アルジェ、カスバ地区の迷路のようなスーク(市場) イエメンから夜行便でアルジェに入った。 イエメンに比べて随分とカラフルな気がするのは、女性のファションのせいだろうか。 イエメンでは殆ど例外なく女性は黒いワンピースに黒のイシャール(スカーフ)ですっぽり顔を隠していた。 目だけが見える、あのスタイルである。 それはそれなりに奥ゆかしく、また魅惑的に見えるのも事実だが。 ここでは多くの女性がイシャール(スカーフ)を被っていないか、被っていても髪だけを隠しており、顔は見える。 イシャールの色も黒は殆どなく、一様にカラフルである。 いや、この地をカラフルに感じるのは女性のファッションのせいばかりではなかろう。 アルジェは南にオクシデンタル山脈を抱え、北は地中海に面した、丘の多い緑濃い街である。 人間が一番過ごし易い地中海性気候の土地なのだ。 フランス文化の影響が濃い街でもあるようだ。 言葉の影響がはやり大きい気がする。 国語はアラビア語とベルベル語と聞いたが、街を歩いていて聞こえてくるのは殆どフランス語だ。 ホテル、カフェ、レストラン、何処に行っても対応はフランス語である。 試しに、こちらがアラビア語で話してみると、相手はちゃんと理解しており、返答はアラビックかと思いきや、やはりフランス語で返ってくる。 パンが旨い。 フランスパン(バゲット)である。 レストランでホブツ(アラビア風の薄い丸いパン)とホンモス(ひよこ豆ペースト)を注文してみた。 驚いたことに無いと言う。 バゲットしかないアラブの国があるのか。 だがそのバゲットが旨いのはありがたい。
ドバイでの乗り継ぎはイエメン行きの時に比べ、若干時間がタイト気味であった。 今度は荷物をバゲージ・スルーにしておいたので、空港の外に一旦出ることはない。 トランジット・カウンターでチェック・インを済ませ再び出発ロビーに戻るのである。 このトランジット・カウンターには少しがっかりしたが。 何処の空港でもトランジット・カウンターでは、浮かない顔をした旅行者がチケットを片手に長い時間待たされているのを見かける。 この超近代的なドバイ空港も例外ではなかった。 航空会社のチェック・イン・カウンターと違いトランジット・カウンターは空港職員がやっているせいか、航空会社のカウンターのようなきめ細かいサービスは全く感じられない。 加えて、最近の旅行者は格安チケットで移動しており、そのような航空券には様々な制限が付くこと夥しい。 かような制限条件をチケットを見て瞬時に判断しなければならないのである。 トランジット・カウンター職員の苦労も伺える。 30分程度で何とかチェック・インを済ませ、ダイナース・カードのラウンジへ向かった。 メールのチェックとトイレを済ませる為だ。 一人だと手荷物が厄介である。 ラウンジならロビーにくらべかなり安心してトイレにも行けるので助かる。 チュニス上空: 眼下の沼地はかつてのカルタゴがローマに破れた戦場であろうか
今週は国際見本市がアルジェで開催されるので、ホテルはどこも満杯らしい。 現地マネージャーのシュエさんが苦労してアレンジしてくれたホテルは、Mouflon
D'or (金の子羊)と言う郊外の杜の中にある古くて小さなホテルだ。 両側を松林の丘に囲まれた谷間の専用ドライブ・ウエーを緩やかに数百メートル下ると、ホテルのゲートが見えてくる。 外壁の塗装は禿げかけ、外見はお世辞にも良いとは言えない。 イエメンからは夜行便で着たので、ホテルには朝の9時過ぎには着いてしまった。 ホテルの混んで居る時である。 空き室は無い。 チェック・アウトの12時迄待たなければならない。 荷物をカウンターに預け、 2階のルーフ・バーで珈琲を頂き左右を囲む濃い松林の緑を楽しみながら贅沢な時間を過ごす。 12時に最上階(4階)のスイートをあてがわれた。 流石にスイートは広い。 バス・ルームだけでも普通のホテルのシングル・ルーム程あろうか。 小さくても広い敷地にはプールも備わり、陽が落ちるとルーフ・テラス・バーには生バンドが入る。 スイートの居間室には子供用ベッドに、6人掛けの大きなテーブルがある。 これは仕事机に丁度良い。 パソコンや書類を広げても十分だ。 ただ照明が極端に暗い。 夜仕事をするのが間違っているのであろう。 文句は言えまい。
アルジェに着いたのが水曜日で、日本の金曜日に相当する。 午後は事務所に顔出しする為、チェック・インを済ませた後、ホテルの電話で現地マネージャーの携帯に電話を入れた。 首尾よくシュエさんが出て、1時間後に迎えに来るという。 先月末から入居していると言う新しい事務所兼作業場を拝見させて頂いた。 建物はかなり古いが内部は清潔な感じである。 先ずは現地での仕事と安全確保の為に携帯を入手した。 5000円の通話カード付きで1万4千円程だ。 これで、今後順次訪れる国では、シム・カードと通話カードだけ購入すれば、この携帯電話機を使える。 木曜、金曜が週末だ。 ホテルにじっとしていてもつまらない。 街に出かけよう。 確か空港からのタクシー運転手が海まで10kmとか言っていた。 地中海は北であることに間違いはない。 北へ向けて2-3時間歩けば、アルジェの中心街、そして地中海に辿り着けるに違いない。 一様ホテルの小さな売店で土地の地図を買い求めたが、全く役に立たない。 アルジェの中心街と湊の部分は載っているが、滞在先のホテルが載っていないのである。 ホテルのカウンターの数人の人に聞いても、この地図のどの方向にホテルがあるのか、誰も言い当てることができない。
城壁のような壁の端を港に沿って西へ30分くらい歩くと港の西端に辿り着いた。 其処はアルジェリア海軍の指令本部になっているらしい。 そしてその北側の丘陵地に、かの有名なカスバ地区が広がる。 内部はまるで迷路のように入り組んだ街並みで安全度もあまり高くないらしい。 しかし此処まで来て、カスバを観ずに引き返す訳には行くまい。 今は昼の最中である。 立ち止まることなく通り抜けてみた。 市場街はおびただしい人で活気に満ち溢れている。 流石にアラブの匂いが濃い。 私には大変懐かしく感じられる。
ホテルを出て既に4時間余り経ち、時刻は午後の1時を廻っていた。 適当な昼飯処を見つけなければならない。 通りに面したピザ屋があった。 ここにしよう。 ここでは何処の店も、間口は1間も無いほどの小さな店が殆どである。 奥に6-7卓のテーブルが一列にカウンター席がある。 カウンター席の方が断然安い。 お店の叔父さんと顔馴染みの土地のおねーさんが、カウンターの立ち席でピザを頬張っていた。 私は一人だがテーブルに座りミックス・ラザーニャ・ピザとダイエット・コーラにミネラル・ウオーターをボトルで注文した。 ヨルダンのように男性は1階、女性と家族は2階と言う席の分別は無い。 席は自由に取れる。 日本や西洋と変わらないので違和感は無い。 朝から歩き通しなのでコーラとピザが旨い。 腹も膨れたことで、来た時とほぼ同じ道を東の方向へ、あくまでも土地の人のペースで歩きながら戻った。 途中本屋があったので立ち寄った。 私の癖で新しい土地に来ると無性に地図が欲しくなる。 地図は無いかと物色していたら、店の店員らしいおねーさんが、「何かお探しでしょうか?」と訪ねてきた。 無論フランス語である。 聞かれた意味はわかるが、とっさに返答ができない。 やっと ”プラン・ド・ビール” と言う単語が出てきた。 継ぎはぎだらけの仏語で、「ホテルと街の間ががわかる地図を探している」 と言えたような気がする。 すると、「ホテルは何処?」 と聞いてくる。 当然である。 「ムフロン・ドール」 と答えたが、どうもぴんと来ないらしい。 娘さんはキャッシャーに座っている親父(?)に聞いている。 親父は、振り向きもしないで、「*****」と何か答えた。 娘さんは、「あー、判った」、と言う風で、 「アルジェの市街地図は、44に分かれているの」と言いながら、一枚の市街地図を取り出し、広げた。 1m四方は十分にある大きさだ。 「此処が郵便局で、今居る場所が此処」、と説明してくれる。 昔、地図が読めない女と言う文句があったが、彼女は外国人で女性にしては珍しく(失礼)地図が読める。 「貴方のホテルはヒドラ地区だから、この上のほうね」、と言っているらしい。 そして更に別の同じくらいの大きさの地図を取り出し、やはり広げる。 狭い店内に他の客が居ない訳ではない。 あまり他のお客のことは気にしないのである。 「えーと、ホテルの印は、これ(星)だから、、、ここ。」、と示してくれた。 地図にはホテル名までは記入されていないが、地形的にぴたり合っている。 これで一安心。 自分の居る場所が地図で確認できると何故か安心するのである。 大金350アルジェリア・デナール(約700円)を支払って店を出た。 湊からホテルに帰るには山を2つ越えなくてはならない。 一つ目の山を越えた場所がHIDRA地区である。 ここは高級な土地で各国の大使館がひしめき合う。 この丘の谷間の通りにはハイセンスなお店やレストランが並ぶ。 ホテル迄後徒歩30分程度の場所である。 一休みをするに丁度良い。 この通りに、一際小奇麗なカフェ・レストランを発見した。 Le
Troquet と言う。 入ってみると、目一杯おしゃれをし、着飾った若い女性の熱気を感じる。 何処の国も若い女性はファッションには敏感だ。 こう言う場所は必ず彼女達に占領される。 見渡すと若い女性ばかりでもない。 中年の、派手に着飾った有閑マダムも多い。 当然そう言う場所にはダンデーな粋な男性が寄生する。 メニューの値段を見るとかなり高めの設定だ。 飲物だけでも、街の食堂の普通の食事の値段程する。 女性達は食事は殆ど取っておらず、思い思いの飲物を手にお喋りに余念がない。 内部のインテリアはとても近代風に凝っていて清潔感がする。 壁には超大型の液晶テレビが掛かっており、折りしもドイツで熱戦が繰り広げられているワールド・カップの中継が流れている。 それにしても、スカーフ(イシャール)等被っている女性は一人もいない。 金髪や栗毛の髪をなびかせ豊かな胸を露にするファッションはヨーロッパと寸分違わない。
休日毎に地中海岸迄歩く。 片道約2時間半、往復で5時間余り、街での昼食を含めて6時間のウオークである。 坂道が多い、かなり良い運動になる。 帰路に水、果物、おやつ等ホテル生活の必需品を仕入れる。 最初はアルジェの街の中心へ出ていたが、海は湊でビーチではない。 港の西端に僅かにビーチがあるが水質は大変汚染され海水浴には適さないものだ。 だが2週目、更に西側のBab El Ouedに出てみた。 ここのビーチは地中海のイメージそのもの。 アルジェでやっと地中海に逢えた感じがする。 カスバの先端のKettani岬を越えると水質は俄然綺麗になる。 砂浜には多くの海水浴客が水辺で戯れている。 イメージした地中海にお目に掛かれて何故か一安心する。 ただ不満なのは、ビーチにはカフェが全く無い。 それに輪を掛けて我々に取って悪いのは、街は昼間(太陽が南中のお祈りの時間の前後)は飲食店を含め殆どの店が閉まってしまう。 遊んでいる場合ではない、モスクに行く時間だから当然な訳であるが。 我々不謹慎な無神論者者には大変都合が悪い。
9/Jun/'06 林蔵 @Alger Algeria, (Updated on 18/Sep/'08)#224 |
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