一之瀬高原
@Jul/'10 甲州市, 山梨


大栗展望台から見る一之瀬高原とその集落: 中央の少し窪んだ部分に僅かに民家が見える


標高1300m。 東京都と埼玉県と山梨県が境界を分かつ場所だ。 秋の紅葉、春に萌える若葉、そして夏は清涼を求め人々は奥多摩にやってくる。 訪れる者の期待を決して裏切らない素晴らしい自然がそこにはある。 東京の水瓶、奥多摩湖に注ぐ清流が流れる。 だがそこに住む人の暮らしは決して楽ではない。 スーパーも無く、ガソリンスタンドも無い。 冬場は雪で道は封鎖同然になる。 民家60戸の内、現在はその多くが空家になっているそうだ。 一方、この素晴らしい自然に惚れ込み、空家になった民家を別荘に購入する都会人もいるらしい。 7月の休日、友人2人に誘われてツーリングに出かけた。 友人のお気に入りの場所の一つだと言う。
 




一之瀬川: この渓流の水はそのまま飲める程だ
友人がガスバーナーと簡易やかんで川の水を沸かし珈琲を入れてくれた、旨い



町田街道から国道20号を横切り、大正、昭和天皇陵を右手に見て、秋山街道を走り、国道411号、青梅街道へ抜ける。 小河内ダムで堰き止められた人造湖、奥多摩湖は、濃い青緑色の湖面で豊かな水を湛えている。 豊富で綺麗な水だ。 アフリカや中近東に長く居た者にとって、それは無尽蔵な、そして飛び切りおいしい水に見えた。 ここまで来ると、流石下界とは空気が違う。 気温も5度以上低い。 贅沢な清涼感が漂う。 駐車場のあるレストセンターでエンジンを止め小休止。 樹木の精気と蒼い湖水と空気の清涼感を味わう。 

さて、又クルージングを始めよう。 曲がりくねった国道411号、奥多摩湖の奥は、青梅街道から大菩薩ラインと名を改める。 狭く急流となった多摩川を遡る。 途中おいらん渕で多摩川の支流一之瀬川が北から清流を注ぐ。 狭い舗装道路が川に沿って走る。 一之瀬高原への道だ。 3台のバイクは、ゆっくりと一之瀬高原へ向け坂道を登る。 途中、湧き水が流れ出る場所がある。 ここで、バイクを止め、友人はキャンプ用のガスバーナーとヤカンを取り出し、沢の水を沸かしに掛かった。 珈琲を入れようと言う魂胆だ。 この沢の水で入れた、インスタント珈琲は旨い。 (友人は家では決してインスタントは入れない。 何時も豆をその場で炒って、挽いて入れてくれる。)




一之瀬高原にある蕎麦屋: 歳老いた女将一人でやっている、夏場限定の蕎麦屋だ
冬場は雪で道路が遮断状態になるので、お子さん達の住む町の家にお世話になるのだそうだ
軒先のテーブルからは、庭先に咲き乱れる野花に一之瀬高原の緑深い峰が連なる




一之瀬高原の蕎麦屋で出るボリュームたっぷりの前菜
店を一人で切り盛りする年老いた女将の手作り
甘く煮た大きな豆(紫花豆?)、きゅうりの漬物、白菜の漬物、きゃらぶき



舗装された曲がりくねった坂道をぐんぐんのぼって行くと、突然視界が少し開けたコーナーに出た。 コーナーに民家があり、蕎麦屋の幟が庭先でもある駐車場に棚引いていた。 バイク3台を駐車場(庭)の片隅に止めた。 友人は女将の姿を見つけるなり、「蕎麦、3人前」 と威勢よく声を掛けた。 歳老いた女将は、申し訳なさそうに、 「昨夜迄大雨だったので、お客は来ないと思って、(蕎麦)粉を挽いていないのよ。」 との返事だ。 「冷麦なら作れるけど。」 と言う。 勿論冷麦でも構わない。 既に腹ペコ状態である。 冷麦とはソー麺のことだが、出てきたのは、立派なうどんであった。 メインが出て来る前に前菜が出る。 これが又上等と言うか量も味も凄い。 上の写真を見て頂きたい。 このボリューム、そして自家製の絶妙で独特の味。 きゃらぶきの味が何とも素晴らしい。 お茶は自分で入れる。 テーブルは民家の軒下に3卓ある。 天然のオープンレストランである。 視界を遮るものは何も無い。 深い森林に覆われた一ノ瀬高原の山々が眼前に迫る。 日本の懐かしく優しい原風景がそこにある感じがする。  




大栗展望台: 標高約1400m、ここから見渡す水道水源林は見事だ、
この美しい景観と植物生態は恵み多い自然と多くの人の手により保たれている




ここは東京都の水道水源林、
2000m級の山々が連なる、最高峰は唐松尾山2100m



女将が冷麺を準備している間、我々は庭先のテーブルに陣取り、自分達でお茶を入れ、眼前の美しい山々を愛でる。 女将が言葉少なに、世間話を話しかけてきた。 前の舗装道は東京都が施工したそうだ。(ここは、行政上は山梨県) それもその筈、この山々は山梨県に属するが、東京都民の水源なのだから。 そば粉を挽くのは今では電動の小さなグラインダーを使うそうだ。 昔は石の挽き臼を使っていたが、今では年老いた女将一人で石臼は無理だと言う。 蕎麦は長野から買うらしい。 夏場限定とは言え、この場所で蕎麦屋を続けるのは易しいことではあるまい。 多分経済的にはあまり不自由をしていないようにも見えた。 街で暮らす子供たちと都会で一緒に暮らすことだって可能のような口ぶり。 それでも、こうして山奥深い里で蕎麦屋を続けるのは何がそうさせるのだろうか。 敢えてその訳を聞かなかった。 想像だけにしておこう。 それはきっと女将の生き方なのだろう。 こうして時偶来てくれるお客に大振りの前菜と蕎麦を振舞う。 老女将からこれを取り上げると、いくら便利な生活が街でまっていようと、それは生甲斐を失うことになるに違いない。 来年もまたここに来ようと思う気持ちが沸いてくる。 一之瀬の豊かで美しい自然に、蕎麦屋を続ける年老いた女将に、そんな場所を教えてくれ、連れてきてくれた友人に喝采。




柳沢峠: ここからは甲斐の国
天候が良ければ、この谷の間に富士山が望める






道の駅: 甲斐大和
一般道に設けられた道の駅はバイカーに取っても貴重な存在
1~2時間のツーリングの後、小休止にはもってこいの施設だ











林蔵@一之瀬高原 17/Jul/'10 (Updated on 28/Jul/'10)#340
  

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