サムウエイ社のリニアアンプDXV500Lをテストする
2007年夏、友人のJJ2NYTがサムウエイ社のリニアアンプDXV500Lをオプション付きで購入した。同社は静岡県富士市にあり非常にオープンな社風で知られている。同社のWebサイトではDXV500Lのスペックはもとより、回路図やテストデータ等の情報を公開していた。また代表のI氏とは2006年5月のFEDXPミーティング以来親交があり、色々な情報交換をさせて頂いていた。JJ2NYTの購入した実機には大変興味があり、一緒にデータを取ろうと言う誘いに早々便乗する事になった。以下は可能な限り客観特性の取得に努めたデータである。写真はテスト中のDXV500Lとその周辺スナップ・・・場所は福井単身アパート(2007年10月20日)。
DXV500Lの主要スペックと特徴(詳細は上記Link参照)
定格出力:500W(1.9-7MHz)、300W(10-14MHz)/オプション、連続
高調波:-50dB以下(定格出力) 3rdIMD:-30dB以下(定格出力x80%)
デバイス:SW用パワーMOS-FET(2SK2482x6)を使用で超ローコスト
MultiMeter:VD/ID/OFF/FWD/REF
小型軽量:電源トランスレス化で、大幅な重量軽減と小型化
電源:AC100Vを直ブリッジ整流(RF側をRFTでフロート)
効率:82%超(7MHz実測)の高効率、安定な連続キーダウン出力

測定系統


定格出力時(CW)の諸特性
使用測定機
オシロスコープ:475(Tektronics)
スペアナ:E4403B(Aligent)/R4131A(ADVANTEST)
電力/SWR計:CN-720B(DAIWA)
電力計:43+1000H(BIRD)
ダミーロード:8404(BIRD)
方結:日本電波/自作サンプラー
ATT:UBA-761A(多摩川電子)
ツートン発生器:HM-14(icom)
復調器:ADE-1(Mini-Circuits)+PC-VFO(Bytemark)
FFT:WaveAnalyzer32
PC:PentiumV/980MHz
テスター:PM-7(SANWA)
温度計:おんどとりRH(TandD)
エキサイター:IC-756(icom)

測定日時・他
2007年10月20日 9時〜18時
DXV500L:製造番号07A009


入出力特性(左)と連続キーダウン特性(右:7MHz/500W)
入出力特性は、基本仕様(1.9-7MHz)とオプション仕様(10-14MHz)で明らかな違いが出ている。
振幅方向のリニアリティは定格の8割前後まではまずまずでその後は寝てくるがデバイスの特徴と思われる。
小電力測定は電力計のレンジ切替を伴うので誤差を伴っているバンドがある。
微小入力時の立ち上がりはS字型の傾向がある。
1.9MHzはRFTのインダクタンス不足と思われる利得低下がある。
連続キーダウン時の出力特性は商用受電電圧の変動に依存していると思われる。
連続キーダウン時のファン温度は人の体温レベル相当である。



高調波特性(左:7MHz/500W/CW 右:14MHz/300W/CW)
高調波は全てのバンドで規格-50dBをクリアしている。

ツートーン特性
シングルトーンでオシロスコープを3目盛=500Wに規正、その後ツートーンを入れ先端を3目盛に合わせ定格値(pep)としている。
同様に減力時のもシングルトーンで確認し、その後ツートーンを入れ同じ出力(pep)に合わせる。
7MHzは400W、14MHzは150Wに減力(見易くするためにオシロレンジを変えている、両者が同じ%でないのは後述のIMDも含め測定段取りの誤り)。
クロスの切れ込みが悪い(ツートーンレベルの不揃い・エキサイターの特性)が波形のやせは無い。
14MHzで先端に何か乗っているように見えるのがやや気になる・・・電源リップルか?。

左:7MHz/500Wpep 右:7MHz/400Wpep

左:14MHz/300Wpep 右:14MHz/150Wpep


IMD特性
以下はPC上のFFTアナライザで取得したIMD特性で、7MHzとオプションバンド14MHzのものを示す。
高分解能のスペアナが間に合わなかったため、DBMとPC-VFOによる復調出力をAFT(低周波トランス)でステップアップ後PCのサウンドカードに入れて分析した。いわゆるD/C受信であるが、そのままだと高次がゼロビートで折り返し重なるためPC-VFOで数KHzのオフセットを付けて表示している。
ツートーン2波による電力が定格出力(500Wpep/300Wpep付近)の時と、減力(400Wpep/150Wpep付近)させた時ので条件を付けている。
ツートーン先端からの比較では、ほぼ-30dB前後を示している(pepからの値は更に-6dB)。
このテストはエキサイタの特性がモロに出るし、条件環境や設定条件で大きく変わるので参考程度。

左:7MHz/500Wpep 右:7MHz/400Wpep

左:14MHz/300pep 右:14MHz/150Wpep


エキサイターのツートンとIMD特性
エキサイター出力のツートーン特性とIMD特性を示す。出力は7MHzで約8Wpep時のもの。
前述の様にクロスの切れ込みが余り良くないが波形のやせは無い。IMDは-31dB付近か。



キーイング特性(左:7MHz/500W/CW 右:IC-756/16W/CW 3ms/Div)
エキサイタのエレキーを短点の連続送信にして、オシロスコープの水平掃引時間を調整して波形観測。
右のエキサイタ出力に比べると先端に若干の電源リップルが見られる。電源ケミコンの増量で改善が期待できるだろうが、大きさとのトレードオフになる。



筐体輻射特性
今回はテストしていない。これを定量的に評価するのは非常に難しいが今後の課題である。
高電力回路のリターンルートが筐体を強く駆動する構造になっていると、接続されるシステム(アース回路)を含めたエンドフィードアンテナ(条件により異なる)が構成され不要輻射を招く。もしアース回路がスプリアス周波数に共振状態にあると非常に強い輻射となる。筐体のアース回路には目的信号以外に、LPF処理されたスプリアスや電源ノイズ等々が複雑に流れ多重されている。-80dB以上の減衰量を持つLPFを挿入してもTVIに変化のない理由はここにある。

@筐体からの輻射
ノーマル信号出力は完全シールド終端、接続されるケーブルはコモンモード処理し外部と絶縁した状態で筐体が輻射する不要輻射レベルと帯域を他機種と比較する。
AACラインへの流出
コモンモード処理しない状態でACライン上のノーマル系及びコモン系不要信号のレベル・帯域を他機種と比較する。

もしリニアアンプやエキサイターのスペックに、筐体輻射を定量的に示すデータが載る事になれば、装置の作り方が自然と好ましい方向に変わってくると思っている。
所 見
@最初に手にすると余りの小型・軽量・低熱・静かさに驚かされる。その理由は何と言っても電源トランスレスだろう。500W級のアンプとなればそれなりの大きさのトランスが必要になるがそれが存在しない。500W連続出力に耐えるトランスを考えるだけでその容積と重さ、さらに発熱や電磁対策に悩むが、それを全く考える必要がないのだ。驚きと言う他ない。このためACラインとDC系との絶縁などで一般のアンプには無い工夫が凝らされている。それにしても総重量4.4Kg(オプション付きでも5Kg未満)で500Wを出力するアンプが世の中に存在するだろうか・・・1Kg当たりの出力電力は100Wを超えている。このアンプの議論は先ずはここから始めなければいけない。

Aローコストなスイッチング用パワーMOS-FETの採用。元々ハイバンドでは限界があるため、基本スペックは利得の揃い易い500W/1.9-7MHzとなっている。ユーザーの声に答えて、オプションとして利得と出力を抑え300W/10-14MHz対応としている。本当はやりたくは無かったのではとメーカーさんの思いが感じ取れる。高価なRF専用のパワーMOS-FETを使わないで、ローコストに挑戦しようとする技術者根性にも感心する。それでいていい加減なものかと思うとそうではなく圧倒的な高効率、連続出力時の安定性は群を抜き、IMDやTHDもRF専用FETを使った他メーカー品に負けていない。

Bただf特の曲がり角が7MHz過ぎにあるようで、10/14MHzはさすがに特性が揃わず(素直ではあるが)利得や効率が極端に低下する。10/14MHzバンドは「それでもと欲しい・・・」言うユーザーの要望に答えた結果であるが、この辺りの判断が商品として出荷する場合に非常に難しい。サムウエイ社ではそれをオプション言う形で用意し、判っているユーザーに提供する形を取ったのだろう。本当ならメーカーの良心として「やりたくはなかった」と推測している。

C入出力特性は直線性に癖があり改善を期待したいが、デバイスの能力(限界)がモロに出ていると思われる。これはRF専用デバイスに依存するしかないだろうからコストを維持しながらの改善は難しい。したがって2信号波形の尖端は鈍ってくる。ところがIMD値は後述するがそこそこなので、運用範囲(ドライブレベル)を遵守すれば問題の無い運用がSSBでも可能と思われる。

D1.9MHzが3.5MHzより伸びていないのは使用しているRFTのインダクタンス不足が原因と思われる。若干の巻き数増加があれば救えると思うが大きさとの関係で限界なのかもしれない。

E以外に思えるのはIMD特性。安物のSW用パワーMOS-FETに期待できるのは効率だけだと豪語する声が聞こえそうだが、効率もさることながらIMD特性が意外と良い。PEPからの算出ではなくツートーンからの比較であるから条件は厳しい筈なのに、定格出力時-30dB程度は確保できている。但しドライブレベルによっては3次値と5次値の大小が反転したりするので運用には注意が必要だろう。本来ならもう少しまともな信号源(エキサイター)が必要だが、手持ち品の限界でご容赦願いたい。

Fマルチメーターは装置のコンディションを見るのに非常に有効。ドレイン電圧(VD)・ドレイン電流(ID)・出力電力(FWD)・反射電力(REF)を把握する事が出来る。

G運用に当たっては、プロテクションが非常に明確に働くので出力制限のためのALCは必須。またSSBの運用については、制限増幅器などでピーク揃え、平均電力を上げる等の工夫が必要と思われる。もっともこれは一般のSSB運用時のノウハウでもあるが・・・。

Hサムウエイ社は元々業務用の高周波電源を製造しているので、アマチュア無線機メーカーとは設計スタンスが異なる。500W定格出力ならば500Wで何時間も連続送信が出来る仕様になっている。連続キーダウンで触れない温度になったBIRDのダミーに比べ、DXV500Lの体温と余り変わらないファン温度を見ると再び驚く事になる。

Iと言うことで、ローバンドでCWやRTTYを中心にDX-Ped運用する向きに最適かと思える。或いは狭いシャックでこっそりCWを叩くOMにもベストマッチしそうだ。ただし海外運用の場合は200〜240V等の電源事情があるので、これにはオートトランス等でステップダウンする事になる。サムウエイ社では200V対応も検討したようだが、現段階では課題が多く開発を断念している。

J最後に個人的な希望だが、ケースカバーは上下から被せるコの字型で前面側をトリム処理、そして金属材料はアルミ製が希望である。妙な話だがそれが満たされたら間違いなく購入するだろう。

  写真はデータ整理中のJJ2NYT、シャックはJH2CLV/9(福井市)。