ゲーム・パーク
@Aug/'76 Kafue National Park Zambia


ザンビア観光案内より



気温、摂氏9度、湿度40%、晴れ。 アフリカ中南部に位置するザンビア共和国、ルサカ市。 8月は冬の乾期である。 冬と言えども昼間の気温は30度C近くまで上がる。 3日間の休日を利用して仲間2人とゲームパークへ車(もちろん他に手段は無い。)で行くことにした。 Kafue国立公園、首都 Lusaka から西へ184km、面積 2万2、500平方km(四国位の広さ。)の広大な自然公園である。 公園内に数カ所ある国営ロッジの一つ、Ngoma Camp にコテージを予約した。

たかが200km足らずの行程、旅先の宿も確保してあるが、非常用の水と食料、防寒具にポリタンクに入れた予備のガソリンを車に積み込んでの出発だ。 アフリカ内陸部では何が起こるかわからない。 首都 Lusaka から道の中央一車線分のみが舗装されている国道を、一路西に車を走らせる。 対向車が前からくると、お互いに左側のタイヤ(ザンビアはかって英国の植民地であった為、道路交通法は日本と同じで、車は左側通行となっている。)を未舗装部分に落し、すれ違う。 そんな時、スピードを落とさないと大変なことになる。 ハンドルを取られ猛烈な砂煙と共に確実に横転する。 ザンビアの地形は典型的なアフリカ内陸部のなだらかな高原台地。 所々長いアップダウンがある。 そんなダウンヒルの谷には大型トラックが横転しているのをよく見かける。 日本のように車検制度はない。 ポリスが街の出入り口の幹線道路で、時々検問を行っており、ライトやウィンカーのチェックをしている。 これが言わば車検代わりだ。 従って整備不良の車が多い。 加えて運転手の訓練不足で、下り坂でもエンジンブレーキを使用せず、長い下り坂でブレーキを焼き切る為らしい。 そんな事故車以外には人気を全く感じることなく30kmから50km走ると、小さな集落に出くわす。

集落と集落の間は乾燥したブッシュと乾燥と戦う疎らな潅木のみの風景が続く。 こんな感じがとても好きだ、旅をしている実感がする。 日本、特に首都圏近辺を電車や車で幹線道路沿いに移動すると、いつまで経っても隣街に移った気がしない。 うんざりすることが多い。 あまり変化の無い日常(これは良いことでもあるが。)から離れ、違った刺激から創造性を駆り立てたり、蓄積したストレスを解放する為の旅であるはずなのに、私が住んでいる首都圏では、だらだらと同じ街並が続き、知らぬ間に隣街に入っている。 感動や刺激を殆ど受けないのだ。 しかし、こちらでは何十分か走って粗末な建物が見えてくると、無性に嬉しくなる。 何かを期待し胸が高鳴る。 小さな集落には、ガソリン・スタンドと小さな雑貨屋が必ずある。 道端では子供や女性達が自分で捕った魚、収穫した果物・野菜類、手作りの飾物等を広げて何時来るとも知れぬ客を待つ。 そこは長距離トラック族や数少ない旅行者の補給基地にもなっている。 我々も2、3回そんな補給基地に立ち寄り、休憩兼見物をする、いや見物をされる。 子供達が見慣れない人種がやって来たと、我々の車の周囲を取り巻く。 ほこりまみれの雑貨屋の中はいたって簡素で商品は数えるほどだ。 木の棚に並べてあるペプシを注文する。(車の中の非常食や水はあくまで非常用で最後迄、大事に取っておく。) 無論、冷蔵庫等なく、室温(30度近い)のコーラだ。 ほこりを手で拭い缶を明け、喉を癒す。 世界ブランドの味は概ね世界共通だ。 余り失望することも歓喜することも無い。 期待していた事とはこんなものである。 それが、なぜかとても嬉しく楽しく感じる。



世界3大瀑布の一つ、ビクトリア滝 (ムシオタニヤ)          ゲームパーク内



3時間足らずで予定通り公園の入り口に到着した。 大きな看板とゲート・ハウスがある。 ゲートは昼間は開いているが、夜は閉めるとのことだ。 ゲーム・パーク内の動物と車の交通事故を防ぐためらしい。 国道は公園内を突き切っている。 公園と言ってもフェンス等は一切無い。 ただ地図上に線が引いてあるだけだ。 そしてその地域内での農業や、土地開発を行ってはいけないことになっている。 ゲーム・パークに入ってから国道を外れ、未舗装道を更に2時間くらい走ると、やっとロッジに着く。 ゲーム・パーク(動物園)だと言うのに、2時間も走ったが動物らしき姿は全く見なかった。 ロッジは野球場の2ー3倍位の敷地をフェンスで囲み、20棟位のコテージを程よい間隔で散在させてある。 中央にはレストラン・バー兼、公園・ロッジ管理事務所があり、夏用にプールまで用意されている。 英国人好みのリゾート感覚で満ち溢れている。 職員は全員住み込み、電気はデーゼル・エンジンで自家発電している。 管理事務所兼案内所で割当のコテージ及び設備・サービスの説明を聞く。 一番注意されたのは、蚊帳を必ずベッド全体に掛ける事。 マラリア予防である。 広い公園内で、動物の居る場所・時間等の説明を受ける。 

早速コテージに移り、荷物を解く。 トイレ、シャワー、簡単な台所もついている。 快適なコテージだ。 ベッド・ルームが2つに10畳位のリビング。 ラジオもテレビも無い。 車の音もしない。 豊かな気分になる。 中央のレストラン兼バー棟に行き、缶ビールを傾けながら、超薄暗い照明(イギリス人は暗い部屋が好きなようだ。 ある日当時の局長Mr.ハケット家に夕食の招待を受けた。 照明が余りに暗く、出された食事はおろか、相手の顔もろくに見えないくらいだ。 食事の後、デザートとコーヒーを頂くのにリビング・ルームへ移ったが、ここもダイニング・ルームに劣らず暗い。 それでも暫く目を凝らして周囲を見ていると、様々な調度品が置かれているのが見えてくる。 ペチカの上には高級そうなパイプのコレクション、サイド・テーブルには地方に旅行した時発見したと言うアメジストの結晶が無数に生えたバスケット・ボール大の岩塊等を見ることができる。)のもと、缶ビールを片手に明日の作戦を練る。 管理事務所の職員の話通り、動物を見るのは早朝と夕方。 明日は早起きだ。 実に簡単な作戦である。 言われた通りしっかり蚊帳を掛けて床についた。



Oribi@ゲームパーク



翌朝、朝早く(と言っても6時)起床。 中央のレストラン棟で朝食を取る。 都心のホテルの朝食と殆ど変わらない。 客は大半がザンビア国内に住んでいる欧米人だ。 食事を終え、早速自分達の車で、昨夜管理事務所の案内人からもらった話とキャンプ周辺の地図を便りにゲーム(動物)を求めて出発する。



水辺の動物達: 様々な動物が仲良く水場を共有している




キャンプ周辺は水場が多いのである。 それだけ、動物に接する機会も多いと言うことである。 Kafue National Park は名の通りアフリカ第4の大河ザンベジ河の1大支流カフェ河の中流域にある。 早朝、動物達が水場に集まっている所を狙って行くのである。 我々の車のような一般車両が辛うじて通れる凸凹道をゆっくり車を進める。 水場に着くまでにキリンや縞馬、インパラ、名も知れぬ鳥等を見かける。 しかし動物園のイメージはない。 何れの動物も木の陰に身を潜めており、その一部分しか見ることができない。 水場に着いた。 さすがに近くにキャンプが建設されるだけのことがある。 すばらしい見物スポットである。 視界を遮る木立もなく、多くの動物達に踏みつぶされた草原が広がる。 そこには幼い頃見た絵本の1頁が眼前に現実の風景として広がる。 多くの動物達が仲良く(腹を満たして)たむろしている。 象、バッファロー、縞馬、インパラ等など、大感激である。 あまり近ずくと動物達の迷惑になるので、適度な距離を取って車をとめる。 車からは絶対に出ないようにも注意を受けている。 何時、腹を空かした猛獣が現れるかも知れないからだ。 不用意に外に出て事故にあった事例を幾つも聞かされた。




インパラの群れ: こんな乾燥したやせた土地によくこれ程の数の動物が生息できるものだと感動する



キャンプ周辺の地図を頼りに別の場所へ移動する。 乾燥したブッシュを何千頭ものインパラ(鹿に似た動物)が居る。 壮観である。 インパラはすごく神経質な動物でちょっとした事で群れがすばやく移動する。 ラグーン(沼みたいな川)にはカバが数頭、目や、鼻、頭の一部を出している。 枯草には大小の水鳥が散らばっている。 鶴に似た世界最大の鳥が飛び立とうとしている。 あまり大きすぎてすぐには飛び立てない。 羽根を大きく広げてゆっくり加速を着けながら走り出す。 暫く走るとゆっくりその白い巨体は宙に浮いた。 まるでグライダーだ。 車の前にホロホロ鳥(黒い鶏みたいな鳥)が立ちはだかり退いてくれない。 頭上では大きな鷲が獲物を狙って旋回している。 狭い道ぎりぎりにライオンが寝そべっている。 さすがに迫力満点。 大きなアフリカ象がブッシュの向こうから全速力でこちらの方向に走ってくる。 乗用車等一撃で踏みつぶされそうだ。 どうなることかと、一瞬背筋が寒くなる。 幸い、どうやらかなり前方で止まってくれた。 やれやれ。



道端に夫婦のライオン: さすがに百獣の王、車が近ずいても全く悠然としている



更に別の場所へ車を移動した。 道は一段と細く悪くなる。 そして最悪の事態が発生する。 後輪がぬかるみにはまり込んでしまった。 スコップは積み込んであったが全く役に立たない。 もがけばもがく程、車は沈んでゆく。 底無し沼かと想う程だ。 仕方なく、ジープか他の車両が来るのを待つことにした。 2時間待った。 他の車は全く来る気配がない。 3時間待つ。 事態は変わらない。 段々焦りを感じ始める。 日が暮れ始めた。 いよいよ意を決することにした。 車の外には絶対出るな、とは言われているが、このままでは一晩、もしかすると永遠に帰れぬかも知れぬ。 この横道は余程人気が無いらしく、全く他の車が来ないのである。 いざと言う場合に備え、清涼飲料水の瓶に予備のガソリンを入れぼろ布で栓をして応急のトーチランプを作り(動物は火を怖がると言う幼稚な考え。)、唯一の武器スコップを持って、メインの道路迄歩くことにした。 案内図では30分位で行けるはずだ。 メインの道路へ行けば暗くなってしまわない限り何らかの車が通るはずだ。

腹を空したライオンやヒョウが何時木陰から飛び出してくるかも知れぬ恐怖におののきながら、車の轍のみでやっと道とわかる道をきょろきょろし周囲を見回しながら歩く。 やっと無事メイン道路に出た。 暫く待っていると、ジープがやってきた。 手を挙げ必至で止める。 管理事務所の車だ。 事情を説明し、ぬかるみにはまった我々の車を引っ張り上げてもらうことにした。 さすがに装備は完備している。 ウインチのワイヤーを伸ばし我々の車に継ぐ。 モーリスマリーナのワゴンは難無く引き上げられた。 若い黒人の運転手とキャンプの職員に礼を言い、彼らの車の後をゆっくりロッジに戻ったのである。 今になって想えば笑い話だが、あの時は本当に怖かった。

ここでは富士サファリーパークでは決して味わうことができない、本当の野生の動物達の姿を見ることができる。  餌付けは一切しない。 正に弱肉強食の世界である。 今、地球上では、人間だけが余りに強く成りすぎ、地球全体の生態形を大きく変えてしまいそうだ。 奢るもの久しからず。 もっと基本的な喜びや小さな楽しみを大切にしたいと想うのである。 



ルサカ市露天土産物屋               Pelican @Lochinvar National Park





Aug/'76@Lusaka Zambia 林蔵 (Updated on 26/Feb/'08)#065

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