「わ〜たしの記憶が確かならば、今日は2学期始めての授業である。

1学期の決戦では生徒の鉄人、碇真治の圧勝に終わっている。

果たして、今日の一戦やいかに!

それでは、オール イン キッチ(ズッパアァァ〜ン!!!!)へぶうぅぅ!!!

 

2学期始めの家庭科の授業は、明日香の振るった渾身のスリッパ張りせんの一撃で吹っ飛ぶ健介の雄たけびで始まったのであった。

 

 


【世界重なりて】

碇真治の一日  〜 平日・学校編その2 〜


 

というわけで、ただいま今日のお題についてその調理行程を記したプリントと共に説明中である。

ちなみに今回のお題は「プリン」であった。

各班ごと材料の置いてあるテーブルについて海野家庭科教師の説明を聞いている。

ちなみに真治の班は前回述べたとおり、男子は真治・冬至・健介の3人、女子は光、他2名(一応、小泉さんと御影さんということで)、そして新たに加わった明日香の計7名である。

「ね、光。」

「ん?何?明日香。」

「相田があんなこと言ってたけど、結構まともじゃない。」

「まぁ、一応教師の自覚はあるみたいよ。ここまではね・・・」

「ここまで?」

パンパンパン!

そんなこんなで、どうやら説明は終わったらしい。手を打ち合わせて、それじゃ、始めてくださ〜い、と声を掛けて・・・・・

光の言葉と共に目線でうながされた先には、まっすぐこっちに歩いてくる先生の姿があった。

 

「相田君。」

真っ先に真治に声をかけるかと思いきや、声のかかった先は相田健介。

「今日来られるのは教頭先生ですね。」

「はい、そうであります。」

何故か直立不動。

「間違えないわね。」

「もちろんであります。」

「わかったわ。」

そして、くるりと真治の方に向き直る。

「ふっ。碇君。今日という今日は私が勝つわ。」

「え、あ、いやその・・・」

そもそも、真治の方には勝つ負けるという意識でやってるわけではないので、そんなこと言われても困惑するだけである。

「でも、せんせ。真治のプリンはわいも食わしてもろうた事があるけど、そりゃもう絶品でっせ。」

その味を思い出しているのか、すでに顔がとろけている冬至。

「ちょっと、真治。どうなのよ。」

「あ、まぁ、家の子達においしいからって、よくせがまれるけど・・・」

「そういえば、うちのお母さん達にも好評だったわよね・・・」

「何の相談かしら?」

明日香・真治・光の密談に声をかける海野女史。

「あ、いえ、なんでも・・・」

「ふ、絶品だろうがなんだろうが、今日勝つのは私なのよえぇ、たとえ万民が認めなくとも、教頭先生のお目にとまるのはこの私。そう、このわたしなのよ!!

なんだか逝っちゃってる・・・。その目ははるか校舎の天井を透視して、輝く昴の星でも映しているかのようである。

「なぁ、万民が認めんかったら、負けとちゃうんか?」

「ま、それはきっと言っちゃいけないんだよ、冬至。」

「コホン。とにかく、どんなにあなたが悪あがきしても、私の輝けるプリンには勝てないことを教えてあげるわ!」

とにかく宣戦布告をして、海野先生は去っていくのであった。

 

「で、どうするの?碇君。」

ひとまず現実に立ち戻り、光が真治に声をかけた。

「どうするのって言われても、別に勝負しようと思ってるわけじゃないし・・・」

「そうよね、とりあえずここにあるだけのもので作るんだし。一回負けちゃった方が、落ち着くかもしれないものね。」

すでに達観気味の二人に対し、ここには熱き血潮の持ち主が2人いた。

「「甘い!甘いわ(で)!!」」

「そんな甘いこといっとったら、立派な料理人にはなれんで!」

「冬至・・・、別に料理人になるわけじゃ・・・」

「何甘っちょろい事いってんのよ、馬鹿真治!あんな事言われて退くわけにはいかないわ!!見下されたプライドは10万倍にして返してやるのよ!!」

「あ、明日香まで・・・」

やおら、盛り上がる冬至と明日香。

「でも、僕たちの材料はこれしかないんだよ。普通に作る以外ないんじゃない?」

「そうよ、先生も同じ材料を使ってるんだし、何時もどおりつくるしかないでしょ。」

それでもやっぱり、真治と光は冷静だったりする。

「ところが、そうでもなさそうだぜ。」

そこにいつのまにか姿を消していた健介が戻ってきていた。

どうやら、海野先生を偵察に行っていたらしい。

「どういうことよ。」

「教頭の目にとまるのは・・・って言ってただろ。見てきたら、なんか別の材料も用意してあるみたいだったぜ。」

「ほんまか?」

「冷蔵庫見ながら笑ってたから間違えないだろ。」

「くっ、真治!あんた、どうするのよ!!」

「いや、どうするって言われても・・・」

「あ〜、もう、はっきりしないわねぇ。とにかく、なんか普通と違ったプリンをつくりゃいいのよ!」

真治の鼻先に指を突きつけ、すでに暴走気味の明日香。

「あの、明日香、それはちょっと・・・」

さすがに、光も止めようと見を乗り出すが・・・

「ふっ」

哀れみのこもった目線で鼻で笑う家庭科教師の姿が視界に入ったとたん・・・・・・・沈黙した。

くるぅ〜り

明日香と共に真治の方へ向き直る光。

碇君・・・

「は、はひ。」

なんとしても、打ち負かすのよ・・・

「ほ、洞木・・・さん?」

そう・・・、なんとしても負かして、泣いて廊下を駆け回らせるのよ!

壊れた委員ちょに敵はなし。

頑張れ、真治! 負けるな、真治!! きっといつか、いいこともあるさ。

 

 

とりあえず、明日香と光を落ち着かせて、どうするか方針を立て始める一同。

「なぁ、真治。」

ふと、思いついたように健介が声をあげた。

「朝、委員長からもらってたあれ、使えないか?」

「え、あぁ。う〜ん、そうだなぁ。」

健介の言ってるあれとは、朝、真治が受け取った缶のことである。

「おいおい、健介、あんなのプリンにはあわんやろ。」

「そうよ、ぜんぜん甘くないじゃない。」

変なものを食べさせられてはたまらないとばかりに冬至と明日香が反対の声をあげる。

だが・・・

「いや、京都の方にはあれを使ったプリンもあることにはあるんだ。昔、冬月先生のお歳暮で送られてきたのを食べたことがあるし。」

真治が思い出すように言った。

「でも、やっぱり苦いんやろ。」

眉をしかめて言う冬至に苦笑をもらすと、真治は首を横に振りながら言った。

「いや、そうでもないよ。プリンのカルメラも部分も甘くしたソースで代用してたし。そうだね、試しに作ってみるのもいいかもね。皆に味見してもらおうかな。」

「えぇ〜、大丈夫なんでしょうねぇ。」

「ま、作ってからのお楽しみ。」

とにかく作るものが決まれば、早速作業に取り掛からなければならない。

出遅れを取り戻すべく、一斉に皆で作業に取り掛かった。

 

 

「それでは、試食審査に取り掛かります。なお、司会はわたくし、相田健介。試食にはクラス一の食道楽、難波の食い倒れ男こと鈴原冬至。校内一の食通ダンディ、相羽教頭。そして、予想外の特別ゲスト、神崎校長にお願いいたします。」

全ての調理が完了し、試食時に現れたのは予想通りの教頭と、どうやらその教頭に誘われたらしい、予想外の校長であった(普段は担任が来たりいろいろ)。

教室の一番前のテーブルに3人並んで座る。

「では、まずは海野先生の作品から。」

3人の前に置かれたのはオレンジのソースのかかった、フルーツプリンであった。

各種フルーツを混ぜ込んだプリンオレンジのソースをかけたものです。どうぞ、お召し上がりください。」

「ほお、これはこれは。」(校長談)

「私はオレンジものは好物でねぇ。」(教頭談)

「なんや、複雑な気分やの。」(冬至談)

置かれた器の前でそれぞれが感想を述べる。

「やっぱり、別のものを用意してあったわね。しかも教頭先生の好きなもの。」

「なんか、ずるいわよね。」

脇でブツブツもらす約2名。

とにかく食べてみないと始まらないので、3人ともスプーンを取って口へと運ぶ。

「ふむ、果物も細かく切って食べやすくしてあるし、さすが家庭科の教師だけある。おいしいですぞ。」(校長談)

「果物の甘味を引き立てるように生地の甘味は抑えてあって、よく調和が取れている。それにこのオレンジソースがさっぱりしていて、これはいい。」(教頭談)

「…悔しいが、うまい。真治の極上プリンとためはれるで。」(冬至談)

やはり大見得きって宣言しただけのことはあるようだ。どこから調べてきたのか、教頭の好みまで調査済みで万全体制である。

さりげなく、審査役の3人の脇に立っているものの、その目は、

『ふふん!私の勝ちね。あんたのプリンなんてやるだけ無駄無駄。やっぱり真の勝者はこの私。私こそが家庭科室の女王なのよ。お〜ほっほっほっほ!!』

といっているようであった。

「むっきー!なんかむかつくわ、あの目!ちょっと真治、大丈夫なんでしょうね!」

「泣かす!泣かすわ!碇君、負けたら………つるすわ………」

「…………………(汗);」

部屋の一角では灼熱化と激冷化が同時に起こって空間がピシピシいっている様である。

 

とにかく3人が食べ終わり用意されたお茶で一息ついたところで、先に進めるべく健介が口をひらく。

「さて、どうやら海野先生のフルーツプリンは審査員に好評のようです。どうも、私たち生徒に用意されていない材料が使われているような気がしますが……。ま、良しとしましょう。実を言えば我々の班の、というか、碇真治選手の作ったものも用意されていたもの以外の材料を使っていますから。」

材料について指摘されても動じなかった海野教師の眉が、ピクリと動く。

「それでは、碇真治選手の作品です。」

真治が3人の前にプリンののった皿を置いていく。何故か、ボール(材料をかき混ぜたりするのに使う器のことね)をカバーのようにかぶせてある。

「どうぞ、ふたを取ってみてください。」

冬至は一緒にいたので中身がどんなものか知っているが、他の班の生徒や真治たちのことを眼中に置いてなかった海野教師、そして出来上がってから家庭科室に来た教頭、校長はもちろんどんなものを作ったのか知らない。

カバーの取られる3人の皿に皆の視線が集中する。

その先に現れたのは……暗緑色の生地翠のソースのかかったプリンであった。

「えっと、たまたま手元に抹茶の缶があったので、抹茶プリンを作ってみました。初挑戦なんですけど、うまく出来たと思います。どうぞ、召し上がってみてください。」

審査役の3人がスプーンをとり、スッと人さじ、口へと運んでいく………

「「「……………………」」」

沈黙

……ゴクリ

「「「ん……」」」

皆の目が3人に集中する。

「めっちゃ、うまいやんけ!抹茶ちゅうんは苦いもんや思うてたけど、なんやさっぱりした甘さが最高や!」(冬至談)

「ほほう、ソースの方にも抹茶を使い、かつ甘味をつけて上品な味に仕上げるとは……。」(教頭談)

「う〜む、抹茶の風味が口の中に広がって、なんともこれは。」(校長談)

どうやらとても受けが良かったらしい。あっという間に平らげてしまった。

3人ともなんとも満足げな表情である。

 

そして、審判の時が来る。

「さて、それでは判定の方へうつりたいと思います。それでは、感想とともにお願いします。」

3人の右隣に海野先生、左隣に真治。

海野先生の顔にはすでに余裕が消えていた。

「ワイは真治やな。ワイは抹茶はどんなもんでも苦いもんや思うてたけど、さすがせんせ。普通のプリンも極上やったけど、これもうまかったで。」

「うむ、さすが碇君だな。毎回試食させてもらっているが、今回のものには、まず材料に意表をつかれたし、その味も抹茶の風味を残した上にプリンとしての甘味をうまく調和させた見事なものだった。」

「私は今日相羽教頭に誘って頂いてここへ来ましたが、いや、来て本当に良かった。まさか、抹茶のプリンが学校の家庭科の授業で食べられるとは思いませんでした。碇君だったかな?ご馳走様でした。ありがとう。」

「でしょう、校長。表でもなかなか口に出来ないものが学校で食べられる。いや、本当に幸運ですな。」

感想は真治一色である。

そして………

「あ、あの、教頭先生?」

「なぁ、真治。なんや、普通のプリンのほうも食いたぁなってきたわ。近いうちナツミとお邪魔するで、また食わしてくれんか?」

「オレンジがお好きでしたよね?私のは・・・」

「なに、鈴原君!おいしいものの独り占めはいかんな。私も連れて行きたまえ。」

全く眼中に入れてもらえない海野先生がふっと視線を巡らせた先には………

明日香の笑みがあった……………………………………………嘲弄の笑みが。

 

 

 

……………この後、家庭科教師の慟哭の叫びが学校中に鳴り響き、予想どおりの結果となったことを全校内に知らしめることとなったのであった。

 

 

追伸:

今回の抹茶プリンの話は何故かその日のうちに瑞希と弥生の耳に入り、その日の夕食のデザートとして食卓にのぼることとなった。もちろん、皆に大好評をもって受け入れられたのである。

 

 

〜 平日・放課後編 〜 へ続く


 

後書きのようなもの

 

どうも〜、jr-sari です。

結局、遅れ遅れて今年最後のこの日になってしまいました。ごめんなさい。

本編なんか年単位の更新になってしまって、本当に申し訳ないです。

今、学生の方は出来る限り学生の間にいろんな事をエンジョイしてください。

就職するとなかなか時間が取れません。

もちろん、それでも書ける人はいいものを次々とかけるのでしょうが・・・。

結局、私の力不足ですね。

では、なにか思うことがあれば感想ください。

written by 2000.12.31 Ver.1

感想・誤字の指摘等はこちら  E-Mail : jr-sari@mvb.biglobe.ne.jp