ビシケク @Oct/'95 Bishkek Kirgistan ありがたい事だ。 再び中央アジアを訪れる機会を得た。 数年前に訪れたウズベキスタン共和国の隣、キルギスタン共和国である。 旧ソビエト連邦の崩壊により独立国となったCISの国々の一つだ。 これら中央アジアの国々は民族的にはトルコ系であるが、中国系人々も多く、宗教は回教(イスラム)、言語はロシア、気候は乾燥地帯である。 キルギスの首都ビシケクに入るには、国際線空路は未だあまり整備されておらず全てがモスクワからのエアロフロート便だ。
イミグレーションを出た後はカスタムである。 更に混雑は酷くなる。 足の踏み場も無いとは、こんな状態を言うのであろう。 変に実感する。 国内便(特に
CIS間)と同じになっているので余計に混むのだろうか。 家族商店の主達(なぜか女性が多い)が大量に衣類(多分)を買い込み、自分の背丈よりも大きな、麻袋に似たナイロン袋を幾つも床に積み上げ通関しようとしている。 中身は明らかに商品と思われる。 恐らく幾らかの賄賂を払って通関しているのであろうか。 いずれの時代も、いずれの国でも民衆(女性)は逞しい。
さて、午後3時、いよいよ陸路400KM、ビシケクに向かう。 車はアルマトイに3台しか無いというトヨタクラウン。 道は完全舗装(所々舗装が剥がれている所があるが)の2車線路。 かつて東西を結んだ何本かのシルクロードの1本にほぼ沿って走る街道だ。 左手遠方に高い山並み(天山山脈)を見ながらステップ(牧草)地帯を快走する。 運転手はロシア系のイーゴリー君。 かなり上手な英語を喋る。 驚いたことに、警察の鼠取り用レーダの逆探知機を積んでいる。 こんなものがカザフスタン共和国で必要とは思ってもみなかった。 イーゴリー君の話がとてもおもしろい。 ある日、運悪くスピード違反で捕まってしまった。 彼曰く、彼の車のレーダ探知機はドイツ製で正確である。 それが警報を出さなかったからレーダには掛かっていないと言い張ったら、警察側がおれたそうだ。 当局の融通の広さに関心。 日本の当局も見習って欲しいと思う。
夜もすっかり更けて、市内一のホテル Dustok にチェックイイン。 9階建ての外見は立派なホテルだ。 前庭は広いが、ロビーが極端に狭い。 調度品の手入れは殆どされておらず、衛生管理もあまり良いとは言えない。 レストランの広さだけが目に付く。 大舞踏会も十分できる設備とレイアウトだ。 各階には、共産国特有の服務員室がエレベータの側にあり、泊まり客の便宜を図る名目で入出室者の管理をしている。 ここがこれから約2週間お世話になる首都ビシケクの最高級ホテルだ。
翌朝、6時起床。 7時の朝食の前に、一時間ばかり市内をジョギングする。 共産国の都市はあまり整備は行き届いていないが、道路は広く街路樹も立派なものが多い。 ビシケクも例に漏れず道路は走りやすい。 昨夜チェック・インした時は気が付かなかったが、ホテルの前庭は立派な薔薇園になっている。 よく見るとスプリンクラー用のパイプが縦横に走っている。 ホテルの園芸師が早朝から手入れと花摘みを行っている。 摘み取った薔薇は客室やレストランに飾るのであろう。 そんな風景に経済的には決して豊かではない国だが豊かさを感じる。 街を走ると、乾燥地帯なのに樹が多いのに驚く。 歩道の両側に4列の並木が黄金の秋色に輝く。 後で聞くと、ソビエト治世時代、唯一中央政府が残した財産がこの百万本を越す街路樹なのだそうだ。 世界の都市でも人口当たりの街路樹本数は、トップクラスだそうだ。 乾燥はしているが、天山山脈からの雪解け水が豊富なのも幸いしている。 街を取り巻く運河は、豊かな水量で街の緑を守っている。 (運河の分水路、もしくは、スプリンクラーのパイプが街路樹に沿って走っている。 街の南側広がる景色は実にすばらしい。 さすが中央アジアのスイスと言われるだけある。 万年雪をたたえた天山山脈の山肌が朝の太陽にセクシーに輝く。 (同じような感覚を今から20年位前、やはり乾燥地帯であるイランのアサダバッド盆地で過ごした時も感じた。 盆地を取り巻く山々の山肌が朝日を受け輝いているさまは、妙になまめかしく感じたものだ。) 街は碁盤の目の如く整然と造られている。 共産国ではどこでも見られる立派なオペラハウスもある。 英語で書かれた案内書には、出し物はローカルでも演技の質は世界に通じるトップクラスだそうだ。
一度観劇の機会をと願ったが、短い滞在中に上演の運に恵まれなかった。
週末は、営業部の某氏と運転手付きのタクシーを借りて、北東300km位にある塩湖 “イシクリ湖” へ行く事にした。 ホテルの2階にビジネスセンターがあり、観光案内やアレンジもしてくれる。 まだ20歳台の英語を流暢に喋る若い青年実業家が経営している。 明朝8時、赤いベンツがホテルの前にくる事になった。
樹木の生えていない岩肌の山間を3時間あまり走ると、前方に湖水が見えてくる。 関門所があり、環境保護通行税を要求される。 湖の近くに来ると途端に緑が濃くなる。 農業・漁業が盛んらしい。 政府高官の別荘もある。 遥か湖の対岸には、天山山脈本体の白い峰が連なる。 空気はすこぶる澄んでおり、素晴らしい意中央アジア高原の秋景色が眼前に展開する。 目的地の国民保養所に着いた。 大規模な設備である。 訪れている者は殆ど居ない。 我々を含め10名位か。 夏場はかなり盛況に賑わうらしい。 白い砂浜のビーチは広く、保養所のプライベートビーチになっている。 今は理論的には誰でも利用できる事になっているが、かつては殆ど政府高官専用だったそうだ。 ボートを浮かべる設備も整っている。 広い施設内は贅沢にレイアウトされている。 大木の並木の回廊が別荘地内を延々と続く。 湖水は淡い塩水だ。 汚れは殆ど無く澄み切っている。 今は秋もかなり深く、陽が当たらなければ寒ささえ感じるが、湖で泳いでいる婦人がいた。 会社の食堂よりも広いと思われる大食堂で、約10人が昼食を取る。 料理の味は決して旨いとは言えない。 我々以外は当国の観光者・保養者らしい。 だれも食事のまずさには文句を言っていない。 まずいと感じるのは我々だけか。 8/Oct/1995 林蔵@Bishkek Kirgistan (Updated on 12/Mar/'08)#084 |
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