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入学式−出会いの序章
  


高山佳己 トップHP 

1年生担任のドキュメント。1年生担任に決まった貴方へのエール!


 入学式の季節−小学校一年担任は,どのように子供たちを迎えるのか,数年前の覚え書きから紹介したい。
■四月一日■
 第一回職員会議。校長から担任五人が発表される。この日から私たちは新一年生を迎える準備に忙しい日々を過ごすことになる。学年会を開き,『学年便り』四枚を分担して作成する。
 家に帰ると,一年生関係の本十冊近くを読みあさった。過去に受け持ったとき記録しておいた実践ノートにも目を通す。気持ちがわくわくしてくる。私も一年生と同じ気分なのだ。
■四月二日■
 校長室で,校長から茶封筒を受け取る。前年度,何日もかけて編制された学級編制表が入っているのだ。割印が打ってあり,密封されている。私は「B」の封筒を神妙に厳かに受け取った。中には二組三十三人の子供たちの名前が書かれた名簿が入っていた。
 私は,このようにして決められる担任の決め方に,一種の感動を覚える。もし私が,その隣の封筒を手に取っていたら…。
 「B」の封筒を受け取ったのは偶然と言えば偶然なのだが,私には,それだけとは思えない。私とこの二組の子供たちが教室で過ごすようにと,天が定めてくださったのではないかと。
 夜,三十三人の一人ひとりをひらがなでノートに書いた。一日でも早く名前を覚えよう,そう思った。
■四月三日■
 学年会。W主任から「学期当初の心得」と「入学式の流れ」の話があった。気が引き締まってくる。
 午後,各種名簿や健康診断簿,健康手帳,ラベルに名前を入れる。これでまたどんどん名前を覚えていく。ちなみに平均的なヒトが一生に覚えるヒトの名前の数は二千人。私たちはその数倍あるだろう。
 その夜,入学式後に,どんな授業をするか考える。
■四月四日■
 式の準備。一年生の教室を新六年生が掃除をし,きれいに飾り付けてくれる。
 六年生も張り切っているのが伝わってくる。
 午後,翌日のシミュレーションをする。だれもいない教室で,一人まだ見ぬ子供たちに思いを馳せ,身振り手振りを交え語る…。
■四月五日■
 入学式当日。校長先生の祝辞のときも,自然と二組の子供たちに視線がいく。
 担任発表。二組の列の前に立つ。私を見つめる,かわいらしい瞳の数々。式後の教室で,三十三人の子供たちとの,ささやかではあるけれども楽しい出会いがあった。私の子供たちへの第一声は何であったか?
 初めての学校での担任の先生からの言葉。「格調高く」にはほど遠く,ちっとも気が利いていなくて,実際は極めて現実的な”お知らせ”となった。
 「おしっこしたい人はトイレに行きます。先生のところにいらっしゃい」だ。
十人ぐらい,ぞろぞろ出てきたのでトイレの場所を教え,自分たちで行かせた。
 この後,絵描(か)き歌を歌って,私の名前を教えた。また,ぬいぐるみの「おさるのモンタ君」を登場させて,子供たちの気持ちを和らげた。
 そして早速,勉強だ。名前を呼ばれたら返事をするという,実にシンプルな学習。一年生は張り切っている。「お勉強」をしたくてたまらないのだから。
 「フジワラ・タカシ君」
 「はい!高山先生」
 私は,返事の後,右手を差し出して,一人ひとりと握手をしていった。
 「私の手を固く握って離さない子」「左手を出してあわてて引っ込めて右手を出して握手する子」「両手で私の右手を包み込んでしまう子」…いろいろな子がいるから学校は楽しい。 
 ”返事”の後は,じゃんけんゲーム。私は「グー」ばかり出していたので,「先生もっと,じゃんけんの勉強してね」と言われた。

 全国には四十一万一千人の小学校教師がいる。
 その中の一人の教師と,三十三人の子供たちが,こうして歩み始めたのだ。