【世界重なりて】

碇真治の一日  〜 平日・朝編 〜


 

 

背後に山を背負い、その敷地の庭にも多くの緑を残す二階建ての日本邸宅。

診療所も兼ねて、ここいらでは有名な碇家である。

本来は冬月家が正しいのであろうが、実質上家の一切を取り仕切っているのは碇真治と呼ばれる少年であることはご近所でも有名である。

では、今回はその真治君の平日の一日を追ってみよう。

 

 

朝。

空も白み始め、すずめたちが庭に訪れてさざめき始める早朝5:00。

真治の一日はほぼこの時刻から始まる。

布団の中でうつらうつらと目が覚める寸前のまどろみをしばらく楽しんだ後、布団から出るとぐぐぅ〜と伸びを一つ。

小さい頃からの習慣とは恐ろしいもので、自然とこの時間に目が覚めてしまうため、目覚ましは使っていない。

もちろん同室にいる拓也への気遣いもある。いたって真治らしい。

ちなみに部屋割りは真治・拓也の男部屋、弥生・瑞希の姉妹部屋、美穂・香の最年少部屋である。この三部屋のほかに、子供達が集まって使用する部屋がひとつ2階に存在する。

麻耶は診療室に近い1階に部屋があり、冬月は奥の離れを書斎にしてその隣の部屋を寝室としている。

 

 

さて、寝床から抜け出した真治は拓也を起こさないように高校の制服に着替えると、1階に降りていく。

目を覚ますために顔を洗い、その後は台所へ。

そして、エプロンを瞬着!ご近所に評判の碇家最強主夫モードが起動する。

なぜご近所に評判なのか。

それは、まぁ、いろいろとあるのである。このことについては、また後日機会があれば紹介しよう。

碇家の台所とダイニングルームは意外と広い。というか、もともと冬月一人が住んでいた頃から徐々に人数が増えるにつれて、診療所の増築、2階の部屋の増築といった過程の中で、ある程度大人数でも大丈夫なように台所もダイニングルームも大きく使いやすいように改良されたのである。もちろん使用者の意見がふんだんに取り入れられていることはいうまでもない。

とにかく、朝はまさに時間との戦いである。

真治が高校へ行くために家を出るリミットは最悪7:30。もちろんそんな余裕の無いことはするつもりも無いので7時までにはほぼ全てを終わらせなくてはならない。何せ真治が一番遠いところに通っているのである。そういう意味では他の住人はとばっちりを食っているのかもしれないが、そこはそれ、食卓を握るものは世界を制すのである。

基本的に朝こなす仕事は、朝食作り、5ないしは6人分のお弁当作り、ゴミだし、といったところである。

これをおよそ2時間でこなす。さすがの真治も一人ではつらいものがあるが、この家にはもう一人料理の出来る人間がいる。

碇家準主婦、如月弥生である。

真治より遅れること、約15分。彼女が参戦することで、次々と品が完成していくのである。

 

 

では、お弁当作成風景を覗いて見よう。

お弁当は、真治・弥生・瑞希・麻耶、そして明日香のお弁当である。これに時々冬月のお昼のためのお弁当が加わる。

ちなみに小学生には給食があるのでお弁当はいらない。

麻耶と冬月については家にいるのだから温めて食べられるものでもよいのだが、朝の忙しい時間にまた別に作るには面倒で、皆一緒にお弁当をつくってしまう。

まぁ、冷凍物や宅配物に任せないところがすっかり主夫に染まった真治のこだわりであろう。

明日香のお弁当は単に明日香のわがままである。というか、真治が弥生たちにお弁当を作っているのを知った明日香が当然のごとくごねたのである。

 

「おはようございます。真治さん」

何時もどおり真治が食器棚から人数分のお皿を脇に取り出していると、これまた何時もどおり制服姿の弥生が起きてきて声を掛けてきた。

「おはよう、弥生ちゃん。」

いったん手を止め、振り返るとにこやかに挨拶を返す。そして、今度は昨日洗っておいたお弁当箱をテーブルに並べ始める。

弥生は脇においてあるエプロンを手早く身につけると冷蔵庫のほうへむかう。

もちろんエプロンは真治が薄いブルー、弥生が薄いピンク、色違いのチェック柄、おそろいである。

「今日は中身どうしましょう?」

「そうだね、ご飯の方は何時もどおり、間に昆布の佃煮でもはさむとして、おかずの方はっと」

2人して冷蔵庫を覗き込む。

弥生がこの家に来て手伝い始めた当初は、お互い手が触れたり顔が急接近したりするたびにドギマギしていたのだが、今では慣れてきたのかそれなりに平然としている。

といっても、弥生はこの朝の時間は他の誰にも邪魔されずに2人で過ごせるために、幸せでニコニコ上機嫌なのだが・・・

ま、それを単に今日もご機嫌だなぁとしか気付いていないのは真治であるからであろう。

とにかく、冷蔵庫の中を一通り眺めて、おかずの相談を始める。

「とりあえず卵焼きに、何時もの煮物、あとプチトマトってところかしら。あ、塩鮭のカマがあるから、それをほぐして入れて・・・」

「そうだね、野菜があんまり入れられないのがなぁ。まだ暑いから、ポテトサラダとかだと痛むと怖いしね.。」

「今日の一品は真治さんの番ですよね。何を作るんですか?」

「そうだなぁ・・・」

”今日の一品”とは、弥生と真治の始めた約束事である。お互いに一日交代で一品、一人で考えて入れるのである。

以前にお互いが作ったものでもいいし、新しく勉強してきたものでもいい。

2人のお遊びのようなものである。

「う〜ん、よし、決めた。」

「なんですか?」

「出来てからのお楽しみ、って言っても横で見てるんだからすぐばれちゃうか。ま、見てればわかるよ。その前にご飯をつめちゃおう。」

弥生が、炊けたご飯をお弁当箱の3/5程に高さ半分でつめていく。そして、その上に昆布の佃煮をはさんでご飯をかぶせる。

その間に真治はにんじんやちくわなどを適当な大きさに切って、煮物を作り、塩鮭を焼く。

そして、一品料理に取り掛かる。

まず、焼肉用のお肉を片面だけ焼いていく。そして、卵をいくつか割ってとき卵を作ると、焼いてある面にチーズをはさんで塩・胡椒で味を調え、卵を全体につけて焼き上げる。

「へぇ〜、面白いですね。」

「冷めても結構いけると思うし、どうかな?味見してみる?」

「う〜ん・・・、いいです、楽しみはお昼にとっときます!」

「もしかしたら、おいしくないかもよ?」

「真治さんが作ったんですよ?そんなことはまずありえません!」

「そっかな?」

「そうです!」

お互い顔を見合すと、笑みがこぼれる。

「あはは、ありがとう、弥生ちゃん。」

「うふふ、いえいえ、どういたしまして。」

「さて、それじゃ、今度は朝食の支度に取り掛かりますか。弥生ちゃん、寝ぼすけさんたちを起こしてきてくれるかな?」

「は〜い。りょうかいです。」

 

 

手早くおかずをお弁当箱に詰め込むと、朝食の支度にとりかかる。

8枚出されたお皿のうえに目玉焼き、ハム2枚、レタス3枚にきゅうりのスティック、トマト1/4がのり、ワカメと豆腐の味噌汁、ご飯が準備される。基本は和食である。

そして、弥生に起こされた残りの住人たちが朝食の準備されたダイニングルームへと入ってきて、碇家全員がそろった朝が始まるのである。

 

 

〜 平日・学校編 〜 へ続く


 

後書きのようなもの

 

どうも〜、jr-sari です。

1年半も本編に間を空けといて、できたのは外伝のほうがさきとは・・・。ハウッ。

本編の方も頑張って続きを書いてますので、読んでくださっている人はもうちょっと待ってくださいね。

何せ、敵キャラ浮かばないもので・・・。

とりあえず、これはHPの訪問者100人突破記念として書いてます。

これをのせる頃には200人に達してそうですが。

訪問者の皆さん、ありがとーございますぅ。

続きは500人を超えたら・・・。

超えるかしら?

 

written by 2000.07.23 Ver.1

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