それから、秀はベットの上にあぐらをかいて話しだす。

「お前ら本当に何で喧嘩したわけ。皆珍しいって不思議がってたぜ」

「別に」

 思わずそっけなく答えた後で、不満そうな秀の顔を見て慌てて付け足す。

「そんなたいした事じゃないよ」

 秀はそれでも不満そうな顔をしていたけれど、すぐに何かを思い付いたような顔で言う。

「だけど伸と遼ってさ、良く考えると変わった組み合わせだよな」

 ――へえ、秀でも考えることなんてあるの?

 言おうと思ったけど、やめた。
 ‘変わった組み合わせ’と考えた辺りの理由を聞きたい、とか思ったわけだ。
 どうして?僕がうながすと、秀は心持ち身を乗り出して話だす。

「だからさ、火と水、だろ。全く反対じゃないか。水と油は反発するってよく言うけどさ、火と水だって全く合わないと思うんだよな。だのに仲いいだろ?。変わってるよな、お前ら」

 ――水は火の勢いを消し、火は水の中で本来の姿を保つことは出来ない。

   合わないと思うんだよな。

   全く反対じゃないか。

 秀の言葉は、朝の夢と重なって、頭の中に響く。
 何でだろう。目の前が、真っ暗になっていくような気がする。

「おいっ、伸っ、伸!!」

 こころもち苛立ったような秀の声で、とびかかっていた意識がもとにもどる。

「どうしたんだよ。おかしいぜ、今日の伸」

「ごめん。何でもないよ」

 答えながら、自分でもどこかおかしいと思う。
 息苦しい。うまく息ができない。
 何だか、気分が悪い――。





 3日目。


SIDE 遼

 伸との喧嘩は、まだ続いている。
 ここのところ伸は、食事の時にも降りてこずに、ずっと部屋にいる。
 凄く気になるんだけど、ナスティを筆頭に、皆ことさら気にしている様子もない。
 こうなると俺が気にするのもカッコつかなくて、何も聞けないでいる。
 朝からじとじと雨が降っていて、嫌な天気だった。

「遼、買い出しに言ってくるんだけど、どうする?」

 居間でぼけていたら、ナスティに声を掛けられた。

「行かない」

 答えたら、

「じゃ、留守番お願いね」

 当麻と秀と征士までつれて、さっさと行ってしまった。
 ばっかやろ。
 そんなことしたら、俺が暇じゃないか。
 こんな時に限って、白炎もみあたらない。

 ・・・伸は、部屋にいるんだろうか。
     あやまって、話ししてようか――。

 一瞬、頭をよぎったけど。
 ブンブン。
 頭を降って、そんな考えを追い出す。

 
「何で俺が、あやまんなきゃいけないんだよ」

 呟いて。
   なんでだろ。
      涙、出てきた。

 どうしよう。
 訳、わかん無いけど。
 何か、もの凄く不安。
 雨が、激しくなっていく。
 なんでだろ、涙、止んない。





SIDE 伸

「遼!」

 本を読むのにもいい加減飽きて、窓の外を見たら、遼が立っていた。

「何だってあんな所に立っているんだ!」

 遼は、丁度僕らの部屋(2階)の真下にあたるところにある木の下に立っていた。
 木と言ったって、そんなに大きな木じゃない。
 遼を雨からふせぐ事さえ出来ない。
 頼り無く細い枝にたまった雨水がその重さに耐え切れず、いっそう大粒の雫となって遼の上にふりそそぐ。

 傘も立たずに濡れて立っている遼は、何だかえらくなまめかしい。
 いつから立っていたんだか、服も髪も、すっかり濡れているように見える。
 いつもの僕なら、何をしているんだと怒鳴って、傘をさし掛けて、タオルを差し出して、部屋の中に入れて・・・・・・。
 だのに今日の僕は、そこから動けなかった。
 声をだして怒鳴るどころか、窓から顔をだすこともできずに、ただただ、その場に立ちつくす。
 喧嘩中だという変な意地のせいか。

   それとも、もう一とつの、妙な迷いのせいか――





SIDE 遼

 雨が、邪魔だ。
 濡れた前髪が額に張り付いて、そこから更に雨水が伝って、あいつの部屋が、良く見えない。
 頼む、伸、気付いてくれよ。
 勝手な願いだって、自分でも思う。
 何でだか知らないけど、もの凄く不安になって、じっとしていられなかった。
 だけど、閉じられたお前の部屋のドア叩けなかった。

 このままじゃ俺、崩れそうだよ。
 出てきてくれよ。
 頼むから、伸。





SIDE 伸

 遼は時折すがるような目付きでこちらを見上げ、僕は視線をあわせないようにカーテンの影に隠れる。
 何をしているんだろう、すぐに家に入ればいいのに。
 僕の中の大部分は、遼の所に駆け付けたがっていた。僕自身、そうするべきだと思うのに、ほんの一部の僕の心は、ほっておけばいいと囁いている。

 時間の流れが、急にゆっくりになった気がした。
 置き時計の秒針が、耳障りな音を立てて動いていく。
 雨の中に立ちつくす遼がえらくはかなげで、その体が小さく震えているような気がして――
 苛立ちと不安の色は、どんどん濃さをます。
 そしてそれは、遼への勝手な注文となって口に出る。

「早く中にはいればいいのに」

 苛立ちの時間は、長く感じられたけど、実は短かったのかもしれない。

「遼!なにしてるんだ!」

 秀の怒鳴り声と共に、どたばたと数人のかけよってくる音。
 買い物に行っていた皆が戻って来たようだった。
 誰かが傘を差し出し、誰かが頭にタオルをかぶせる。
 すぐに、遼は家の中に引きずり込まれるだろう。
 ほっとすると同時に、たまらなく恥ずかしい思いにかられる。 

 何をしていたんだろう、僕は。
 もしあのまま皆が帰ってこなかったら、遼は倒れていたかも知れないのに。

 腹立ち紛れに、外の様子を伺う。
 遼を囲むようにして遠ざかる皆の後ろ姿が目にはいり、次の瞬間、振り向いた征士と目が合う。
 突き刺すような征士の瞳は、僕がずっとここから遼を見ていたことも、僕の中の迷いも、総てを見抜いているようだった。

 体が、ひどく頼り無く感じられる。
 ぞっとするような悪寒に、体が震えているような気がして、自分の体を抱き締めた。





SIDE 遼

「平気だって、ナスティ」

「駄目、寝てなさい。征士、秀、よぉく遼を見てるのよ」

 バタン。
 ナスティは言い切ると、さっさと部屋を出ていってしまった。
 後に残ったのは、征士と秀と、全然元気なのに、寝かされてる俺。

「本当に何でもないのに」

「36.9分。お前のことだ、このまま起きていればもっと熱が上がる」

 征士が、静かに言う。

「全く。何考えてあんなとこに立ってんだよ、お前は」

 呆れたように、秀が言うけど。
 そんなこと、言える分けないじゃないか。
 俺だってわかんないのに。

 「とにかく、少し眠ることだな、遼」

 征士に言われて、仕方無く、少し寝ることにした。





SIDE 伸

「伸、入るぜ」

 声と共に、夕食を乗せたお盆を持って部屋に入ってきたのは、当麻だった。

「あれ?、秀はどうかしたの?」

 食事は、僕が時間をずらして作って食べるか、秀が部屋まで運んでくれていた。

「遼についてるんだ。聞いただろ?」

「・・・・・・うん」

 ‘遼が雨の中でつっ立っていた’秀は、あの後わざわざ僕に知らせに来てくれた。
 秀は、僕がずっと遼を見ていたことを知らない。僕は、気分が悪くて午後からずっと寝ていたことになっていた。

「気分が悪いんだってな、風邪でもひいたのか?」

「ちょっとね、でも平気だよ。多分、たいしたことない」

 気分が悪いのは事実だった。あれ以来、何だか体の調子が良くない。
 だけどこんなふうに、あらかさまに心配されるのも嫌だった。

 ――当麻も多分、気付いているだろうから。

「秀が心配してたぞ。ここんとこずっと元気がないし、食事もほとんど食ってないそうじゃないか」

「・・・・・・」

 何だか、わけもなく気に入らない。
 ほっといてくれ、と、口を開いたら酷い言葉が出てきそうで。

「まあいいさ。だが、あまり皆に心配をかけるなよ。お前らだけの問題じゃないんだからな」

「うん、わかってるよ。・・・・・・ごめん」

 あまり、反省してるとは言いがたい言い方だな。

 そんな僕の気持ちを知っているんだか知らないんだか、当麻は、なにかこちらの反応を楽しんでいるような顔で僕を見る。
 が、しばらくして、もう僕から何の反応も得られないことを知ると、これだけ言い残して、部屋を出ていった。

「まあいいさ、お前には、お前の考えがあるんだろう。――今日、ずぶ濡れの遼をほっといたのも、その考えとやらのせいだろうしな」

 バタン。

 思わず、閉じられたドアを見る。

「――言いたいことだけ言って出ていきやがって」

 最後の一言は、結構きいたかも知れない。





SIDE 遼

「ん・・・」

 しばらく眠った後、寝苦しくって、目が覚めた。

「どうした、遼」

 すぐ横から声をかけてくれる征士の低い声を耳にして、少し安心して、少し悲しくなる。
 いつもならこんな時、決まって横にいてくれるのは、あいつだったのに。

「喉、乾いたみたいだ」

「水を持ってきてやろう」

 征士は立ち上がって、部屋を出ていく。
 秀は、自分の部屋に戻ったみたいだった。
 そう言えば伸も、具合いが悪いみたいな事、ナスティが言ってた。
 大丈夫なんだろうか。

 結局、来てくれなかった、あいつ――。

「ほら、飲め」

「ありがと」

 征士から受け取った水を一気に飲む。

「熱は下がったようだな」 

「だからたいしたことないって言ったのに」

「皆心配なのだ、お前のことが」

 伸も――?。
 俺のこと、心配してくれてるんだろうか。
 だったら、出てきてくれても良かったのに。あの時――。

 征士は、俺の表情から、俺の言いたいことに気付いたようだった。

「伸は、いつだってお前のことばかり見ているぞ」

「だったら何で・・・」

 言いかけて、言葉をのみ込む。
 こんな事、ぺらぺら人に言うことじゃないような気がして。
 征士は、少し微笑んで言う。

「一番大切な者の事ほど一番わからなくなるものだ。伸もいつかそれに気付く」

 大切な者?。

 俺は、はたして伸にとってそんな存在なんだろうか?。

 一つの疑問が胸に浮かぶ。

 そしてもう一つ。

 伸は俺にとって、どんな存在なんだろう。
 たんなる仲間じゃないような気がする。

 だけど、じゃあなんなのか、と問われると、うまく答えることが出来ない。

「フッ」

 征士は、少し目を細める。

「しかし遼、今度の喧嘩の原因は、お前にあるのだろう。こじれないうちに、謝るべきだぞ」

「――うん、そうだな」

 なんでだろう。征士の前だと、素直になれる。

 
「さあ、まだ夜明けには遠い。もう一度眠るべきだぞ」

「うん、おやすみ」

 再び眠りの渦に巻き込まれながら、征士もそんなふうに、自分が判らなくなる程人を想うことがあるのだろうか、とか思った。





SIDE 伸

 当麻が部屋を出ていった後。
 せっかくの食事も、何だか食べる気がしなくって、しばらく呆けていた。
 皆に迷惑かけてるのは、悪いと思ってる。

 だけど――。

「仕方ないじゃないか、最初に怒ったのは、遼の方なんだから」

 口に出した途端、胸が苦しくなる。
 自分の息使いだけかが、はっきりと感じられる。
 体中が切り裂かれるみたいに苦しくて。

 まただ。あれから、遼の事を考える度に・・・。

 なにを迷っているんだろう?――僕は。




 その晩は、いつもにまして、嫌な夢をみた。




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