【世界重なりて】

碇真治の一日  〜 平日・学校編その1 〜


 

机の上に並ぶ数々の品々。

その脇に置かれた様々な物体。

ふっふっふ、今日こそは……、今日こそは負けないわ!!見てらっしゃい!今日こそは私がナンバーワンよっっっっ!!!

さわやかな朝。

にもかかわらず、2階、とある一室の中からなにやら不気味な高笑いが校舎中に漏れ出していた。

 

 

 

「あはよう。冬至、健介。」

「おっはよー、光。」

真治と明日香が教室に入ると、いつものごとく先に来ていた3人に声を掛ける。

「おう、おはようさん。」

「おはよう。」

「おはよ、明日香。」

2人がそれぞれ席につくと、これまたいつものごとく2人のまわりに集まってきた。

「碇君。はい、これ。頼まれていたやつ。」

光が手に持っていた袋を真治に手渡した。

「あ、ありがとう。助かるよ。えっと……、はいこれ、代金。これで足りる?」

「ひの、ふの……、ええ、ぴったり。なくなりそうになったら言ってね。また、買ってくるから。」

「なんや、なんかうまいもんか?」

冬至が興味深げに袋を覗き込む。

見ると、健介と明日香も、それは何?という顔でこちらを見ていた。

「あぁ、これだよ。」

真治は袋から缶を取り出すとみんなの前に差し出した。

「家の近くに取り扱ってるお店が無くてね。冬月先生が好きなんだけど、なかなか買ってこられなかったんだ。そしたら、洞木さんが近くにいいお店があるから買ってきてくれるってことになって。」

「なんや、腹の足しにもならんで、こんなもん。」

「そりゃ、冬至にはそうかもしれないけど。」

でてきたものが何であるかがわかった冬至はがっかりした顔でつぶやいた。

「それより、真治、今日はあの日だろ!どうなんだよ。」

「いや、どうといわれても……」

「そうや!今日は家庭科の調理自習のある日や!ワイは昨日から楽しみで楽しみで、よう眠れんかったんや。」

健介の言葉に心機一転、冬至の顔が輝きだす。

「もう!相田君も、鈴原も、授業なんだからね!」

そんな2人の様子に不満げに光が声をあげると、明日香がその光のそでを引っ張った。

「ねえ、一体何なの?たかが調理実習でしょ。食い意地馬鹿はわかるけど、なんで相田まではしゃいでんのよ。」

「誰が食い意地馬鹿やねん!」

「あ、惣流は初めてだったな。うちのクラスの調理実習は他のクラスのとは一味違うんだ。」

「はん、何がどう違うのよ。」

「それがな、……

 

 

高校で男子にも家庭科という科目が行われるようになっていた。といっても、小・中学校と行われていたのだから特別珍しいということも無い。

もちろん料理、裁縫両方をやっていくのだが、1年次は料理がメインになっている。

この場合、授業→実習→授業→実習→……というのが通常の流れである。

というわけで、初実習の時間のことであった。

 

「鈴原、コンソメは?」

適当に班分けして、その日の実習はホワイトシチューであった。

もちろん実習であるからホワイトに染めるルーは小麦粉やバター、牛乳を使って自分達で作る。

これは、一歩火加減を間違うとブラウンルーが出来上がるので、なかなか面白い実習となる。

お約束というか、冬至、健介は高校前からの友人である。真治の料理に関する腕前は良く知っているので、同じ班である。

そして、女性陣には光と他2人。

真治と光がそろっていて、ルー作りに失敗することはまずないであろう。

が、他の面で失敗が出るのは何も2人のせいではない。

「……すまん!忘れてきてしもうた……」

道具類の中を捜しまくったあげく、がっくりと肩を落とす冬至。

今まで目の前で手招きしていたホワイトシチューの天使があっかんべーをしながら舞い上がっていくさまが、冬至の目の前に幻出されていた。

ま、そこはそれ、この班には主夫暦10年の猛者がいる。

「大丈夫だよ、冬至。なんとかなるから。洞木さん、お塩と胡椒、あと……」

 

さて、完成したところで試食会である。

  ガラッ

唐突に教室の扉が開くと、そこに顔を出したのは教頭であった。

どうやら校舎内を見回っていたらしい。

「ふむ、良い匂いがしているな。お邪魔してよいかね、海野先生?」

「あ、はい、どうぞ、先生も試食していってください。」

教頭はそれぞれの班の様子を見回していたが、ある一角に目が止まった。

なぜか、泣きながら猛烈な勢いでシチューに喰らいついている生徒がいたのである。

「教頭、これは私が作ったものですが、良ければ召し上がってください。」

自分の作ったシチューを皿に盛り、教頭に差し出す海野先生。

「お、ありがとう。ところで、あそこの生徒は一体……?」

「え、あぁ、どうも彼が味付けのコンソメを忘れたらしくて…」

教頭は受け取ったシチューを持ったまま、その生徒に近づいていった。

もちろん、こんな生徒はこのクラスに冬至しかいない。

「おい、君、よければこれを食べないか?」

どうやら教頭は彼の様子に、責任をとってまずいものをかきこんでいると勘違いしたようだった。

なにせ、シチューを食べているのは男の子だけ、女の子の方はシチューに手をつけていないのである。

が、事実は単に冬至の食いっぷりに唖然としていただけである。

突然横から声を掛けられて皆が一斉に教頭の方に振り返った。

差し出されたシチュー皿と教頭とを見比べる冬至。

「あ、おっさん、これいらんのか?」

「す、鈴原!教頭先生にむかって」

まだ、高校に上がったばかり。校長の顔はわかっても教頭の顔までは覚えてない場合が多い。

知っている光の方がすごいと言える。

「君がコンソメを忘れたためとはいえ、おいしくないものを無理にかき込んでもしょうがあるまい。」

勘違いしている教頭にとっては正論でも、冬至にとっては小錦がスカイダイビングをするぐらいの暴言である。

その言葉に冬至が教頭をキッと睨む。

あぁ、何言ってるんや、おっさん。こんなうまいもんめったに無いで!食いもせずにそんなこというなや!」

「な、だが、味付けは失敗したのではないのかね?」

あまりの勢いにタジタジの教頭。

真治がシチュー皿にシチューをよそいながら言った。

「別にコンソメがないからといって、味付けできないわけではないですよ。ただ、使った方が簡単だっていうだけです。どうぞ、食べてみてください。」

教頭は、持っていたシチュー皿は冬至に渡し真治の差し出したものを受け取ると、おもむろに口に運ぶ。

「…………………………………うまい……、うまいじゃないか。」

「そうやろ。真治と委員ちょが作ったんやからな。当たり前や。じゃ、ワシはこれをもらうで。」

冬至が受け取ったシチューに口をつける。

「…やっぱり、真治たちの作ったもんの方がうまいな。」

「そうかね、私にも一口くれないか。………確かにこちらの方がうまいな。」

2人ともその言葉に固まっている女性に気が付かない。

「そやろ、こう、まろやかなコクがあって、それに比べたらこんなもん白い水みたいなもん。」

「うむ、なかなか食通のようだな、君は。しかし、確かにこれだけのものは私もなかなか食べたことがないな。これを食べるとさっきのシチューは薄めすぎたカルピスのようだな。」

「おっさんもなかなかわかってるやないか。」

「ふっ、こう見えても伊達に歳をとってはおらんよ。」

「……………………………うわぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁん、教頭のおたんこなす〜〜〜〜〜〜〜

この後、ドップラー効果を伴って走り去る妙齢の女性が走り去るのが学校内各所で目撃されたそうである。

 

………、ということがあったわけ。それがあっという間に学校中に伝わっちまってな。さすがに教師としてのプライドが許さなかったんだろ。」

健介の説明が続く。

2回目 … ハンバーグ。2種類のソースの作り上げ、バリエーションを増やして真治班の勝利。実際は光が真治に複数のソース作りを教わったため。

3回目 … クッキー。何故か健介の持っていたチョコレートを包み込んだクッキーを作成して真治班の勝利。健介いわく「携帯食を持つのは兵士としての義務だ。」だそうである。

といった感じで、何故か実習授業が料理の鉄人に早変わりというわけである。

「ま、そういうわけで、うちのクラスの授業は他のクラスと違うもんになっちまったてわけさ。どういうわけか何作るかまで直前に知らされるようになっちまって、ある意味迷惑きわまりないんだけどな。」

「………どういう学校なのよ。で、今日もそれがあるわけね。」

「あぁ、どうも今日の朝、家庭科室から変な笑い声が洩れてたって言うしな。」

「「「「ハァ」」」」

「なんや、辛気臭くタメイキなんぞつきおって。」

ため息をつく面々。冬至のみがウキウキと体を揺らしていた。

 

 

 

〜 平日・学校編その2 〜 へ続く


 

後書きのようなもの

 

どうも〜、jr-sari です。

500Hit、ありがとうございます。

どういうわけか、料理ネタに安易に走ってしまう傾向にあるようです。いちおう、細かい作り方を載せるのはPia2の方だけときめていますが。

それにしても、1話で終わるはずが複数話に・・・。

つくづく自分の稚拙さが身に染みます。

では、なにか思うことがあれば感想ください。

written by 2000.09.10 Ver.1

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