THAMWAY/DXV600L(DXV501LS)の実力(Feb 11〜Mar 2. 2016)
はじめに
サムウエイ社からDXV501Lの後継機DXV600Lが発売になる模様。7MHz以下のバンドで出力600Wを高らかに謳っている。同社のサイトには現在、DXV600Lが近日発売としてイラストと共に紹介されている。(その後2月26日正式に資料がUpされた。)
2016年1月8日に同社を訪ねた折、開発中と伺っていたが、その後1月21日に訪ねた時に改修案内を頂いた。
1年程前に購入したDXV501Lは、出力メーターが500Wまでしか刻まれていないため、それ以上のテストはやる気が起こらなかった。ところがDXV600Lは1000Wまで刻まれており、浮気心(高出力志向)に拍車をかけてくれる。
早々に改修を依頼するとDXV501LS(DXV501Lの改修)とロゴが貼られ1週間程度で戻ってきた。
DXV501Lの出力デバイスはROHM社のSTC2450シリコンカーバイトPower MOS-FET(オン抵抗0.45Ω)の3パラレルプッシュプルであるが、DXV600Lは米Cree社(現Wolfspeed社)のC2M0160120DシリコンカーバイトPower MOS-FET(オン抵抗0.16Ω)に変更することで出力増と耐久性向上を果たしている。
交換部品はFET以外にメーター(1000W/FS化)、入力RFトランス、CR類などである(取り外した部品は返送)。改修経費はDXV600Lとの差額分になる。
DXV501Lの他にDXV501+4も改修可能。その他機種は「ご相談ください」とのことだったが、部品交換以上の手直しが必要な模様。

仕 様
○1.9/3.5/7MHz=600W以上
○10MHz=450W以上
○14/18MH=400W以上
○21MHz=350W以上
*電源電圧AC100〜120V
*電源トランスレス、受電ダイレクト整流
*3rdIMD=-30dB以下
*Harmonics=-50dB以下
*Id=6.8Aで電流制限が掛かり、これを超えると送信停止(スタンバイLEDが点滅・警告)、スタンバイSWを一度切らないと復帰しない。

測定環境
Exciter=IC-780/icom
WattMeter=BIRD43/2500H
DummyLoad=BIRD8890-300
Sampler=BIRD4275(+6dB/Oct)
SpectramAnalizer=R3273/ADVANTEST
Ocilloscope=TEKTRONIX475
Tester=Fruke16
DTU用AutoTrans=100V:110V/120V/130V(1.5KVA)
Camera=XP80/FujiFilm

電源AC98Vで電流制限範囲内Id=6.8Aの上限までドライブ
○1.9MHz=未実施
○3.5MHz=未実施
○7MHz=600W超(Vd=141V/Id=6.8A)
○10MHz=500W超(Vd/Idデータ無し)
○14MHz=未実施
○18MHz=未実施
○21MHz=未実施

電源AC110Vで同様のテスト
○1.9MHz=未実施
○3.5MHz=未実施
○7MHz=700W超(Vd=139V/Id=6.8A)
○10MHz=600W超(Vd/Idデータ無し)
○14MHz=未実施
○18MHz=未実施
○21MHz=未実施

電源AC120Vで電流制限外し50Wドライブテスト
○1.9MHz=未実施
○3.5MHz=未実施
○7MHz=900W(Vd=140V/Id=7.1A)
○10MHz=780W(Vd=140V/Id=6.6A
○14MHz=未実施
○18MHz=未実施
○21MHz=未実施

電源AC120Vで電流制限外し60W超ドライブテスト…番外…推奨しない
○1.9MHz=未実施
○3.5MHz=未実施
○7MHz=1000W(Vd=140V/Id=8A)
○10MHz=900W(Vd=140V/Id=7.5A)
○14MHz=未実施
○18MHz=未実施
○21MHz=未実施

電源AC130Vで電流制限外し55Wドライブテスト…超番外!…やってはいけない
○1.9MHz=未実施
○3.5MHz=未実施
○7MHz=1000W(Vd=149V/Id=8A…利得・飽和改善)
○10MHz=900W(Vd=150V/Id=7.5A…利得・飽和改善)
○14MHz=未実施
○18MHz=未実施
○21MHz=未実施

電源AC140Vで電流制限外し1KW出力時の状況…超番外!…絶対やってはいけない
○1.9MHz=未実施
○3.5MHz=未実施
○7MHz=1000W(39Wドライブ…Vd=155V/Id=7.6A…利得・飽和改善、参考:60Wドライブ時…出力1100W/Vd=152V/Id=8.3A)
○10MHz=1000W(45Wドライブ…Vd=159V/Id=7.5A…利得・飽和改善)
○14MHz=上記10MHzテストからQSY(45Wドライブ)するも送信停止→再起動→ACヒューズ断(動作停止限界超)
○18MHz=未実施
○21MHz=未実施

600W(pep)出力時のIMD特性&TowTone波形(7MHz)
*ツートン波形は、所定の電力(CW/p-p)で、オシロスコープ表示を6div(±3div)に校正してから、ツートンレベルを6div(±3div)に調整したもの。
*スペアナ波形はクリックすると拡大します(以降同様)。



750W(pep)出力時のIMD特性&TowTone波形(7MHz)



900W(pep)出力時のIMD特性&TowTone波形(7MHz)



エキサイタ(IC-780/60W時)のIMD特性&TowTone波形(7MHz)



900W出力時とエキサイタのハーモニックス特性(7MHz)
左…900W(CW)のハーモニックス。
下…エキサイタ(IC-780)100W出力時のハーモニックス。
サンプラf特:+6dB/Oct



1KW(pep)出力時のIMD特性&TowTone波形(7MHz)…番外
ドライブを60W超まで上げると出力は1KW程度期待できる。これは受電AC120Vが確保された場合で、この時はVd=140VでId=8Aであった。
ここで今までの動作とは異なる状況に遭遇、すなわち3次IMDが5次IMDより低い。BIAS Idを増やせば3次が逆転して行くが、Upper/Lowerバランスが崩れ出し(Upper側が上昇)、600〜900Wでデータも悪化した。1KWpep出力時の3次と5次が同じか、3次がやや低目になる位置に調整(メーカー殿の推奨調整と異なる、音を確かめるよう指示有り)。
興味ある現象である。特定のAF周波数でプリディストーション補正する様な条件が発生しているのでは…要調査
なおこの環境の1KW出力は、ツートン波形の先端がやや丸みを帯び始め飽和領域にかかりだしている。
メーカー殿によれば、70Wのドライブを繰り返すうちにデバイスが壊れたとのことなので、この辺りが限界かと思われる。
このテストは運用を目指すものではなく、デバイスの能力を探ることが目的であることをご了解願いたい。



1.1KW(pep)出力時のIMD特性&TowTone波形(7MHz)…超番外
受電電圧をAC140V以上確保すると60Wドライブ時1.1KWまで出力が伸びる。この時Vd=152V/Id=8.3Aであった。
AC120〜130V時と比べると出力は伸び波形の先端も心持ちシャープに感じる。IMDは悪化してUpper側が-30dBを割っているのと、3次→5次→7次の関係が順序良く落ち一般的な形になった。
既に飽和(電流)領域に入っていると思われるが、出力トランスの整合条件も変わってくるので適正負荷状態なのか分からない。



1KW(pep)超スピーチ波形(7MHz)…番外
±3divが1KWライン。スピーチの先端はこのラインを突き抜けて1KWpep超。 音源はオーナーの地声で「アーウー音」。
実は、地声を表示させたアナログオシロの画像を、デジカメ撮影するのは意外と難しい。
「アーウー音」の周波数が一定しないため、オシロの水平トリガがタイミング良く掛からない。
コツは「アーウー音」の音階を微妙に調整し、オシロ画像が止まった音階を維持してシャッターを押す。
オシロ画面は光量が少ないためシャッター速度を上げられず、これ苦肉の策である。

1KW(CW)出力時リップル波形(7MHz)…番外
*1KW出力時の動作状況…平滑ケミコンを増量したい。
受電電圧=AC120V(100V:120Vオートトランス挿入)
Vd=140V
Id=8A
BIAS Id=0.1A
DrivePower=60W超
InputPower=1120W
効率=89.3%
Drain損失=112W
Freq/Mode=7.1MHz/CW
下はちょっと意地悪だが近傍のリップルを見たもの。±120Hzとその高調波が見える。



測定スナップ
左…DXV600LとBIRD43/2500Hワットメーター。
下…1KW出力時のBIRD43。



左…BIRD43に追加してBIRD4410Aも登場。
エキサイタ電力の測定がレンジ切替で対応できるので、作業がスムーズに行え精度も高い。

所 見
○FETデバイスの交換で劇的な出力向上が図られている…良く探してきたものだと感心する。
○1KW申請も可能と思われる。
○電源トランスレスアンプの特徴(小型・軽量・低磁界)が良く出ている。
○温度上昇により出力は変わらないのにIdが僅かに低下する現象が確認できる(出力LPFの温特か…)。
○電源平滑コンデンサは500W出力機のモノを利用しているので、出力増に応じて電源リップルも増加する(聴感では分からない)。
○電源AC120Vを確保してId制限を外せば容易に出力900W超が得られる。
○ドライブレベルは50W以下が好ましい(誤って100Wを入力しても壊れず、70Wでドライブ中に壊れた実績あり、安全を見るべき…メーカー談)。
○7MHzで600W→750W→900W→1KW(番外)出力時のIMD(-30dB以下)に極端な劣化は無い。
○番外の1KW出力時のIMDもそこそこだが5次より3次が低い(アイドリング量で変化)。
○900W〜1000W出力で1時間超連続Keyingしても排出ファンで熱風を感じない。
○最大出力は電源電圧に大きく依存している(受電電圧は日中・夜間・早朝で変動する)。
○Vd低下は平滑ケミコンの増量で一定の対策(出力増・電源リップル)が見込めると思われる。
○温度制御によるファン回転数はもっと落として静音化しても良い。
○バンドSWの外部制御(icom/CI-Vデータでバンド切替)が欲しい。
○バンド情報連動の出力切り替え(ANT2系統程度)があると良い。
○アンプスルー制御を外部接点で対応できると嬉しい。
○ALCのバンドごとの設定が欲しい。
○手の平に乗り、出力900W超が得られ、熱くならない…まったく驚きである。
○900W超で連続Keyingを長時間続ければ出力変動(低下)は一般常識…ところがそれが無い。
○増幅デバイスに限らず、出力トランスや出力LPFなど高電力に対する安定性が確保されている。
○番外の7MHz/1KW出力は、60W超ドライブで受電120V/Vd=140V/Id=8Aで実現。SSBの尖頭値(スピーチ)は容易に1KWを超える。
○実験中に各種保護回路が誤操作をカバーしてくれる。
○Idの過電流制限を緩めても、スタンバイ時の立ち上がり(ブレークイン時)でシャットダウンする場合がある(エキサイタ側の問題?)。
○超番外で10MHz(45Wドライブ)で1KW出力を果たした後、同じドライブで14MHz動作をさせると送信停止、再起動してトライするも電源ヒューズ断で動作停止。何れかのFETでD-S間が短絡したものと推測(メーカー談…後日全数短絡判明)。
○低BIAS-Id(アイドリング)、90%近い効率、悪化しない高出力時IMD、パワーMOS-FET/SWデバイス…等を見ると、従来のAB1級リニアアンプの考えでは説明できない、このアンプ最大の不思議(魅力)と言える。

まとめ(2016.3.1)
凡そ2週間、サムウエイ社担当者からの情報や意見も参考にしながらテストを行いました。従来の(DXV501Lまで)シリーズとは明らかに上位の実力を持っていることが分かりました。
片手に乗るリニアアンプが1KWを連続送出するなど誰が信じることが出来ましょう。その潜在的能力には、誰しも驚き(疑問を含め)を禁じ得ない筈です。
上記で「番外」としているのは、Id制限を外し受電AC120V以上のメーカー仕様を超えたテストです。運用を勧めるものではありません。
メーカーでは複数回の破壊テストを行い限界までのマージンを探っていると思われます。半導体メーカーのスペックは静的であくまで参考値ですから、造りや実装条件により大きく変わって来るからです。
アマチュア的なギリギリの設定は、ユーザーの運用形態(負荷・電源条件等)が様々想定される中では、危なくて出来ないと言うのがメーカーの本音でしょう。上記の実力を持ちながら、DXV600Lと型名にやや控えめな数字を設定するのはメーカーのスタンス(良心)そのものと言えそうです。

7/10MHz以下のバンドでは入力50W以下で出力1KW程度の潜在能力がある。使い方によってそれを引き出せるが、それはメーカー保証を逸脱するもので個人の責任において対応する必要がある。これが今回のまとめです。

なお14/18/21MHzのバンドでの詳細はテストしていません。デバイスの特性が急激に顔を出す模様です。すなわちVdとIdの位相ズレが影響(力率悪化)する帯域になります、スペックを順守した運用が求められると思います。

電源トランスレスの商用受電ダイレクト整流と信号系との絶縁処理、広範囲対応の受電電圧、高価なRF専用デバイスを避けたSW'ingデバイス利用のHPA…等々によるローコスト設計。やっぱりアマチュア無線家でないと思い付かない発送だなぁと感心します。暫くは話題に上るのではないかと想像しています。
真空管は確かに丈夫で簡単には壊れ難い魅力がありますが、SW'ing用パワーMOS-FETを巧妙にリニアアンプに導入し、一定の性能を引き出す世界にもまた魅力を感じてしまうところです。

まとめ(2016.3.2)
昨日閉めたのに早々に忘れ物を以下追記します。
テスト当初から思っていることで、一般的に半導体アンプを製作する時にも感じていることです。

@ツートン波形でクロス部の前後30°〜45°辺りに良く見ると僅かな凹みが付き直線にならない。
AUpper側とLower側のIMDが上下非対称になる場合がある。
Bアイドリング(Bias電流)設定で、3次IMDが5次IMDより低くなる(3次>5次>7次と順に下降しない)。

こうなる理由について検討してみたいと思います。変調信号(ツートン)周波数)とIMD値の間に一定の関係があったり、SW'ing FET特有の特性やバラつき(振幅&位相両面)であったり…思いが巡ります。
まとめ(2016.4.17)
追伸です。いずれにせよ上記テストをもたらした最も重要なものは、Cree社(現Wolfspeed社)のシリコンカーバイトPower MOS-FETデバイスです。
別ページに同社のシリーズをリストしてみました。ご参照願います。