Kiffa
@Jul/'07 Kiffa, Mauritania


Kiffaのホテル横の砂漠:
幾らか棘棘の木が生えている、手前のアメリカデイエゴのような葉を持つ植物は木の無い砂漠にも見かける
朝の風が凪いだ時間
 

Kiffaはモーリタニア第2の街だと言う。 昨日急遽、首都のヌアクショットから移動することになった。 ヌアクショットから東に700km程度の道のりである。 途中高速(単なる舗装道)沿いにある仕事場を廻りながらの移動なので、たっぷり時間が掛かる。 真っ直ぐ走っても9時間程度掛かる道のりである。 ピックアップトラックの狭い後部座席に3人が納まった。

この姿勢では、小一時間が限界であろう。 だが文句は言えない。 他人の車に便乗させて頂くのだから。 




高速道路沿いの家の前にテント張っただけのレストラン:
雨が降らないからこれでいいのか、写真に見えるマットに横になり寛ぎながら食事をする
次のお客に出される山羊?が座席の中を歩き回る 



正午にヌアクショットを出て、仕事場を数箇所寄ったので、Kiffaへのほぼ中間点Alegに着いたのは午後の7時頃になっていた。 夏の太陽は未だ高いが腹は減る。 Alegを出るとKiffa迄街らしい街はない。 ここで夕食を取ることにした。 Alegとて所謂我々が言う近代的なレストランは無い。 街の出口(入口でもある。)の高速道路(舗装した唯の道だが、砂漠では立派な高速道路)沿いに家の軒から日除けのテントを張り敷物を敷いた店らしき構えの家が幾つも並ぶ。 日本で言うドライブイン・レストランらしい。 ドライブインと言っても車は道端、このマットの傍に止めるだけであるが。 敷物の上を次のお客用のヤギ(?)が歩き回る。 誠にローカル色が強い。 

出し物は下の写真にあるヤギ(?)の肉しかない。 指定した部分の肉をこの建物の裏で火で焼くだけである。 たれも一切無ければ、付け出しの野菜類も全く無い。 もともと肉が苦手な私には余り食が進まない。




同じレストランを道路側から見る:
手前に吊り下がっている羊か或いはヤギ肉が客に振舞われる
左側は高速道で大型トラックが通る度に砂煙がもうもうと舞う



食事を取った後は、唯ひたすらKiffaに向け走る。 日も落ち街灯など一切無い砂漠の一本道は結構危ない。 何が危ないかと言うと、ラクダやロバが道路を悠々と渡るのである。 彼らは、車が来ても全く気にせず、非常にスローテンポで道路を渡る。 100km以上のスピードが出ている車である。 気付くのが少しでも遅ければ衝突せざるを得ない。 

昔オーストラリアに滞在中にも同様の経験をした。 オーストラリアでは夜間運転の敵はカンガルーである。 カンガルーの場合は、車のライトに突っ込んでくるので、始末が悪い。 殆どの場合が間に合わない。 急ハンドルを切れば此方が転倒し大事故になる。 そんな場合は、カンガルーに取っては災難であるが、ハンドルをしっかり握って、そのままカンガルーと正面衝突をせざるを得ない。 カンガルーは即死、車は大型のカンガルー除けバンパーを装着していない場合はラジエーターを損傷し動けなくなる。 

此方の運転手は、夜間、暗闇に目を凝らして運転する。 実際に遭遇してみるとラクダは結構保護色で夜間道路上に居るのを発見するのは結構難技だ。 それでもこちらの運転手は、巧みにラクダやロバやヤギを見つけては、スピードを落とし、動物の前ではライト消してゆっくり通過する。 動物に対する礼儀だろうか。 夜も更けると、道路上に見かけるのはラクダだけになる。 



Kiffaへの途中にある仕事場
砂漠の幹線道では商用電源が来ている場所は少ない
従って全ての局は大型太陽電池(10kW)とデーゼルゲネレータが備わる




このように注意をして運転していても、時に事故は起こる。 Kiffa道路には、不運にもそのような事故に逢った多くの動物(主にラクダとロバ、時折牛)の死骸を見かける。 殆ど数百メートル毎に見る。 イスラムの社会では神に感謝をして屠殺した動物でないと食に供さない。 従って、砂漠で育った貴重な食肉であるが、事故に逢った動物は、食用にはならないのである。 道端に放置されたままになる。 殆ど白骨化したもの、まだ事故にあって日が経たないなまなましいものもある。 

ピックアップトラックの後部座席は狭い。 大人3人が並んで座ると、曲げた足も動かせない。 尻も痛くなる。 足を伸ばして見たいがどうにもならない。 2時間余り我慢していると、峠を上りきった所に大掛かりな検問所があった。 我々の車も止められパスポートの提示を求められた。 厄介に思う検問所も今は天の助けかと思う。 

全員車から降りて、それぞれパスポートや身分証明書を検問所の警官に渡す。 ところが私はパスポートをヌアクショットに置いてきた。 国内移動でも長距離の場合、特に夜間の移動はパスポートが必携なのは、多くの外国では当たり前である。 そんなことは、長年外国を渡り歩いている小生なら、とくと承知の筈である。 なのに携帯していない。 当てのないポケットを探ってみる。 シャツの胸ポケットに名刺入れがある。 名刺入れの中にヨルダンで取得した運転免許証があった。 これで助かるかも知れない。 ヨルダンの運転免許証はアラビア語と英語で表記されていて10年間有効、つまり2015年迄有効である。 パスポートを求める警察官に出してみた。 以外にすんなりと受け取ってくれた。 

 


Kiffa随一と言うホテル EL EMEL:
ドライブインも広く見掛けは立派なホテルである


峠の検問所の距離表示を見るとKiffa迄85kmとあった。 85kmなら約1時間の道のりだ。 1時間なら窮屈な姿勢も我慢ができる。 

Kiffaに入る最後の検問所に差し掛かったのは深夜の11時頃だった。 この検問所を通過すれば、ホテルは直ぐの筈だ。 これで足の痛みも、尻の痛みからも逃れられる。 幸せな気分にひたる。 投宿したホテル EL EMELは Kiffaで一番のホテルだと言う。 




ロビーの裏側にコッテージ風の2部屋毎の客室棟が並ぶ:
運転音は高いがエアーコンは各部屋に備わっている
エアーコンは最強でフル回転にしても室温は28度以下にはならない
手前左の緑の木はなつめ、花壇に植えられている
なつめは、首都ヌアクショットでも家の前や街路樹に植えられている



客室はロビー棟の裏側にコッテージ風に2部屋毎に個別になって砂漠の中に並んでいる。 部屋は広いが手入れは今一。 エアーコンの運転音は酷い、トイレは汚れたまま、バスタブは無く、バスルームの角にシャワーがあるがお湯の出は極端に悪い。 室内の飾り類は全く無くテレビが一台テーブルに置かれている。 椅子が1脚あるが、テーブルが異常に高くパソコンが打てない。 インターネットの接続はない。 砂漠の宿はこんなものだろう。 ベッドとトイレが汚れているにせよあるだけ良いとせねばなるまい。




ホテルの朝食: カフェオレに短いフランスパンが一人に1本、ジャム少々、バター少々


常時持ち歩く携帯ラジオの目覚ましで、翌朝何時もの時間、6時に起床。 東に700km来たので、ヌアクショットとは違い、6時は既に明るい。 洗面、髭剃りを終え、ホテル周辺を少し歩き回る。 Kiffaの街への入口に位置するようだ。 街の気配は全くない。 四方見渡す限り棘棘のある木がまばらに生える砂漠である。 7時にフロントへ行き朝食が取れるか聞いてみた。 フランス語で、「直ぐ取れる。」、と答えてくれた。 ロビー棟の受付の奥にかなり大きなレストランがある。 1テーブルだけクロスが引かれている。 そのテーブルに座った。 暫くすると、フロントのお兄ーさんがカップを4セットにインスタントコーヒーの袋を4人分をテーブルにセットしてくれた。 これで、泊り客は我々4人だけだあることが判る。 出し物はカフェオレに、短いフランスパン(バゲット)が1本、バターとジャムが少々。 酷く簡単な朝食。 これでも、砂漠のホテルでは上等とせねばなるまい。




ホテルの前: 棘棘の木がまばらに生える砂漠が続く



モーリタニアに限らず、アフリカ大陸は砂漠化が大問題だ。 下の写真のように砂漠が道路を飲み込んでいる姿がそちこちで見られる。 昨年迄住んでいたヨルダンでも、羊などの家畜類の数が生態系維持できる数を遥かに超えているのが砂漠化をますます押し進めているらしい。 ここでも、砂漠を突っ切る高速道路(舗装道路)を走ると、砂漠に動物が多すぎる感じがする。 人間は言うに及ばず、ラクダや羊等、あの数では砂漠で必死に育とうとする植物が生長する前に食べられてしまうのは明らかな気がする。




ホテルへ通じる道: 砂漠が道に侵入している


Kiffaの街にはロバが多い。 車の数と違わないくらい居る。 長距離輸送は現代のトラックにかなわないが、街中を輸送する手段はロバが断然有利だ。 なにせ街中は狭い路地が多く舗装もされていない凸凹の砂道、ロバが引く太いタイヤの2輪車はそんな道を得意とする。 生活のリズムは完全にロバのペースである。 狭い通りはロバ優先だ。 新らしいベンツもロバを追い越せない。

昼時になった。 何処で食事をするか思案していたら、運転手が食事を家でご馳走したいと言っているらしい。 運転手は何とKiffaの出身だったのだ。 渡りに船である。 早速お言葉に甘えることにする。 

街中の大きな家に招かれた。 絨毯を敷きつめたリビングに通された。 エアーコンもある、大型テレビもある。 大きなソファーセットが大きな部屋の壁一面に置かれている。 ソファーで囲まれた部屋の絨毯の上にはクッションが適当に置かれて、アラビア風に寝そべって歓談をしながら食事を取ることができる仕掛けが見える。 




運転手の家族の家でご馳走になる: 食前のなつめ椰子の実(デーツ)
大きな銀の盆の上に置かれている



アラブの世界では最初の接待は絶対に男だけで行う。 これは格式を重んじるのと、お客を敬う為である。 アラブの世界では、未だにと言うか、純然たる階級世界で女性の位は社交階級上は低い位にあるのである。 つまり高い位で接待を行うのである。 その後、回を重ねる毎に、親密度が増し、家族により近い位置に招いてくれる。 女性も同席の場である。 この時点で初めて家族の女性達にお目に掛かれると言う訳だ。
 
食事の前にドリンク。 アラブ特有の果物から作る赤い色のジュースとコーラが女性の使用人に拠って持ち込まれる。 ジュースで乾杯。 招いてくれた運転手に、招待のお礼を言う。 

そして、食前に欠かせないなつめ椰子の実(デーツ)が来る。 このデーツはラマダン時期、一日の断食を終えた後、日の入りのアザーンを聞いて、家族全員が食堂に集まり、短いお祈りの後、その日の初めての食事を取る前に、先ずは一粒口に入れる。 その後、スープで胃袋の準備をした後、食卓一杯に盛り上げた主食となる。 食後は、これまたお砂糖たっぷりのデザートが山と出される。 これでは貧しい人々の気持ちを持を分かち合う行事でもあるラマダンの意味があるのだろうかと、一部の人々から疑問の声が上がっていると聞く。



運転手の家族の家でご馳走になる: メインデッシュ、ヤギ(羊)のバーベキュー
中央が運転手、左が彼の兄弟(?)
道端のレストランでは野菜は一切入っていなかったが、ここでは玉ねぎが少々入っている


それにしても今日の昼食は、超豪華版になってしまった。 本当にこんなにご馳走になって良いのだろうか。 メインデッシュが運ばれてくる前に手洗いの専用ボールが運ばれてくる。 やかんで注がれる水で手を洗う。 やかんの下には専用の受けボールがあって、手洗いに使った水は次の使用目的に回される。 水は一滴たりとも無駄にされない。 ついでに紹介するが、イスラムの人達は一日5回の礼拝は欠かさない。 何処にいてもである。 砂漠を走っている途中に礼拝の時間だと言って突然車を止める。 この礼拝だが、お祈りの前に身を清める。 手、足、耳、鼻、顔、口、時に性器を水で洗う。 それ程までに礼拝は大切な行為なのである。 貴重な水を使うのである。 砂漠の中で飲水用に持ってきたペットボトルの水で体の部分を洗う。 さて、メインのやヤギのバーキューが運ばれてきた。 ナイフでちぎりながら手で頂く。 肉は厚いので、内部は未だ焼けていない。 生肉は大のご馳走でもある。 肉が苦手な私は、昨日の夕食に引き続きまたもや食が進まない。 

ご馳走はこれで終わりではない。 続いて、羊の炊き込みご飯が大きなボール一杯に運ばれてくる。 ご飯は大好物だ。 羊肉の肉汁で炊き込んだご飯は格別に旨い。 

そして締めは、ナーナ(ミント)を軽く炊き込んだ濃い甘いお茶が小さなグラスに出される。 これでは午後は仕事になるのだろうか。 思い腰を上げる。




Kiffaの街中: ガソリンスタンドがあるのは大きな街の証拠
ドラム缶に積んであるのは焼きたて(?)のパン
砂塵が飛び交う中、何の覆いもない
ホテルの朝食に出たの同じだ
道理で、何処で買っても歯ごたえがざりざりするのがわかる気がする



Kiffaからヌアクショットへ戻る途中の景色



高速道路も村に入ればご覧の通り
ロバ、人、車、大型トレーラでごったがえす
どうにも収拾がつかない








11/July/'07 林蔵 @ Kiffa Mauritania (Updated on 10/Oct/'08)#290  

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